車いす×テキスタイルのアクセシビリティ――BKCウェルカムデー・いばりつDAY2025での炭酸デザイン室とのコラボレーション記録
生存学研究所のアクセシビリティ・プロジェクトは、2025年5月18日に立命館大学いばらきキャンパス(OIC)で開催されたいばらき×立命館DAY2025(いばりつDAY2025)に出展した。私たちは「車いすとともにある未来を考えよう~車いすにのって学内探検~」として、学内の移動アクセシビリティを考えるきっかけをつくることを目的とする企画を行った。
アクセシビリティ・プロジェクトは、2024年もOICやびわこ草津キャンパスでのイベントに出展・参加してきた。各地で会場参加者の声として「電動車いすの乗りやすさ」や「車いすに乗ったままでのドアの開閉の難しさ」などの声もある一方で、「試乗した車いすが未来的でかっこいい」という声もしばしば聞いてきた。BKCウェルカムデーやいばりつDAYでは、車いす試乗だけではない企画をおこなった。
本プロジェクトでは、車いすのデザインのあり方についてJSSJ(ジョイソン・セーフティ・システム・ジャパン)の吉井勝司さん・北口善猛さんとこれまでディスカッションを重ねてきた。実用性や介護者主体で決められ、利用者の選択肢が限定的になっているデザインに疑問の視点が向けられ、「車椅子が溶け込むライフスタイル」というアイデアが生まれた。
2024年7月に、プロジェクト代表の大谷いづみ先生と川端美季先生、筆者で、JSSJの紹介で、滋賀県のテキスタイルデザイン事務所である「炭酸デザイン室」を訪れた。部屋を入ると広いスペースの真ん中にカラフルで大きな作業机があった。その向こう側には、壁一面の広い窓ガラスが見えた。窓には草花がデザインされたレースカーテンがあり、カーテンから日光が通り、床には影によって草花の庭ができていた。
炭酸デザイン室のデザインのキーワードは、「ライフスタイル」や「原風景」、「記憶」である。窓にかかったカーテンは、私が炭酸デザイン室のマインドを説明され、納得するには十分な光景だった。
これまで私たちが目にしてきた「車いす」は、「病院」や「デザイン性に乏しい」「無骨で個性が感じにくい」といったイメージと結びついてきたのではないだろうか。そのようなイメージを刷新するひとつのヒントが、「テキスタイル」だ。実用的でかつかっこいい、かわいいデザイン。
電動車いすという近未来的な存在でもなお、配色には限りがある。黒のタートルネックと黒のパンツでクローゼットを埋めたスティーブ・ジョブズなら、モノクロのデザインにも満足するかもしれないし、はたまた差し色で赤や黄色の車いすを新たな身体として迎え入れたいと欲すかもしれない。シンプルな色合いと無模様が主流派として一定の人気がある一方で、炭酸デザイン室の作品は少し派手に感じる人もいるかもしれない。しかし作品からは、昼/夜の山並みの表情や、夏の田植え時期に見かける青々しい水田、私たちの頭上を覆う電車の架線など、それらはどこか懐かしい景色でもあるのだ。
訪れてすぐに、炭酸デザイン室の水野智章さん・若菜さんが「布が人を生活につなげる」という考えを重視していることを聞いた。私たちはそのアイデアに驚き、また私たちが車いすのデザインを考えるうえで、共通する視点を提示しているように感じた。アクセシビリティ・プロジェクトの目指す、車いすから考えるライフスタイルの変化。そして、炭酸デザイン室のテーマである「いつもの暮らしにシュワっとした刺激を。(Delivering a bit of fizz to the lives of others.)」。炭酸デザイン室の水野智章氏は、「一見派手に見えるかもしれない柄だけど、一緒に持ち歩くことで生活に馴染み、生活が楽しくなればいい」と語る。一方は社会実践を通して社会変革を目指し、もう一方はデザインを通して日常変革を目指す。それぞれが相互補完的に何らかの規範をゆるめようとしている。
「車いす」から想起するイメージは、テキスタイルの素材やデザインに限定的であるという声がつきまとう。狭いイメージで語られがちな車いすという存在が、「布」への着目によって一変する可能性を秘めている。炭酸デザイン室の空間で、私たちはプロトタイプ的車いすに、次々とカラフルなテキスタイルを合わせた。その様子は、衣服を試着室のなかで着替えて周囲に見せるということそのものだった。カーテンを開けては付添人と相談をする車いすの早着替えのようだった。車いすの座面のデザインを変えることで、印象が大きく変わることを実感した。服を合わせるように車いすのクッションシートや背もたれのシートを着替えさせることができればいいね、と一同和やかな雰囲気で車いすと布と人がつながっていく未来を見た。
出かける場所によって車いすも着替えることができる、自分の服とリンクするように車いすを合わせることができる。このようにユーザーの用途や環境によってテキスタイルの変更が可能になる。こうしたユーザーやデザイナー等が異なる領域や立場にあるなかで、アイデアを持ち寄り、一つのかたちに練り上げていく姿は社会のデザインを変えていく仕組みだといえる。
「足が機能している自分には関係ない」、「この先もずっと健康体な自分は車いすとは縁がない」。果たしてそうなのだろうかと強く疑問を投げかけつつ、今回の私たちの試みによって車いすと障害の有無を問わないユーザーが生活を楽しむ口実となることを願う。
宮内沙也佳(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)