第5章 何を発見するか

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1.ストーリーについて、質問、コメントをする

ストーリーになにがあるか。
ストーリーになにが欠けているか(なにを言っていないのか)。

ケース分析、コード分析、さらにそれぞれの考察と分析がでてくる。雑巾を絞るように発見を絞りとる。別な文脈から読み解くのもおもしろい。自分で予想していることと、どうズレて、どう同じなのか。 
ケースレポートのフォーマットができるので、コンパクトなケースレポートができる。単にテープ起こししたものではないレポートとなる。

2.マトリックスをつくる

通常、データコレクションは複数のサンプル(ケース)からなる。ケース分析とコード分析とを二次元上に配置したものをマトリックスという。これが収集したデータの全貌であり、あらゆる分析の基礎となる。マトリックスとは以下の図のようなものをいう。

表2 マトリックスのサンプル
【省略】


※コード分析について
コードとはデータの共通点を言語化したカテゴリーの集合を言う。半構造化自由回答法でデータコレクションをした場合には、①あらかじめ決めた(構造化)質問項目にしたがって得られたカテゴリーによるコード(プレコード化)と、②自由回答によって得られた情報をあとからカテゴリー化したコード(アフターコード化)の二種類がある。

アフターコード化したコードは、ケースによって情報のあるところとないところとが出てくる(あるサンプルはその主題に言及するが、別なサンプルは言及しない)。コードのなかの情報の分散こそが、そのケースのユニークネスを創る!したがってコード分析にケースによって情報の空白があること、あるいは特定のケースにコードの偏りがあること等が、コード分析上の発見となる。コード分析上の情報の分散それ自体が、新たな(高次の)情報となっていること、情報の空白からさえ新たな発見ができること、それがマトリックス上で可視化されること、がこのマトリックスをつくる大きな成果である。

※表の縦軸(ケース分析)と横軸(コード分析)と両方を分析しつくすことを、データをしゃぶりつくすという→詳しくは、序章2.集めた情報をしゃぶりつくす! を参照のこと。データをしゃぶりつくすと1次情報の引用に重複がでてくる。通常は既出した例は2度出さないが、分析によっては重複が必要な場合がある。

Q&A
Q:うえの式質的分析法というのはいわゆる、構造を分析する方法、脱文脈化してそれを再文脈化するというのは、分析者の視点で構造を作るわけですね。そのときに時間の流れ、たとえばケース分析だと、ひとりのライフヒストリーも分析できるわけですね。
うえの:もちろんできます。ライフヒストリーは時間という構造のもとに情報を分析する方法です。ある出来事(原因)の後に次の出来事(結果)が来る、というように。ライフヒストリーは出来事の時系列の順序(これを生活史や生育歴と呼ぶ)にしたがってコード化しますから、かんたんです。

Q:ライフヒストリーをみたいときは、分析者が再構築すればいいわけですね。
うえの:ケースごとにコード(要因)を加えると、コードそれぞれのケースの比較ができます。典型例、逸脱例(どれにもあてはまらないもの)等。

3.データのかたよりは何を意味しているのか

同じコードで比較(コード分析)してみると、うえの式質的分析法を用いて帰納的に同じカテゴリーのもとで、複数の情報がどのように分散していくのかがわかる。

4.いかなる文脈から発見を導き出すか

この時点で情報生産はメタメタ情報(3次情報)へと高次化している。発見は、情報が高次化することで生まれる。情報は高次化(メタ情報化)するほど1次情報から離れるが、うえの式分析法では、つねに1次情報のマトリックスにたちもどることができ、どんな発見についても経験的データにもとづく根拠を示すことができる。
ケース分析は、ケースにひっぱられるので注意。ケースの固有性や魅力にとらわれて、記述をしただけで比較や分析を怠る傾向がある。
ケース自身にとって、重要な情報とそうでない情報がある。帰納法でしか発見できないカテゴリーが核心部分。(それを「当事者のカテゴリーnative category」と呼ぶ)。記述の際は、ケースにとってもっとも重要なことから書く。結論で、何を発見したことになるのか、ケースについての考察をかならず書くこと。
ポイントは、ここにあるものと、ないものはなにか。個人からみたことが、制度や歴史の文脈においてみるとどうなるか。いかなる条件によって動機づけがなりたっているのか。
最後に分析者自身の考察と結論を述べる。分析によって何をなしとげたか、なしとげられなかったか(意義と限界)。今後、どんな発展や応用の可能性があるのか、残された課題は何か(展望と課題)。

5.テープ起こしで得られた情報と、
うえの式質的分析法で得られた情報の異なり

テープ起こしでは、情報の重要性とそうでないものを自身で判断することになる。
うえの式質的分析法では、データが語る。根拠があってこれがいえる、と主張できる。恣意的に情報を採用しているのではない、といえる。

6.多くの文脈情報で発見の質と量が変わる

語り手が自覚していない部分は3次情報となる。3次情報は分析者の発見である。情報加工度は1次、2次、3次になるにつれて1次データから離れていく。恣意性が高まり、それと同時にオリジナリティがあがる。多くの文脈情報で発見の質と量が変わる。情報生産性はひとによって異なる。情報加工(Information Process)とはそのようなプロセスである。
制度的、経済的、心理的、全国の統計などの文脈を置いてみる。分析者がどれだけの文脈をもっているか。たくさんもっているひとほど高い生産性がある。そういう意味では共同で分析をおこなうほうが、情報生産性があがる。

7.1人のひとにインタビューする場合の注意点

1人のひとに複数回のインタビューしたときは、タイム1、タイム2で変化を分析してみる。
比較の必要は、何を解きたいかによる。
→反復して単一のインタビューをした。人生の時間に沿って生まれてから今までのインタビューをした等。
インタビューから調査に、「関係のない語り」が得られることがままある。だが「関係ない語り」とは、誰が関係ないとみなしているのか。問いを1問1答形式にすると、ノイズの発信を見落としてしまう。

例:話し手Aさんの事例(ケース1):
分析者は職業の専門性にこだわっていたとする。ところがAさんは、自身の職業とは別の活動の話をしはじめた。分析の結果、この活動は、Aさんにとって仕事におおきなやりがいがあることがわかった。Aさんの事例は、職業の専門性からではなく、専門性から外れたところから職業のやりがいをみいだせている事例。1問1答では、こういったことは見落としてしてしまう。

8.経路依存性(Path Dependency)とは?

語り手の現在の選択は、語り手が過去に行った選択によって制約をうけている(依存している)ということが、経路依存性(Path Dependency)という。

例:同じことをやっていても、異なるケースからそこに至ったという場合、聞き手がほんとに知りたいのは現在の選択についてなのに、語り手が過去の話をするのは、語り手にとって過去の体験は、現在の選択に関係しているためである。
→語り手の過去の体験は現在の選択と一見無関係のようにみえて、実は語り手にとって過去の体験に意味があるということ。

構造化回答法は1問1答方式。自由回答法は、相手に自由に話をさせてさえぎらない方式。何が重要かは話し手本人が判断する。うえの式質的分析法では、1次情報の取捨選択をしない。
複数回にわたってインタビューすると膨大な数になることがある。その時は、1ブロック、2ブロックというふうに分割する。1回で紙の上で処理できる情報ユニット数の限度は200ほど。紙も人も足りない場合、A4の紙の上で10~20ごとつなげて紙芝居のようにする。

9.記述のルール(レポートを書く)

いよいよアウトプットである。
論文は言語情報でできている。それを論理的構成と論理的順序にしたがって3次情報、2次情報、1次情報...と時間軸上に配列していく作業が、「論文を書く」という作業である。論理クラスはメタ情報の方が上だから、メタ度の高い情報から記述する。
論理的構成と論理的順序を可視化するために、目次を書くことは不可欠である。目次なしに、書き始めてはいけない。
目次は論文という名の構築物をつくりあげるための設計図である。設計図なしに建物を建てることはできない。目次は書き手のアタマの中の論理的構成をあからさまに示すから、混乱もあいまいさをもさらけ出すことになる。論文を書く過程で、目次は何度も作り替えてもよい。

メタカードは必ず1回はそのレポートに取り込む。
メタカードに属する1次情報は、必要に応じて採用する。
メタカードと1次情報のつなぎには接続詞が入る。
接続詞
・因果:したがって、それゆえに
・相関:~とともに、同時に
・対立:~に対して、とはいえ


※重要ポイント
ストーリーテリングと同じルールに従う。

余計なことは書かなくてよい。
つなぎを少なくし、1次情報をコンパクトに正確に表現した上で、考察は自分のことばで書くこと。つまり、何がデータで何が自分の発見かを区別する。

要因連関図を一枚の模造紙ではなく、標準化した小さな用紙(A4)に1次情報を貼りつけてつくった場合、それをメタコードに応じて綴じていくと、そのまま章→節→項となる。(つまり論理的クラスの分類ができる)
それがそのまま目次となる。

以下は、ケース分析とコード分析のマトリックスから、一宮がつくった目次である。

一宮茂子『移植と家族』(岩波書店2016)から

はじめに―ドナーの意味づけに影響をおよぼす要因はなにか?
第1章 生体肝移植のあらまし
1 日本の生体肝移植の歩み
2 生体肝移植の医学的特徴
3 移植コーディネーターの重要性
第2章 ‌医療の専門知と当事者の経験知
 ―ナラティヴ・アプローチに依拠して
1 医学的枠組みからみた知見
2 社会学的視点からみた知見
3 ‌先行研究からみた本研究の分析モデル
 ―ドナーの意味付与の要因関連図
4 ナラティヴ・アプローチによる方法
第3章 対象ドナーの特徴と紹介
1 対象ドナーの類型と分散
2 類型からえられたドナーの属性と特徴
3 対象ドナーの紹介
第4章 なぜドナーになったのか?
1 四つのパターンと自発性/強制性による意思決定と意味づけ
2 ドナーの意思決定過程における関係性の変容
3 カモフラージュされた自発性(事例)
4 定位家族か生殖家族か―愛の優先順位(事例)
第5章 ドナーのインフォームド・コンセントの受けとめ方
1 インフォームド・コンセントの概念と同意書の内容
2 インフォームド・コンセントの実際
3 ドナーの理解の程度と印象に残った説明内容
4 インフォームド・コンセントによる関係性の変容
5 “賭け”としての生体肝移植(事例)
6 専門的なことは“おまかせ”(事例)
第6章 移植後の回復状態の意味づけ
1 ドナーの回復状態がもたらしたこと
2 レシピエントの回復状態がもたらしたこと
3 すべてやりきった結果としての達成感・満足感(事例)
4 診療所の医師からえたドナーとしての評価(事例)
5 ドナーとレシピエントの回復状態がもたらした関係性の変容
第7章 ドナーはどのような支援を必要としているのか?
1 医療的支援
2 心理的支援
3 人的支援
4 経済的支援
5 社会的支援
第8章 医療的支援によるフォロー体制の実態と重要性
1 医療的フォロー体制の実態
2 地元の医療機関とA病院の連携体制
3 理想的な連携によるフォロー体制(事例)
4 生体肝移植後、終末期の医療的フォロー体制の重要性(事例)
5 ‌10年にわたる合併症の治療と新たな病気
 ―家族の代弁の効果(事例)
6 医療的フォロー体制がもたらした関係性の変容
第9章 ドナーと関与者の関係性は、どのように変容したのか?
1 ドナーと専門職との関係性の変容
2 ドナーと非専門職との関係性の変容
3 ドナー夫婦の考え方の相違(事例)
4 借財による家族の関係性の変容(事例)
5 インタビュアーとドナーとの関係性の変容
第10章 仮設の検証―ドナーの意味づけをわかつ四つのパターン
1 レシピエントが生きているとき
2 レシピエントが亡くなったとき
3 レシピエントが生きていても、問題が残ったとき
4 レシピエントが亡くなっても、自己納得できたとき
おわりに
1 時間軸からみたドナーの意味づけの要因
2 提言
あとがき
用語の定義
参考文献

論文はたったひとつのサンプルからでも書ける。その場合は、1サンプルによるケース分析となる。

・どこから書くか?
目次ができたら、目次の順番に書く必要はない。自分が書きやすいところから書き始めて、パラグラフごとに書きためておく。それを建築のブロックと考えれば、目次(設計図)が変わるたびに、必要なブロックを適切な場所に入れ替えるだけですむ。ほとんどの論文は、書くべきことをどこかに書いているが、論理的な構成がなっていないために、読者に必要なメッセージが伝わらない場合が多い。

・いかに書くか?
文章は結論先取型で書く。「AはBである、なぜならば...」という論述のスタイルを採用する。読者にとって重要な情報とは研究者が得た発見であり、研究者がいかにその発見にたどり着いたか、ではない。「なぜならば..」で、論拠(evidence)を示すことが、経験研究の強みである。有無を言わせぬ論証を示す。
もっとも論理的に書かれた論文とは、各パラグラフの一行目を集めればそれがそのままその論文の「要約」になるような論文のことである。

・1次情報をどう引用するか?
うえの式分析法では、テープ起こしを避けた。それは分析の効率を上げるためであるが、最終的なアウトプットに、1次情報を引用する場合には、1次情報ユニットに制作者の加工が入っていないことを示すためや、データの臨床性や臨場感を示すために、テープからそのまま話し言葉を書き起こすこともある。その場合は、引用したい1次情報にあたるテープの該当部分に戻って、その箇所だけをテープ起こしすればよい(したがってテープ起こしの手間が著しく軽減される)。いつでも当初の話し手の文脈に戻れるように、1次情報のカード化の際に、時系列で採集したデータはいったんコピーをとっておく。そうすることでいつでも1次情報に戻れるように配慮する。

・要因連関図のメイキングピクチャー
【省略】

生存学研究センター報告

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