生存学研究所での資料整理──アーカイヴのための予備的作業
生存学研究所ではいま、所蔵資料を利用しやすいかたちで保存するための取り組みが進んでいます。資料を保管する中心的な場所となっているのが、生存学研究所書庫と呼ばれる一室です。
生存学研究所書庫は、立命館大学衣笠キャンパスにある創思館の、4階の一角にあります。大学院の教室やプロジェクト室が並ぶフロアの中央に位置する、半円形の部屋。ここに社会学や障害学など「生存学」に関係する諸分野の書籍のほか、さまざまな資料が収蔵されています。
一例をあげれば、この書庫の奥には、日本全国の障害者団体や患者会の発行物があります。ファイルにまとめて書架に並べるかたちで、青い芝の会やバクバクの会といった全国規模の、あるいは全国にネットワークをもつ団体から、中部障害者解放センター(NPO法人ちゅうぶ)のように主に地域で活動する団体まで、いろいろな規模の、組織形態や活動目的もそれぞれに多様な団体が編集・発行した機関誌・ニューズレター等のみで、1万点以上保管されています。会員限定のメディアである機関誌の収集は、もともと生存学研究所の関係者によって始められました。機関誌が「生存学」のアーカイブ(記録資料)として保管されているとはいえ、これまで上記ファイルに収納された資料の目録化は必ずしも十分ではありませんでした。
2021年11月に、資料整理の作業が開始され、まず、資料の目録化にむけた打ち合わせが始まりました。
作業を進めるための鍵となったのは、他施設における資料整理の経験と実例に学ぶことでした。私は生存学研究所の川端美季さんとともに、アーカイブズ学に通じた久保田明子さんや後藤基行さん、舟津悠紀さんと相談しながら、同研究所に合う資料整理の方法を模索しました。例えば、作業スタッフによる当初の案では目録作成にあたってNACSIS-CATの「コーディングマニュアル」を参照し、図書館が蔵書などの書誌情報をデータベース化する際の標準的な方法に基づいて記入項目などを設定しようとしていましたが、結果的には概要目録の作成という手法を取り入れるにいたりました。資料の全体像を把握するために適した手法が選ばれたのです。
また、打ち合わせを始めて間もなく、目録作成と並行して資料保存の措置もとられました。私は、目録作成に着手する前に資料の原形を記録するため、書架の様子を写真に撮ることから作業を始めました。これは資料の原形を残すうえで大事なことでしたが、この観点でより重要なのは資料の保護です。
資料保存の手法が数あるなか、現在の生存学研究所書庫に合うのは、資料が朽ちるのを遅らせることを目的として、資料が空気や埃、湿気などになるべく触れないよう対策を講じることだと考えられました。機関誌に関しては、収集者の意向と資料保存の原則をふまえ、原状(書庫の環境、資料のまとまり、ファイルの使用と配置)をできる限り変更せずに資料を保存する、という方針が決まっていました。こうした条件のもとで使える資材は、ある程度限られます。打ち合わせでは、紙資料に適しているのが中性紙でできた保存容器に収納することだということが確認されました。このことを前提に、既存ファイルに保存用の袋を追加して資料を保管することになりました。すなわち、劣化の度合いが大きい(茶色くなっている)資料は中性紙の封筒に、劣化が軽微な資料は普通の封筒かファイル用ポケットに入れたうえで、ファイルに収納しなおすのが望ましいとされ、この結論を受けてスタッフは作業をおこなっていきました。
こうした整理は資料について専門的な調査・研究がおこないやすくなるための予備的作業だといえます。作業はまだ途中段階にあり、今後も続いていきます。現在、生存学研究所では目録の内容を順次公開する準備が進められています。同研究所の所蔵資料が今後より多くの人に利用しやすいものになるといいなと思っています。
岩田京子(立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究所 研究員)