宗教と政治――創価学会員の公明党支援活動を考える

掲載日: 2021年12月01日

現実に生きている人や集団を対象とした研究は、往々にして当事者から積極的に求められているわけではなく、または迷惑をかけない範囲であくまで消極的に許容されるものも多いかと思いますが、私のテーマである「創価学会の政治参加」は、求められていないどころか、当事者の多くから相当強く嫌がられる研究といえるかもしれません。

写真1:筆者が2017年に書いた書籍『内側から見る創価学会と公明党』(ディスカヴァー21)。実は書名を気に入っているわけではありません。

立命館大学先端総合学術研究科(以下、先端研)に入学する前年に『内側から見る 創価学会と公明党』(出版社HP:https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2201-7)という書籍を上梓しましたが(写真①)、先方の外郭団体が発行している雑誌『第三文明』に早速批判記事が掲載されました(参考:https://www.daisanbunmei.co.jp/3rd/d3_maga.php?no=91808&mt=)。しょうがないこととは言え、幾分かなしい気持ちになるところがあるのも確かです。

こうした創価学会側の姿勢もあり、創価学会の研究、とくに政治に関わるテーマは1970年の半ばごろから日本ではほとんど行われなくなりました。戦後日本で最大規模の新宗教、しかも現在では政権与党にもなった公明党の支持母体であるにもかかわらず、です。もちろん当事者が求めていない学術調査には一定の配慮がなされてしかるべきです。ただその結果、当事者およびその協力者による礼賛記事と、無理解な外部からの罵倒記事だけが流通する言論状況となってしまっており、このような状況は当事者・社会双方にとって健全なものとは言えないのではないでしょうか。こうした理由から、私は上記書籍を執筆し、博士課程への進学を決めました。

日本の新宗教研究では近年まで、創価学会と政治の関係は、1969-70年にひとつのターニングポイントがあったというのが定説になっていました。社会との軋轢を背景に、創価学会と公明党が組織的な分離を行い、政治進出を基礎づけた教義を公式に放棄した。こうした事態は創価学会と公明党の「政教分離」とも呼ばれ、学会員の選挙活動にある「宗教性」を捉えづらくさせました。こうした理解は、国会議員-中央組織レベルにおける組織構成だけを見た場合、一定の妥当性があるのも事実です。しかし、地方議員-地方組織レベルにおける組織構成や組織運用、そして教義以外の次元(広く「実践」と呼べる領域)を丹念に見た場合、「政教分離」とは呼べない世界、ノース・カロライナ州立大学のLevi McLaughlin氏のいう「宗教的実践としての選挙活動Electioneering as Religious Practice」という世界が見えてきます(*注1)

このような創価学会と政治の関係に取り組むことは、現在の政治状況にとってだけでなく、宗教と政治、宗教と世俗、宗教の社会参加、女性の社会進出、選挙研究、ひいては戦後日本における社会変動といったテーマにとっても、これまでにない視野を提供ができるものであると考えます。

写真2:ドイツ日本研究所での講演時の写真。筆者は中央。右は本文でも言及したLevi McLaughlin氏で、左は政治学者のAxel Klein氏。

先端研に入学後、2018年にはドイツ日本研究所で行われた「Kōmeitō and Sōka Gakkai’s Transforming Relationship: How Changes in Politics and Religion Affect Japan Today」と題したシンポジウムにパネリストの一人として登壇しました(写真②)。私は「2015年の安保国会を創価学会はどのように乗り越えたか」というタイトルで、「創価学会員の反乱」として騒がれた安保国会時における騒動が、創価学会の会内運営にとっては大きな問題とならないことを論じました(*注2)

2021年には、伊達聖伸氏、星野靖二氏、田中浩喜氏の3名とともに、国際宗教社会学会(International Society for the Sociology of Religion)第36回大会にてグループセッションを行いました。グループのテーマは「Reassessing The Validity Of The Religious-Secular Dichotomy In Modern And Contemporary Japan」で、私は学会員の体験談を資料にして、1967年時点における創価学会の公明党支援活動を考察しました。

その他、最近では英語圏の創価学会研究の紹介なども行っています(*注3)。研究を通じて、戦後日本に生きた創価学会員という人生を書き残しつつ、宗教と政治をめぐる、よりよい言論環境の構築に貢献できればと思います。

浅山太一(立命館大学先端総合学術研究科院生)

注:

*1 https://apjjf.org/-Levi-McLaughlin/4386/article.pdf

*2 右のリンク先で当時の音声を聞くことができます。https://www.dijtokyo.org/ja/event/komeito-and-soka-gakkais-transforming-relationship-how-changes-in-politics-and-religion-affect-japan-today/

*3 「”Soka Gakkai’s Human Revolution: The Rise of a Mimetic Nation in Modern Japan”はめちゃめちゃすごい本なので読んでほしいという話」https://note.com/girugamera/n/n1bf303614de6 著者のLevi McLaughlin氏によると、この記事がきっかけとなって日本語訳の刊行が決まったとのことです。

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