障害学国際セミナー2024に参加して――聴覚障害者支援、障害学生支援に関する国際交流
2024年10月25日から26日にかけて「CRPD after and beyond」をテーマとして台湾・台北で開かれた障害学国際セミナー2024に参加しました。
筆者は普段はNPOで聴覚障害学生への文字情報保障(文字通訳)分野を中心に障害学生支援に携わっています。今回は日本の公的な聴覚障害者支援枠組み(要約筆記制度)と、そこに含まれていない高等教育や職業上の文字情報保障の制度的な分断をテーマにポスター報告を行いました。
セミナーに参加した感想をいくつか書いてみたいと思います。
このセミナーには日本、韓国、中国、台湾をはじめとした国・地域から、多数の研究者に加えて、市民団体の実務家などが参加しています。もちろん障害当事者の参加も多数あります。それぞれの国・地域・分野で現在抱えている課題や最近の進展などを共有し、議論が行われます。話題に上がる障害種別や分野は多岐にわたりますが、全体を通じて障害者の権利や社会参加について、よりよい状況を作っていこうという雰囲気・熱意が感じられたことがとても印象的でした。「CRPD after and beyond」(障害者権利条約のその後、そして、その先へ)というテーマからもわかるように、「beyond」という挑戦的ともいえるテーマの下に集って議論を展開できるということ自体に、セミナー参加者に共通する大変な熱意を感じられました。
今回の参加にあたり大きな収穫だと感じたことは、やはり海外の同じ分野で活動する方々とのネットワークを広げられたことです。今回私が発表した内容は、ややマニアックというか、日本独自の事情も大いに含む内容で、国外の参加者からどの程度興味を持ってもらえるのかは、よくわかっていませんでした。しかし、現地では色んな方に見に来ていただき、報告をきっかけとして、聴覚障害関係に限らず、障害学生支援や、自立生活についてお話することができました。また、他の報告についての話を聞くと「台湾のテレビ・国会などの文字情報保障はとても充実している」「高等教育分野で日本にある大学間ネットワークのような仕組みはとても興味深い」「韓国の文字情報保障ではオンラインサービスが発達している」「日本のパーソナル・アシスタント(重度訪問介護)の自己負担の少なさはとてもいいと思う」といった声が聞かれました。それぞれの課題や国外の良い取り組みなどがわかってきました。日本国内では、思いもつかなかった取り組みがあること、逆に日本で当たり前になっていることが国外から見れば先進的であるというようなケースがあることがわかりました。
帰国後さっそく、台湾の聴覚障害関係者との間で高等教育での聴覚障害学生支援において相互協力・情報交換の可能性を探り始めています。現状についての情報交換だけでも、互い仕組みの良いところから学んで実践に取り入れるという意味でとても価値があると感じています。また、ときに日本国内においても韓国語や中国語での文字情報保障を求められることがあり、その対応はとても難しいことが多いのですが、その際に、インターネットを通して現地の団体と連携して文字情報保障の対応ができる可能性が出てきました。もちろん逆に海外で日本語音声の文字情報保障が必要となる場合には、こちらから支援を提供することもできるかもしれません。
最後に一番大きな収穫は、実務的なネットワークづくりもさることながら、国・地域の枠を超えた同じ志を持つ友人が得られたということです。今回のセミナーの中で、2024年6月に惜しくも亡くなられた中国・武漢大学の張万洪先生の追悼のための時間がありました。私は張先生とは直接の面識はありませんでしたが、皆様の追悼の言葉からは、国境を超えて大変尊敬されていた友人でありリーダーであったのだということを感じられました。2023年のセミナーでの立岩真也先生の追悼の時間でも同じことを感じました。私自身もまだまだ張先生や立岩先生の交友関係の広さには遠く及ばないかもしれませんが、同分野で活動する実務家や研究者たちと、セミナーを通じて新たに友人となれたことをとても嬉しく思っています。セミナー前日の歓迎会でのスピーチで大谷いづみ先生も言及されていたように、なにかと「分断」が強調されてしまう昨今ですが、そうであるからこそ、このような場で国際的な「連帯」を築き、再確認していくことの価値を強く感じました。
窪崎泰紀(特定非営利活動法人ゆに)