“Inclusive Society for All”――障害学国際セミナー2019に参加して

掲載日: 2019年12月01日

2010年に韓国ソウルで始まり、2019年に10回目を迎える障害学国際セミナーが、10月12日と13日に中国武漢で開催された。法の支配、教育、雇用、精神および知的障害、性差とセクシャリティ、高齢者と障害という6つの分野における“Inclusive Society”について、中国、韓国、台湾、日本の研究者たちの間で議論が繰り広げられた。

写真1:全体集合写真

私は日本で精神障害を抱えた人たちの就労に関する研究をしている。日本でも精神障害者は労働市場から巧妙に排除され、その多くが職員に支援される利用者として低い工賃で福祉的就労の場に押し込められて生きているとされる。このたびの障害学国際セミナーでも、“Inclusive Society”という観点から、障害者の就労や雇用に関する議論がおこなわれた。

日本では、2018年4月に障害者の法定雇用率が民間企業で2.2%、行政機関で2.5%に引き上げられたばかりだが、同年8月に中央省庁の8割の行政機関で3460人の障害者雇用が水増しされ、実雇用率が公表数値の2.49%から1.19%に半減するという事態が発覚した。

今回のセミナーで中・韓・台の障害者雇用率や雇用政策に関する情報を共有し議論できたことは大きいと感じる。

まず、中国の障害者雇用率は1.5%以上と規定されているが、率先して雇用すべき政府が「障害者がうちで働くと面子がない」と言うそうだ。事例で紹介された銀行の求人広告には、完全民事能力・身体健康が応募条件として掲載されている。障害者の就労に際し、雇用主から「事理を弁識する能力がないのにこの仕事ができるのか?」と本人の行為能力を問われることがあるが、これは障害者権利条約で改正すべき項目としてあがっているようだ。現在、中国でも障害者が就労する場は「庇護工場(庇护工場:シェルタード・ワークショップ)」(注1)になるが、「ケアに依存すると機能が低下するため、障害者の回復を考えれば、このような保護された工場はなくしたほうがいい」と話されていた。

写真2:発表で中国の「庇護工場」が紹介されている場面

次に韓国では、障害者雇用率が民間企業で3.1%、行政機関で3.4%以上とされているが、雇用主は罰金を支払うほうがよいと考えており、特に自閉症や発達障害・精神障害をもつ者への差別が存在するという。また障害者の所得は最低賃金の80%以上としており、少し能力のある者の工場で月平均82万ウォン、それより能力の低い者が保護された工場では月平均22万ウォンであり、障害者に賃金をはじめとした労働者としての権利が保障されていない。

最後に台湾では、公共部門は従業者数34人以上で障害者雇用率が3%、民間部門は67人以上で1%とされる。さらに障害者の所得が最低賃金を下回ると統計上障害者として計上できない。2019年5月の統計では障害者雇用目標数58691人に対し、83630人が雇用されており、目標を上回っている。最終日のラウンドテーブルでは、張恒豪氏(台北大学社会学系教授)は「社会的包容」ではなく「社会的共栄」という言葉を使いたいと話されていたのが印象的だった。

ほかにも、唐钧氏(中国の社会政策研究者)による基調講演 “社会包容、社会排斥与残疾人保障 Social Inclusion, Social Exclusion and Protection of Persons with Disabilities”では、「排除」には2つあり、ひとつは明確に表れているもの、もうひとつは隠れているものであり、人々の心の中にある差別・偏見は表面だけでなく政策の中にも埋め込まれているとの指摘があった。

日本においても障害者総合支援法下の福祉的就労支援施設では、制度上補助金の使途は職員の俸給に限られており、障害者の賃金に補填することはできない。この点が障害者就労において利用者である障害者と職員との所得格差の要因にもなっている。さらに一般企業であっても障害者枠での年収は一般枠の平均432万円に比べると半分以下と言われている。国は「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」に対する最低賃金の減額特例を認めている。政策を立案する行政やその制度を運用する側に障害者への拭い去ることのできない差別意識が反映されていると言える。

今回のセミナーに参加し、障害者を単に地域社会に包摂するのではなく、経済的にも心理的にも対等な立場で「共に働く場」をどのように創っていけばよいのか、自身の研究のフィールドで探求していく必要性が高まった。

なお、障害学国際セミナーの詳細については、「障害学国際セミナー2019 in武漢」に関する報告資料をぜひご覧いただきたい。http://www.arsvi.com/a/20191011.htm

(注1)一般企業で働くことが困難な障害者が職業訓練を受けることのできる施設。本来は障害者に与える補助金が賃金の形で支払われる。

駒澤真由美(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生/日本学術振興会特別研究員)

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