遊べない子どもはいない――障害学国際セミナーin台湾 報告

掲載日: 2018年11月01日

写真1:私が最初に関わった医療的ケアを必要としながら在宅生活する子どもと。

「この子、反応ないよ」。重度障害のある子どもに向けて、そんな言葉を口にされる方がいた。その子どもは人工呼吸器をつけており、身体を動かしている様子には見えない。眉間や眼球、親指が微かに動いたとしても、こちらの働きかけによって動かしたのかは確認できない。いつしか周囲から「遊べない子ども」として認知されていく。本当にこの子どもは遊べないのだろうか。どうすればこの子ども(たち)が遊べるのだろうか。それが私の研究の問いだ。

今年の障害学国際セミナーのテーマは、障害児者の文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(障害者権利条約第30条)。今年障害学会が設立された台湾で開催された。日中韓台に加えて、イギリス、アイルランド、ニュージーランドからの報告者も参加し、国際色豊かなセミナーとなった。「障害児の遊びの権利」の分科会も組まれ、私はホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)という専門職による遊び支援を報告した。

HPSとは、病児や障害児が遊びを通じて医療に主体的に関わることができるように支援する専門職である(註1)。日本では2008年から養成講座が開始され、およそ200人が資格認定を受けている。私もその一人だ。日本のHPSは病院内だけでなく、外出することが困難な重度障害児に遊びを提供する活動も行っている。

ある3歳の子どもは、発語がなく、表情の変化も乏しかった。一番身近にいる親も自分の子どもが何を思っているのか、何をしてあげたらいいのか自信を持てないようだった。医師からは「目は見えていないだろう」と言われていた。HPSは、音、匂い、光、様々な感覚に働きかける道具を用意し、その子と遊んだ。「楽しい!」「びっくりした!」という言葉や表情がすぐに返ってくるわけではない。それでも遊びの体験を提供する。大切なことは、その子の障害の側面をみる(その子の様子や反応を障害に結び付ける)のではなく、その子を子どもとしてみて、話しかけ続けることだ。HPSの専門性は、たくさんの遊びの素材やアイディアを有している点だけではなく、この視点にこそある。

ある時、段ボールで子どもを囲い、暗闇を作り、そこに光るおもちゃを入れた。その子は光りの方に目を向けていた。見えないとされてきた視覚も、遊びの中で「見えてる気がする」と周囲が期待できるようになった。繰り返し遊ぶことで、子どもの可能性や個性が現れ、「その子らしさ」が見えてくる。そうした発見や成長は、子どもと家族・周囲の人々とのコミュニケーションも変えていく。遊ぶ子どもの姿は、生活全般に影響を与えるのだ。重度障害児への専門的な遊び支援の活動は、諸外国からみて新鮮に映ったようで、HPS発祥の国である英国の研究者から「日本では世界的にみても重要な取り組みをやっている」という言葉をいただいた。

写真2:車イスのまま乗れるブランコ。日本でも公園のインクルーシブ化を進める活動は始まっている{a href='#e3' id='a3'}(註3){/a}。

国や地域によって障害のある子どもの遊びに着眼するポイントは異なる。そのことをセミナーの開催国である台湾からも学ぶことができた。台北市は、全ての子どもが遊べることを目的としたインクルーシブ公園(inclusive playground)を作っている(註2)。砂場には車いすの子が利用できる高さのテーブルがつけられ、砂を落とす洗い場にも段差がない。すべり台につながる道はスロープで、全ての子どもが「てっぺん」に行けるよう設計されている。ブランコも子どもの年齢・機能に合わせて4種類あり、車いすのまま乗れるものもある。台北市が進める公園のインクルーシブ化は、遊具の改革に留まらない。バリアフリートイレも併設され、地下鉄まで徒歩10分以内のアクセシビリティーも確保されている。部分的なインクルーシブ化も含めると既に市内33カ所で行ったという。この公園で多様な障害を持った子どもが遊んでいる姿を見て気づいた。既存の公園の遊具や環境がいかに特定の子どもや親たちを排除して成り立ってきたかを。そしてHPSが家の中で遊び支援をしていることも、そうした機制の影響を少ながらず受けている可能性がある。

遊びは、自由で自発的な活動だ。しかし、全ての子どもが自ずと遊ぶわけではない。遊ぶことに支援や配慮を必要とする子どももいる。今年のセミナーは、各国の実践から、障害のある子どもの遊びの可能性を学び合うものとなった。来年のセミナーは中国、武漢。インクルーシブな社会をテーマに議論する予定だ。

八木慎一(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)

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