バリアフリーの先にある社会とのつながりを探究する――第9回AHEAD JAPAN全国大会での移動アクセシビリティワークショップの実施報告

掲載日: 2023年11月01日

写真1 第9回 AHEAD JAPAN 全国大会で展示した生存学研究所アクセシビリティ・プロジェクトのポスター報告の前で撮った一枚(前方:「ソーシャルインクルージョンをすすめるための高等教育支援ー豊かな自立生活の助走ー」と題して登壇された玉木幸則氏、後方:筆者)

2023年9月7日・8日、立命館大学おおさか・いばらきキャンパス(OIC)にて、第9回AHEAD JAPAN全国大会が開催されました。そこで、私も関わらせて頂いている生存学研究所アクセシビリティ・プロジェクトは、大会初日の7日に、これまでの活動報告と併せて、電動車いすWHILL(ウィル)の試乗会を取り入れた「車いすの移動アクセシビリティワークショップ」を実施しました。

電動車いすの試乗会では、大学構内で車いすを動かしながら、エレベーターの乗り降り、教室のドアの開閉といった車いす利用者が移動する場面で直面しやすい物理的バリアを体感してもらい、その後、参加者との簡単な意見交換会を行いました。参加者からは、「エレベーターを利用する際、車いすの操作とドアの開閉や乗り降りを同時進行させることは一苦労であった」「ドアノブやエレベーターのボタンの位置が車いすの高さに見合っていなかった」さらに、「単独で車いすを利用している最中に雨天や坂道に出会したらかなりの恐怖を感じるかもしれない」という意見が飛び交いました。

一見、利便性の高い電動車いすでも実際に乗ってみると、大学構内では円滑な移動ができない場面が見受けられました。また、OICの凹凸が軽減された点字ブロックやスライド式ドアといった新たなバリアフリー整備を行う構内においても、バリアフリー化のばらつきによって、スムーズな移動が難しい場面にも遭遇しました。実際に、鏡が備え付けられているエレベーターと備え付けられていないエレベーター、車いすの形状に沿った机が配置されている教室と配置されていない教室、加えて、車いすを動かす際の十分な通路幅が確保されている講義室と確保されていない講義室が混在していました。
試乗会を運営する最中、物理的なバリアによって移動に困難が生じないように目に見える環境を整備するバリアフリーにとどまらず、移動に困難を生じやすい人の心理的負担をどのように軽減できるかにも着目しながらバリアフリーの本義を慎重に考えなければならないという点を、私自身、改めて気付かされました。

写真2 AHEAD JAPAN学内探検の下見の様子。アクセシビリティ・プロジェクトメンバーがWHILLに乗っています。

私も試乗する車いすで既に人がいるエレベーターの中で乗り降りするときに、「周りの人を車いすで巻き込んでしまって怪我をさせてしまわないだろうか」「迷惑がられていないだろうか」と不安になった経験があります。また、車いすに乗ったままでのドアの開閉に苦戦しているとき、「通りすがりの人に手伝ってほしいと声をかけるにも勇気がいる」と感じることがありました。なぜなら、「快く引き受けてくれる人が必ずしも多いわけではないかもしれない」と頭をよぎる瞬間があったからです。
この経験を通して、移動における心理的負担は、困っている人を目の前にして「何かお手伝いしますか」というように、「声かけ」によって軽減される可能性がある一方で、そもそも発話が難しい状況にある人を念頭においたとき、移動に困難を抱えている人に対する「声かけ」が彼らの心理的負担を減らす手立てになり得ないのだろうと気付かされました。声をかけられてもうまく答えられない場合やそもそも返答できない場合もあり、そうした際にどのようにコミュニケーションが可能になるのか、心理的負担を減らすことになるのか、と考えるようになりました。

つまり、障害のある人の生活を支える手段としてのバリアフリーは、誰もが安全に利用しやすい環境を整えるという側面とあわせて、誰もが不安を抱えずに安心して利用しやすい方法について考える必要があるのではないでしょうか。

現在私は、障害者とアクセシビリティの観点から、バリアフリーやユニバーサルデザインの理念と実践の間にある問題を研究しています。ゆえに、本ワークショップは、自身の研究を具体的に深める機会となりました。
ここでの学びを絶やすことなく、不自由な自由を生きる誰かの一助になるよう、バリアフリーの先にある障害と社会の関わり方について真摯に探究していきたいと思います。

田場太基(立命館大学先端総合学術研究科院生)

arsvi.com 「生存学」創生拠点

クラウドファンディング

書庫利用案内

「生存学」創生拠点パンフレットダウンロードページへ

「生存学奨励賞」

立命館大学大学院先端総合学術研究科

立命館大学人間科学研究所

立命館大学

ボーフム障害学センター(BODYS)

フェイスブック:立命館大学生存学研究所

生存学研究所のTwitterを読む