死の扱われ方を探求する――突然死の最前線でのフィールドワークを通じて

掲載日: 2024年01月01日

私は「死」をテーマに研究を行っています。

現代社会で、死は日常から遠ざけられがちですが、それは決して私たちから消えることはありません。現在、親族や地域社会の代わりに、死は「専門家」によって管理され、処理されるものとなっています。人が亡くなると、遺体が霊安室へ搬送され、葬儀会館で納棺式や葬儀告別式などの葬送儀礼が行われ、そして斎場で荼毘に付され、墓地や霊園で埋葬されるのが一般的です。私は、特に日本と中国の社会において、この一連のプロセスの中で死がどのように扱われ、どのように可視化されるのかに焦点を当てて研究を進めています。

写真1 調査をした中国北西部のある救命救急センターの処置室の様子(筆者が撮影)

研究の一環として、医療機関、霊安室、葬儀会館、斎場、墓地など、死に関わる様々な場所を訪れ、フィールドワークを行っています。2023年初頭、中国北西部のある救命救急センターで40日間の非参与観察を実施しました。ここでは、中国の救急医療現場で起きている突然死について、周囲に違和感を与えず配慮しながら、深く調査できる貴重な機会を得ることができました。救急医のように白衣を着用して救命救急センターに自由に出入りしたり、救急車での現場出動に同行して救命処置の第一線を直接目の当たりにしたりすることもありました。調査で得られた観察内容や医療スタッフの語りは、2023年7月の日本臨床死生学会で口頭発表を行いました。現在は、特に医療社会学の視点から、突然死に直面した際の救急医の家族への死の告知プロセスとその倫理について検討する論文を執筆しています。

医療や葬儀は、生と死に密接に関わるもので、現代社会では日常から切り離されがちです。一方、興味深いことに、映画やドラマ、文学ではこれらのテーマが頻繁に取り上げられています。死は、劇的な変化を描き出して物語を推進させたり、我々に強烈な感情体験を与えたりする役割なのです。しかし現実の社会では、これらの場所に飛び込んで、調査することは容易ではありません。

写真2 筆者が納棺の儀を練習する様子

私は、2023年4月から9月にかけて日本の専門学校の納棺士コースに通学して、認定納棺士の資格を取得しました。半年間の学習を経て、遺体修復や、湯灌、着せ替えなどの納棺に関わる技術など日本の葬祭での遺体に対する姿勢や、葬祭業界の現状についてより深く理解できました。

専門学校では、中国と日本で活躍している多くの葬祭業者と知り合いになりました。彼らとのコミュニケーションを通じて、両国の葬祭業の発展モデルや課題の相違を比較しました。2040年に日本の死亡者数はピークになると予想されており、日本の葬祭業者は海外への進出を模索しています。一方で、中国の葬祭業者は、現時点ではサービスの質の向上に重点を置き、国内市場のシェア率の拡大を図っています。特に近年、中国の葬祭業者は日本から非常に積極的に学ぼうとしていることに気づきました。その原因は、日本の「おもてなし」のイメージと、第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』の影響だと考えられます。たとえば、一部の中国業者は日本の「湯灌」を「遺体spa」と名づけて、新しいサービスとして導入するようになりました。そのうち、「遺体spa」を行う時に使うシャンプーが日本からの輸入品であることを故人の家族に積極的にアピールしている葬祭業者もいるようです。
現在、私は在日中国人向けの終活相談や葬儀サービス支援にも携わっており、外国人が日本で亡くなった際に直面する言葉や文化の壁を乗り越え、家族が故人と心からの別れができるようサポートしています。特に「孝」を重んじる中国人にとって、理想的ではない葬儀は、親族の複雑性グリーフ(Complicated Grief)※1をもたらす原因となります。2022年のデータによれば、日本に中長期滞在する中国人は約74.4万人に達し、彼らのニーズに応えることは社会的使命でもあると思っています。
これからも研究を深め、新たな課題に取り組みながら、死という普遍的なテーマについて、より多くの人々に理解していただき、共感につながるように、社会学や人類学からの知見を提供していきたいと考えています。

岳培栄(立命館大学先端総合学術研究科院生/立命館大学RARA学生フェロー)

※1 死別によって生じる身体的・心理社会的症状は多くの場合、正常なストレス反応であり、それ自体は病的なものではない。しかし、ときに悲嘆反応の程度や期間が通常の範囲を超える場合、「複雑性グリーフ」と呼ばれる(坂口幸弘, 2010, 『悲嘆学入門 死別の悲しみを学ぶ』昭和堂)。

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