第二部 生殖技術論文 障害児と養子縁組──日本の児童福祉における倫理的課題

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2-5 障害児と養子縁組
──日本の児童福祉における倫理的課題
 
吉田一史美


はじめに

 熊本県の慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」1に預けられた乳児は、実親が申し出た場合に病院が養子縁組の仲介をできる。そうでない場合は、行政側の指導により、病院は速やかに児童相談所へ通告し、児童相談所によって子どもは乳児院に送られることになる。乳児院に措置された子どものほとんどは養子縁組や里親委託をなされないまま、2歳前後までを乳児院で過ごしたのち、児童養護施設へ移って18歳まで施設で過ごす。
 日本で児童福祉施設に収容されている子どもは現在3万人を超えるが、親が養育できない6歳未満の子どもを対象にした特別養子縁組2は、現在は年間で300件前後にとどまる。施設の子どもは18歳になる年度の3月には退所=「自立」を求められ、大学進学率は2割弱である。湯沢(2001)によれば、出産女性の多くは子どもが施設で育つことを望んでおらず、大部分はなるべく早期に適切な家庭の養子になることを希望している。しかし、さまざまな事情を抱える出産女性が、子どもの親であると名乗り出ることが難しい場合も実際にありうる。
 米国のSafe Haven Lawsは、親が匿名で法定の医療・福祉機関等の職員に新生児や乳児を預ける制度であり、人工妊娠中絶の合法化をめぐる政治的問題を背景に米国全土で創設されている(吉田 2009)。米国に限らず、この種の新生児・乳児の生命保護の試みは、養子縁組制度に直結した仕組みとして機能している。しかし、日本では親が養育できない新生児や乳児について施設養護が優先され、養子縁組が利用されにくい仕組みになっている。
 日本の児童福祉において、なぜ新生児・乳児の養子縁組は困難なのか。この問いに取り組むため、本稿では「障害児と養子縁組」をテーマに取り上げる。日本における新生児や乳児の養子縁組の問題は、おそらく「障害」をめぐる倫理的課題を避けては議論できない。本稿では、日本の児童福祉の実践において、障害児の養子縁組をめぐる状況がいまどのような局面にあるのか、検討したい。

1 乳児の養子縁組

 現在、親が育てられず児童相談所に保護された新生児のおよそ9割が乳児院に入所し、里親や養親候補に委託された新生児は約1割にとどまる。2013年4月に実施された日本財団による全国の児童相談所を対象にしたアンケート調査(93施設・回収率41%)によれば、2012年度に児童相談所に保護された生後4週間以内の新生児は93施設で204名であり、このうち180人(88%)が乳児院に入所した。176名が産院から直接乳児院に送られており、遺棄された身元不明の5名のうち4名が乳児院に送られている。一方、乳児院に入所せずに里親委託されたのは24名(12%)で、このうち16名が養親候補3に委託された。なおこの調査によれば、2歳を経過して乳児院から児童養護施設に移された子どもは93施設で267名に上る(宮崎 2013)。現在、同財団では「社会的養護と特別養子縁組研究会」を立ち上げ、特別養子縁組の普及に向けた具体策を模索している。
 養子縁組の成立した子どもについて、鈴木(2011)の調査によれば、児童相談所から回答を得られた2007〜2009年の特別養子件数は196件であり、普通養子縁組は17件であった。うち172例(80.75%)は当該の子どもが0歳のときに児童相談所が関与しており、ほか1歳が14例、2歳が10例、3歳以上は5例であった。児童相談所の関与時に0歳であった172名のうち不明分を除いた145名の養子縁組成立時の年齢は、0歳:16名(9.3%)、1歳:27名(15.7%)、2歳:28名(16.28%)、3歳:33名(19.19%)、4歳:22名(12.79%)、5歳:17名(9.88%)、6歳:21名(12.21%)、7歳:5名(2.91%)、8歳:6名(3.49%)、9歳:1名(0.58%)、10歳以上10名(5.81%)である(図1)。0歳のときから児童相談所が関与した子どもの養子縁組のうち、0〜1歳に成立したものは25%程度にとどまっている。

2 「障害」と養子縁組

 子どもが生まれる前に何らかの相談があり、出生直後に児童相談所が保護している事例は少なくない。宮島(2012)が調査を実施した4自治体では、養親候補を含む里親に乳児を委託した52例のうち、妊娠期に相談を開始したものが29例、出生後1ヵ月以内は15例であり4、これらの事例では1例を除いて親子の離別も生後1ヵ月以内である。全国の自治体でも妊産婦の相談はあるにもかかわらず、そうした新生児・乳児の多くについて、里親家庭への委託は「実親の同意が得にくい」「子どもの発達に何らかの障害が生じるおそれがあり、これが判明するまでは委託できない」「里親の養育経験等が十分でないため委託できない」等の理由より回避される。全国児童相談所長会(2011)による調査で、これらの理由は、全国の児童相談所において共有されている認識であることが示されている。
 児童相談所が出生直後の乳児を養親候補に委託しない理由は、「子の発達状態や病気・身体障害等の有無を確認してから委託する」からだということは、従来から指摘されてきた(鈴木 2011)。社会福祉士の矢満田篤二もまた、養子縁組に関する児童相談所の消極性について、「特に新生児との養子縁組には『後で子どもに障害があるとわかれば困る』と否定的で、2歳以上の養子縁組が細々となされている」と述べている(『朝日新聞』2009.02.19)。
 このように、現在の日本の児童福祉の実践においては、新生児や乳児の養子縁組をしないのは、その子どもに障害が無いことが判明してから、養親候補者とマッチングを行う必要があるためだということが半ば公然と説明されている。そうしなければ、子どもに障害があるとわかった時点で養親候補が養育を拒む可能性があるから、虐待の発生等の危険性を考慮して、そうした事態を予め回避しておくという児童福祉的対応である。
 こうして、概ね障害が無いことが確認されたのち、一部の子どもが実際に養親候補に委託される。しかし、長期間の施設養護に置かれた子どもは、養親候補に引き取られてからおよそ半年間、はげしい「試し行動」を繰り返した末に、もう半年をかけて新しい親を信頼して受け入れはじめるというプロセスを辿る(岩崎 1994)。乳児期後半以降の養育開始における養親子関係構築の困難さが説明される際、とくに被虐待児や劣悪な施設で育った子どもに顕著にみられる「愛着障害(attachment disorder)」という用語が使用されることもある。
 したがって養親となる者には、特殊な状況におかれた幼児に対して、半年から1年間にわたる集中的ケアが求められる。それに耐えうる体力、精神力、時間の確保が、経済的要素とともに重要な養親候補の必要条件として強調される。現在の不妊治療経験者は、この点において年齢や動機、有職であることから養親候補として不適格であると判断される場合があり、また養親候補自身もその壮絶さから養子縁組を断念することがある。つまり、新生児・乳児の障害の可能性をリスクとして養子縁組を回避した結果、長期の施設養護に置かれた子どもは親子関係構築に際して深刻な精神的不安を抱え、それが新たなリスクとなって養子縁組を困難にしているというのが現状である。
 ここで、現在の養子縁組斡旋の仕組みを整理しておく。子どもが乳児の間に確実に養子縁組されるためには、生んだ母親が乳児院に預けずに、養子縁組斡旋団体にアクセスするか、自ら養親を探し出すかのどちらかである。乳児院や児童養護施設に措置された場合、障害がないと判明した子どもが特別養子縁組の対象となりうる。マッチングを行う側は子どもの試し行動に耐えうる養親を求めざるを得ず、養親は養子候補が身体的および精神的障害のない健康な子どもであることを確認し、委託後に法定の試験養育期間を経たのち特別養子縁組が成立する。
 児童相談所長会(2011)の調査によれば、3歳以下の乳幼児の里親委託が解除された176例のうち、家庭復帰や養子縁組を除いた何らかの理由による委託解除は42例(25.7%)である。0歳児の里親委託解除事例に限定すれば、36.8%に上った。さまざまな理由での解除が考えられるが、現状では、養親は見込みが外れた場合、すなわち、子どもの障害の有無や程度が明らかになった場合、それを理由にして、養親候補としての試験養育期間のうちに養子縁組を実質拒否できる仕組みになっていると考えられる。
 
3 米国の“children with special needs”と障害者による養子縁組

 日本の特別養子制度における実親の同意をめぐる問題については、床谷(1991)、鈴木(1998)、原田(2011)など法学的視点からの指摘がある。日本では実親の同意確認手続きに関する規定がなく、また同意不要規定や親権喪失制度がほとんど活用されてない。米国でも、養子縁組には原則的に実親の同意を必要とするが、実親が子どもの世話と扶養の自然的かつ法的義務を怠るか拒否する場合などは同意不要であり、期限を設けて親権を剥奪することが可能である。実親子の離別が強制されることで弊害が生じていないわけではないが、日本のように実親の不明や放任によって同意が確認できず、養子縁組の手続きをすすめられないといった制度運用上の問題は生じにくい。
 米国における新生児・乳児の養子縁組の斡旋は、女性の妊娠期および出産時の負担の軽減、新生児の遺棄・殺害、乳児の虐待・死亡の危険を減らし、養親と養子の関係を可能な限り早期から構築する目的でなされる。出生児の健康や社会的な来歴に関して把握されている情報については、養子縁組斡旋の段階ですべて説明されなければならない。養親候補がそうした情報を提供されなかった場合は、「間違った養子縁組(wrongful adoption)」として訴訟となる5。養親が斡旋機関を訴えて、詐欺や過失が認められた場合は、養親家族が被った金銭的損害(高額な治療費、医療的ケアにかかった費用、家庭教師や特別教育の費用、失われた賃金、身体的な負傷による損害など)が認められる(Freundlich and Peterson, 1998)。
 養子縁組の目的に関して、米国の連邦政府は「特別なニーズ(special needs)をもつ子ども」を次のように定義している。身体的または精神的障害のある子ども、情緒障害のある子ども、6歳以上の子ども、エスニック・マイノリティの子ども、兄弟姉妹とともに養子縁組対象となる子どもである。
 米国における養子縁組の目的が、「白人の健康な赤ん坊がほしい」という不妊夫婦のニーズから、子ども自身がもつニーズにかわりはじめたのは、1970年代のことである。女性の性や生殖、ライフスタイルにかかわる1960年代以降の米国の文化、社会、法、人口における目覚ましい変化を背景に、養子候補となる「白人の健康な赤ん坊」は減少し、1975年までに親族間を除く養子縁組の件数は半減した。養親子間の身体的、精神的、人種的、宗教的特徴の一致はそれまでのように重視されなくなり、この時期に再定義された養子概念に特別なニーズをもつ子どもが含まれるようになった(Carp, 2002)。
 特別なニーズをもつ子どもの養子縁組に取り組む団体が1970年代半ばから登場し、1980年にAdoption Assistance and Child Welfare Lawが制定された。連邦政府のAdoption Assistance Programによって財政的な支援による養子縁組の促進が期待され、同法に基づく政策によって障害児を養子に迎える家庭は子どもが18歳もしくは21歳になるまで公的扶助を受けることが可能となった。また、州によっては、言語療法や精神科治療、養子縁組にかかる費用などのための特別手当も支給することもある。当時すでに、ダウン症の子どもを育てる夫婦が、同じ障害をもつ子どもを養子に迎えた事例もあった(Committee on Adoption and Dependent Care, 1981)。
 1990年代半ばに、特別なニーズをもつ子どもの里親委託から養子縁組への移行を促進するための法政策や経済的支援が本格化する。すなわち、1996年にクリントン大統領(当時)が、特別なニーズをもつ子どもの養子縁組件数の倍増を政策目標として掲げ、1980年の法律を強化するものとして、1997年にAdoption and Safe Families Actが制定された。同時期、Dave Thomas Foundation for Adoption、Steven Spielberg’s Children’s Action Network、North American Council for Adoptable Childrenなどの民間団体による運動も展開している。1990年代には、特別なニーズのカテゴリーに、胎児性薬物中毒の子ども、AIDSを発病した子ども、母子感染したHIV陽性の子どもが加わった。
 米国の養子縁組の多様性は、養子縁組で子どもを持つことが単身者や同性愛者にもひらかれている点にあり、彼らが特別なニーズを抱える子どもを養子に迎えることもある。そして米国では、障害者も養子縁組で親になることができる。1990年にAmericans with Disabilities Actが制定され、障害による差別が禁止された。同法により障害児の養育環境の整備が進んだだけでなく、障害者もまた養子縁組によって親になることが可能になった。現在、ADA法と養子縁組斡旋については、以下のように理解されている。
 
ADA法の重要な規定は、障害者を選別するか、あるいはその傾向がある適格基準を課したり、適用したりすることを、その基準がサービスの提供のために必要であると示すことができない限り、禁止する規定である。「安全」と「直接的な脅威」は、将来の養親として考慮する際に、個人を選別するために、障害に関連した基準を用いることの正当性を示すのに使われる。しかし、ADA法は、当該の危険と個人がもつ実際の能力・障害を決定する際には、現在の医学的知識あるいは最良の入手可能な客観的証拠をもとに、実際の危険性と合理的な判断に基づいた個別的評価を義務づけている。特定のカテゴリー、例えば、視覚障害、聴覚障害、HIV感染、あるいは薬物の使用と治療歴に基づいて、将来の養親として障害者を拒否することはADA法に違反し、養子縁組斡旋機関は責任を問われることになる。(Freundlich, 2014)
 
 養子縁組斡旋機関は、養親候補について障害を理由に一律に不適格にすることはADA法で禁止されている。したがって、例えば、重い変形性関節症の女性であっても、家の中がその女性に完全に適応した状態に整備されており、夫が育児と家庭の管理に積極的にかかわる場合、養親としての適格性に問題はないと判断される。実際にこの政策下で、先天的障害で重いものを持ち上げることが困難な単身女性が、1995年と1998年に年長の女児を養子に迎えた事例が報告されている(Pertman, 2000)。
 米国の養子縁組では、障害児が養子となること、そして障害者が親になること、この両方の道が開かれている。家庭で育つこと、家族をもつことは、彼らの権利なのである。
 
4 養子縁組斡旋法と障害児

 このような日米の現況において、日本で生まれた障害児が米国へ養子に出されているという事実がある。2006年に厚生労働省が把握していた日本からの国際養子は20数名であったが、米国務省の統計によれば42名が日本からの国際養子であった。読売新聞社の高倉正樹記者(2006)によれば、養子縁組斡旋が日本で法的に位置づけられていないために、国際養子をめぐってトラブルが起きている。たとえば、東京都内のある民間斡旋事業者は、養子を希望する海外の夫婦に550万円の寄付を要求しており、それが払えない養親候補には養子を斡旋せず、養親候補が「費用が高すぎる」とした場合には「障害児だったら安くする」と持ちかけたという。このほか、出産女性への意思確認が強引なケース、妊婦の電話相談に出生児の遺棄をすすめて斡旋業者が捨て子として届け出るケースや、都道府県への届け出をしていない斡旋業者がある。こうした事例においては、子どもの臓器売買や人身売買の危険性を否定できないと指摘されている。
 中央大学の奥田安弘と鈴木博人、高倉記者らが共同で作成した「養子縁組のあっせんにおける児童の保護などに関する法律(試案)」がある(奥田ほか2012)。この試案の柱は、養子縁組斡旋機関の組織規制および斡旋業務の行為規制であり、その目的は次のようなものである。

第1条(目的)
この法律は、不適切な養子縁組あっせんが児童の利益を著しく侵害することにかんがみ、民間あっせん機関の許可などについて定めるとともに、養子縁組あっせんに係る業務について、必要な措置を講ずることにより、児童の保護を図り、あわせて養子あっせんの促進および不適切な養子縁組あっせんの防止を図り、もって児童の福祉の増進に資することを目的とする。

 同試案において「養親希望者の不適格事由」を定めた第27条では、「日本国内に住居を有しない者」が不適格とされた。現在、国外居住者が来日から数日ないし数週間のうちに、乳児を連れて帰国するケースがある。しかし、こうしたケースでは、試験養育状況の把握や養子縁組の成立確認、縁組成立後の監護状況把握が現実的に不可能であるために規制するものである。
 これに対して、従来の養子縁組斡旋の現場からは、「障害児などは、わが国において養親希望者が見つからないのであるから、外国に渡航することはやむを得ない」とする意見が多かったという(奥田ほか 2012)。また、児童の権利条約も、国内での養子縁組が不可能である場合は、国際養子縁組を考慮することができる旨の規定を置いているとの指摘もあった。
 奥田らは検討の結果、「障害児などであるからといって、自己の意思を全くまたは不十分にしか表明できない児童の海外渡航を正当化するわけにはいかないこと」等を考慮し、また「児童の権利条約において国際養子縁組をやむを得ないとしているのは、日本のような国を念頭に置いたものではないと考えられる」という判断から、試案では養親希望者が日本国内に住所を有しない場合の養子縁組斡旋が禁止された。
 また、同試案の第28条は「養親希望者の不利益取扱いの禁止」について定めており、従来の養子縁組斡旋では独身や共働きの養親希望者が不適格とされることが多かったことから、「社会通念に照らし必ずしも児童の養育が困難となるとはいえない事由」、たとえば有職、離婚歴、独身、高齢であるだけを理由とした差別的な取扱いを禁止している。
 養子縁組斡旋法の立法をめぐる日本の議論では、しばしばハーグ国際私法会議の「国際養子縁組に関する子の保護及び協力に関する条約」(日本は未批准)が言及されるが、日本の現状と上述の議論においては国連の「障害者の権利に関する条約」が重要となろう。障害者権利条約は2006年に国連総会において採択され、2007年に日本政府は署名したが、2014年1月現在まだ批准していない。
 同条約の第7条は「障害のある児童」についての条文であり、「障害のある児童が他の児童と平等にすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる」とされ、「障害のある児童に関するすべての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と定めている。
 さらに、「家庭及び家族の尊重」に関する第23条から、2項と5項をここに引用する。

第二十三条 
…(中略)…
2 締約国は、子の後見、養子縁組又はこれらに類する制度が国内法令に存在する場合には、それらの制度に係る障害者の権利及び責任を確保する。あらゆる場合において、子の最善の利益は至上である。締約国は、障害者が子の養育についての責任を遂行するに当たり、当該障害者に対して適当な援助を与える。
…(中略)…
5 締約国は、近親の家族が障害のある児童を監護することができない場合には、一層広い範囲の家族の中で代替的な監護を提供し、及びこれが不可能なときは、地域社会の中で家庭的な環境により代替的な監護を提供するようあらゆる努力を払うことを約束する。
(外務省の仮訳文より引用)
 
 締約国は、家族や親族から監護を得られない障害児に対し、「地域社会の中で家庭的な環境により代替的な監護を提供するようあらゆる努力を払う」ことが求められる。また、障害者も養子縁組によって親となることができ、国から適当な援助を受けることができるのである。
 なお、日本では、2013年6月に障害者差別解消法が成立しており、2016年4月から施行される。第7条は行政機関等について、第8条は事業者について定めており、それぞれ児童相談所、養子縁組斡旋事業者が該当する。条文では「その事務または事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」(第7条1項)とされている。米国では、同様の法の下で障害児の養育環境の整備がすすみ、また障害者を養親とする養子縁組が実践されているのである。
 日本で生まれた障害児の養子縁組を国外の養親に依存しないのであれば、障害児の養子縁組斡旋の制度化、障害児を養子に迎える家庭への公的扶助など、国内の養子縁組制度の拡充と普及が必要となろう。日本国内における障害児の養子縁組の必要性は、養子縁組斡旋法の立法化をめぐって、いま議論の俎上に置かれたばかりである。この法律はまだ「試案」の段階であり、児童福祉の目指すべき方向が法律で示されることは、実践へつながる第一歩である。今後の動向が注目される。
 
おわりに

 日本の児童福祉が新生児・乳児の養子縁組に取り組み、障害児を養育する家庭への支援体制を確立し、養子縁組制度の課題として施設養護にある障害児の家庭養育を掲げることは可能だろうか。例えば、肢体不自由児施設での治療・訓練を終えたにもかかわらず、実親の家庭に復帰できない子どもたちがいる(川名 2004)。
 2002年に制度化された「専門里親」の対象児は被虐待児であったが、2009年になって対象児童に新たに障害児が加わった。しかし、それ以前の里親制度において、すでに障害児を養育していた先駆的な事例もある。京都府で養育里親をしている鶴丸富子は、52歳の時に児童相談所からの紹介で、乳児院に収容されていたダウン症の3歳女児を里子として引き取った。養育開始から9年目の手記は、2010年にNHK障害福祉賞(最優秀賞)を受賞した。親とは何かというメッセージ性の強さ、そして「里子についての社会啓発のインパクトが大きい」ことが授賞の理由であった。

このように私とナナの日常は、毎日が普通に親子の暮らしです。しかし、同時に里親・里子である私たちは、社会的養護の現場の真っ只中にいるわけです。実親と縁の薄かったナナが、私という里親に出会ったことで、家庭の中で愛され大切にされる暮らしを得ました。そして、多くの人に支えられながら、自分にあった教育を受けてのびやかに成長していきます。一方、私の人生も、ナナとの出会いによって、人間関係も広がり、以前には考えられなかったほど豊かなものになりました。
 障害のあるナナの子育てでは、もちろん悩むこともあります。血のつながりのない、途中参加の子育てですから、親子の絆が結ばれるまでにも多くの時間が必要でした。けれど、ナナが見せてくれる、毎日のちょっとした成長や満面の笑顔がいつも大きな喜びを与えてくれ、私を支えてくれました。苦労もありつつ、それに倍する喜びもあるいという生活は、どんな子育てにも共通するものでしょう。(鶴丸 2010: 11-12)

 これまで里親制度から障害児は排除され、障害児が家庭環境に恵まれない場合は、家庭に代わる環境として施設で生活することが多かったと指摘される(庄司 2010)。現在、障害児の家庭養育の保障のために、子どもの障害の有無にかかわらない積極的な里親委託、里親への研修や個別的支援、里親と障害児施設や専門家との連携が求められている。
 本稿のテーマは「障害児と養子縁組」であった。現在の特別養子制度の利用は、はたして児童福祉型養子縁組といえるのであろうか。乳児のうちに養子縁組させることをリスクと捉える仲介側の論理自体が、養親候補の養子縁組に対する認識を限定しているのではないだろうか。子どもに障害があるとがわかったとき、親がなすべきことはその子を親として支え育てることであり、それを助けるのが児童福祉ではないか。
 生殖補助医療のなかでは、他人の受精卵をもらい受ける「胚養子」6が、養子縁組より好まれる場合もある。多くの養親は乳児を養子にほしいと望み、養子が新生児のうちに彼らのもとにやって来ることを歓迎する養親もいる7。筆者は、養子縁組を希望する妊婦と養親候補が面会し、ともに胎児の成長を見守ることを、児童福祉が支援する取り組みがあってよいと考える。妊娠期おける十分なケア、専門家の介助をうけた出産、出生児について可能な限り情報共有がなされることは、生母・子ども・養親のいずれの当事者にとっても重要である。
 新生児・乳児の特別養子縁組においては、養親の適格性は試し行動への耐性ではなく、すべてのリスクを負えるか否かで決定する。出生直後の特別養子縁組では、新しい生命がもつ可能性のすべてを引き受けることが、親子関係のはじまりにある。子どもを育てたい人間と親が養育できない子どもがそのように出会う機会を、日本の「児童福祉」が奪うことは大きな損失である。
 現在の日本の児童福祉体系では、親が養育できない障害児の家庭養育が主要な対策として掲げられておらず、養子縁組に関する諸議論においても障害児が取り上げられることはほとんどない。障害のリスクがあるというだけで乳児が養子縁組されないのだから、施設で育つ障害児に養親のもとで家庭的ケアを受ける機会が与えられないのも当然である。しかし、すでに述べたように米国などでは、公的扶助のもと障害児の養子縁組の実績もあり、里親制度の意義の一つとして養子縁組を待つ障害児の家庭養育があげられている。子どものための養子縁組の射程は、今日ますます広がりつつある。


[注]
1 親が養育できない新生児・乳児を安全に預けることのできるシステム。2007年より運営を開始し、妊産婦からの相談の受付と出産・養子縁組の支援も同時に行っている。
2 特別養子縁組とは、原則6歳未満の子どもと25歳以上の夫婦によってなされ、実親との法的な親子関係が終了する養子縁組。家庭裁判所の審判によって成立し、離縁は原則不可である(民法第817条)。
3 日本の里親制度では、親族里親、養育里親、専門里親、養子縁組里親の4種が設けられている。本稿における「養親候補」は、養子縁組里親と里親登録を経ずに養子縁組を行おうとする者を指し、単に「里親」と記した場合は、養子縁組里親以外の上記3種の里親を指す。
4 そのほかは、1〜3ヵ月未満が3例、6〜9ヶ月未満が3例、9ヵ月以上が1例、不詳が1例である。
5 1986年にオハイオ州高等裁判所で最初のwrongful adoption訴訟が決着して以降、他の州でも同様の訴訟が起こされている。
6 胚養子(embryo adoption)とは、ある不妊治療患者に対する生殖補助医療の際に生じた移植予定のない受精胚、いわゆる余剰胚を別の不妊治療患者がもらい受けて体内に移植して、自己の子として妊娠・出産・養育することである。
7 養子と里親を考える会が2007年に全国175カ所の児童相談所に対して行った調査。詳細は同会発行の『新しい家族』35号。


[文献]
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生存学研究センター報告

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