沖縄を「理解」する――シングルマザーの語りをもとに

掲載日: 2023年01月01日

ひと昔前まで、主に「日本のハワイ」「楽園」というイメージしかもたれていなかった沖縄も、最近では、米軍基地や子どもの貧困といった問題を抱えていることが、メディアでも取り上げられるようになったと思います。

戦後から現在に至るまでの沖縄に焦点をあてた社会学研究は、さまざまな困難を抱える沖縄の人々が、相互扶助的なネットワークを駆使しながら生き抜く姿を明らかにしてきました。これは、沖縄的共同体(あるいは沖縄的共同性)(岸ほか 2020)とも呼ばれます。そうした沖縄的共同体は、一部の研究において、日本国家や米軍への「抵抗」あるいは「連帯」を支えるものとしても解釈されてきました。困難のなかでも相互扶助的に生きている沖縄の人々の事例としてあげられるのが、沖縄の母子世帯の割合の高さです。沖縄の母子世帯の割合は、戦後以降、全国比よりも高い値を維持しています。近年の母子世帯の割合も、全国上位に位置しています。たとえシングルマザーになったとしても、沖縄の人々が互いに支え合うことができる共同体があるからこそ、沖縄の女性は「自由」に「奔放」に生きることができると捉えられていました。もちろん、共同体内に存在するジェンダー秩序の研究もされていましたが、主に沖縄の家父長制度を生き抜く、女性たちの「戦術」や「連帯」の様相に焦点が注がれていました。沖縄のシングルマザーとして子育てを経験した女性たちへの聞き取り調査はほとんど蓄積がされておらず、言説の真相が分かないままでした。

写真:沖縄社会学会第4回大会会場にて、手前に写るのが筆者

私は学部生の頃から「沖縄の女性」研究を行っています。2018年から沖縄をフィールドにして、シングルマザーとして子育てを経験した女性に聞き取り調査を開始しました。2019年からは、母子世帯の支援施設職員や当事者への同行を通して、参与観察調査を行っています。2021年からは、シングルマザーとして子育てを終えた寡婦へも調査も広げています。

私の調査対象者のなかには、友達や親族との交流もあり、親族と同居をしている方も多くいて、一見すると、孤立していないかのようにみえます。しかしながら、実際には、ジェンダーによって共同体から得られるケアに格差が生じていることや、親族から暴力や彼らの経済的な困窮を理由にケアを受けていないこと、また公的支援を十分に得ることができていないことがわかってきました(平安名 2020,2022)。このような調査結果をふまえ、沖縄のシングルマザーのなかには、共同体のなかで生活していながらも、周囲の者から気にもかけられることなく、自分自身の判断を頼りにして生きる者もいる、と私は考えています。また、寡婦への調査を続けるなかで、そうした自らを頼りに生きる様相は、時代が異なっても、年齢を重ねても変わらないことが少しずつ分かってきました。米軍統治下や日本復帰など大きな歴史・経済変化が生じながらも、変化が生じていない沖縄の女性の生き方の分析について今後も研究を続けます。寡婦世帯の貧困の問題も探求しなければならないと思っています。

私はこれからも、沖縄の内と外に存在する様々な断絶のメカニズムを、沖縄の女性の語りをもとに解き明かすことを目指しています。それが、多くの人々に対して、沖縄を「理解」するためのコミュニケーションをもたらす一番の近道だと考えます。

平安名萌恵(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生・日本学術振興会特別研究員DC2

参考文献:

  • 平安名萌恵,2020,「『沖縄の非婚シングルマザー』像を問い直す――生活史インタビュー調査から」『フォーラム現代社会学』19: 19-31.
  • 平安名萌恵,2022,「雨宿りとしての家族――貧困下における家族実践から」『ソシオロジ』67(1) : 137-153.
  • 岸政彦・打越正行・上原健太郎・上間陽子,2020,『地元を生きる』ナカニシヤ出版.

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