Disability Studies Conference2024に参加して

掲載日: 2024年11月01日

Disability Studies Conference2024に参加して

 私は障害に関わる学生運動の歴史研究をしている山口和紀です。機会を頂き、2024年9月2日から5日にかけて、リーズ大学(イギリス=リーズ)で開催されたDisability Studies Conference(DSC)2024(https://disability-studies.leeds.ac.uk/conference/)に参加させていただきました。本稿はその現地レポートとして書かせていただきます。

photo1写真1 最終日に撮影。奥に移っているのがメイン会場のNewlyn Building

 英国にあるリーズ大学は、ヨーロッパの障害学の拠点校であり、コリン・バーンズ(Colin Barnes)氏が創設した障害学研究センター(CDS)があります。このカンファレンスもCDSが主催したものです。2010年にはCDSからバーンズ教授、アリソン・シェルドン(Alison Sheldon)博士が来日し、立命館大学大学院先端総合学術研究科での集中講義をバーンズ氏が行っています。生存学研究所とも深い関係があります(参考:コリン・バーンズ集中講義シラバスhttp://www.arsvi.com/a/20100920.htm)。和文では田島明子氏によるインタビューでCDSについて深く知ることができます(「コリン・バーンズ(Colin Barnes)教授インタビュー」=聞き手として田島明子、http://www.arsvi.com/a/20080213.htm)。リーズ大学は設備が整っており、レンガ造りの校舎や自然豊かなキャンパスが印象的でした。私が宿泊した学内のホテル(Moris Hall)はアクセシビリティにも配慮されていました。

photo2写真2 学内のテラス(中庭)。食堂等ではなく、単に点在しているテラスの一つ。

 DSC2024には、約400名の現地参加者がおり、オンラインでも多数の参加者がいたようです。世界には障害学を深く考える人々がこれほどいるのかと、端的に驚きました。
 9月2日は大学院生向けシンポジウムに参加しました。サミ・シャルク(Sami Schalk)氏の講義「Critical Disability Studies As Methodology」を聴きました。午後はBlack Disabled Matter Groupを主宰しているタスニム・ハッサン(Tasnim Hassan)氏との対話形式の講義がありました。私個人としては、ヨーロッパ各国の大学院生たちとの交流を深めることができ、大変ありがたい経験でした。同じ博士課程の学生としてキャリアや生活上の悩みなど共通の経験があり、打ち解けることができました。アジアから留学で来ている学生などと国を超えた連帯が大事だね、と話をしたりもしました。
 9月3日からカンファレンスが始まり、マリー・セプルクル(Marie Sépulchre)氏の基調講演がありました。英語の文字通訳の速さやリラックスした手話通訳の姿が印象的でした。車いす利用者や白杖・盲導犬を使用する参加者も多く、障害当事者が多数参加していました。参加者は主にヨーロッパからで、アジアからの参加者は十数名ほどと少なかったようです。その後、ミロ・グリフィス(Miro Griffiths)氏のセッションに参加し、障害学の未来について議論を聞きました。グリフィス氏はCDSの障害学アーカイブズにも深くかかわっており、挨拶させていただいた折には、アーカイブズに関する助言も頂きました。

photo3写真3 4日間にわたるカンファレンス参加で大変でしたが、学内にはよくウサギがおり、癒されました=Morris Hallの芝生で撮影

 9月4日は障害者運動家のボブ・ウィリアムス=フィンドレイ氏(Bob Williams-Findlay)の基調講演があり、熱心な議論が展開されました。午後のグリフィス氏の基調講演では、若い障害者の運動への参加についての調査結果が紹介され、日本の状況とも共通点を感じました。
 最終日の9月5日は、クリップ理論に関するセッションやシャルク氏の基調講演を聴きました。シャルク氏の基調講演は、ブラックパンサー党と障害者運動の連帯に関するものでした。私の問題関心も「1968年」における新左翼運動と障害者運動の接点にあるので、シャルク氏の研究は非常に参考になりました。そしてなによりも、アカデミズムと障害者運動の架橋に常に注意を払おうとするシャルク氏の姿勢に――例えば、多額の自費を負担し出版社と交渉して自著をオープンアクセスにすることで誰もが読めるようにするなど――学ぶところがありました。
 全体を通して「インターセクショナリティ」や「クィア理論」と呼ばれる潮流への関心が高いという印象を受けました。とくに若い研究者たちは性的少数者の運動やクィア・スタディーズと障害学の接点に注目している印象を受けました。また、SNSやインターネットの活用についても盛んに議論されており、世代間のギャップや障害学の実践への活用方法について考えさせられるところがありました。とくに世代間の(運動の姿勢における)ギャップについては日本との共通の問題意識が感じられました
 今回の渡航は、リーズ大学障害学センターと生存学研究所の研究協力関係を強化するためのネットワーキングの一環です。私にとって非常に貴重な体験でありましたが、それだけでなく、今後の連携に何ができるかを考えていきたいと強く思いました。

山口和紀(立命館大学大学院先端総合学術研究科 一貫制博士課程)

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