「離婚した女性はどのように生きてきたのか――子育てを終えたシングルマザーの老後戦略」
私は、離婚を経験し、20歳代の子どもを持つシングルマザーです。私は、私と同じように子育てを終えた離婚経験を持つシングルマザーが、成人した子どもとの関係も含めてどのように暮らしているのか、そして老後をどのように生きようとしているのかについて研究しています。シングルマザーというとすべてが母子世帯だと思われがちですが、定義上は必ずしもそうではありません。厚生労働省によると母子世帯とは、「満20歳未満の未婚の子どもをその母が養育している世帯」をいいます。ですから、私のように子どもの年齢が20歳を超えた世帯は母子世帯ではなくなります。しかし、実際は単純に子どもの年齢で切り分けできるものではありません。
母子世帯の暮らしが厳しいことは、多くの研究、調査結果、マスコミ報道などが指摘しています。平成23年度の厚生労働省全国母子世帯等調査結果報告によると、母子世帯の推定世帯数は約124万世帯と報告されました。そのうち母子世帯になった理由の約8割が離婚によるもので、多数を占めています。また、同報告では8割以上の母親は就労していますが、母子世帯(祖父母などの同居親族全員の収入も含む)の平均収入は、18歳未満の未婚の児童がいる世帯(単独世帯、夫婦と未婚子のみの世帯、三世代世帯等含む)の平均収入の半分にも満たないことが示されています。
暮らしを支えるのは就労ですが、子育て後もシングルマザーは就労によって暮しに必要な収入が得られにくい状況があります。それは、「女性は経済的に男性に扶養されている、あるいは扶養されるべきである、といった性役割分業のジェンダー規範」による男女の賃金格差や非正規雇用の増大といった問題があるからです(藤原千沙・山田和代編『労働再審③女性と労働』大月書店、2011年)。離婚を契機に子どもを持つ女性は被扶養者から扶養者へ移行し、成長した子どもの就労によって母親の多くが扶養者でなくなります。しかし、被扶養者でない限り子育てを終えたシングルマザーは、先に示した就労の問題を抱えて暮らしていくことになります。
離婚は高齢期の女性の暮らしにも影響を及ぼしています。内閣府男女共同企画局平成22年度版男女共同参画白書によると、年間収入が120万円未満の65歳以上の高齢単身世帯は、男性単身世帯が17%であるのに対し女性単身世帯は23.7%で、なかでも離別女性の単身世帯は32.5%とより高い割合を示しています。
このように離婚した女性の経済状況は、母子世帯と高齢単身世帯というある状態における世帯の枠組みから捉えられていますが、必ずしも現実を充分に表しているとはいえません。たとえ数字によって就労や収入の制約は示せても、時の流れとともに移り変わる暮らしの内実は見えてきません。
そこで私は、子育てを終えた離婚経験を持つシングルマザーの暮らしを、成人子との関係はどのようなものか、またどのように生きようとしているかを、老後も含めたライフコース全体を通して明らかにしようとしています。現在50歳代から70歳代の子育て後のシングルマザーを対象にインタビュー調査をしています。
この研究では、離婚経験を持つ子育て後、さらには老後の女性の現状だけを示そうとしているのではありません。むしろ彼女たちの語りを聴くことで得られる生きるための実践(たとえば就労や住まいの確保、子育てや子どもとの関係、シングルマザーの親やきょうだいとの関係、周囲の人びととの関係など)の中でなされてきた選択や工夫を、女性が子どもを育て老後を暮らすための「戦略」として捉え直し、そのうえで何が必要なのかを見出し、提言したいと考えています。
そのためには、社会の中で離婚経験を持つ子育てを終えた女性の位置付けを明確にする必要があると考えています。母子世帯、なかでも離婚など生別の母子世帯、そしてその母親を、これまでの母子福祉に関わる制度や政策がどのように扱ってきたのか。また老後の経済的資源に関連する就労や公的年金による生活保障の問題のなかで、女性はどのように位置付けされ、とりわけ子育て後の女性がどのように扱われてきたのか。それらの変遷を示すことが私の研究課題です。