第1部 生命倫理と現代史研究 2 1990年代以降の日本における着床前診断をめぐる論争の推移 ―着床前スクリーニング(PGS)を中心に

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生命倫理と現代史研究

1990年代以降の日本における着床前診断を
めぐる論争の推移
―着床前スクリーニング(PGS)を中心に

利光恵子


はじめに

2015年2月、日本産科婦人科学会(以下、日産婦)は、倫理委員会において、着床前診断のひとつで、体外受精させた受精卵の染色体異数性を網羅的に調べる着床前スクリーニング(以下、PGSと略す)1を「特別臨床研究」として実施することを承認した。12月には、「臨床研究に向けた予備試験」として、不妊症患者100人を対象にPGSを開始することを発表している(『毎日新聞』2015.12.12)。
利光(2012)は、1990年代から2010年までの日本における着床前診断をめぐる論争の推移をたどり、いかなるパワーポリティクスのもとで、どのような文脈を経て、この技術が導入されたのかを検討した。2011年以降の動向も含めて、着床前診断の日本への導入の経緯を概観すると、大まかに、以下の4つの時期に区分することができる。第1期(1990年代初め〜1998年)は「生命の選別」技術をめぐる論争期、第2期(1999年〜2004年夏)は臨床実施に向けた準備期、第3期(2004年秋〜2010年)は「流産防止のための着床前診断」普及期、第4期(2011年以降)はPGS実施準備期である2。本稿では、PGSをめぐる論争に焦点を当てながら、各時期ごとの経緯を描出する。その際、実質的に日本での規制枠組みを示してきた日産婦のガイドライン「着床前診断に関する見解」の変化と、その中でのPGSの扱いについて注目した。本稿では特に、2011年から現在までの「第4期 PGS実施準備期」について、詳細に取り上げ検討する。
本稿で詳細に取り上げる2011年から現在にいたる時期は、非侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal genetic Testing、以下NIPTと略す)3やPGS導入をきっかけに、出生前診断に関する多くの論考が発表された。その多くがNIPTを中心的に取り上げ論じており4、着床前診断に関する検討は十分に尽くされたとは言い難い。伊吹・児玉(2013)は、着床前診断の是非について、欧米の生命倫理の文脈での「生殖における善行原則」に関する議論の整理・分析を行い、さらに伊吹(2014)では、性別の選択を目的とする着床前診断について生命倫理における議論を取り上げ検討している。また、着床前診断が禁止されていたドイツで、2011年に限定的条件のもとで許容されるに至ったが、その動向や法規制のあり方について論じたものに石川(2014)、三重野(2012、2013、2015)がある。しかし、日本での着床前診断/PGSをめぐる論争に着目し、その動向について取り上げ倫理的社会的側面から論考したものはほとんどない。本稿では、1990年代から2010年までの着床前診断導入の歴史的経緯を踏まえた上で、現在問題となっているPGS導入について検討する。

1.着床前診断の日本への導入の経緯(1990年代初め〜2010年)

本章では、日産婦の「着床前診断に関する見解」の変化とその中でのPGSへの言及に注目しながら、第1期から第3期までの時期を見ていく。具体的な経緯については、利光(2012)を参照されたい。第4期については、次章で詳細に述べる。

1-1 第1期(1990年代初め〜1998年)「生命の選別」技術をめぐる論争期
第1期は、着床前診断技術が日本に紹介された1990年代初めから、日産婦が「着床前診断に関する見解」を発表した1998年までである。
日産婦など医療サイドは、着床前診断は胎児診断およびその結果による選別的中絶に比べて、倫理的問題は少なく女性の心身への負担も軽いと主張した。これに対して、「優生思想を問うネットワーク」5をはじめとする障害者団体・女性団体は、着床前診断は、胚の段階で遺伝子を調べて障害や疾患をもたない胚のみを子宮に戻す技術、言い換えれば、障害や疾患をもつ子を産まないための技術だとして、いのちの選別であり、「差別の技術」だと主張した。また、自然妊娠ができるかどうかに関わらず体外受精を行わねばならないことから、女性の心身に過重な負担を課して、遺伝的に「健康」な子どもを産むことを強いる技術だとも主張した。
また、日産婦は、着床前診断は「生命の選別を行う手技」6には違いないが、診断対象を「重篤な遺伝性疾患」に限定することで、倫理的に容認できると主張した。さらに、女性の自己決定権の尊重を強調し、強制を伴わず個人の自発的選択により行われる限り、優生思想によるものではないと主張した。これに対して、障害者・女性団体は、「重篤さ」の程度は、社会的なサポート体制の有無や、障害や遺伝病への差別・偏見の有無、あるいは障害者観などによって、いかようにも変化するとして、「医学的判断」を唯一の判断基準にすることに異議を唱えた。そのうえで、たとえ「重篤」と判断できたと仮定しても、「重篤」であれば、なぜ、生れないようにしてよいのかと問い続けた。そして、「子どもの質を選ぶこと」と「子どもをもつことの選択」を明確に弁別し、「子どもを持つことの選択」は女性の自己決定だが、「子どもの質を選ぶこと」は女性(カップル)の自己決定権には含まれないし、自己決定権によって正当化もされないと主張した。
1998年に、日産婦はこれら反対意見を押し切る形で、「着床前診断に関する見解」(以下、1998年「見解」と記す)を定めて臨床研究として実施することを承認し、実施にあたっては日産婦に申請し許可を得ることとした。適用範囲は、「重篤な遺伝性疾患」に限定し、「見解」に付された「解説」には、「本法では、受精卵の遺伝子診断のみならず染色体異常や性判定などが可能である。しかしその目的はあくまで重篤な遺伝性疾患を診断することであり、疾患遺伝子の診断を基本とする」と記している。また、申請・許可の手続きを必要としたのは、「将来予想される受精卵の遺伝子スクリーニング、遺伝子操作を防止することを目的としているからである」とも記しており(日産婦 1998)、この時点で、将来的に受精卵の遺伝子スクリーニング7が可能になることを見越した上で、それを防止する方向を明確に示している。
1-2 第2期(1999年〜2004年夏)臨床実施に向けた準備期
第2期は、1999年から、日産婦が初めて着床前診断の臨床実施を許可した2004年夏までである。障害者団体・女性団体の強い反対の動きが継続する中、日産婦は、1998年「見解」を文字通り厳格に解釈し、「重篤な遺伝性疾患」の原因となる「疾患遺伝子の診断」に限定して許可することで、社会的コンセンサスを得て臨床実施の開始をしようとした。その結果、鹿児島大学からの「性別判定」によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの申請は、「原因遺伝子を調べるべき」として、また、北九州市の不妊クリニック(セントマザー産婦人科医院)から二度にわたって出された染色体転座に起因する習慣流産の申請は、「重篤な遺伝性疾患とは判断できない…診断技術が他の染色体異常の診断につながるおそれがあり、社会的コンセンサスが得られていない」として、全て、不承認とされるなど、数年間の沈静期が続いた。
日産婦と同じ方向性を共有していた慶応大学グループでは、PGSにつながる染色体異数性の検索、あるいは染色体検査そのものを除外して、疾患遺伝子だけを検査するプロトコールを作り上げ、「厳格な枠組み」での解禁を目指した。この「厳格な枠組み」の背景には、1970年代の障害者らによる羊水診断導入反対運動以来、出生前診断に慎重な態度をとってきた日本において、出生前診断を不特定多数に対するふるい分け検査(スクリーニング)として行うことは、集団に対する「優生学」を連想するとして、躊躇や強い警戒感が存在したことがあげられる8。だからこそ、社会的コンセンサスを得るための「切り札」として、染色体検査は行わず、疾患遺伝子だけを検査するという枠組みが有効とされたと考えられる。
一方、これまでも、子どもを産むことを目的にさまざまな先端技術を導入してきた不妊クリニックにとって、着床前診断は技術的にも倫理的にも不妊治療のすぐ先にある技術だった。そこで、複数の不妊クリニックで、学会の許可を待たずに、PGSを念頭に置いた準備が進められた。
2004年はじめに、神戸市の不妊クリニック(大谷産婦人科、大谷徹郎院長)が日産婦に申請しないまま、男女産み分けと高齢妊娠による染色体異数性回避を目的としたPGSを実施していたことが明らかにされた。大谷医師による「無断実施」がマスコミで大きく取りあげられる中、「見解」に準拠した「厳格な枠組み」での臨床実施の開始を急いだ日産婦は、2004年7月に、本邦初の実施例として、慶応大学によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とした着床前診断を許可した。

1-3 第3期(2004年秋〜2010年)「流産防止のための着床前診断」の普及期
第3期は、2004年秋から、日産婦が「見解」を改定した2010年までである。大谷医師らは、2004年秋以降も、日産婦の規制の外側で、転座による習慣流産患者や不妊症患者を対象に、次々と着床前診断を実施した。着床前診断を受けるのは女性(カップル)の基本的人権/幸福追求権であるとする大谷医師らは、着床前診断は「胎児として発育できる胚を子宮に戻す技術」であり、「流産を繰り返さないための不妊治療」であると主張した。また、「もともと染色体異常で着床できなかった受精卵、流産する運命にあった受精卵を調べて、胎児として発育できる受精卵だけを子宮に戻すだけであり、優生思想や命の選別にはあたらない」とも主張し、不育症・不妊症患者の切実な声を前面に押し出しながら既成事実を積み重ねていった。そして、着床前診断を経ての妊娠・出産がメディアで大きく報道されるようになり、繰り返す流産の苦悩と着床前診断を経て成しえた出産の喜びという、人々の感情に強く訴える語りを通して、着床前診断は習慣流産という病気の「治療の一環」であるとの認識が広がっていった。こうして、「倫理的問題が少ない流産防止のための着床前診断」という言説が生み出された。着床前診断が「不妊治療の一環」であるという社会的枠づけを得たとき、それを選択するのは女性(カップル)の自由意思であり幸福追求権であるとの主張もまた、受け入れやすいものとなっていったと思われる。これに対して、1990年代初頭から着床前診断導入に反対してきた障害者団体・女性団体は、習慣流産への適用は、「流産防止」の名のもとに行われる「いのちの選別」であるとの主張を繰り返したが、広がりを持たなかった9。
2006年には、日産婦は、1998年「見解」に、「習慣流産に対する着床前診断についての考え方(解説)」を追加するという形をとって、染色体転座に起因する習慣流産への適用を認めた。転座に起因する習慣流産に対する着床前診断実施後の生児獲得率は、自然妊娠による生児獲得率とほぼ同率だが、「流産の反復による身体的・精神的苦痛の回避を強く望む心情や、着床前診断を流産を回避する手段の一つとして利用したいと願う心情は十分に理解しうる」(日産婦 2006)としたのである。ただし、この時点では、習慣流産も「重篤な遺伝性疾患」に含めるという、あいまいな形をとっていた。
その後、転座に起因する習慣流産への着床前診断の実施数は年々増加し、2009年末には日産婦が許可した着床前診断全体の8割以上を占めるようになった(斎藤 2010、中村 2009)。その状況を受けて、2010年に日産婦は「見解」を改定する(以下、2010年「見解」と記す)。適用範囲について、「原則として重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある、遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合に限り適用される。但し、重篤な遺伝性疾患に加え、均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産(反復流産を含む)も対象とする」(日産婦 2010)とした。この改定の含意は、まず第一に、「疾患遺伝子の診断を基本とする」と明記された1998年「見解」の「解説」を削除し、染色体異常も重篤な遺伝性疾患であるとして、その保因者も着床前診断の適用範囲に加えたことである。これに伴って、着床前診断として染色体検査を行うことが、「見解」の上でも明確に正当化されることとなった。第二に、習慣流産への適用を明示的に認めたことが挙げられる。重篤な遺伝性疾患をもつものを生まれさせないための着床前診断に加えて、不育症・不妊症患者の心情に配慮し、苦痛回避の選択肢を保障する手立てとしての着床前診断が並置されたということである。これは、1990年代初頭からの障害者団体、女性団体からの強い反対を背景として採用された「厳格な枠組み」を取り払い、患者の自己決定権/幸福追求権によって着床前診断の使用が正当化される「新たな枠組み」が用意されたことを意味する10。
しかしながら、2010年「見解」でも、あくまでも診断対象は「重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある」保因者であるとされたこと、さらには「診断する遺伝情報は、疾患の発症に関わる遺伝子・染色体の遺伝学的情報に限られ、スクリーニングを目的としない。目的以外の診断情報については原則として解析または開示しない」(日産婦 2010)としているように、ここでもPGSは明確に禁止していた。

2.着床前スクリーニング(PGS)実施に向けた準備期(2011年以降)

2-1 着床前スクリーニング(PGS)の医療の中での位置―英米における変遷から
ところで、PGSの医療の場への導入の歴史的経緯は、日本と欧米では非常に異なった様相を呈してきた。だが、2011年以降の日本でのPGSをめぐる動きは、技術革新のグローバル化を背景に、米英での動向に大きく影響されている。そこで、PGSという技術の現代医療の中での位置について見定めるために、米英での動向について簡単にふれておく。
遺伝性疾患を対象とした、性別判定による着床前診断(Handyside et al. 1990)、疾患遺伝子診断による着床前診断(Handyside et al. 1992)の実施に続いて、不妊患者や高齢妊婦を対象にFISH法を用いたPGSが実施された(Munné et al. 1993, 1995) 。その後、その有効性を示す報告が多数発表され11、1990年代後半から2000年代前半にかけて急速に普及し、多くのPGSが実施された。
しかしながら、2007年頃よりPGSの医学的有効性、信頼性への疑問を呈する報告が次々に発表されるようになった(Mastenbroek et al. 2007ほか)。そして、2007年から2009年の間に、米国生殖医学会、米国産婦人科学会、英国生殖医学会が相次いで「高齢妊娠、着床不全、反復流産へのPGSに、エビデンスはない」とする声明を出すに至った。2010年には、欧州生殖医学会PGD連絡会議(ESHRE PGD Consortium)が「高齢妊婦に対するPGSの効果は全くない。反復流産、着床不全についても有効性を示すデータが不足している」との声明を発表するとともに、明確なエビデンスがないままに急速に普及した事態に猛省を促がした。また、その原因として初期胚の染色体モザイクの存在とFISH法の限界が指摘された(Harper J. et al. 2010)。つまり、初期胚には染色体の正常な細胞と染色体異数性を示す細胞がモザイク状に存在することが多いので、採取した細胞が必ずしも胚全体を代表しない可能性があること、および、FISH法では、同時に分析するために使用可能な蛍光プローブ数に限界があり全ての染色体を検査できないことや、シグナルの重なりによる解析困難例があることに、その原因を求めたのである。2011年には、これまでのPGSについてのランダム化比較対照試験のメタアナリシスを行なったMastenbroekらは、「生児獲得率についてPGSの有用性を示すエビデンスはない。むしろ、高齢妊婦へのPGSは生児獲得率を低下させる」(Mastenbroek et al. 2011)との結果を発表した。
これらの動きを受けてPGSの実施数も減少に向かったが、そこに、遺伝子解析をめぐる新たな技術が登場した。その状況を竹下12は、「PGSは終焉を迎えるかにみえたが、この流れに待ったをかけたのは技術革新であった」(竹下 2014a:1262)と表現している。従来、用いられてきたFISH法の代わりに、全ゲノムを増幅してマイクロアレイCGH法を用いれば、全ての染色体についての詳細な情報が得られるというのである。また、初期胚のモザイクへの対処には、受精後3日目の4〜8個に分割した胚(割球)から1〜2個の細胞を採取するのではなく、5日目ぐらいの胚盤胞の一部から複数の細胞を採取して調べるという方法が試されている。現在、これらの新技術を使えばPGSの有用性が示せるのではないかとの期待が寄せられてはいるものの、未だ確かなエビデンスは得られていない状況と言えよう13。

2-2 アレイCGH法による着床前スクリーニング(PGS)の無断実施を契機として
第1章で述べたように、日本では、着床前診断導入の働きかけが開始された1990年代初めから2010年の「見解」改定にいたるまで、診断対象を「重篤な単一遺伝子疾患の保因者」のみから、「重篤な染色体異常をもつ子を産む可能性のある保因者」や「染色体転座を起因とする習慣流産患者」も認める方向へと、徐々にその適用範囲を広げてきた。だが、「スクリーニング」を目的として用いることは、一貫して禁止しており、よって、PGSの実施も認められてこなかった。
ただし、前述の大谷医師をはじめとして一部の不妊クリニックでは、転座をもつ習慣流産患者に加えて、一般の不妊症・不育症患者を対象にPGSを実施し続けていることは、いわば、公然の秘密であった14。さらには、日産婦に対して、PGSの実施を正式に承認するよう求める声も無視できないほど大きくなっていた。2011年9月には、セント・ルカ産婦人科(大分市・宇津宮隆史院長)がPGSの実施を求めて日産婦に申請を行った。提出した申請書に、既にPGSを実施している旨の記載があったため、日産婦倫理委員会では2012年3月に、宇都宮医師を招聘しヒアリングを行った。宇津宮医師は、日本受精着床学会の常務理事も務める、いわば不妊医療の中の重鎮である。その席で、平原史樹「着床前診断に関する審査小委員会」委員長は「現時点ではスクリーニングは見解で認められていないので、今しばらくは控えて頂きたい。しかしながら、議論は始めるべきだと思う」(平原 2012)と述べ、落合和徳倫理委員会委員長(当時)もPGSについての見解を検討するワーキンググループを作ることを表明した(落合 2012)。
2012年7月に、大谷レディスクリニック(神戸市・大谷徹郎院長)15が、2011年2月から、無申請のままアレイCGH法によるPGSを実施していたことが明らかになり、多くのマスコミが大々的に報道した。「全染色体診断 命の選別批判も 不妊症には福音」(『読売新聞』 2012.7.11)というように、従来のFISH法では最大12種類の染色体しか調べられなかったのに比して、アレイCGH法という新たな手法の導入によって、全染色体の診断が可能になったことが大きな衝撃をもって受けとめられた16。日産婦は、「『着床前診断』報道に関する声明」を出し、「本会が提示する適応症以外の例に対し無申請で施行していたことについて、その行為を決して容認しない」と述べた。また、「最近のメタアナリシス(過去に発表された多数の論文の分析)ではPGSを行っても妊娠率や生児を得られる率の向上には寄与しないことが明らか」にされた17と述べるとともに、欧州生殖学会議(ESHRE)の2010年の声明を引用して「反復流産や着床不全、高齢女性に対するPGSの有用性を示す科学的根拠が見出されない」と述べた(日産婦 2012)。
時を同じくして、日産婦倫理委員会に、大阪の不妊クリニックから、転座による習慣流産を対象としたアレイCGH法による着床前診断の申請が提出された。転座に関連する染色体の情報のみを調べようとしても、アレイCGH法を用いれば全染色体の変異が分かり、結果としてPGSになりえる。2012年11月に開催された倫理委員会では、「目的以外の診断情報については原則として解析または開示しない」とする「見解」との齟齬をめぐって議論が行われた。結局、インフォームドコンセントにおいて、関連する染色体構造異常についての情報のみを開示する旨を周知することを条件に、アレイCGH法を用いた転座による習慣流産への着床前診断が認められた18。この時点では、ひとまず、アレイCGH法を用いた転座保因者への着床前診断を、医療サイドが患者に知らせる遺伝学的情報を制限することでPGSと区別し、あくまで「遺伝性疾患回避のための着床前診断」の範囲に止めようとしたと考えられる19。

2-3 「特別臨床研究」としての着床前スクリーニング(PGS)の実施
2012年夏から2013年にかけては、NIPTをめぐって、論争が沸騰した時期だった20。2013年4月に、NIPTが臨床研究として開始されるや、不妊クリニック関係者らは、NIPTを臨床研究として認めて、PGSは認めないのはダブルスタンダードだと声高に主張し始めた。そこで、2013年12月23日には、日産婦主催の公開シンポジウム「着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)を考える」を開催21、2014年2月には「PGSに関する小委員会」(竹下俊行委員長)を立ち上げ、検討を開始した。前述の宇都宮隆史医師(セント・ルカ産婦人科院長)も、この小委員会の委員として加わっている。竹下委員長は、4月初めの倫理委員会で「国内外でPGSの有効性に関するエビデンスがないのが現状であり、現行の見解は改訂せずに、限定的に臨床研究を行うことを検討」すると発言しており(竹下 2014b)、臨床研究として開始する方針は当初から既定のものだったと思われる。以後、5回の小委員会が開催された。小委員会からの答申を受けて、11月25日には倫理委員会、次いで12月13日には理事会もPGSを「特別臨床研究」として実施することを承認した。2015年2月7日には、日産婦主催の公開シンポジウム「着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)について」を開催し22、その直後の2月10日の倫理委員会で最終案を承認した。
PGSを「特別臨床研究」として実施することについて、日産婦主催の公開シンポジウムの席上、苛原稔倫理委員会委員長は、小委員会で検討した結果、PGSの有用性があるかどうかは検証してみなければ分からないのではないかということになったとして、次のように述べた。

このPGSが、疾患治療の観点から役に立つのかというエビデンスを検証するということで、従来の見解を変えずに―「PGSはしない」という見解は変えずに―PGSについての特別臨床研究を組ませていただく。そして、将来、この結果が出た暁に、今後、倫理の問題も含めまして、これをわが国に導入するかどうかについて検討していく(苛原 2015)。

つまり、PGSの実施を限定的に承認するが、あくまでも医学的検証のための臨床研究なので、倫理的問題は棚上げできるとの認識である。
今回の臨床研究は、「着床前スクリーニング(PGS)の有用性に関する多施設共同研究」とも言われ、日産婦が主導する「特別臨床研究」という位置づけである23。研究期間は3年間、実施施設や検査・解析機関は日産婦が指定する。対象となる患者は、体外受精を3回以上やっても着床しない不妊患者と原因不明の習慣流産患者(2回以上流産)で、PGSを実施する300例と対照群300例を比較して、妊娠率、流産率、出産率を評価する(『毎日新聞東京版 2015.1.13』、『読売新聞大阪版 2015.2.11』、『朝日新聞大阪版 2015.3.1』)。胚の選択は、アレイCGH法を用いて、「染色体のコピー数に有意な増加・減少が検出されないものを適とする。適とされた胚から、移植胚を1つ選択する」(竹下 2015)という。つまり、ダウン症等のトリソミー、ターナー症候群等の性染色体変異など染色体に変化をもつ胚は、全て「不適」とされるということだ。染色体変異をもつ胚を全て排除することについて、久具宏司倫理委員会副委員長は、日産婦主催のシンポジウムで、「流産防止と言いながら、流産しないかもしれない胚を排除してしまうことについて、今のところ社会的合意がない」と言明しつつ、「(今回の臨床研究では:筆者注)流産を起こさない異常胚を排除するということを、明確に言っておく必要があるだろう。ただし、臨床試験の期間の間だけであって、かつ、その対象症例に限る。委員会の委員のひとりとして、科学的な有用な結果を得るために、この臨床試験の間だけ、異常胚を排除するということをお許し願いたいと思うわけであります」と発言している(久具 2015)。

2-4 着床前スクリーニング(PGS)をめぐる論争
ここで、着床前スクリーニングをめぐる各アクターの主張をまとめてみよう。

2-4-1 PGSの臨床実施開始を求める勢力―不妊クリニック関係者を中心にして
大谷医師(大谷レディスクリニック院長・神戸市)は、遺伝性疾患回避を目的とした着床前診断とPGSは切り離して考えるべきだとして、「前者は、障害のある人の存在を否定する面について議論されているが、後者は議論の余地さえない。ほぼ100%生まれてくることができない受精卵を除外するだけだからだ。21番目の染色体が通常より1本多いダウン症でも8割は流産することから、同じく流産防止のために除外する治療をする」と、あくまでも「流産防止のための治療」である点を強調する24。そして、「出産に至るわずか2割の可能性にかけるかどうかは患者と十分相談し、子宮に戻すかどうか話し合う。これは患者が決めるべきことだ」(大谷 2014)として、生まれてくる可能性のある胚の排除に含まれる倫理的問題については、患者の自己決定に移譲する。福田医師(IVF大阪クリニック院長)も、不妊治療を受ける患者が高齢化しており、「卵子の染色体異常率も高くなり、必然的に染色体異常のある受精卵の割合が増え」ている現状を挙げて、着床前スクリーニング(PGS)が必要であると主張する。特に、NIPTの導入後、陽性と判定されて異常が確定した人の大半が人工妊娠中絶を選んでいるとして、「受精卵検査は妊娠前に異常を見つけることができ、中絶を選ぶより体や心の負担が少ないといえる。多くは中絶を伴う新型出生前診断は認められ、中絶を必要としない受精卵検査は許されないのは整合性がとれない」とも主張した(福田 2015)。苛原らは、「少子高齢妊娠社会のわが国には高齢妊娠による染色体異常児出産の回避としてPGSに期待する意見もある」と指摘している(苛原・桑原 2014:166)。
また、宇都宮医師(セント・ルカ産婦人科院長)は、高齢妊娠の増加にともない流産が増えているが、流産は女性にとって非常につらい経験であるとして、「不妊治療中の人は誰もが流産しにくい妊娠を望んでいる。そのための手段を選ぶ権利は認められるべきだ」と述べる。「着床前スクリーニングは受精卵を子宮に戻す回数を減らせるので、母体に余計な負担をかけずに済む。…また、不妊治療をあきらめ切れない人も多いが、着床前スクリーニングで全ての受精卵に異常が見つかれば、治療を終える決心がつく」とも主張する(宇都宮 2015)。ここには、高齢妊娠を理由とする不妊が増加し、有効な解決方法を見い出せない医療現場の苦悩が如実に表れていよう。「流産しにくい」胚をなんとか得るために、さらには、不妊治療終結のメルクマールを示す技術としても、目前の困難への対処法としてPGSという技術を用いようというのである。
その一方で、PGSの検査技術としての有効性への信頼は厚い。大谷医師は、「アレイCGH法では、24種類ある受精卵の染色体全てを調べられる。従来の方法では一部の染色体しか調べられなかったこともあり、PGSについての治療の確実性を疑問視する声もあったが、最近、新手法は有効だとする論文が多数発表されている」と述べている(大谷 2014)25。こうして、不妊クリニック関係者らは、高齢妊娠による妊娠率の低下、流産の増加という現実への有効な対処法として、PGSの解禁を強く主張した。
ただし、前述の第2期、第3期と異なるのは、PGSの臨床実施の必要性を主張するのが、不妊クリニック関係者だけにはとどまらないということである。第2期において、「疾患遺伝子の遺伝子診断」に限定した「厳格な枠組み」での着床前診断導入に主要な役割を果たした慶応大学病院グループも、2009年には「PGDは本来高いポテンシャルを持った技術であり、(中略)今後、幅広い対象疾患がその適応となることが予想される。この際に倫理的問題について、今後、社会のなかでの理解の段階的変化が必要となる可能性が高い」と述べ、その例として、「染色体異常のスクリーニングとしてのアプローチ」や「染色体・遺伝子の網羅的解析による卵子のクオリティーコントロール」、「卵子のエイジングに対するアプローチ」を挙げている(末岡 2009:210)。2014年には、マイクロアレイCGH法を用いたPGSについて、「microarray法を用いた網羅的解析技術は、複雑な診断が要求される対象事例に対して有意義であるのみならず、テーラーメイドの診断技術から脱却し、分析を自動化するためにも極めて大きなポテンシャルを有している。新たな時代の新たなPGDが展開される時代に入ったとも考えられる」(末岡 2014:161-162)と新たな技術への期待を表明している。2015年には、これまではPGSは日産婦の「見解」に基づき認められてこなかったが、近年NIPTが可能になり「固有の生命倫理観に基づく我が国のPND(出生前診断:筆者注)の分野へ、新たな議論を投げかけることになった。これまでの先進的科学技術に基づく出生前診断を議論してこなかった我が国の状況は、諸外国から大きく遅れをとってきたが、ようやく科学的検証の段階に至った」との認識を示している(佐藤ほか 2015:659-660)。また、日産婦の「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」26により移植する胚は原則1個とされて以来、多胎妊娠率は劇的に減少した一方で、胚移植あたりの生産率は長く横ばいの状態が続いていることにふれ、「PGSはそのブレイク・スルーとして、また、周産期医療の現場の過度な負担を軽減する強力なオプションとして期待される」(佐藤ほか 2015:660-661)と述べるなど、PGSの臨床実施に向けた並々ならぬ熱意を示している。

2-4-2 慎重な身振りでの限定的な臨床実施開始へ―日産婦の戦略
以上のようなPGSの臨床実施解禁を求める強い働きかけに対して、日産婦は、それを牽制しつつ、慎重にPGSを開始しようとする。
吉村泰典日産婦前理事長は、着床前診断の臨床実施開始まで10年以上かけて障害者団体と議論を繰り返してきた経緯にふれ、今も「障害者団体の方に容認されたわけではないと思う。許容してもらっているだけだ」と述べた上で、PGSは「流産を防ぐのが目的だとしても、すべての染色体を網羅的に調べれば、生まれる可能性のある受精卵も排除することにつながる(中略)生まれる可能性のある染色体の病気の一つにダウン症がある(中略)そうした命を選別してもよいのか」と慎重な構えを示す。だが、続けて、同様の倫理的問題をはらんでいるNIPTが開始されたことにふれ、「新型検査(NIPT:筆者注)を認めながら、着床前スクリーニングを認めないのはダブルスタンダード(二重基準)と言われても仕方がない」と述べた(吉村 2014)。
PGSには、将来にわたる倫理的社会的問題があることにも言及する。久具宏司日産婦倫理委員会副委員長は、「PGSを行うことにより、特定の遺伝性疾患だけでなく、すべての遺伝情報を包括的に知ることが可能になってきた。(中略)生まれてくる子の一般的な健康状態や、健康とは関係ない遺伝的特徴までも知らされることが可能となる。さらには、現時点では意義が知られていない遺伝上の変異も明らかになる」として、「得られた遺伝的情報をいかに適切にクライエントに開示するか、医師の責任、クライエントが最良と思われる胚を選択することの妥当性、そして医師とクライエント間の相克など、さまざまな問題が提起されてくる」と述べる。そして、PGSを行うことにより「個人の特徴や特性を胚に求めること」が可能になり、「将来的にはパーフェクトな子や、“デザイナーベビー”を求めることにつながりかねない」とも指摘する。「このようなPGSが、体外受精を受けるすべての女性にその遺伝的背景に関係なく、オプションの1つとして提示される状況も、すぐそこまで迫っている」とも述べている(久具 2014)。日産婦主催のシンポジウムでも、同趣旨の発言を行った(久具 2015)。以上のような重要な倫理的問題があることを指摘しつつ、限定的ながら臨床への導入を認めようとするのである。その際用いられたのが医学的検証のための臨床研究というフレームであった。
吉村は、「倫理的な問題とは別に、着床前スクリーニングが本当に流産率を下げ、妊娠率を上げるのか、医学的な検証が必要と考えている。医学的な有効性がないのに倫理的な議論をしても意味がないからだ。日本でも臨床研究を始めるべきではないか。効果があった場合、日本で認めるのかどうか、倫理的な面で国民的な議論を深めるべきだ」と述べた(吉村 2014)。先に取り上げた日産婦主催のシンポジウムでの苛原倫理委員長の発言も同義である。不妊クリニック関係者らと日産婦側の主張で、大きく異なるのは、PGSの医学的有効性が確定しているかどうかという点である。倫理委員会の中でも、杉浦真弓委員(名古屋市立大学教授)を中心にPGSの医学的有効性への疑義が指摘された27。結局、「見解」によるPGS禁止、不妊クリニック関係者を中心とする承認への強い働きかけ、NIPTを一旦開始した状況では「ダブルスタンダードといわれても仕方がない」という日産婦自体の立ち位置等を勘案して、日産婦の管理下でもっとも慎重に臨床実施を開始する苦肉の策として出てきたのが、医学的検証のための「特別臨床研究」であったのだろう。
2-4-3 PGS臨床実施への戸惑いと反対
これらの動きに対して、技術の直接の受け手である不育症・不妊症患者や、「不適」とされる属性をもつ障害者らは、どのように考え、どのような動きをしたのだろうか。
不妊体験者を支援する「NPO法人Fine」の元スタッフである小宮は、不妊患者の生殖医療における位置について、「少しでも高い確率に希望を求めてしまうのが、患者」であり、「着床前診断は障がいのない子どもを望む人が受ける特別のことではなく、妊娠の可能性が上がるからという理由で、医療者から勧められてあまり深く考えずに受ける」のではないか、「治療中の人が妊娠の可能性が高くなるのに断るのは難しい」し、「夫婦で意見が違ったり、親や親族から、何で受けないのかと言われて悩むかも」しれないと述べる。そして、「不妊治療から離れた今だからこそ、冷静な判断ができ」るが、「着床前診断を受ける、受けない選択を、不妊治療まっただ中の患者が本当に冷静にできるかどうか疑問」だと率直に述べている。そして、「障がいや疾患をもって生まれてくることは、その子に生命力があるから」であり、「果たして着床前診断で、生まれてきてもよいかどうかを親が、医療者が命の選択をしてもいいのか」と疑問を呈して、「着床前診断は、誰のため、何のための技術なのかをしっかりと、さまざまな立場の人で議論」することが必要だと訴えた(小宮 2015)。
また、遺伝性神経筋疾患の当事者らをメンバーとする「神経筋疾患ネットワーク」28は、2015年1月に、日産婦宛てに「着床前検査の対象範囲拡大に反対する声明」を提出し、「このまま進んで行けば、『生まれてきてもよい生命』と『生まれることが望ましくない生命』とを定め、人の生命の質を選別することになります。その歩みを加速させ、誰にも止められなくなるぐらい倫理に反する危険な一歩に」なると危惧を表明するとともに、「障害当事者の声」を聞くよう求めた(神経筋疾患ネットワーク 2015)。また、メンバーのひとりである見形は、日産婦主催のシンポジウムで「命の可能性を生まれる前から、卵の段階で削除され廃棄されている対象者のひとりとして、臨床研究はやめてほしい。障害があっても祝福され、育み合える社会をつくっていくというのが私達の目標でもあり願い」だと発言した(見形 2015)。また、ターナー症候群の当事者である田中は、「まるで自分が殺されるような感覚に陥った(中略)着床前スクリーニングでベストな受精卵を選ぼうとする人は、検査では分からなかった障害や病気を受け入れられるのか。異常を排除するのではなく、多様性を包含しながら共生していく社会に、日本はかじを切るべきだ」と述べている(田中 2015)。
また、「グループ生殖医療と差別(旧優生思想を問うネットワーク)」も、日産婦あてに「着床前スクリーニング(PGS)の実施承認に関する抗議および意見書」を提出し、PGSは「染色体に変化をもつ受精卵をすべて排除すること、言い換えれば、『染色体の変化をもつ人が生まれる機会そのものをなくすること』を意味する…着床前スクリーニングの導入は多様な生の可能性に寄り添い、その存在を含みこんだ社会を端から否定することにつながる」と述べた。また、「倫理的・社会的問題についての慎重な検討および幅広い論議を棚上げしたままでの臨床研究実施承認に反対」するとして、「特定の不妊クリニックが、既に、学会の規制の枠外で着床前スクリーニングを実施し続けて」いる現状を考えれば、「いくら『今回は、医学的検証のための限定的な臨床研究の承認』だと強調しても、実質的には、日本での着床前スクリーニング実施にゴーサインを出したのと同じ効果を生みだす」と述べている(グループ生殖医療と差別 2015)29。
だが、日産婦が倫理的問題を正面から取り上げることなく「医学的検証」の名のもとに臨床実施開始を先行させたことに加えて、わずか2回のシンポジウム以外は医療界内外を横断して議論を行う機会もなかったことから、これら不妊症・不育症の患者達や遺伝性疾患をもつもの、障害者、女性らが意見を表明する機会も皆無に近く、社会的論議は広がりをもたなかった。

おわりに

日本への着床前診断の導入の経緯を概観すると、1990年代初頭以来、「生命の選別技術」と捉えられ「学会」による「厳格な枠組み」による規制が行われてきた着床前診断が、2004年頃を機に、不妊治療の場に組み込まれることで、「生命の選別」から「胎児として発育できる胚を子宮に戻す技術」へとその意味を大きく移動させ、「倫理的問題の少ない流産防止のための着床前診断」という言説が生み出された。そして、急速に「不妊治療の一環としての着床前診断」という枠づけを得て、女性の幸福追求のひとつとして受容され普及し始めたといえる。着床前診断導入の歩みをたどる時、1970年代の障害者団体による羊水診断導入反対運動を起点として、出生前診断には「生命の選別」あるいは「優生」という言説が付随してきたわが国の医療界にあって、「不妊治療の一環」という意味付与が前面に押し出され、それに伴って「生命の選別」という解釈枠組みが後景に退くという経過、そのような力点の移動という局面を経なければ、着床前診断技術自体が容認され普及に向かう足がかりを得ることは困難であったと思われる。
2010年の「見解」改定を経て、着床前診断の対象は「重篤な単一遺伝性疾患の保因者」のみから、「重篤な染色体異常をもつ子を産む可能性のある保因者」や「染色体転座を起因とする習慣流産患者」も認める方向へと適用を拡大してきた。「見解」の枠組み自体も、「生命の選別」の手技ゆえの「歯止め」としての性格よりも、患者の自己決定権/幸福追求権によって着床前診断の使用が正当化される方向へと重心を移動させてきた。
だが、このような変化の中にあっても、着床前診断を「スクリーニング」に用いることは「見解」によって一貫して禁止されており、したがって、PGSの公的な実施は認められてこなかった。これは、日本における出生前診断をめぐる論争の歴史的経緯から、出生前診断を不特定多数に対するふるい分け検査(マススクリーニング)として行うことに対する社会的抵抗や強い警戒感が存在し、医療界も慎重な態度をとってきたことに深く関係する。イギリスにおいては、すべての妊婦に、希望すれば公費で出生前診断を受けられるようなルートを確保するために、2001年から「ダウン症スクリーニングプロジェクト」が開始され、2004年より全妊婦を対象に本格的に導入されるなど(渡部 2005)、出生前診断は医療・福祉システムの一環として組み込まれ、公平に提供される医療サービスとされている。だが、日本においては、出生前診断のマススクリーニング化は、医療サービスの公平化としてよりも、むしろ集団を対象とした「優生学」として把握される傾向が強く、それゆえに、特定の遺伝性疾患についての個人、あるいは限定された対象への出生前診断に比べても、より多くの社会的・倫理的問題を包含するものと捉えられてきた。日本において、体外受精で得られる全ての胚を対象としうるPGSが、一貫して禁止されてきた理由もここにある。
しかしながら、今日、網羅的な遺伝学的検査・解析技術の登場を契機として、PGSが「特別臨床研究」として、日産婦の主導もとで開始されようとしている。しかも、あくまで医学的検証のためであるとして、倫理的社会的問題を留保したままでの実施である。「医学的検証」を名目としたPGS開始が、高い確率で本格的な導入さらには普及につながりかねない現況を考えれば、これは、出生前診断を特定の遺伝性疾患について特定の個人に対して行うことと、広範なスクリーニングとして行うことの倫理的境界を、なし崩し的に曖昧化する行為といえるのではないか。
ちなみに、日産婦は、「特別臨床研究」としてのPGS実施を決めた後の2015年6月に、「着床前診断に関する見解」を一部改定した。重要な改定点は、細則「施設基準ならびに実施者・配置すべき人員の基準」に「遺伝子(染色体)解析を外部検査企業等に委託する場合」を新設したことである。改定の必要性について、平原史樹着床前診断に関する審査小委員会委員長は、従来は、着床前診断は診断を行う施設内で遺伝子解析を実施することを前提に許可していたが、「最近になって、アレイ解析のみならず、単一遺伝子疾患の解析も外部委託する計画が提出されるようになった。そこで、責任の所在、品質管理、遺伝医療に対する配慮に関する懸念」から変更に至ったと説明している(平原 2015)。アレイCGH法を用いて解析しようとすれば、診断のための設備投資に莫大なコストがかかる。大規模な検査機器を持つ大学病院等以外は、外部の検査会社に委託せざるを得ず、必要に迫られて検査の外注を前提とした改定にいたったというわけである。だが、逆に、着床前診断実施に際して遺伝学的検査・解析の外部委託が可能となれば、医療施設では検体の採取のみを行えばよく、技術的ハードルは一気に下がる。不妊クリニックでのPGSのみならず、多くの産婦人科施設で様々な遺伝性疾患を対象とした着床前診断もできるようになる。同時に、国内外の検査会社が検査・解析の委託を求めて競って参入することも予想され、商業ベースでPGSや着床前診断が普及する蓋然性は高い。

[注]
1 受精卵の着床前遺伝学的診断(preimplantation genetic diagnosis: PGD)には、大きく分けて、遺伝性疾患の回避を目的とする診断と、不妊治療の一環として行われる着床前スクリーニング(preimplantation genetic screeing: PGS)がある。遺伝性疾患回避を目的とする場合には、遺伝子あるいは染色体の変異を子どもに遺伝させる可能性のあるキャリア(保因者)を対象に、特定の遺伝子や染色体を調べる。単一遺伝子疾患の場合にはその原因となる疾患遺伝子について、X染色体連鎖遺伝病の場合には性別を調べる 。また、カップルのいずれかに染色体の転座 があるために、子どもに染色体異常が生じたり、習慣流産(2回以上の流産)を起こす場合には染色体の構造変異を調べる。疾患遺伝子の診断にはPCR法、性判定や染色体異常の診断にはFISH法を用いる。
 一方、PGSは、不育症や不妊症の患者を対象に、妊娠率を上げ流産を防いで出産率の向上をはかる目的で、体外受精・胚移植の際に、複数の―最近では24種類全ての―染色体の数的な変異を調べて「正常」胚のみを子宮に戻す。PGSが検査対象とするのは、親の遺伝的素因には関係なく、発生過程での染色体不分離や突然変異によって偶然起こりうる染色体異数性であり、診断にはFISH法を用いてきた。
 技術的には、PCR法を用いた疾患遺伝子の診断は非常に多くの手間と高度な技術が必要だが、FISH法を用いた性別判定や染色体の異数性検査は、テストキットが商品化されていることもあって比較的簡単に実施できるという状況が続いてきた。ところが、2010年頃から、単一細胞の遺伝子解析に技術革新が起り、全ゲノム増幅・マイクロアレイCGH法という新たな方法を用いて、遺伝学的変異を網羅的に解析できるようになってきた。その結果、遺伝性疾患回避のための着床前診断とPGSが、技術的には区別できなくなってきたという局面を、現在迎えている。
2 利光(2012)では、第1期(1992年〜1998年)、第2期(1999年〜2004年夏)、第3期(2004年秋〜2006年冬)不妊治療への適用拡大期、第4期(2006年春〜2010年)「流産防止のための受精卵診断」の普及期と区分した。本稿では、2011年以降の動向を踏まえて、2011年以降を「着床前スクリーニング(PGS)実施準備期」とするとともに、第3期と第4期を一連の流れととらえて、第3期「流産防止のための着床前診断」普及期とした。
3 NIPTは、妊婦の血液検査だけで、胎児にダウン症をはじめとする3種類の染色体異数性がある可能性を調べる検査である。
4 NIPTを中心的に取り上げ論じている論考には、坂井(2013a、2013b)、佐瀬(2013)、玉井・渡部編(2014)、香川(2014)、松原(2014)、山本(2014)、櫻井(2014)、利光(2014)等がある。
5 「優生思想を問うネットワーク」は、障害者団体や女性団体を中心に、現代の先端医療やバイオテクノロジーのあり方に批判的な市民団体、生殖医療のユーザー、とりわけ不妊治療の現状に違和感をもつグループなどを加えた全国的なゆるやかなネットワークとして、1994年に発足した。後に、事務局を担う障害者や女性たち自身が、団体名として「ネットワーク」を名乗るようになった。
6 日産婦は、2004年7月に本邦初の着床前診断の臨床実施を許可した際、同時に、国に対して法整備などを視野に入れた検討を求める要望書(2004年7月23日付、内閣府特命担当大臣科学技術政策、厚生労働大臣、文部科学大臣宛)を提出した。その要望書には、「着床前診断は受精卵が胚として生命をうる段階で、生命の選別を行う手技であり、これは、最終的には患者さんの依頼を受けて医師が生命の選別を行うのですが、この生命の選別手技の実行の是非については、国が検討することが望ましいと考えます」(日産婦 2004)と記されている。
7 受精卵の遺伝子スクリーニング(genetic screening)とは、いわゆるマススクリーニングの意味で、体外受精で得られた不特定多数の胚に対して、特定の/複数の/全ての遺伝学的変異について検査することや、一つの胚に対して保因する可能性のある複数の/全ての遺伝学的変異を調べることをいう。本稿で取り上げる着床前スクリーニング(PGS)は、体外受精で得られた全ての胚について、複数の/全ての染色体異常(多くの場合染色体の異数性)の有無について調べることであり、前述の遺伝子スクリーニングのひとつといえる。
8 それは、ちょうど同時期に大きな議論を巻き起こした母体血清マーカー検査についての動向に如実に表れている(利光 2014:189)。母体血清マーカー検査の商業ベースでの普及をめぐって、障害者やその親、女性、一部の産婦人科医師らによる強い反対運動が起こったが、厚生省の専門委員会が、1999年に抑制的な「見解」発表したことから急速な普及には至らなかった。「見解」は、臨床現場での説明の不充分さ、検査結果が確率でしか示されない特質に加えて、「胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる懸念がある」ことから「医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもない」(厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会 1999)と述べている。これは、イギリスにおいては同時期の2001年に、「すべての妊婦に、希望しさえすれば公費で出生前診断を受けられるようなルートを確保する」こと、すなわち「公平な医療のための(出生前診断について知る)機会の平等」(玉井 2005:121)を目指して、本検査を出生前スクリーニングプログラムとして全国一律に提供する方針が定められ(渡部 2005)、2004年から全妊婦を対象に本格的に導入されたのとは大きく異なる。
9 障害者団体・女性団体は、「流産防止のための着床前診断」は、流産による苦痛の回避のためというが、着床前診断実施に伴う身体的・精神的苦痛は非常に大きいとも主張した。
10 2010年「見解」には、「習慣流産に対する着床前診断についての考え方」と題された注記が付されており、「本邦における着床前診断は、平成10年に本会見解が示されて以来、重篤な遺伝性疾患に限って適用されてきた。しかし、…平成18年に『染色体転座に起因する習慣流産(反復流産を含む)を着床前診断の審査の対象とする』という見解を発表した。これは、流産の反復による身体的・精神的苦痛の回避を強く望む心情や、流産を回避する手段の選択肢のひとつとして本法を利用したいと願う心情に配慮したものであり、平成10年見解における審査対象『重篤な遺伝性疾患』に新たな枠組みを設けるものであった」(日産婦 2010)と記している。2006年に、あいまいな形で示された「新たな枠組み」が、2010年改定により、より明示的になったと言えよう。
11 後に、これらの有効性を示す論文の多くが、症例数も少なかったり、条件を一致させたコントロール群と比較するなどの適切にデザインされたランダム化比較対照試験ではなかったことが批判の対象となった。また、結果の評価も、その多くが移植胚数あたりの着床率で行われていたが、PGSの目的が体外受精・胚移植の成績向上であるならば、治療周期あたりの生産率もしくは継続妊娠率で評価すべきであるとも指摘された。
12 日産婦「PGSに関する小委員会」の委員長である。
13 マイクロアレイ法を用いたPGSのランダム化比較対照試験も行われ、PGS群が対照群に比して良好な結果を得たとの報告もなされている(Yang Z et al. 2013; Scott RT Jr et al. 2013など)が、未だ、確実に有用性を示した報告はない。例えば、Scottらの報告では、不妊患者に体外受精のみとPGSを行った場合を無作為割り付けした結果、周期あたりの出産率は67.5%と84.7%となりPGSの有効性を示す結果を得た。しかしながら、患者の平均年齢が約32歳、不妊の原因の約半数が男性要因であり、Scott自身が「この研究の限界は、卵巣機能が正常で、全ての患者が良い予後を示しているということである。彼女らは評価に値する多数の胚を持っている」「この研究は、若い女性での良好な結果を用いているので、移植率がより低い高齢の患者に適用するのは難しい」(Scott RT Jr et al. 2013:702)と述べている。
14 2004年4月、日産婦は、無申請のまま着床前診断を実施した大谷徹郎医師(大谷産婦人科院長・神戸市)を除名処分した。2004年5月、大谷医師は根津八紘医師(諏訪マタニティークリニック・長野県)らとともに、除名処分や日産婦の「見解(会告)」の無効確認を求めて東京地裁に提訴したが、2007年5月に、東京地裁は原告側全面敗訴の判決を言い渡した。大谷医師らは、これを不服として東京高裁に控訴したが、高裁は訴えを棄却。さらに上告したものの、2008年11月に最高裁も上告を棄却する決定を出し、敗訴が確定した。2009年5月に、大谷医師は「見解」を守るとの誓約書を提出して、日産婦に再入会している(『毎日新聞大阪版』2009.5.15)。大谷医師は、除名中はもちろんのこと、日産婦に再入会後も医療行為としてPGSを実施している。
15 大谷レディスクリニックは、大谷産婦人科不妊部門院長であった大谷徹郎医師が、2010年に新たに開設した施設である。
16 続いて、諏訪マタニティクリニック(長野県・根津院長)でも、PGSを実施していたことが報じられた(『読売新聞』2012.7.23)。
17 おそらく、Mastenbroek et al.(2011)を指すと思われる。
18 日産婦の平成24年度第2回倫理委員会(2012年11月27日開催)議事録、および平成24年度第3回理事会(2012年12月15日開催)議事録を参照。議事録によれば、吉村泰典前理事長の「均衡型転座については、CGHは精度が高いので技術的にいけない理由はないと考える。スクリーニングとなる件については、(他の染色体変異について:筆者注)『見える、見えない』ではなく、『知らせるか、知らせないか』の問題である」(吉村 2012)との発言が、議論を結論に導いたことがうかがえる。
19 しかしながら、アレイCGH法による解析結果には、染色体全ての異数性や微小欠失の情報も含まれる。検査を実施し明らかになった情報を、本人に開示しないことの倫理的問題も指摘されている。
20 2012年夏に、共同研究組織(NIPTコンソーシアム)が臨床研究として開始しようと準備を進めていたが、それに対して「安易な中絶につながる」といった懸念や障害者団体・女性団体からの強い反対の声が寄せられた。そこで、日産婦は2013年3月に「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」を策定し、これに準拠して臨床研究として開始された。
21 平原史樹(日産婦倫理委員会着床前診断に関する審査小委員会委員長)、末岡浩(慶應義塾大学)、杉浦真弓(名古屋市立大学)、大谷徹郎(大谷レディスクリニック)、福田愛作(IVF大阪クリニック)、柘植あづみ(明治学院大学)、玉井邦夫(日本ダウン症協会)がシンポジストとして登壇した。
22 シンポジストとして登壇したのは、平原史樹(着床前診断に関する審査小委員会委員長)、竹下俊行(PGSに関する小委員会委員長)、宇都宮隆史(セント・ルカ産婦人科院長)、倉橋浩樹(藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学教授)、久具宏司(倫理委員会副委員長、PGSに関する小委員会委員)、大橋博文(埼玉県立小児科医療センター遺伝科科長)である。シンポジウムの詳細については、利光(2015)に詳しい。
23 実施計画は「人を対象とする医学系研究に関する臨床指針」(2014.12改正)と「ヒトゲノム遺伝子解析に関する倫理指針」に準拠し、実施施設や検査施設はそれぞれの施設の研究倫理審査委員会(IRB)の承認を得る。計画全体については、日産婦臨床研究審査委員会の承認を得て実施するとしている。
24 大谷医師は「(着床前診断は「生命の選別」にあたるという声もあるが)私は選別だと考えていません。着床前の受精卵は法的に命とは言えない。しかも、生きて、赤ちゃんとして生まれてくる命を選ぶ方法で、むしろ命をつくるための技術だと考えています。『数の異常』がある場合は、自然に任せても、ほとんどが流産・死産してしまう。いわば『自然のスクリーニング』です。そうなる運命の受精卵をあらかじめ避けている、というだけです」とも述べている(古川 2012)。
25 大谷医師は、2011年2月から2014年7月の間にアレイCGH法を用いたPGSを559人(平均年齢40.4才)に実施し、合計で246人が妊娠、うち流産したのは24人(9.8%)だったと報告し、スクリーニングを行わない場合の40.8%に比較すると流産率は低くなると述べた(『神戸新聞』2015.6.26.)。
26) 2008年に出された日産婦の「見解」で「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」と定められている(日産婦 2008)。
27 議事録によると、議論の中で一貫してPGSの医学的有効性に疑問を投げかけたのは杉浦真弓委員(名古屋市立大学教授)である。「array CGHの方が技術としては優れているが、PGSによって流産は減少するが、出産率が増加するというデータはいまだにない」(杉浦 2013a)、「(アレイCGH法を用いたPGSは)精度に問題が無く流産が予防できても、高齢者の場合は移植中止が増えるだけで、生児獲得の機会は増えないことを十分に患者に説明する必要がある。若年が対象であるなら選べる胚があるので成功率は高くなるが、高齢患者に行うことが患者自身のためになっているとは思えない」(杉浦 2013b)と述べている。
 杉浦は、原因不明習慣流産の場合、過去2回流産なら約80%、3回70%、4回60%、5回50%の人が次の妊娠で出産できること、40才以上の女性でも58%が出産できること(Sugiura-Ogasawara et al. 2009)から、あえてPGSなどの高度な生殖医療技術を用いる必要はないのではないかと主張する。均衡型転座に起因する反復流産については、名古屋市立大学産婦人科グループとセントマザー産婦人科医院(北九州市)のグループは、共同で、着床前診断実施群と自然妊娠群を比較するコホート研究を行い、着床前診断は、流産は減少させるが生児獲得率には貢献しないとの結果を発表している(伊熊ほか 2015、Ikuma et al. 2015)。また、新たなアレイCGH法による着床前診断によって出産率が上昇したとする論文については、「予後良好群」を選択していることに注意すべきだとし、「スクリーニングは受精卵を選ぶための技術なので、選べるほど卵子が採取できない女性にはメリットがないのは当然」であり、「着床前スクリーニングに期待する我が国の高齢女性にとって福音になるという証明はまだありません」と述べている(名古屋市立大学大学院医学研究科産婦人科、研究グループ習慣流産・不育症グループホームページ)http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/obgyne.dir/group_huiku.html#report7(最終閲覧2015.12.30)
28 脊髄性筋委縮症や進行性筋ジストロフィーなどの遺伝性神経筋疾患をもつ当事者達をメンバーとし、着床前診断への反対を主目的として2004年に結成。機関紙の発行、日産婦への要望書提出、各地での講演会やシンポジウム、ワークショップ等を開催している。
29 意見書には、PGSが不妊治療に組み込まれることで、胚の質によるふるい分けが恒常化するのではないか、不妊の女性達に新たな身体的・精神的負担を課す、出生前検査の商業化をもたらす等について述べている(グループ生殖医療と差別 2015)。

〈引用文献〉
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生存学研究センター報告

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