韓国における「ホームレス」政策の変遷

掲載日: 2013年11月01日English

韓国では1997年の経済危機をきっかけに、ホームレスが本格的に社会の注目を集めはじめました。ソウル駅前では毎日のように、300人あまりの人が炊き出しに並び、約1万人のホームレスがいるという政府の発表もありました。このとき、社会福祉学の研究者や市民団体の活動家が中心になって、ホームレスに対する支援が必要だと主張されました。

しかし、家のない人々、つまり「ホームレス」と呼ばれる人々は、経済危機によって突如現れたわけではありません。

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写真1

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写真2

1950-3年の朝鮮戦争、1950年代に行われた「土地改革」、そして農村経済の疲弊と都市の成長などの変化に伴い、1960年代から、都市で浮浪した生活を送る人々(「浮浪者」(부랑자))は、重要な社会的問題となりました。当時の「浮浪者」は主に15-20歳の若者で構成されており、組織的な共同生活を営んでいました。しかし、組織間の「なわばり」をめぐるけんかや通行人に対する無理な物乞いをするなど問題が絶えませんでした。当時の新聞報道には、「浮浪者」に対する取り締まりを主張する記事が掲載されています(写真1)。

このような「浮浪者」に対する取り締まりの要望を背景として、当時の軍事政権は「浮浪者」を治安対策の対象者と規定し、取り締まり、強制労働、軍隊徴集などを行いました。国家は、この強制労働によって、ダム、高速道路など産業に必要なインフラを整備していったのです(写真2)。当時の「浮浪者」は、社会的な問題であると同時に、産業振興のための労働力としても活用されたのです。このような「浮浪者」の取り扱いは、1980年代の初頭まで続きました。

しかし近年韓国では、「浮浪者」という言葉は法律の言葉から外され、「浮浪者」施設はすべて「野宿者」(노숙인)施設へと名称が変更されました。家のない人々に対する政策は、治安対策から社会福祉政策へと移行したのです。このような移行を経て、現在の韓国のホームレス支援が形成されているのです。

こういったホームレス支援をめぐる政策の変化は、韓国に限られることではありません。現在、産業が発達している多くの国々で、かつて産業化に伴う「浮浪者」問題が存在し、彼らに対する政策は、社会福祉的な側面だけではなく、労働を強制する治安対策となることもありました。

これからの私の研究課題は、韓国における治安問題としての「浮浪者」対策から、福祉政策としての「ホームレス」政策に至るまでの歴史的変遷を、他の国、特に東アジアの日本と比較することにあります。そのことを通じて、社会福祉政策に帰結した韓国の「ホームレス」政策の歴史的変遷の特殊性と一般性を明らかにできると考えています。

<写真説明>

  1. 「タバコ売りなどに装って、行人の財布を狙っている若い浮浪者」
    『東亜日報』1961年2月6日(記事見出し「悪の巣窟、第二社会」)
  2. 「国土建設団」(1960年代浮浪者・ヤクザ・失業者対策)
    国家記録院アーカイブ(韓国)より

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