障害者、支援技術、コミュニケーション・・・そしてアート

掲載日: 2011年09月01日English

去る2011年6月30日〜7月3日に韓国ソウル市を中心に、障害者の支援につながる重要な視察会とワークショップが開かれました。障害をもつ人々の動作やコミュニケーションを支援する技術、バリアフリー、さらにはアートに絡む多彩な問題を議論し、関係機関と様々な協力関係を結びました。立命館大学先端総合学術研究科の院生で「スイッチ研」メンバーである安孝淑さんのコーディネートで実現したこの企画には、本拠点事業推進担当者の松原洋子教授をはじめ総勢8名が参加しました。「スイッチ研」は本拠点の研究に従事する院生・PDからなり、本拠点と連携するNPO「ある」のIT事業部として重度障害をもつ人々が意思伝達をするためのスイッチを作成し、コミュニケーション支援をしています。

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写真1

前半の6月30日は、ソウルの障害者開発院と京畿道支援技術研究支援センターを見学させていただき、障害者雇用、バリアフリー、障害者支援技術などに関する日韓の情報交換を行いました。韓国障害者開発院研究者のコンさんのお話(写真1)によりますと、韓国ではバリアフリーに関する意識が以前よりは高まったものの、障害者の動作や表現を支援する補助器具はいまだほとんど輸入に頼っているそうです。「スイッチ研」メンバーたちは、重度障害者のためのコミュニケーション支援機器の情報を提供し、互いに協力関係を約束しました(写真2)。

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写真2

また京畿道支援技術研究支援センターでは、実際にさまざまな器具を見せていただきました(写真3・4)。

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写真3

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写真4

このセンターは「障害者と高齢者に生の羽をつける」ことを目標とし、2004年に設立され、現在1000あまりもの機器を保有しています。リハビリ工学等の専門家約300人で構成されるこの大規模な支援センターからは、多くの実践的な知識を提供していただきました。この交流をきっかけとし、私たち生存学研究センターならびに「スイッチ研」は、両機関との交流を今後も続けていきます。

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写真5 International Workshop: Art and Assistive Technology(韓国弘益大学にて:安孝淑[アン・ヒョスク]さんのお母さんの申道信[シン・ドシン]さんとともに)

また後半の7月2日〜3日はソウルの弘益大学にて、世界的なメディア・アーティストのジェイムズ・パウダリー教授と国際ワークショップ“Art and Assistive Technology”を開催しました(写真5)。パウダリー教授は、ALSで活動ができなくなったグラフィティ・アーティストTEMPT Oneを支援するプロジェクトに参加し、建築物にレーザー光でグラフィティを描く視線入力装置EyeWriter1.0と2.0を開発した代表的メンバーとしても知られています。

初日である7月2日のワークショップではまず、「スイッチ研」の長谷川唯さんがALS患者に対する意思伝達装置のスイッチ支援の意義について、また同じく「スイッチ研」メンバーで韓国からの留学生である安孝淑さんが、韓国のALS患者の意思伝達装置利用状況の現状と課題について英語で報告しました。引き続き参加者全員で支援技術普及のための仕組みや課題について討議を行いました。(写真6)

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写真6 7月2日、長谷川さんと安さんの発表後のディスカッションの様子。

また同日午後には、スイッチ研試作のEyeWriter1.0についてPowderly教授にコメントを求めました(写真7)。

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写真7 7月2日:EyeWriter1.0の検討。「スイッチ研」の堀田さん&山本さん。Powderly教授とともに。

しかしPowderly教授によると、EyeWriter1.0には、操作が極めて困難な点など、障害者が実際には使いにくい点が多々あるといいます。EyeWriter2.0はそのような欠点を克服するために開発されました。そこで「スイッチ研」メンバーもPowderly教授の指導のもとにEyewriter2.0を、7月3日に実際に作ってみました(写真8)。

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写真8 Eyewriter2.0試作の様子。「スイッチ研」左から長谷川さん&安さん。Powderly教授とともに。

ここで試作されたEyeWriter2.0は今年秋の光州デザインビエンナーレに出品される予定です。また生存学研究センターとパウダリー教授は、Eyewriter1.0と2.0の開発と普及に向けて、協力関係を結びました。

なお私たち生存学研究センターと「スイッチ研」は7月2日に、パウダリー教授にインタヴューをしました(写真9)。その模様は、次号『生存学』5号に掲載予定です。ご期待ください。

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写真9 インタヴューの様子。松原先生&加藤、Powderly教授とともに。

今回の企画には安さんのお母様でALS患者である申道信さんが車椅子で同行され、研究交流の架け橋となってくださいました(写真10)。申さんをはじめ関係者の皆様にお礼申し上げます。

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写真10 7月3日。安さんと申さんとともに。

障害者開発院、京畿道支援技術研究支援センターの視察

  • 日時:2011年6月30日
  • 場所:韓国ソウル市・京畿道
  • 主催:立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点

International Workshop: Art and Assistive Technology”の共同開催

  • 日時:2011年7月2日、3日
  • 場所:弘益大学(韓国ソウル市)
  • 主催:立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点
  • 共催:弘益大学(Prof. James Powderly)

  • *障害者開発院と京畿道支援技術研究支援センターでの調査にあたっては、洪賢秀氏(東京大学医科学研究所公共政策分野特任助教)に通訳としてご協力いただきました。なお、本企画は「生存学」創成拠点のほか、平成23年度科学研究費補助金「サイボーグ医療倫理の科学技術史的基盤に関する研究」(研究代表者 松原洋子)および平成23年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新規医療機器,生体電位等で随意コントロールされた下肢装着型補助ロボットに関する治験準備研究」(研究代表者 中島孝)の支援をうけました。

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