まだ終わっていない〈病い〉──ハンセン病をめぐる現場

掲載日: 2011年06月30日English

「ハンセン病(Hansen's disease)」とは、抗酸菌の一種である「らい菌」(Mycobacterium leprae)の末梢神経細胞内寄生によって引き起こされる感染症で、旧称は「らい病」です。日本では、1907年に「癩予防ニ関スル法律」が公布され、その後の1931年、「癩予防法」に改正され、その後数回の改正を経て1953年に「らい予防法」が制定されました。この「らい予防法」には強制隔離入所や、外出制限、秩序維持のための所長の権限などが強く規定され、療養所中心型の医療提供をおこなうものでした。

私は「なぜひとがひとを隔離するのか」という疑問を持ち、これまで鹿児島県と熊本県の国立療養所においてフィールドワークをおこなってきました。確かに感染症はハンセン病に限らず一時的に隔離しなければならない病気ですが、実際には非常に感染力の弱いハンセン病は発症してからの後遺症、そして迷信・因習から絶対的隔離政策がとられ、社会的差別の対象となっていました。

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「らい予防法」は1996年に廃止され、ハンセン病療養所のすべての入所者に対し、医療、福祉、生活の施策を行うこと、これからも対象者の存在する限り、その生活を維持・継続していくこと、社会生活を送っている在宅患者においても従来どおり国の費用による援護がなされることなどが規定されました。1907年に「癩予防ニ関スル法律」が施行されてから90年、ようやくハンセン病を患ったことがあるひとたちは法的な水準で「人間」として認められました。強制隔離の規定はなくなり、2004年に国賠訴訟が結審され「終わった」かのように考えられているハンセン病問題は、しかしながら、全く終わっていません。全国の療養所入所者の高齢化は進んでおり、実際に今更ひとりで社会生活を送ることが不可能なひとが多く、その後の生活保障問題や医療保障問題、なによりもまだ差別の磁場におかれているのです。

enlearge image (to back to press x)*私は2010年より韓国のハンセン病施策について調査を開始し、11月に韓国・ソウル特別市でおこなわれた「WORLD FORUM on HANSEN's DISEASE」に参加しました。ここではいまだに残る前述の問題についてあらゆる視点で討議されていました。

現在当事者は高齢化の一途をたどり、声をあげるひとたちが減少しているという現状がありますが、世界中の様々な領域の研究者がこのように一同に介し生活問題を解決しようとしたり、差別構造を理解したりしようとしています。

すべてのひとがこの社会で「生存」しやすくなるように/してもいいように──ひとつの〈病い〉を例に考える研究者は数多くおり、私もそのなかのひとりとして、いま、資質が問われていると感じながら日々研究を遂行しています。

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