韓国の成年後見制度の批判的考察と改善方案の模索

PDFダウンロード

本文

韓国(座長:立岩真也)

韓国の成年後見制度の批判的考察と改善方案の模索

高官哲(順天郷大学大学院障害学講師、韓国地域社会独立生活研究所長)


Ⅰ. 背景と過程

1. 成立背景
2011年前までの韓国民法においては、行為無能力者あるいは制限能力者に対する保護制度として禁治産・限定治産制度が施行されてきた。しかしこれは家庭裁判所の宣告だけで適用される法的用語であり、実際は曖昧で広範囲に制約される効果をあたえ、主に経済的あるいは金銭的問題として提起される場合が多かったことから社会で否定的に認識されてきた。
このような否定的な認識に加え、韓国社会が超高齢社会を迎え、この制度の主な対象者である高齢者の人口が急増することとなり、さらに、医療技術の発達と高度産業化により精神障害者が様々な領域に参加することになった。また、韓国社会の成熟度が高まり人間の基本的権利である人権に対する関心が大きくなり、憲法で保障する幸福追求権を基盤とした社会福祉的観点が社会の全領域に拡大されるに至った。こうした必要性から、成年後見制度がその代わりをするようになった1。i

2. 制度の成立過程
ヨーロッパの場合、成年後見制度は1968年のフランスを皮切りに、英国、ドイツなどが導入したが、以後、多くの様々な施行上の問題や人権の問題点などを理由に現在の成年後見制度に変える努力を行ってきた2。日本でもそれまでの禁治産・限定治産制度に代わり、成年後見制度を1999年度に導入して2001年から厚生労働省によって「成年後見制度利用支援事業」が施行されたという。韓国では、1999年から障害者団体である障害友権益問題研究所の内部の法律委員会を中心に制度導入を検討し始め、2004年の秋、障害友権益問題研究所を中心に17の団体が集まって「成年後見制推進連帯」を結成し、その年から民法の一部改正を推進したが17代国会の会期が終了され自動的に廃案となった。2009年6月再び26つの団体が参加する第2期「成年後見推進連帯」3を結成して活動を開始し、同年、法務部(法務省※訳者註)が成年後見制度の導入を含む民法改正を全面的に推進することとなり、2011年2月に民法が全面改正され、成年後見制度が成立した4。政府では2009年に民法改正委員会が発足し、成年後見制の導入議論を経て、同年12月29日、国会に民法の全面改正法律案を発議し、2011年2月18日に国会で先進化された成年後見制度の導入を主な内容とする民法改正案を可決した。この改正された民法上の主な内容は、成年後見制として成年後見・限定後見・特定後見制度を導入することで、既存の禁治産・限定治産制度に代わりより能動的で積極的な社会福祉システムでこれを導入したと主張する。続いて2013年7月1日から本格的に施行され一部では多くの懸念と心配があったにもかかわらず、成年後見制度についての改善を議論するどころか、民間次元で後見人の資格、後見サービス、提供機関、後見人教育および養成などを支援する後続支援法令である「成年後見制度支援などに関する法律」を準備していたが、重度障害者たちがそのセミナーの開催場所を占拠して座り込みをしたことで失敗に終わった。しかし成年後見制度の推進勢力はその後、(社団法人)成年後見支援本部5を結成し、毎年定期的に記念行事と記念セミナーを開催し、成年後見制度の施行上不足している部分を埋めるとして努力している。

Ⅱ. 概要

1. 成年後見制度とは
韓国の成年後見制度は、2013年7月以前までの民法上の制度である行為無能力者あるいは制限能力者に対する保護するために施行された禁治産・限定治産制度の代わりとして、社会福祉的観点から導入された成年後見・限定後見・特定後見制度をいう。
民法上の制限能力者(無能力者)制度は画一化され、家庭裁判所の判決さえあれば公示され主に財政的・金銭的目的のために適用されたことが否定的に認識されたため、制限(無)能力者制度に対する忌避現象が多かった。これに被後見人の福利の不備、意思判断力が不足した高齢者の法律行為の保護、障害者に対する保護を強化し、従来の禁治産・限定治産宣告の請求権者に「後見監督人」と「地方自治体の長」を追加して後見を充実させた6。
民法第9条によると、「疾病、障害、老齢、その他の事由による精神的制約で事務を処理する能力が持続的に欠如」していると家庭裁判所で判断された人をいう。
民法が規定する制限(無)能力者には未成年者・被成年の後見人・被限定の後見人・被特定の後見人・任意の後見人がいる。これらの制限(無)能力者の行為は保護者の同意を受けてするか、保護者が代理して取り消すことができて無効になる恐れがある。

2. 後見 guardianship
親権によって保護を受けることができない未成年者、被後見人(旧、禁治産者)を保護するために設けた民法上の職務をいう。後見の職務を行うことを後見機関とし、これには執行機関と監督機関がある。現行法上後見執行機関には後見人がいて、後見監督機関としては家庭裁判所がある。後見には未成年者の後見人と成年後見人がいる。民法第9条により成年後見開始の審判を受けたときは本人の意思をまず考慮し、審判後には被成年後見人のための後見が開始される(第929条)。
成年後見人は被成年後見人の身元や財産に関する事情を考慮して複数の人を置くことができ、法人も成年後見人になることができる(第930条)。成年後見人は家庭裁判所の職権で選任し、成年後見人が死亡、欠格、その他の事由でいなくなった場合でも職権又は被成年の後見人、親族、利害関係者、検事、地方自治団体の長の請求により成年後見人を選任する。
また家庭裁判所は、成年後見人が選任された場合にも必要であると認めれば、職権又は請求権者や成年後見人の請求により追加で成年後見人を選任することができる(第936条)。後見人は正当な事由がある場合には、家庭裁判所の許可を得て辞任することができる(第939条)。
また家庭裁判所は、被後見人の福利のために後見人を変更する必要があると認められる場合は職権又は被後見人、親族、後見監督人、検事、地方自治団体の長の請求で後見人を変更することができる(第940条)。後見監督機関としての家庭裁判所は後見に関してさまざまな面で関与することになる。

3. 後見対象者7の種類
ア. 被成年後見人
改正前民法で禁治産者に規定された制限能力者として、疾病、障害、老齢、その他の事由による精神的制約で事務を処理する能力が持続的に欠如している人に対して本人、配偶者、4親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、限定後見人、限定後見監督人、特定後見人、特定後見監督人、検事又は地方自治団体の長8の請求により家庭裁判所から成年後見開始の審判を受けた者をいう。家庭裁判所はこの時本人の意思を考慮して審判しなければならない(第9条、家事訴訟規則第32条∼第38条)。
このような審判によって判決が下されれば、保護機関に成年後見人を置かなければならず(民法第929条)、この時から後見人によって被成年後見人の法律行為は取り消すことができる。ただし日用品の購入など日常生活に必要であり、その対価が過度でない法律行為については、成年後見人は取り消すことができない。家庭裁判所は取り消すことができない被後見人の法律行為の範囲を定めることができ、またこの範囲は請求権者の請求により範囲を変更することができる(第10条)。家庭裁判所は、成年後見開始の原因が消滅した場合には、請求権者の請求により成年後見終了の審判をしなければならない(民法第11条、家事訴訟法第2条1項2号目1、家事訴訟規則第32条∼第38条)。
一方、家庭裁判所は職権により成年後見人を選任しなければならず、成年後見人が死亡、欠格、その他の事由でいなくなった場合にも職権により又は請求権者の請求により成年後見人を選任しなければならない(第929条・第936条)。被成年後見人は、親や成年後見人の同意を得て、婚約することができ(第802条)、婚約解除の事由になり(第804条2)、結婚し(第808条)、離婚し(第835条)、養子縁組(第873条)や罷養(第902条)することができる。しかし遺言は意思能力が回復されたときにのみ行うことができ、遺言書に医師が心身回復の状態を付記して署名捺印しなければならない(第1063条)。改正前の用語である「禁治産者」は民法以外の法律、特に公職選挙法における選挙権と被選挙権関連条項にいまだに残っている9。

イ. 被限定後見人
改正前の民法において限定治産者に定義された対象者として疾病、障害、老齢、その他の事由による精神的制約で事務を処理する能力が不足し、本人、配偶者、4親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、成年後見人、成年後見監督人、特定後見人、特定後見監督人、検事又は地方自治団体の長10の請求により、家庭裁判所から限定後見開始の審判を受けた者をいう(第12条、家事訴訟規則第32条∼第38条)。家庭裁判所では本人の意思を考慮して審判しなければならない(第12条2項)。審判によって決定されると保護機関に限定後見人を置かなければならない(第959条の2)。決定後、被限定後見人は限定後見人の同意を得た行為の範囲内で法律行為を行うことができる。その行為の範囲は請求権者の請求により変更されることがあり、限定後見人の同意なしに行った法律行為は取り消すことができる。ただし日用品の購入など日常生活に必要しその対価が過度でない法律行為についてはこの限りでない(第13条)。家庭裁判所は限定後見開始の原因が消滅すれば、請求権者の請求により限定後見終了の審判をしなければならない(第14条、家事訴訟規則第32条・第38条)。ii

ウ. 被特定後見人
疾病、障害、老齢、その他の事由による精神的制約により、一時的な後見あるいは特定の事務に関する後見が必要な人に対して、本人、配偶者、4親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検事又は地方自治団体の長11の請求により家庭裁判所から特定後見の審判を受けた者を指す。
家庭裁判所は本人の意思に反して特定後見の審判を開始することができず(第14条の2第2項)、特定後見審判を行う場合には、特定後見の期間又は事務の範囲を定めなければならない(第14条の2第3項)。また家庭裁判所は、被特定後見人の後見のために必要な処分を命ずることができ(第959条の8)、被特定後見人を後見し、あるいは代理するための特定後見人を選任することができる(第959条の9)。被特定後見人の後見のために必要であると認める場合、家庭裁判所は期間や範囲を定め特定後見人に代理権を授与する審判を行うことができ(第959条の11第1項)、特定後見人の代理権行使に、家庭裁判所や特定後見監督人の同意を得るよう命じることができる(第959条の第11項)。しかし、被特定後見人は行為能力の制限を受けない。

エ. 後見契約(任意後見)
これは本人が後日、身体的、精神的に疾病、障害、老齢、その他の事由による精神的制約で事務を処理する能力が不足した状況に置かれ、あるいは、事務処理能力が不足する状況に備え本人自身が自分の財産の管理及び身辺保護に関する事務の全部又は一部を他の者に委託し、その委託事務に関する代理権の授与を契約関係で定めることをいう。これは公正証書に締結され家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が発生し、家庭裁判所、任意後見人、任意後見監督人などは後見契約を履行・運営する際本人の意思を最大限尊重しなければならない(第959条の14)。また家庭裁判所は後見契約が登記されており、本人の事務処理能力が不足した状況にあると認めるときには、本人、配偶者、4親等以内の親族、任意後見人、検事又は地方自治団体の長の請求により任意後見監督人を選任する(第959条の15)。

4. 後見人 guardian ; protector
ア. 種類
家庭裁判所での制限能力者に対する後見の判定に基づいて後見人の種類が分かれる。つまり被成年後見人には法定保護機関に成年後見人を任命し、被限定後見人には限定後見人を、被特定後見人にはその特定目的によって特定後見人が任命される。ただし後見契約によって決定する後見人は任意後見人である。

イ. 資格
後見人に対して資格基準を定めたものはなく、欠格事由を定めてこれに該当する者たちは後見人になれないと定めている。これを見ると、未成年者、後見の対象者、破産宣告を受けた者、宣告を受け刑期中にある者、裁判所で解任された法定代理人、後見人とその監督人、行方不明の者、被後見人を相手に訴訟を起こしたことのある者や訴訟を行っている者またはその配偶者の直系血族などを挙げている(第937条第1項~8項)。

ウ. 任務と役割
後見人は被後見人の法定代理人になり(第938条第1項)、財産を調査しリストを作成して(第941条)被成年後見人の福利と意思を尊重しなければならず(第947条)、被成年後見人の身上の決定などに重要な役割を果たし、一応、被成年後見人の身体を侵害する医療行為に対して成年後見人が代わりに同意することができ(第947条の2第3項)、被後見人の財産を管理しその財産に関する法律行為に対して被後見人を代理する(第949条)。ただし被成年後見人が居住する建物またはその敷地に限って各種の賃貸や売買行為などに関する事項と、被成年後見人を精神病院その他の場所に隔離する場合は家庭裁判所の許可を受けなければならない、と規定している。

[成年後見制度の類型]iii
【省略】

[改正前禁治産・限定治産制度との相違点]iv
【省略】

エ.後見人の選任に対する法務法人ユルチョンの評価12
①‌後見人の法定順位の廃止:改正前の民法では、親族内で後見人の順位が一律的に法律に規定されていたが利害が相反する配偶者、直系血族等が自動的に後見人になる弊害を防ぐために法定順位が廃止された。
②‌複数・法人後見人制度を新設:改正前の民法では自然人1人のみ後見人になることが可能であったが、後見の効率性と専門性を高めるため複数および団体も後見人になることができるようになった。
③‌後見人の選任基準を設置:被後見人の意思が最も重要な基準となり(第936条第4項前段)v、被後見人の健康、財産状況、後見人の資質と利害関係などを考慮する(第936条第4項の後段)。結論として、弁護士、法務士(司法書士※訳者註)、社会福祉士など専門の後見人と法務法人といった専門の後見法人が活動できる制度的基盤が設けられた。

5. 後見監督人, supervisor over guard ; supervisor of guardianship
これは後見人を監督する民法上の機関をいう。家庭裁判所は必要であると認定された時、または該当の被後見人、当該後見人、親族、検査、地方自治団体の長の請求により事案に応じ個別的に後見監督人、限定後見監督人、特定後見監督人、任意後見監督人を選任することができる(第940条の4、第959条の5、第959条の10、第959条の15)。
各種の後見監督人は該当後見人の事務を監督し、後見人がない場合は遅滞なく家庭裁判所に後見人の選任を請求しなければならず、被後見人の身元や財産に対して差し迫った事情がある場合、保護のために必要な行為または処分ができる。後見人と被後見人との間に利害が相反する行為に関しては後見監督人が被後見人を代理する(第940条の6)。後見人の家族は後見監督人になることができない(第940条の5)。

Ⅲ. 現在の進行過程

1. 2013年7月〜2015年4月
去る2011年2月18日、国会で先進化された成年後見制度の導入を主な内容とする民法改正案が通過し、施行令と施行規則及び制度の実施に向けた準備作業を経て、2012年7月1日から成年後見制度が本格的に実施されている。現在、施行3年が過ぎた。
施行後1年が過ぎた2014年8月7日、保健福祉部とソウル家庭裁判所は懇談会を持ち、ここでソウル家庭裁判所が提示した意見を取り入れ、発達障害者のための公共の後見人支援事業の支援対象者を「成人の発達障害者」のほかに「後見が必要であると地方自治体・裁判所で判断した他の類型の障害者」に拡大することとした改正案を作成し、2015年から施行された13。
しかしこれは、改正法施行1年前の2014年7月1日に実施された成年後見制度施行1周年記念政策討論会において成年後見制の一つ目の問題点として制度利用の低迷が挙げられているが、この問題を解決するための方策であると思われる。すなわち、「民法で規定する『精神的制約により』という条件を削除して、パーキンソン病や脳卒中、身体障害や高齢化その他の原因を問わず現実的に『事務処理能力に欠乏』があれば誰でも成年後見人の助力を受けられるように改正されるべき」として、身体的な原因と事務処理能力が不足した者を含めて成年後見の対象の拡大を要求14してきたことを受け入れたものとみられる。
以後、「後見人の保証保険」商品が開発・販売され、後見人と後見監督人の報酬基準表が作られた。2014年7月1日から「後見事件の処理に関する例規」が制定・施行され、成年後見監督の電算システムが構築され開始された。そしてこの時点で成年後見事件を開始しており2014年末ごろから後見事務の実質的な監督を始めた。

成年後見などの事件の現況(2013. 7. 1~ 2015. 4. 30(2014. 5. 31))15
【省略】

後見の選任状況(2015.4.30日現在(2014.5.31の基準))16
【省略】

2.‌発達障害者の権利保障および支援に関する法律(略称:発達障害者法)による公共後見支援事業
2014年5月20日、「発達障害者の権利保障および支援に関する法律(略称:発達障害者法)」が発達障害者の親の権利擁護運動によって制定され、施行令、施行規則と関連法令を整備し、2015年11月21日から施行されるに至った。この法律の対象者は民法で規定した未成年後見や被成年後見人に最も重要な対象者である知的障害者と自閉性障害者が全て含まれた17。そして保護者として後見人を含めており18、第2章の「権利保障」では、第8条で自己決定権の保障を強く求め、第9条は「成年後見制利用支援」というタイトルで費用に対する政府の予算支援を求めている。国会議員であるオ・ヨンフン議員室が2016年8月3日に保健福祉部に要求した成年後見関連資料によると、発達障害者法に基づいて知的障害者、自閉性障害者を対象に公共後見支援事業が進行中であるとし、公共後見支援事業において後見人一人当たりに支払われる公共の後見活動費は月10万ウォン、最大で月30万ウォンまで支払うとしている。これは最大で3人まで複数の被後見人に対する後見が可能であることを意味する。

[支払の内訳及び支払人員]
【省略】

[公共後見支援事業の年齢別の分類]
【省略】

公共の後見事業にとって、後見人と被後見人の関連性の有無(家族や施設の従事者など)を見ると、市民後見人が75%で圧倒的に多く次は施設の従事者が17%、家族、同居人、知人などにまんべんなく分かれている。ここで最も注目されるのは施設従事者が家族など他の利害関係者より優れて多いことだ。ここから施設居住の障害者に対する後見人の申請件数および後見人と施設との関連性の有無を検討した結果、2015年の被後見人対象調査では、被後見人の約57%が施設居住者ということだった。「2016年の発達障害者支援事業のご案内」によれば、同一施設内では発達障害者に対する公共の後見人-被後見人の選任は不可能である旨を規定している。しかし同一法人の他の施設等に対する制約はない。発達障害者法を根拠とした公共後見事業では、知的障害者と自閉性障害者が対象となる被後見人の数が270人(2015年12月基準)となっている。

Ⅳ. 問題点と代案摸索

1. 推進過程の問題点
前述した成年後見制度は、民法改正前の制度である限定治産・禁治産の問題点を改善するために成年後見制推進連帯を結成して導入を推進したとされるが、障害当事者団体を中心に、制度の推進と導入、定着過程に多くの問題点を持っており、当初意図したような十分な効果を期待するのは難しいという判断がなされている。

ア. 利用者の排除
2004年に結成された成年後見制推進連帯19は、障害友権益問題研究所viが主導し、保健福祉部は発達障害者の親が強く希望して成年後見制度が導入されることとなったと明らかにしている。そして対象者としては、発達障害者13万8千人、精神障害者9万4千人、認知症の老人57万6千人がこの制度の主な利用者になるものと予想している20。しかしながら初期の連帯には全国規模の障害者団体はほとんどなく、主に一部地域の障害者団体と障害者の親の団体、高齢者や障害者リハビリテーション施設、専門家団体が参加して構成されていた。障害者を代表する主要な障害者団体が参加しておらず、また最も主要な利用者である精神障害者に関しても家族中心の団体一つだけが参加している。これでは利用者の主導性が最初から排除されているとしか言えないだろう。その後2009年6月に再結成された第2期の成年後見制推進連帯の参加団体を見ると、専門家グループをさらに強化する方向で進んできたことが分かる。その結果、専門家と親のグループが主導して作った法案に高齢者と精神障害者が知らないうちに自分達の法的権利が規定されてしまうという結果に直面することとなった。

イ. 権利擁護と保護の衝突
このような連帯の構成は、推進過程の初期から理念的衝突が内在していることを示している。上記の脚注4に引用した記事の内容を見ても制度の目標が保護に集中していることを示している。その後の公聴会でも強調されたところであるが、それまでの制度は財産管理を主な目的に活用されるように作られたが、実際には広範囲に人権を侵害し、実質的な保護機能を失ったため多くの人々から利用が忌避された有名無実な制度であった。そのため「自己決定の尊重」と「本人の保護」という理念を調和させ、多様な判断能力と保護の必要性の程度に応じた柔軟で弾力的であり簡単に利用が可能な制度として成年後見制度を導入することを目的とした。しかしその根底には障害児に対する親の保護の意思が強く作用しており、主導した障害者専門家グループも主に法律家グループだったため「自己決定権の尊重」という抽象的な主張の宣言以外には、保護の方法についての法的枠組を準備することに大半の努力が払われた。

ウ. 国連障害者権利条約と衝突-代理モデルと支援モデルの衝突
このような「保護」中心の法理の構成は推進連帯自体でも問題提起されていた。つまり成年後見制度の内容が国連障害者権利条約とは相反するという問題に対する解決策を見つけるための討論会が開催されている。ここでは、同条約が規定する「法の前における平等」を扱う第12条の内容のうち「障害者の法的権限」をどのように確保するのかについて議論が行われている。これは障害者の法的権限を保障するため、代理人や後見人を置く代理モデルと、各種の支援策を通じて自ら意思決定をすることができるようにする支援モデルのどちらを選択するかの問題であった。
この時、推進連帯の政策委員長であった法学教授は「成年後見人制度は当事者の意見が十分に反映されなければならないが、ほとんどの当事者は自分の意見を開陳することができないので、親や保護者の意見を聴取するしかなく、保護者の意見が絶対尊重されなければならない」と述べ、成年後見制の導入を強く主張した。主要な障害者団体と国連障害者権利条約推進連帯の参加団体は、人権侵害の憂慮とともに障害者の「法の前における平等」の権利を掲げ、「支援モデル」の多様な方法の導入を検討しなければならない旨の意見を出したが結局無視された。

エ. 法の内容上の問題点
成年後見制度は以前の限定治産、禁治産制度に比べて人権と権利を基盤にし、相当進展を遂げた制度であることは明らかであると考えられる。しかしこのような進展にもかかわらず保護を中心とする法の意図は随所で発見されている。2015年4月に障害当事者組織を中心に結成された「成年後見制度廃止推進連帯」の発足式の討論会で精神障害当事者である韓国精神障害者連帯のパク・ミソン事務局長は、成年後見による障害者などの権利行使の制限は非常に広範囲だと指摘し、日常生活に必要な行為や居住している不動産を除いたすべての行為について後見人が被後見人に対する代理権を持つようになると指摘した。すなわち、成年後見や限定後見を受けた障害者などの相手は後見人がその障害者の法律行為を事後に追認しない場合、その契約などを撤回することができる(第15条)。特に上で言及したように家族関係の構成および結婚などに過度な制約が発生することになる。婚約、婚約破棄、結婚、離婚、養子縁組、離縁において後見人の同意を得なければならず、これに違反するとその婚姻を後見人又は相手方が取り消すことができる。
しかしこうした強い代理権制度の期限に関する規定はほとんどない状況である。後見人の資格もまた、法的、経済的な問題がなければほとんど制限がないと見るべきだろう。これは深刻な問題を引き起こす可能性があるが、特に施設にいる障害者にはなおさらである。
後見人の欠格事由にその施設の首長、または従事者、その施設の法人などに対する禁止規定がないvii。これは相当な大きな問題を引き起こしかねない。つまり脱施設の立場からみてこの制度は施設に従属させられる終身奴隷契約として悪用される可能性が高いということである21。

2. 解決策の模索
ア. 障害当事者中心の解決の努力が必要
昨今の成年後見制度が発達障害者の親と専門家の主導の下で導入されたものであるとすれば、これから障害当事者(特に精神障害当事者組織など)を中心に新たに障害者の立場から成年後見制度を原点から再検討すべきである。
イ. 自己決定権や選択権の保障を中心に支援制度への転換を模索
障害者を無気力な保護の対象として認識する親や専門家の視点とは異なり、障害当事者が主導する成年後見制の新たな再改正運動は明確に自己決定権や選択権の保障を理念的中心とし、どのような方法でこれを実施するか模索し、支援制度への転換を積極的に検討すべきである。

ウ. 内容上の悪意のある利用の要素の削除と追加の権利保障措置
上記指摘したように、法律の内容の中で家族構成への過度な干渉と制限について再検討し、後見人の欠格事由に施設長と法人、従事者を含めて特殊な関係にある者を全て排除すべきである。また、後見の期限を設定し一定期間後に後見人利用の必要性を再検討する規定を設け、自分の意思を表現するにあたりこれを支援する支援ツールの提供及び支援員制度の導入を積極的に検討すべきである22。viii

[原文注]
1 ソウル家庭裁判所の判事官であるキム・ジスクさんは、成年後見制施行2年点検のシンポジウムで発表した「成年後見制度の現状と今後の課題」で成年後見制度の施行の要因は主に既存の限定治産、禁治産制度が個別能力の差を考慮していないことであると批判している。
2 フランスでは2006年から成人に対する法的保護の改善を規定する法律が作成され国務会議を通過し、2007年3月5日、民法と社会保障法典が新たに改正公布された。英国は1983年に精神保健法が改正され、これは意思決定、無能力者のための財産の保護措置をより明確に規定しており、1985年持続的代理人法を制定して私的自治による成年後見制度を具現した。しかし、様々な問題に直面し、1990年から新たな成年後見制度のため法の制定作業に着手し、2003年に「意思決定能力法(Mental Capacity Act)」草案を作成して2005年に議会を通過し2007年から施行された。ドイツは世話人法が新たに改正され、施行されたのは1992年1月1日からである。独立法ではなく民法第1896条以下の一連の条文を一般的に通常世話人法と呼ぶ。しかし、以前からあったがこれは1990年から設けた成年後見改革法の結果である。 『最新外国法制情報』参照
3 1期は主に障害者や高齢者団体などが参加したが、2期は障害者の親の会と障害者施設協会、老人施設協会、社会復帰施設協会、福祉館協会、福祉施設協会、リハビリテーション協会、精神保健協会などの施設協会と専門家グループなどが大勢参加することになった。 その後制度が作られる過程で弁護士及び法務関係専門家たちが積極的に参加して成年後見制度の導入を主導する位置に至るようになる。
4 2004年成年後見制推進連帯の発足の声明書は「精神遅滞、発達障害者、精神障害者などは社会的に要求される判断能力の欠損により不純な目的を持った不特定人から利用され、あるいは犯罪に遭う可能性が多く、急速な高齢化により高齢の老人が増え、財産や敬老年金をねらった不純な意図の標的になるものと予想される」として、成年後見制導入の必要性を説明した。さらに、後見連帯は「現在、判断能力が微弱な成年に対する後見制度に限定治産、禁治産制度があるが、保護機能を喪失した、有名無実な制度に転落した」と「保護機能が微弱な反面、結婚を除いた財産権、契約権、職場就職、参政権など国民として享受すべき多くの権利を停止させ、むしろ人権を侵害するなど弊害が少なくない」と現行制度の問題点を指摘した。(エイブルニュース2004年10月13日付の記事)
5 韓国唯一の成年後見専門法人で、2011年6月に法務士たちを中心に結成され3周年記念政策討論会などを開催した。
6 韓国の民法では第928条(未成年者に対する後見の開始)という条項の前で民法の第5章として「後見」の章を置いて本格的に未成年後見と成年後見を一緒に扱っているが、すでに第9条で成年後見開始の審判を説明しており、同条以降、成年後見制度と関連する条項が民法の最初の章からあちこちで登場している。
7 改正前の民法ではこれを無能力者と言ったが、これは単語自体が持つ否定的イメージのためにこれを改善しようと改正民法ではこれを制限能力者に改正した。これは権利と義務を持つための行為を一人で完全にできる能力を行為能力としてこのような行為能力を持つことができない者を指す法廷用語としてこれは家庭裁判所の審判によって成年後見の対象者になるとその審判の内容によって被成年の後見人、被限定の後見人、被特定の後見人になる。 このように韓国は後見対象者を3つに分類している。
8 これらをすべて含めて成年後見開始の審判の請求権者という。
9 第18条(選挙権がない者)①選挙日現在次の各号のいずれかに該当する人は選挙権がない。
 1.禁治産の宣告を受けた者。
第19条(被選挙権がない者)選挙日現在次の各号のいずれかに該当する者は被選挙権がない。
 1.第18条(選挙権がない者)第1項第1号・第3号又は第4号に該当する者
10 これらをすべて含めて限定後見審判の請求権者という。
11 これらをすべて含めて特定後見審判の請求権者という。
12 成年後見制度推進の代表的法律専門家グループに参加した法務法人としてそのホームページに、成年後見制度の教育資料とともに詳しく説明されている。
13 成年後見制施行2年点検のシンポジウムでソウル家庭裁判所の成年後見担当のキム・ジスク判事が発表した「成年後見制度の現状と今後の課題」を引用
14 成年後見制施行1周年記念政策討論会でオム・ドクス(法務士)成年後見支援本部首席副理事長が発表した「成年後見制度施行1年の現状と課題」を引用
15 成年後見制施行2年点検のシンポジウムにおいて、ソウル家庭裁判所の成年後見担当のキム・ジスク判事が発表した「成年後見制度の現状と今後の課題」から引用
16 同上
17 発達障害者の権利保障および支援に関する法律第2条1項。
18 同法第2条2項ナ号。
19 参加団体は、慶尚南道障害者親の会、大田障害者連合会、大韓精神保健家族協会、社団法人釜山障害者総連合会、ソウル障害者の人権親の会、障害友権益問題研究所、全国老人福祉団体連合会、精神保健社会福祉士協会、老人問題研究所、全国老人福祉施設協会、老人の電話、韓国社会復帰施設協会、韓国社会福祉士協会、韓国障害者福祉館協会、韓国障害者親の会、韓国精神遲滯者愛護協会、韓国リハビリテーション協会(17団体、五十音順)
20 エイブルニュース2013年6月24日付の記事「福祉部、成年後見制度Q&Aを紹介する」
21 上記で見たように、「2016年発達障害者支援事業のご案内」により、同一施設内では発達障害者の公共の後見人-被後見人の選任ができないように規定しているが、これは法的制限がない。
22 ドイツの場合は成年後見事件の申請は優先的に補助手段が存在しないことを証明しなければならない。また7年に一度は再審査を行いこれにより取り消されたりもする。施設法人は補助的にのみ後見人となることがあり被後見人が居住する施設の従事者はたとえ被後見人がそれを求めても絶対に後見人になれない。その理由は利害の衝突が大きすぎるためという。『最新の外国法制情報』「ドイツの成年後見制」金星坤(キム・ソンゴン)(ドイツ駐在の外国法制調査員)

[編者注]
※韓国の報告者は共に事前にペーパーを準備されたので、掲載原稿も基本的にはそのペーパーの翻訳である。障害学セミナー当日に話されたことで、資料には書かれていなかったことを文字起こしより以下、引用する。
ⅰ) 私が発表する前に、私の立場を申し上げたいのですが、今、私は障害者の当事者として成年後見制度を見ているわけです。池原先生の発表に同意しながら、私は障害者の立場として批判的な目をもって見ているということをまず申し上げて、続きの発表をしたいと思います。
ⅱ) ここで最近の韓国において、限定後見、被限定後見に選任された方がいらっしゃいます。被限定後見で判定を受けた方ですが、日本ではロッテ・グループをご存じだと思います。財閥グループですけれども、その創業者である辛格浩会長の妹が限定後見の請求をして、それが受け入れられ、辛格浩会長が限定後見を受けている状態です。自分の財産的な権限がほとんど代理人に渡っている状況です。これは最近の出来事でした。
ⅲ) 今まで話をしてきた成年後見、特定後見、限定後見、それから任意後見について、そのパターン、開示事由、本人の行為能力、後見人の権限によって、深刻な状態から深刻ではない軽い状態まで整理した表「成年後見制度の類型」を参照していただければと思います。この表は、韓国の最高裁が配布した成年後見制度の成年後見制度施行1周年の報道資料から抜き出したものですから、はっきりしています。
ⅳ) 二つ目の表は、「改正前禁治産・限定治産制度との相違点」です。比較してみると、もう少しはっきり分かると思います。制度、被後見人、後見人、それから裁判所です。禁治産制度と成年後見制度を分けて比較してみたものです。以前の制度は主として家族制度に本質を置いていましたが、現在では裁判所と社会福祉システムが介入したというようにご覧いただければと思います。これもやはり最高裁で配布した資料から抜粋したものです。
ⅴ) 気持ちが強いというように見られるのですが、被後見人の意思が尊重されなければならない。どうやって尊重されなければならないかということについて規定はないのです。意思が尊重されなければならないという項目だけです。
ⅵ) 障害友権益問題研究所ですけれども、推進連帯が1999年に最初に連帯を結成してこの議論を始めたと申し上げたのですが、内部の法律推進委員会の中心、推進の中心的な役割を担ったのが、法務法人ユルチョンだったわけです。法律家たちが支援体制を備えている、そういった団体が、この障害友権益問題研究所です。障害者の弁護士がいるのですけれども、彼が主導してこういった推進連帯を結成したのです。
ⅶ) 例えばドイツなどでは、絶対駄目だというようになっています。
ⅷ) 基調講演の説明を聞きながら感じたのですが、国際的な連帯を通じて、同一の方法を導入する、そして対案を準備するという努力が広範囲に行われなければならないと思います。

生存学研究センター報告

サイトポリシー | 個人情報保護方針 | サイトマップ | お問い合わせ
アクセシビリティ方針