「親になる資格」をめぐる議論を読み解く

掲載日: 2014年04月01日English

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私は、生命倫理分野の研究、特にフランスにおける生殖補助医療技術に関する規制についての研究をしています。生殖補助医療技術とは、子どもをもつことを希望しながらも妊娠出産できないカップルや個人が妊娠できるように用いられるさまざまな医療技術です。子どもを育てたいカップルの精子と卵子を用いる場合と、第三者から精子や卵子、受精卵の提供を受ける場合があります。ここまではカップルの女性が子どもを産むことが前提ですが、これ以外に、第三者の女性が、子どもをもちたいと願うカップルや個人に出産後に引き渡すための子どもを妊娠分娩する代理出産という方法もあります。

どのような人に、どのような技術の利用を認めるのか。男女のカップルだけが利用できるとするのか、同性のカップルや独身者にも認めるのか。年齢的な制限はもうけるのか。精子や受精卵を凍結した後に、パートナーである男性が亡くなった場合、それ以降の生殖補助医療の実施はどうするのか。第三者の関わる技術はどこまで認めるのか。第三者からの提供を受けた場合の親子関係をどうするのか。これらの費用はどのように負担するのか。さまざまな国で規制が作られています。私は、フランスにおいて生殖補助医療を利用できると認められる人の要件に関心を持ち、研究しています。

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フランスでは1994年に「生命倫理法」と総称される法律が作られ、その下に生殖補助医療が管理されてきました(2004年、2011年に改正)。代理出産は禁止されており、生きていて生殖年齢にある男女のカップルが、第三者からの提供を含めた生殖補助医療を利用できるとされています。生殖補助医療の利用を男女のカップルに限定する一方で、1999年には同居する同性カップルに内縁関係を認めパートナーとしてのさまざまな権利を保護するPACS(Pacte Civil de Solidarité 民事連帯規約)法が可決され、2013年には同性カップルの婚姻と養子縁組が容認されました。生命倫理法の2011年改正や同性婚法案の審議過程では、同性カップルによる生殖補助医療の利用の可否は争点となりましたが、現在まで男女のカップルだけが利用できることになっています。議会における議論では、男性のカップルと女性のカップルが同じように扱われているわけではなく、男性のカップルによる生殖補助医療の利用は代理出産を必要とするため認めるわけにはいかないとされ、他方で、女性カップルによる利用は本人たちが妊娠出産できるので容認してもよいのではないかという傾向があります。

生殖補助医療を利用できる要件とは、「医療技術を介して親になる資格」と言い換えることができるでしょう。私は1999年のフランス滞在中に、PACS法可決を目の当たりにし、同性カップルがパートナーとしては法的に保護されるけれども生殖補助医療の利用はできないことを知り、国家が誰に「医療技術を介して親になる資格」を与えているのか、という点に強い関心をいだきました。フランスでは、妊娠出産できる女性とその男性パートナーだけにこの資格が認められてきたのですが、そこにはどのような理由があるのでしょうか。同性カップルによる養子縁組が法的に容認された今日、生殖補助医療の利用を男女に限定することは平等原則に反すると批判されることもありますが、そもそも生殖補助医療とは万人の平等な利用を保障すべきことがらなのでしょうか。これらの課題に取り組むために、議会資料を中心とする文献調査(写真1:国家倫理諮問委員会資料室の様子)や法学者・医学者・当事者団体などに対するインタビュー調査を行い、また、2011年の生命倫理法改正作業の一環として実施されたコンセンサス会議の傍聴(写真2)も行ってきました。

「医療技術を介して親になる資格」をめぐる議論からは、その社会が「子どもがほしい」という欲望をどのように受け止めているのか、子どもをつくること・育てることをどのように考えているのか、などを読み解くことができると考えています。また、ヨーロッパでも一二を争う多産国家であるフランスでは、子どものいない家族は少数派とみなされます。子どもがいない/できないという異なりがどのように受け止められているかについても考えたいと思っています。

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