第一部 出生前診断 生存学セミナー「出生前診断の技術と倫理」講演録

PDFダウンロード

本文

第1部 出生前診断

1 生存学セミナー「出生前診断の技術と倫理」講演録



1-1 出生前検査の現状について
──認定遺伝カウンセラーの立場から

張 香理


自己紹介

 皆様こんにちは。張と申します。よろしくお願いします。タイトルは出生前検査の現状についてということで、先ほど松原先生からご紹介いただきましたけれども、認定遺伝カウンセラーという資格を持っております。現在、3つの職場で働いております。1つは広尾レディースという小さな産婦人科のクリニックです。分娩は扱っておりません。それから不妊治療もやっていません。そういう小さなクリニックで認定遺伝カウンセラーが働いているというのはなかなか日本でもあまりないのではないかなという状況です。それからもう1つはNPO法人ですけれども、難病の子供を支援する全国ネットワークというものがあり、そちらで電話相談員をやっています。認定遺伝カウンセラーという立場から仕事しております。それからもう1つは埼玉県立小児医療センターというところがございますが、そちらの遺伝科のほうで特に遺伝性疾患と言われている子供、それからご両親や家族の方々を支援するような仕事をしております。
 お手元に資料あるかと思いますが、それは難病ネットのほうからちょっと古いのですけれども、2年以上経ちますか、「がんばれ」という機関誌がございまして、そこで一度遺伝カウンセリング特集というのを組みました。それを私が書いていますので、参考までにお配りしています。今日の内容は、主に3つあります。1番ですけれども、遺伝カウンセリングについてやはり認定遺伝カウンセラーって何だっていったときに、遺伝カウンセリングを担っている職種ですと言わざるを得ないので、遺伝カウンセリングについて少し紹介をしようと思っていますが、ちょっと時間がなさそうなのでこのお手元の資料を参考にしていただいて、復習していただければいいかなと思っています。これは、お子さんが遺伝性疾患だと診断されている親御さんの手記です。遺伝という言葉をめぐってですとか、家族の中にいろんなことがありました、あるいは遺伝カウンセリングについてこういうことを要望します、期待しています、というようなことが出ています。最後に私の感想というか、遺伝カウンセリングの今後の課題というところでまとめていますので、それを参考にしてください。

出生前領域の遺伝カウンセリング

 それで、今日のメニューはこの2番です。出生前領域の遺伝カウンセリングについて少しご紹介をしたいと思います。
 広尾レディースというクリニックですけれども、そこは臨床現場から○1、○2、○3、○4としましたけれども、クライエントはどんな人なのか。遺伝カウンセリングの世界では患者さんと言わないでクライエントと言いますが、いらっしゃる方々がどんな目的でいらっしゃるのかというあたりをまとめましたので、それをお知らせします。それから、来院の経緯、それから事例です。皆さんとディスカッションできたらいいかなと思って、2つほど事例を用意しました。皆さんだったらどう思うかなと考えていただければいいかと思います。それから、そういう方々に対して私たちが遺伝カウンセラーという人間がどんなことを情報提供しているのかということを今日お話したいと思います。その情報提供の後で、そのクライエントがどんなふうに反応するのか、言葉を拾っただけですけれども、本当にそう思っているかどうかはわかりませんが、そういう言葉を言ってくださったので、そういうことをちょっと紹介して実際にそういう人たちが出生前検査に対して、受けるのか受けてないのかという話ですね。そのあたりも参考までにご紹介したいと思います。
 それから3番目ですが、出生前遺伝カウンセリング、この領域の遺伝カウンセリングのゴールです。私の立場というか、遺伝カウンセラーとしてどういうところにゴールをもっていくのかというお話をしたいと思います。
 早速ですが、遺伝カウンセリングについてですけれども、その背景、登場の背景ですとか、定義ですとか、遺伝カウンセリングの領域内容としましたが、ぜひその資料を参考にしてください。ほとんど飛ばしてまいります。このあたりは利光先生のほうがお詳しいかと思うのでとっても恥ずかしいスライドなのですが、同じようなことが資料にも出ています。

遺伝カウンセリングの背景・定義

 いずれにしてもクライエントに対して正しい情報を提供するということ、それからクライエントが納得して自分の決定をしていく場が必要じゃないかというのが背景にあります。
 遺伝カウンセリングの定義というのもありまして、要するに遺伝の側面とカウンセリングの側面がありますということですが、遺伝や医学的な側面については、きちんとした遺伝的なあるいは医学的な情報をきちんとお話する、説明するという側面です。それから、カウンセリングの部分ですけれども、遺伝的な部分を踏まえた上で自律的決定やあるいは再発率ですとか、疾患への適応を促進するための支援を行っていくということです。
 じゃあ遺伝性疾患って何だというお話ですけど、遺伝性疾患は大きく3つに分かれています。遺伝子の変化、あるいは遺伝子が乗っかっている染色体の変化も大きな意味では遺伝性疾患です。それから、遺伝子という意味でははっきりわかっていないですけれども、多因子遺伝という疾患のカテゴリーもありまして、いずれにしても日本で遺伝性疾患というと、「遺伝」ということになって、代々親から子へ伝わっていくというイメージがなかなか払拭できません。
 埼玉県立医療センター遺伝科なんていう名前だと、「何で自分が遺伝科に行かなきゃいけないんだ」という思う方もおられて、そこから話をしなきゃいけないという現状があります。別に親が悪いからとか親のせいだからとかということではなくて、親に何の遺伝子変化がなくても子供から始まるということももちろんあります。そういうこともトータルでgenetic、これも日本語で「遺伝」となっちゃうんですけど、英語では2つ意味があるんですが、日本語にすると「遺伝」という言葉しかなくて、困っちゃうんですけど、いずれにしてもこれはGenetic Diseaseという意味で「遺伝性疾患」としているという話です。

遺伝カウンセリングが関わる領域

 領域と内容ですが、大きく分けると3つの領域に分かれています。出生前の遺伝カウンセリング、それから小児期の遺伝カウンセリング、まさに1番のところを今日お話していく中心になっているんですが、小児期の遺伝カウンセリングは、私が埼玉や難病ネットでやっているようなことです。
 それからもう1つ、実は成人期の遺伝カウンセリングというのもございまして、これが成人になってからの遅発性の遺伝性疾患です。例えばアンジェリーナ・ジョリーの乳がんの遺伝子検査のことで最近またこれもトピックになっておりますが、家族性腫瘍ですとか、がんになる人は日本でも今半分の人ががんになりますけれども、そのうちの数パーセントが家族性腫瘍、遺伝性だと言われていますので、そうやって考えると結構いるだろうという話になってくるんですけれども、そういった方々あるいは神経疾患ですよね。脊髄小脳変性症ですとか、ハンチントン病ですとか、そういう方々に対して遺伝カウンセリングを行っていくということもあります。

出生前領域の遺伝カウンセリング

 今日のメインになるのはこちらですけれども、出生前の遺伝カウンセリングということでどんな人が来るか、ざっくりここに書きました。
 高齢妊娠を心配されている方、出生前検査について知りたいという方、あるいは超音波検査で胎児の形態異常が発見された場合に遺伝カウンセリングにいらっしゃる方もいます。それから、先天異常や遺伝性疾患を一度かつて出産されている方ですとか、この辺は小児領域とかぶるところがあります。あるいは薬の服用についてですとか、習慣流産、不妊、それから近親婚というのもあります。これは日本特有な現象かもしれませんが、近親婚、いとこと結婚するとなんか病気を持った子が生まれるんじゃないかっていう相談がたまにまだあったりします。
 本日のメインイベントになってくるわけですけれども、私が広尾レディースで働くようになりましてもう4年目になるんですが、この3年半をまとめてみました。どういう人が来るのかというと、やはり「高齢妊娠が心配です」という方が圧倒的に8割、9割近くを占めます。その他遺伝性疾患、「実は自分の親戚が」とか、「自分の兄弟が」とか、そういう方も中にはいらっしゃいます。それから、「薬の影響が心配です」、「抗がん剤を使っていました」とか、そういう話。あるいはその他の中にエコーで胎児異常が指摘されたとか、近親婚とかそういう方もこの中に入ったりします。
 今日はこの高齢妊娠が中心になっていきます。高齢妊娠の内訳です。年齢ですけれども、高齢妊娠35歳以上の方ばかりが来るのかというと、そんなことはなくて、9割近くはほとんど35歳以上で平均年齢を取ってみたら38歳です。一番年齢のいっている方で45歳という方がいらっしゃいました。大体この方々が9割近く占めるんですが、35歳以下、20代の人も結構いたりして、14パーセントを占めている状況です。
 経緯です。どんな方がどんなことでいらっしゃるかということなんですけれども、友人に勧められたとか、家族・パートナーに勧められた。あるいは最近は主治医に勧められてということをおっしゃる方もいらっしゃいます。つまり病院の中で対応できない、お医者さんが対応しきれない場合はもう35歳以上で出産の人はもれなくうちの病院に来るようにとパンフレットを渡されるとか、そういう方もいらっしゃいます。それから、やはり昨今の情報ですね。テレビ、雑誌、インターネットの情報を見て、心配になったとか、「自分は高齢なので、ダウン症に関係あるって聞きました」とか、自分で調べたんだけどよくわからないとか、とりあえず話だけ聞いてみようと思ったとか、こういう方々がいらっしゃいます。

事例(1)を来場者と検討

 そこで事例です。ぜひみなさんもこういう方がいらしたらどう思うかなというレベルで、ちょっと考えてみてください。まず事例1つ目です。クライエントはご夫婦です。36歳の女性と、ご主人37歳自営業の方ですが、妊娠13週で自然妊娠、初めての妊娠で、女性は働いていらっしゃいません。羊水検査を希望ということです。この方ご夫婦じゃなくて1人で来院されているんですけれども、家族から羊水検査を受けることを勧められていますと。姑が「うちの娘も検査受けているんだから安心できたよ」と。「あんたもいい年なんだから受けておきなさい」というんですよ。検査なんて自分としては全然考えてなかったんですけど、ついネットで調べて見てみたらなんかいろいろ心配しなきゃいけないことが多いみたいなので、周りの友達にも聞いたら結構受けた人がいるんですよね。姑がそもそも勧めているので、これ受けないでもしダウン症の子なんか生まれたら私怒られちゃう。預かってもらえなかったらどうしようとか、そういうことをおっしゃる方です。
 そうですか。じゃあ羊水検査しましょうというわけにはいかないです。いかないですよねって私が決めることではないんですけれども、たくさん誤解やちょっと間違えていることがあったりして、後で後悔してほしくないという視点から幾つかお話をしたほうがいいところがあると思うんですけれども、いかがでしょうか。これを見てみて何かここちょっと問題なんじゃないかなというレベルでもいいんですけれども、自分だったらここはこう思うとか、どうしてこういうこと言うんだろうとか、そういうのでもいいんですけど。何かどうなんでしょう。ここはどうなんだという。理解できないですか皆さん、今この日本でこういうことをおっしゃる方がいらっしゃるということなんですけど。どうでしょうか。学生の皆さんどうでしょう。

〈司会(松原洋子)〉どんなことでもいいですよ。この事例は特定の人じゃなくて、典型的な人たちの例を集めたということですね。
 私、最初にいいですか。「周りの友達にも受けた人が結構いて」というのは、人が受けていても自分は自分だと思うんですけどね。最近流行っているからという感じに聞こえて、なんか巻き込まれる、踊らされているというなんかそんな感じがしましたけど。
〈来場者〉ダウン症だということになったらどうするのだといった答えが用意されないまま検査さえすれば何かいいことがあるみたいな、そういう誤解が世間の中にあるんだなと。検査後のことこそが大きな苦悩だったり、分かれ道だったりするわけですが、マスコミでもそこからが苦労の始まりなんだということの情報提供が恐らくなされていないんだなという印象をこの文面から受け取りました。

〈張〉ありがとうございます。そのとおりです。検査後についても必ずお話をしないといけないですよね。それは後で触れていきたいと思いますが、他にどうでしょうか。

〈来場者〉臨床遺伝専門医です。夫がどうしたらいいかじゃなくて、姑ばかりなんです。姑とか友達なんだけど、本来もう1人の当事者であるはずのご主人の視点が見られないものがちょっと気になります。

〈張〉ありがとうございます。ご主人の考えも、という話題ですよね。お二人の子供がと言いたいんですよね。ありがとうございます。

〈来場者〉大学の遺伝カウンセラーコースで今学んでいる学生です。この文面を見ているとネットで調べてそのクライエントさんがどう心配に思っているのかということ、高齢妊娠だと心配しなきゃいけないことというのはどういうことっていうのがもうちょっと深く聞けたらいいかなと思います。

〈張〉はい。ありがとうございます。突っ込んで聞かないですよね。それはもうちょっと考えているのかというあたりですよね。ほかにどうですか。

〈来場者〉大学院生です。すごく気になったのが最後の文章です。姑が勧めた検査を受けないでダウン症の子供が生まれたら、今でも私が責められるのはわかっているということがあるんですけれども、これは検査を受けてダウン症の子供を生む選択をしたら責められないということになるのかなということと、あとこれは検査を受けてダウン症の子供が生まれる可能性があるとわかった場合の選択権というところまで、選択権というか。選択というところまで考えているのか気になりました。

〈張〉ありがとうございます。最初の方と同じだったかもしれないですね。検査のことをどう考えているのかということですよね。一体ダウン症の子供だったら責められるというあたりですね。どうしてそうなのかということですよね。そのあたりもぜひ触れていきたいところだと思うのですが、すみません、ちょっと先を急ぎます。
 実は事例が2つあるのでさっくりいきたいと思いますが、一応多分皆さんにこういう話をしたら挙がるだろうなというところを書きました。今、学生さんがおっしゃってくださいましたけれども、最後のところですね。ダウン症の子供が生まれたら嫁の私が責められるというあたりですよね。ここ。それから松原先生がおっしゃっていましたけれども、友達にも受けた人が結構いて、だから何なのというあたりですよね。いや・・だから何なのとか言いませんけど、そのあたりですね。自分が大丈夫、人は人、自分は自分、受けませんという人はここに来ないので、そういう人がいらっしゃらないんですけれど、あとは高齢妊娠だと心配しなきゃいけないって、一体高齢妊娠だと何を心配しなきゃいけないのかというあたりですよね。それからいい年なんだから、いい年って36はいい年なのか、何がいい年なのか。検査を受けておいたら安心、何が安心なのか。そういうあたりですよね。これを誤解のないようにきちんと情報を提供しないといけません。これについてどんなふうに私たちが対応していくのかという話は後でしたいのですが、まとめるために、まとめてもう1つ先にいきます。

事例(2)を来場者と検討

 これもまた事例です。これも1つ典型的かと思います。特定の人ではありません。つくったものですが、クライエントの方は42歳の女性です。この方は妊娠12週で体外受精をされています。初めての妊娠で、教員をされている方です。ご主人は54歳、公務員でいらっしゃって、やはり羊水検査を希望ということで、問診票に丸された方です。10年間不妊治療してきて、ようやくさずかった赤ちゃんですと。私も高齢なんですけれども、夫も50過ぎているので子供がもし病気とか障害持っていたら体力的に厳しいし、私たちの両親ももっと高齢なので子供を預けるわけにはいきません。私も仕事はこれからも続けていきたいので、そもそも保育園に預けられないと自分が困るということがあった。だからそういう子はちょっと。大体病気とか障害を持って生まれるということはまず本人がかわいそうですよね。知的障害があれば普通の生活はできないし、いじめとかだって絶対あるし、私教員だから知っているんです。もし私たちより長生きしてくれちゃったら、世話してくれる人もいなくなるじゃないですか。しかも今そういう技術があるんだからこの検査は親になるなら当然の義務だと思いますとおっしゃる方がいらっしゃいます。
 どうでしょうか。ポイントになってくるところとかありますか。ここはどうなんだろう、あるいはここは自分もわかる気がするというのももちろんいいんです、そういうことを言っていただけると。どんどん言っていただければいいなと思うんですけど。どうでしょうか。

〈来場者〉手が上がらなかったので時間がもったいないので手を上げてしまいましたけれども、もうまさにこれ優生思想のそのもので、障害があったらここで生きちゃいけないんだ、生まれちゃいけないんだという発想がそもそも入っている。そのこと自体を既に考える土壌が日本にはないのだな、という印象を受けます。

〈来場者〉これ羊水検査やれば全部わかるような話になっていますけれども、知的障害はそもそもわかりません。羊水検査ではわかりませんし、また実はリスクだけ考えていくと、確かにダウン症とかのリスクは女性でも上がります。胎児の遺伝子病リスクに関しては全くスクリーニングをすることはできない。「出生前診断をすれば全部わかる」という、そもそもの誤解が存在していると思います。

〈張〉ありがとうございます。そのとおりです。

〈来場者〉学生さんたちは実習に行ったんで、いろいろわかると思うんですけど、一つだけあります。例えばこの「私たちの両親もさらに高齢なので子供を預けるわけにはいかない」って、本当に子供を預けるわけにはいかないのかというところは、もうちょっと福祉の分野を勉強すればわかるんじゃないかなと思います。ほかに気がついたことあったらぜひ言ってください。実習している人はわかると思うので。

〈張〉ぜひ若い方で何でも自由にお話してください。

〈来場者〉さっきの例とこれを見て一つ思ったんですが、結構調べたいという気持ちが自分はあると思いますし、先ほどの例でもネットで調べたとかで、ネットで今調べたら悪いこととかいいこととか、多く出てしまうと思うのですが、この例でも「羊水検査によって調べることでわかる」と思っているんですが、そうやって調べると本当のことがわかると思っちゃっているのは問題だと思います。

〈司会〉ありがとうございます。次の方、どうぞ。

〈来場者〉この文章の中で僕が一番気になったところは、普通の生活と言われているところ、「普通」の定義は甘いんじゃないかなというところが一番気になりました。

〈来場者〉一つ気になったのがヨーロッパの障害学によると高学歴だとか、仕事をしている女性が出生前診断に積極的に行くということを聞いて、これらもそういうケースに当てはまるのかなというふうに私は思いました。

〈張〉ありがとうございます。なんとも言えないですよね。別に高学歴で高齢妊娠出産を考える人たちがみんな受けているのかというと、もちろん最近は高齢妊娠、高齢出産増えてはきていますけれども、その人たちがじゃあ全員これを受けているのかというと、日本はなかなか欧米のようには、いいか悪いかは別として、なかなかその選択肢に入ってくるという人は、ここ数年で倍になったとは言ってもそれは2〜3パーセントから4パーセントから6パーセントになったというぐらいの話なので、ほとんどの人が出生前検査を受けていないというのが現状だと思います。
 それから、まさにここに書かれているように、優生思想以外の何もないと言われちゃうと、多分この方も自分でわかってらっしゃる。自分がおかしなことを言っているのはわかる。頭ではわかっているんだけれども、いざ自分になってくると話は別ですとおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。他人ごとと自分のことはやっぱりちょっと違うというあたりですね、現実的にどうなのだろうというあたりです。
 多分皆さん今日は発表されてないですけど皆さんそれぞれいろいろなはてながあるかなと思うのですが、どうでしょうか。やっぱりこういうふうにみんなこれをネガティブだと思っちゃうと、そうじゃないんじゃないかという人がいらっしゃったときになかなか言えないという状況があると思います。同じような事例を実は慶応大学の学生さんとか明治大学の学生さん、国士舘大学の学生さん、それからお茶大の学生さんに、同じような事例を出してきたのですけれども、まあそれぞれでした。
 一番おもしろかったのは明治大学で、真二つに分かれて議論になっちゃったのです。人がどう言おうが社会が何を言おうが私が優生思想を持っていようが関係ない。育てるのは女だ、私だ、私は仕事がしたい。当然この年になってリスクが少しでもあるのだったら変えたい。それの何が悪いのだという人がいたら、何を言っているんだと。自分ですることがわかっているの、人を殺すのよ、みたいな話になって、喧々諤々やられてとてもおもしろかったという感じで。慶応大学の方たちはすごく冷静で一人の人がどっちもわかるみたいなことをおっしゃる方がいらして、いいのですけど、みんないろいろな考え方があると思いますが、こういう方が来たときにそうですね、じゃ検査しましょうというすぐ言うわけにはいかないので、一旦話を、カウンセリングを通じて、ちょっとニュートラルに考えてもらいたいというあたりです。それをするのが遺伝カウンセラーの役割だと思っています。
 ポイントになってくるところばかりまた書きました。この方々は10年間不妊治療しているということですよね。ようやく授かったあかちゃんですよね。それから体力的に厳しいとおっしゃいますけれども、じゃあもし障害を持ってない子だったらどうするんですかという話です。体力的に厳しいのは一緒かもしれないですよというあたりですね。それからおっしゃるような方がたくさんいらっしゃいましたけれども、両親も高齢で預ける先がないとか、あとは広尾で私もやっていたりするので、ご夫婦でみえる方のほうが多かったりするのですけれども、さっきの方は1人で見えましたが、キャリアウーマンと言われる方もなかなかいらっしゃって、こういうことおっしゃる方いらっしゃいますが、じゃあその病気のない子だったら仕事続けて行けますかねというあたりです。それから「そういう子」、それから「普通の生活」、「知的障害」、どこまでわかるのかという話も含めてですけど、「かわいそう」というあたりですね。いじめとかが絶対ある。じゃあ障害のない子はいじめられないですかというような話です。それから長生きしたら世話してくれる人もいなくなるとおっしゃいますけれども、じゃあ病気のない子がみんな親よりも長生きで、親が安心して死ねるような自立している人たちかといったらそれはどうかな、というあたりです。そのあたりを少し触れていくという感じです。

遺伝カウンセリングで話すこと

 実際どういう話をしていくかということなのですが、もちろんクライエントの考え方に基本的には沿って考えていきますが、結局皆さんにはここに書かれているような6つのことを私たちはお話しています。
 1つは高齢出産について。それから染色体異常症のメカニズム、染色体異常症って何だという話です。それからダウン症候群ですけれども、本当のことを情報として提供しないと誤解されていることが多いので、きちんとお話をしています。それから出生前検査、それで一体何がわかるのか。その方法はどうなんだ、費用はどうなんだ、リスクはどうなんだ、限界はどうなんだというあたり。それから検査の後、先ほど検査後はどうするのかと考えていますかというようなお話あったかと思いますが、それについて一緒にシミュレーションして考えてみるという作業をします。
 それから、先天異常の頻度について、染色体異常症だけではありませんので、お子さんの病気は他にもありますというあたりちょっとニュートラルに考えてもらうためにこういうお話を皆さんにしています。
 高齢妊娠のリスクについてということは一般に医学的には35歳以上の妊娠のことを指しますが、確かに早産や帝王切開などの頻度は高くなりますよという話はしますが、メインは2番目ですよね。染色体異常症の子供を出産する頻度が実際高くなるという話、これは嘘ではないのできちんと科学的な話をします。染色体異常症って何ですかという話ですけど、これなかなか普通の人は知らないことが多いです。大体染色体ってどこにあるかとか、ご存じですか。理系だからご存じですか。そういうことじゃない。よくわかんないという方いますか。指されたら困る人いますか、染色体について。そうですよね。それが普通だと思います。

遺伝カウンセリング:染色体異常について

 染色体異常症、それから遺伝子と何が違うんだというあたりですよね。細胞は人間に実際60兆はあるんですよという話とか、その中に細胞の1つ1つの中に染色体があって、さらに染色体の中に遺伝子があってというようなお話をしていきます。それからその染色体というのがどうして「異常」になるのかというあたりです。染色体の別れ方がちょっと違ってきちゃうということ、そういう頻度が女性に多くなってくるという話なんですけれども、21番目の染色体が3本になるとダウン症なんですよと話しただけで、びっくりされる方がいます。それからもっとびっくりしちゃうのがダウン症というのは顔がダウンしているからダウン症というんですよねという人がたまにいてびっくりするんですけど、それも誤解です。それからなぜ高齢妊娠だと発生の頻度が高くなるのかという話です。さっき言いましたけど、35歳以上の女性だと染色体のふたつのうちのひとつを渡すことがうまくできなくなっちゃう。そういう頻度が高くなるという話をします。実際こんな例を見せて一つの細胞の中にこうやって46本染色体があるんですよという話をします。皆さんもそうですよ。私たちの頭のてっぺんからつま先まで細胞の中にこうやって染色体があるという話です。並べ替えるとこんなふうに46本あってこれが女性の染色体で、X染色体が2本あるというのが女性です。これが男性の染色体ですよというような話をして、これは1本ずつ子供に渡すわけですけれども、そのときに女性のほうからこの21番の染色体というのは一番小さい染色体ですが、これを1本ではなくて、2本渡した場合に夫の男性からも1本きますので、そうすると3本揃っちゃうよというそういう話です。一番小さい染色体21番が、3本揃ってるのがダウン症といいますというと、それだけでもうみんなああそうなんですかというふうな話をされます。
 そのダウン症候群についてもきちんとお話をしています。ダウン症のお子さんが生まれるとどういうところが心配ですかというふうに私は必ず聞くようにしていますけれども、そうすると長生きできないとか、人に迷惑をかけるとか、自分が恥ずかしいとか、そういう方……それから経済的にお金がかかりそうだという方もいらっしゃいます。そのあたりについてですけれども、頻度は800人に1人ぐらいの割合が実際生まれているという話。それから受精卵の段階では、やっぱり染色体が1本多いとそもそもが生まれないという話です。全員が生まれないわけじゃないんですけれども、21番の染色体、小さい染色体が3本揃っている場合でも他の染色体に比べれば生きる確率が上がりますけれども、それでも70%は、自然淘汰、流産という形になって生まれませんという話をします。変な話ですけど、この世に生を受けているダウン症の方々というのは、ある意味この淘汰の波を乗り越えて生まれることができた、非常に強い人たちというふうに見ることができるかもしれませんねというようなお話をします。
 それから問題になってくるのは、心臓疾患が半数の子に見られるというあたりですが、ほとんどの場合は外科的に治りますよ、治しますよ、よくなりますよという話をします。それから経済的な負担については、日本では欧米と違って行政からの補助があるというあたり、心臓疾患の手術といっても日本の場合はお金が出るということで、経済的なことは理由にならないというあたりです。
 早く死んじゃうんじゃないかというふうにおっしゃる方もいらっしゃいますが、今50歳ぐらい、それから音楽家や画家や書家となって活躍される方もいます、などなどお話をしています。

遺伝カウンセリング:さまざまな出生前検査について

 それから出生前の検査についてももちろんお話をします。母体血清マーカー検査、それから羊水検査、この2つが現実的にあり得る検査です。もちろん今は初期胎児ドックと言って早いうちに超音波でしっかり見ていく検査もありますが、これが現実的なものかなと思います。2つについて対象疾患はそれぞれ違いますが、まとめると超音波検査それからクアトロマーカー検査、母体血中胎児染色体検査というのは、NITP新型出生前検査のことです。
 それから1つ飛ばして向こうに羊水検査としたのは、確定検査で、さっき松原先生のスライドにもありましたけれども、非確定検査と言われるものと確定検査というものと大きく分かれられると思います。週数です。新型出生前検査は、早いうちに受けられるというところが特徴になっています。それから羊水検査は、15週以降となっていますが、もちろん羊水検査は羊水があれば採れますので、20週以降でも二十数週でももちろん羊水検査はできます。が、その際赤ちゃんの細胞を見たときに、21番が3本あったっていってもそのときにはもう中絶はできません。中絶を考えるのであれば、羊水検査は18週までにというお話です。 
 それから、対象疾患が変わってきています。クアトロマーカー検査はダウン症候群の他、18トリソミー、18番の染色体のトリソミーにということですけれども、その他に神経管閉鎖障害というものがありますが、この3つについて確率がわかるというのがクアトロマーカーです。しかも分数で出てくるという検査。それに対して羊水検査は、染色体異常症全般を見ていくという形です。もし後で必要があればまたお見せしますが、値段のところも注目ですかね。クアトロマーカー検査にしても羊水検査にしてももちろんNIPTにしても費用がかかります。自費です。羊水検査は15万円、NIPTは21万円ということで、なんかちょっとどうなんだろうという感じがしますけれども、費用に差があるということです。
 羊水検査はこの絵のとおりお母さんのお腹の中に針を刺して、羊水の中の赤ちゃんの皮膚の細胞を取るというものです。細胞の中に染色体があるのでそれを見ていくということです。母体血清マーカー検査は、通称クアトロマーカー検査というふうに言われていますが、さっきの説明と同じで、3つの疾患が対象でそれぞれの確率が出てくるということですが、特にダウン症候群の確率について妊婦さんのオリジナルの数字が出てきます。4つのホルモンの値を見るのでクアトロマーカーというんです。これは検査会社が決めた基準値というのがあって、それよりも高い場合は、あなたは陽性ですよ。つまりダウン症の子供が生まれる確率が高い、分母が小さければ低いというような話になってくるということです。
 それで検査後が大事だという話がさっきありましたが、もちろん検査後についても一緒に考えています。もし母体血清マーカー検査をやったらどうですか、例えばやったら検査会社の基準値より、あるいは検査会社の基準値じゃなくて、自分たちが考えている数字よりも確率が低かったらどうする、低かったらもう終わりにするのか。高かったらじゃあ羊水検査をするのか。そのあたりを考えてもらいます。それから羊水検査をやったとする。羊水検査をやったとして、羊水検査で染色体異常症がもし見つかった場合、じゃあ人工中絶をするのかという話です。これは中期の中絶になってきますから、その時期や方法の話をします。普通の出産と同じ形をとりますよというお話とか、法律の話ももちろんします。21週目かそれ以降になって中絶してしまったら堕胎罪でつかまりますというようなお話とか、あるいは中期の中絶をやっている施設が実際少ないというあたりも情報提供をしています。それから羊水検査をしてじゃあ染色体異常が見つからなかった場合は、これで元気な子が生まれるのかというあたりです。そのお話をしていきます。選択肢としてはマーカー検査をやる。あるいは羊水検査をする。あるいは何にもしないというような話があります。

遺伝カウンセリング:先天異常の頻度について

 それから、そもそも最後に皆さんにお話していますけれども、先天異常の頻度についてもお話をしています。そもそもどうでしょう。みなさんも一緒に考えてみてください。どれくらいの頻度でいわゆる先天的な生まれつきの赤ちゃんって生まれるんでしょうか。今100人赤ちゃんがいたとして、この子たちの中から例えば生まれてみたら目が見えなかったとか、耳が聞こえなかったとか、何らかの異常があったという場合、生まれてすぐわかることもありますけれども、生まれてすぐわからない。3歳ぐらいまで追いかけたとして、そしたらわかってくることもありますよね。2歳すぎになって歩き出したかなと思ったら転びやすくておかしいと思って病院に行ったら筋肉の病気だった、神経の病気だった、骨の病気、血液の病気、たくさんありますよね。実は染色体異常症だけじゃないですよねというお話をするんですが、ちょっと手を上げてみてください。今100人赤ちゃんが生まれたとして、この子たちを3歳までみていく。その際何らかの生まれつきの病気を持った子って何人ぐらい生まれるでしょうか。では1人も生まれないんじゃないか。いないですか。じゃ2人ぐらい生まれるんじゃないか。あれいないですか、3人生まれるんじゃないか。4人生まれるんじゃないか。5人ぐらいは生まれるんじゃないか。5人、え、もっと生まれる。すごいですね、皆さんこれどう考えたらいいんでしょうね。皆さん心配度が高いかも、それぐらいたくさん生まれると思ってらっしゃる方が多いということかもしれないですけど、実は大体5人ぐらい生まれるということがわかっています。
 ここにいらっしゃる方はわりと知っていらっしゃる方がいるかもしれないのですけど、大体印象で皆さんに聞いていると、1人もいないんじゃないですかと答える方が圧倒的に多いです。中にはものすごい心配症の人は、いや10人はいますねとか、それは心配しすぎですという人もたまにいますが、大体5人ぐらいなんです。20回お産があったら1回ぐらいの割合で何らかの問題を持った赤ちゃんが生まれるということですけど、大事なのはこの5人の内訳ですよね。どういう原因で生まれるかということです。
 この5人のうち実は半数の原因は不明です。赤ちゃんが生まれて何らかの問題があるという場合に半分ぐらいの人がわからないです。何か目線が合わないとか、筋肉が柔らかいとか、首が座らないとか、何かおかしなところがあるとなった場合に、例えば染色体検査をするということがありますけれども、この5人のうち半分の子たちに対しては、その染色体検査をしたところで染色体には何の問題もないという人たちです。そういう人たちが実は半分いるということです。それから5人のうちの1人については、母体内の環境の問題です。そういう問題から1人ぐらい生まれる。1人までいないですけれども、このことがあります。やっぱり女のせいかみたいになってきていますけれども、生物学的な差異があるというあたりでしょうか。それから5人中1人については、遺伝子の病気というのがあります。これは染色体にもかかわっている遺伝子の要因なのでもちろん羊水検査ではわからないですけど、そういう子も生まれます。これでどうでしょう。2.5、3.4、4.5人とほとんどきちゃったわけですけど、さあ染色体異常者はどこいったんだということですよね。染色体異常症は0.5人あるいは因子がちょっともうちょっと少ないとするともうちょっと上がるとしても0.5人から1人ぐらい、これぐらいの割合で染色体異常症の子供が生まれるというふうになっています。

遺伝カウンセリング:出生前にわかること・わからないこと

 何が言いたいかというと、羊水検査でわかることですよね。羊水検査が今ある出生前検査の中では一番精度は高いわけですけれども、この検査をもってしてもわかるところ、染色体異常症というのは1人ぐらいだというあたりです。こういう話をするわけです。クライエントの方の話ですけども、言葉や感想ですね。最後にこんなことを言ってくださる方が結構いらっしゃって、こういう言葉を聞くと私も遺伝カウンセラーやっていていいこともあるんだなというふうに思ったりするわけです。「子供が生まれること自体奇跡なんですね」っていうお話とか、あるいは「自分たちだけではどうにもなんなかったけど、今日話を聞いて十分に材料が揃った」ですとか、あるいは「軽い気持ちで羊水検査ただ受けに来ればいいのかと思っていたんだけど、そういうことじゃないんですね」、あるいは「羊水検査したら全部のことがわかると思っていたんですけど、これしかわからないんですか」というふうにちょっと怒り気味な人もいたりしますが、「医学はそれぐらいのものですかね」というあたりですかね。それからこの今日の話を聞いたら、「なんかその病気だけの話じゃないですよねというあたり、そういうことも気がつきました」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

遺伝カウンセリングのゴールとは

 最終的にじゃあどうするんだというあたりですけれども、私が担当している高齢妊娠の方々のなかで、検査したときに受けるという決断をした方は、大体半分ぐらいでしょうか。受けないと決断をした人も半分ぐらいでしょうか。本当に半々です。遺伝カウンセリングのゴールですけれども、私たち遺伝カウンセラーは、とりあえず来た方々の、その人たちが考えている背景、それから考えを慎重に丁寧に傾聴して共感の姿勢を示します。その上で必要な情報を必ず提供しています。そのことによって実際に来たクライエントの人たちが客観的に自分を評価すること、それから具体的な選択肢を検討してもらうこと、それからいったい自分は何が不安なのか、何が問題なのか。今後どうしたらいいのか、選択肢を考えることができるようになるんじゃないかなというふうに思っています。
 最終的にはクライエントが自分で納得して私が受けろとか受けるなとかそういうことじゃなくて、後悔のないような選択をしていただくために私たちがお手伝いをしているということです。本当にいろんな決断をされる方がいます。夫婦でみえる方なんかはこの私の話を聞いた後で、夫婦でけんかになっちゃう人もいるんです。ご主人のほうがもうどんな赤ちゃんでもいいじゃない、僕たちの子だよと言ったとすると、女性のほうが「あんた何言ってんのと誰が育てると思ってんのよ、もし障害があったらあんたは仕事ばっかりで私が全部やるの目に見えてるじゃない」とやる方もいらっしゃれば、逆にやっぱり女性のほうが「中絶がこんなことだと知らなかった、中期中絶はとてもできない。もう聞いた時点で自分はこの検査しない」という人もいます。だけど男の人のほうが「いやいやそんなこと言ってもし生まれちゃったらどうすんのよ実際」ということをおっしゃる方もいらっしゃるし、本当にいろいろな方々がいらっしゃるというあたりです。なんかちょっとまとまりがつかなくなってしまいましたが、長くなってしまったので、終わりにしたいと思います。

質疑応答

〈司会(松原洋子)〉ありがとうございました。それではお二人ほどちょっと質問を取りたいのですけれども。いらっしゃいますでしょうか。今の張さんのお話についてどんなことでも結構ですが。

〈来場者〉おもしろい話、興味深い話ありがとうございました。数のお話ですけど、さっき大体100人中5人ぐらい先天異常を持っているという話なんですけれども、これ女性のあるいは男性の年齢例えば40歳以上の高年齢出産だとどんな感じですか。

〈張〉これはここに書いてあるとおり、結局、高齢だからという話じゃないんです。高齢だけど高齢妊娠の人たちだけのデータで、男性のデータは、私は知りません。実際例えば原因不明だとか、体内環境の話や、ましてや遺伝子の話は年齢関係ないので。

〈来場者〉遺伝子は関係ないけど、染色体異常はかなりあるんじゃないですか。

〈張〉染色体異常症だけを見ていけば、多少もうちょっと上がるとデータ出しているところがあります。それから先天異常を、やっぱり私が今3歳までとしました。3歳まで見ていくと5人だと。それをやっぱり生まれてすぐだとすると、生まれてすぐわかるのは2〜3人ぐらいなんです。それを2人と考えれば2人のうちの4分の1ぐらいあるいはもうちょっとの割合で染色体異常だとなったら、確率が高くなるというふうに言えると思いますけど。

〈来場者〉でも実際は、クライエントの方々はこの辺で自分たちの母集団で、どういう確率があるかが知りたいんじゃないのかなと思うんですけど。

〈張〉もちろんもちろんそうですよね。それはそれでお話をしますが、最終的には年齢を問わずすれば、ここだという話は必ずしています。それから年齢だけではさっきちょっと飛ばしちゃいましたけど、一応こういう表もありますので、これもお見せしています。ただこれは分数なんですよ。母体血清マーカー検査で出てくる基準になる数字ということなんですけれども、これ分数で出てくるのでなかなかわかりづらい。つまり二十歳であればダウン症の子供が生まれる確率は1,600人に1人ぐらいなのが、例えばうちのクリニックに来る人が40歳の人が来たりして、100人に1人となると16倍高いのかみたいな話になってきて、びっくりするわけですけど。これあくまでも分数ですよ。なんというか私たち確率の話をするときになかなかこの分数で説明するのはあまりないかと思うので、パーセンテージで表示もしてみたりするんですけど、パーセンテージにすると実はどうでしょう。あまり変わらないという話になってきて、例えば40歳でクリニックに来た人がこれを見るとすごくびっくりするんです。100人に1人なのかって話になるんですけども、100に1つってパーセンテージにすると何パーセントですかねというような話をします。そうすると1パーセントだということになって、40歳の女性だけど99.0パーセントの人がダウン症じゃない人を産んでいますよということになりますし、じゃあ二十歳の人はどうなんだろうっていうのでこの計算をしてみていただければわかりますけど、これ99.9パーセントの人は二十歳であればダウン症じゃない子供を生んでいるっていう話になるんです。二十歳だと99.9パーセント、40歳だと99.0パーセント、0.9違うと言われたらそれまでなんですけど、そこはどうですかねというあたりですかね。

〈来場者〉まあ10倍になっていると言われる可能性もありますよね。

〈張〉そうですね。はい、いやだからそれをいやだから低いですよねという話ではなくて、それは皆さんの考え方だという話ですが。

〈来場者〉はいわかりました。ありがとうございます。

〈司会〉他にいかがでしょう。

〈来場者〉すみません。私も数字のところが多少気になってしまったので、2つほど。高齢出産のところで35歳以上というのは非常に話題になっていますけれども、いろいろな数値を見ていくたびに35歳というのは、要するにグラフでいうと極端にこう上がるところというふうには、私から見ると、そこまで見てとれないというのがひとつ。なぜそれが35歳という数字がどんどんメディアに出ていくのかというところと、あと100人のうち何人といった議論に関してその数字の中に人工中絶などで生まれてこなかった人というのは考慮されていないような気がするんですけれども、そこらへんについてお話をいただければと思います。

〈張〉はい。ありがとうございます。まず35歳が何だという話ですよね。大事な視点だと思いますが、これを見ていただくとわかりますけれども、さっき羊水検査の話をしたときに羊水検査にはリスクがありますという話をしました。羊水検査をしたことで要は針でさしますので、針をさしたことによって何らかの刺激が伝わっちゃって、例えば子宮が収縮しちゃって破水しちゃって赤ちゃんを流産しちゃう。そういうリスクのことですけれども、それが大体300から400件に1件ぐらいあるよという話をしました。それがまさに35歳でこのダウン症の子供が生まれる確率と、一致するところなんです。つまり20代のこの辺の人たちがダウン症、例えば羊水検査をするってなった場合にダウン症の子供が生まれる確率と羊水検査をして流産する率とどっちが高いんだって、天秤にかけるわけです。そうすると圧倒的に流産する、羊水検査して流産するリスクのほうが高くなるじゃないですか、20代の人たちは。リーズナブルじゃないということです。その点40代以上の人たちは、どうかというとダウン症の子供が生まれるリスクのほうが流産するリスク、羊水検査で流産するリスクよりも高くなるじゃないですか。リーズナブルだという話なんです。「リーズナブル」って意味があるという話ですよ。ちょうど35歳がリスクのかぶるところです。流産リスクと、ダウン症のそれがリスクというのかわからないですけど、そこが35歳となっています。それが高齢妊娠、羊水検査の適応というあたりです。それからごめんなさいもう1つは何でしたっけ。

〈来場者〉その100人の中に生まれてきた子供の、

〈張〉中絶ですね。そうです。実は中絶をしている人たちがどれくらいいるのかという数字は正確にはわかっていないんです。そこはちゃんと検証する必要があると思います。

〈来場者〉大学の教員です。今日はありがとうございました。遺伝カウンセリングの守備範囲についてちょっとお聞きしたいんですけれども。私は38歳で出産をしたんですけれども、そのとき超音波検査でクワトロ検査を進められて、結局しなかったんです。子供はダウン症なんですけれども、ダウン症の説明のところで皆さん結構事例にもクリティカルにおっしゃっていましたけれども、やっぱり私自身も検査をしないと決定をしましたけれども、いろんな仕事との両立もやっぱりありました。先ほどのダウン症の説明だけでは、本当のそういう不安が解消されないし、私は少なくとも出産までのところでそういう不安が軽くなったという認識はなかったです。私は遺伝カウンセラーの方にお会いすることはできなかったんですけれども、例えばその療育プログラムも自治体で違いますし、実際には仕事との両立が難しかったりとかすると思うんですけれども。そういうリアルなダウン症候群の生活とか、いろいろなプログラムとか保育園の事情とか学校の事情とかということは、その遺伝カウンセリングの範囲、守備範囲に入るのか。あるいはどこか他のカウンターパートと連携をして、つなぐような仕組みがあるのか。あったらすごくいいなというふうに聞いていて思いました。

〈張〉ありがとうございます。私も個人的についついここの部分に力を入れちゃうことがあって、ちょっと冷静にそれを聞いているスーパーバイザーの先生なんかに怒られたりするんですが、ちょっと情報が偏ってないみたいになっちゃうことがあるんですけれども、おっしゃるとおり別にそんないいことだけを言うつもりは全然ありませんが、だからといって全部についてダウン症の話をそこで講義しても始まらないので、一応ざっくりと大体すごくネガティブなイメージを持っていらっしゃる方がたくさんいらっしゃるので、そういう方たちに対しては少し軌道修正を、私たちがするわけじゃないですけど、必ずしもそうじゃないですよというあたりでお話はするように考えています。あとは全部のことは言えないので、本ですとかこういう家族会がありますとか、そういうことをちらっと紹介するというレベルで私はしているんですけれども。

〈司会〉ありがとうございました。それでは、とりあえず後にも質問の時間をとりますので、また聞きたい方は後でということでお願いします。では張先生どうもありがとうございました。

生存学研究センター報告

サイトポリシー | 個人情報保護方針 | サイトマップ | お問い合わせ
アクセシビリティ方針