吃音者による組織的活動の現場

掲載日: 2012年01月01日English

「たまご」という言葉を発する際に、「た、た、た、、、たまご」と発声してしまう言語障害があります。このような言語障害は、「吃音(きつおん)」とよばれます。吃音者は、言葉が発せないわけでもなく、また、つねに治療を受けなければ日常生活が営めないわけでもありません。しかし、だからといって吃音者の<生存>はたやすいわけでもありません。ここでは、幼いころから吃音を発症し(このような特徴をもつ吃音は、「発達性吃音」とよばれます)、成人になっても吃音でありつづける成人吃音者による活動について紹介していきたいと思います。

発達性吃音の根本的な原因や治療方法はいまだ確立されておらず、吃音をもったまま生きていくことを余儀なくされる成人吃音者がいます。成人吃音者たちは、1970年代に「吃音をもったまま生きること」を宣言し、その活動を現在までおこなっています。この当事者団体は、「言友会(げんゆうかい)」と名付けられています。言友会は、当初は治療(=矯正)を目指して立ちあげられましたが、次第に吃音が治療されないことに対して向かい合うようになりました。そして、1976年に「まず自らが吃音者であることを、また、どもりを持ったままの生き方を確立することを、社会にも自らにも宣言する」と記された「吃音者宣言」を採択します。

言友会は、国内外で積極的な活動をおこなっていきます。たとえば、吃音者による初の国際会議は、1986年に京都で開催されました。この国際会議は、現在でも3年ごとに開催されています。1980年代以降は、当事者による自助(セルフヘルプ)活動もおこなうようになります。そして、1990年代後半から2000年代にかけて、新たな展開を見せるようになってきました。言友会による新たな展開として、次の3つの特徴をあげることができます。

第1に、専門家である言語聴覚士との協働があります。日本では、長い間、言語治療を専門的におこなう専門的な資格がありませんでした。1998年の言語聴覚士法施行後、多くの専門家がうまれるようになりました。これ以降、とくに吃音の治療という側面に対して、言語聴覚士との連携に取り組むようになっています。

第2に、団体活動の制度化があります。これまで、言友会はあくまでも当事者による団体として活動をおこなってきました。言語聴覚士法とほぼ同時期に法的に整備された特定非営利活動促進法は、地方の団体(千葉や横浜など)のNPO法人化を進めるきっかけとなりました。2006年には、全国協議会もNPO法人化されました。こういった制度化は、団体に所属する吃音当事者だけに限定しない「公共性」への新しい取り組みにもつながっていきます。

第3に、吃音者に対する社会的支援への取り組みがはじまっています。2011年の全国ワークショップでは、「「障がい者制度改革」への期待とその理解」が取り上げられ、推進会議の東俊裕氏による講演やパネルディスカッションがおこなわれました。また、このワークショップをきっかけとして、「吃音がある人たちに対する社会的支援の在り方検討委員会」設置に取り組まれるようになりました。

以上のように、言友会は、専門家・団体活動に関する社会変化のなかで、近年では制度の変革を目指した社会的支援に取り組む「現場」となっています。これまで、吃音は「軽度」の障害ととらえられ、吃音者をめぐる「社会問題」への取り組みがあまりなされてきませんでした。言友会は、当事者の立場から<社会問題としての吃音>に取り組む「現場」でもあるのです。

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1) 第1回国際大会の報告書・2011年ワークショップのチラシ

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2)2011年ワークショップで講演する東俊裕氏(障がい者制度改革推進会議担当室長)

渡辺克典(グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点ポストドクトラルフェロー)

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