『放射線を浴びたX年後』――映画上映と伊東英朗監督を迎えて

掲載日: 2013年04月01日English

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生存学研究センターは2月14日、伊東英朗監督『放射線を浴びたX年後』の上映会を開催しました。この上映会には、49名の方にご参加いただきました。映画の上映、伊東英朗監督の講演、質疑応答のあと、会場を移動してミニ交流会の場も設けました。ここにも多くの方にご参加いただき、監督と参加者が打ち解けて会話していただく時間がもてました。

1954年、アメリカがビキニ環礁で実施した水爆実験に、日本のマグロ漁船第五福竜丸が遭遇し被災するというビキニ事件が発生しました。現在、第五福竜丸は船体が保存され、反核や平和教育のシンボルとしてよく知られており、元乗組員で、この体験を語る活動をされている方もおられます。ところが、第五福竜丸以外の船の乗組員にもビキニ事件の影響による被ばく問題があることはほとんど知られていません。

この映画が訴えていることは明確で、ビキニ事件では第五福竜丸以外の船の乗組員も被ばくした事実を、歴史に埋もれさせてはいけない、ということです。このドキュメンタリーは、普通の人が淡々と語る場面でほとんどが構成されています。事件の調査をしてきた山下正寿さんや第2幸成丸船長夫人崎山順子さんの言葉は、監督の主張でもあります。山下さんは事実を歴史に埋もれさせてはいけないと話されています。崎山さんは、今のように声高に主張することなどできない空気だった当時の状況を語り、当時も今も、政府は重要な情報を私たちに知らせていないのではないか、と疑っています。

講演のなかで、伊東監督は、テレビのドキュメンタリーを映画化し、さらに自主上映会という「運動」として取り組んでいる理由は、ビキニ事件の実態を明らかにすることと、その調査をするための人を集めたいからであると主張されました。そして、その実態調査には、まずマグロ漁船に乗っていた人を探し出す必要があり、当該地域に入って調査する学生を集めたいと訴えられました。また、それとともに関連資料のデータベースを作成し、調査のための情報共有ができる、開かれた環境を作りたいと提案されました。さらに、当時の乗組員の被ばく状況を知ることで、低線量被曝の解明にも役立つのではないかと指摘されました。アメリカでも学生が中心になった取り組みがあり、日米の連携もできる。被ばくした乗組員の発掘を行うことで、全体像を明らかにしたいとお話しされました。

上映会当日に実施したアンケートでは、大多数の方はこの上映会企画に「満足」したと評価していただきました。特に、監督のお話を通じてこの映画製作の意図がよく分かり、満足していただいたようです。この映画を通じてビキニ事件の知られていなかった真相を知った、さらには事件を今後に伝えていく必要性を感じたと記されていました。また、アンケートからは、環境汚染に関心をもった方々が多く参加されていたことが分かりました。

この上映会を企画したことと関連して、私の研究についてお話ししたいと思います。私は、半世紀以上続き、原子力政策の一環として実施されている、海・雨などの環境や、農水産物などの食品に関する放射能調査の歴史について調べています。この放射能調査は、ビキニ事件を契機にして、核実験による環境の放射能汚染が広く知られるようになったあと、原子力政策が確立していくなかで実施されるようになりました。私の研究には、ビキニ事件当時実施された食品や環境の放射能調査の実態を明らかにすることも含まれています。それは行政官庁や政治家、科学者の動向、メディアや社会の関心などさまざまな要因が影響し、相互に絡み合ったものです。私の研究は環境や食品の放射能調査が中心ですが、当時の状況を明らかにすることで、ビキニ事件でヒトの被ばく問題が置き去りにされていった背景についても、何かわかればと思っています。

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