「陣痛促進剤被害」と「医療への患者参画」と「薬害防止教育」

掲載日: 2026年05月01日


(写真1)ぼくの「星の王子さま」へ ~医療裁判10年の記録~ (幻冬舎文庫)の表紙

 私は、京都教育大学の天文学教室を卒業後、大阪府立高校の理科の教員になりましたが、1990年12月、一人目の子の出産の際に妻子が陣痛促進剤による医療被害に遭い、人生が一変しました。子は9日後に亡くなり、妻も一時危篤になりましたが、病院側は妻に何も言わずに陣痛促進剤を使用して、過剰投与を繰り返したり苦しみの訴えを放置したりして、無理やり出産を平日の昼間に誘導しようとして失敗した結果だということがわかり、裁判を決意しました。

 同様の陣痛促進剤被害による医療裁判は、私の妻子の事故の以前にも以後にも全国で非常に数多く提起されています。そのために、私は裁判だけではなく、同じような被害が繰り返されないための様々な市民運動にも関わるようになりました。もしも子が生きていたら、その育児にかけていたはずの時間を裁判や市民運動にかける方が、自分自身にとっても生きていくモチベーションにつながりました。

 被害の当事者を中心とする様々な市民運動に関わりながら、裁判が大阪高裁で勝訴確定するまでの10年間の記録は、2001年に「ぼくの「星の王子さま」へ」という書籍になり、後に幻冬舎文庫になりました。2021年11月にこの内容がNHKの「逆転人生」というTV番組でドラマ化されたこともあり、現在もこの文庫は絶版にならずに四半世紀が経ちました(注1)。

 その後、立岩真也氏から、「高校教員を続けながらできるから」と、立命館大学大学院先端総合学術研究科への入学をたびたび勧められるようになりました。仕事と市民運動が多忙だった私は、なかなか手続きができませんでしたが、ようやく定年が近づいた2020年の秋入学で5年制のこの研究科の3年次に編入学しました。しかし、やはり、なかなか時間が取れずほとんど何もできないままだったので、翌年に休学手続きをしました。

 2023年の8月に復学をしないと除籍になることから、同年8月1日に復学する旨のメールを立岩真也氏に送ろうとしていた時に訃報が届きました。その経過も含め、彼の追悼文を私は毎日新聞に投稿しました(注2)。そして私は2024年春から立命館大学生存学研究所の客員研究員に就かせていただきました。その際に「子宮収縮薬被害の変遷と計画分娩との関連の分析」「医療の情報公開の医療への患者参画の歴史と課題」「薬害防止教育の変遷と課題」の3つを研究課題に挙げました。

 また、同年春には、WHOが私を3分間の動画で取り上げてくれました。私を取り上げてくれたのは、厚生労働省の医療安全担当からWHOに出向されていた WHO 西太平洋地域事務局技術専門官の芝田おぐささんでした。実は私は市民運動に関わる中で、厚生労働省とは長年にわたり喧々諤々の交渉を続けていました。にもかかわらず、厚生労働省の担当者の方によって私のこれまでの活動を世界に伝えてもらえたことにとても感激しました。
その動画で取り上げられた内容は、主に以下の3点でした(注3)。
(1)事故の再発防止を目指す「産科医療補償制度」について、制度創設時の準備委員会の段階から被害者遺族の立場で継続的に関わってきたこと
(2)医療への患者参画に不可欠な情報共有を進めるため、「診療明細書」の全患者への無料発行を実現に取り組んだこと
(3)子どもたちを薬害の被害者にも加害者にもしないために、高等学校の公民の学習指導要領に「薬害」を明記し、医学部、薬学部、看護学部等の高等教育において、薬害被害者の声を直接聞く講義の実施を実現したこと

 芝田おぐささんは、2024年9月24日から27日にかけて、トルコ・イスタンブールにて行われたISQua(International Society for Quality in Health Care)カンファレンスにも、私をWHOから招待してくれました。ISQuaは、医療の質と安全性の向上を目指す、30年以上の歴史を持つ会員制の非営利組織であり、日本医

 療機能評価機構や米国のJoint Commission International(JCI)も会員として名を連ねているものです。WHOもISQuaと協働しており、今回のカンファレンスの2つのセッションで私に講演の機会をつくってくれたのです。その際の質疑応答を通じて、私の体験や思いは世界に通じうるものであること、そして、日本の医療の課題は他国でも課題となっていること、そして、それらはすべて過去形ではなく、現在進行形の課題だということを認識しました。それだけに私は年齢的にも、未来の社会のために、これまでの経過をまとめ、現状の課題をしっかりと整理する仕事をしておかなければいけないと感じています(注4、5)。

(写真2)左から芝田おぐささん、私、ISQua 理事でインドの産婦人科医のアヌラダ・ピクマニさん、WHO 本
部のテクニカルオフィサーのイリーナ・パピエヴァさん(セッション終了後にセッション会場にて)。

勝村久司(立命館大学生存学研究所客員研究員)

[関連リンク]
(1)ぼくの「星の王子さま」へ ~医療裁判10年の記録~ (幻冬舎文庫)
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344405868/
(2) 追悼 社会学者・立岩真也さん 人と社会つないだ「生存学」(2023年8月28日 毎日新聞)
https://hkr.o.oo7.jp/hk/mainichi_tateiwa_tsuitou_20230828.jpg
(3) WHO「People of the Western Pacific: Mr Katsumura Hisashi, Japan」(2024年)
https://www.who.int/mongolia/multi-media/item/people-of-the-western-pacific—mr-katsumura-hisashi
(4) ISQuaカンファレンスセッション実施報告-その1 産科の医療事故で子どもを失った経験を元に「産科医療補償制度」に求めたこと
https://hkr.o.oo7.jp/hk/anzen_report/anzenreport_isqua-1.pdf
(5) ISQua カンファレンスセッション実施報告−その2 医療の質と安全のために『患者参画』によるパワーを生かす
https://hkr.o.oo7.jp/hk/anzen_report/anzenreport_isqua-2.pdf

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