まえがき

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まえがき

編者 大谷通高×村上慎司

 本報告書『生存をめぐる規範──オルタナティブな秩序と関係性の生成に向けて──』は,2013年度立命館大学生存学研究センター若手研究者研究力強化型プロジェクト「規範×秩序研究会」のメンバーを中心に執筆された.「生存学センター」の学問的課題のひとつに「生存をめぐる制度・政策」がある.本研究会は,この課題に取り組むかたちで,本報告書を編んだ.
 本研究会の出自は判然としない.たしかに,生存学(arsvi.com)のホームページ内の「規範×秩序研究会」http://www.arsvi.com/o/n07.htm に研究会の軌跡(旧研究会「刑法×死研究会」)が4年(2010〜2013年)に渡って記されているが,それは記録として残った経緯に依ったものである.そもそもこの研究会は,複数の独立した研究会が合流するかたちで成立したものであり,そのうちどれが主たる母体となっているかは,現在では判別できない(母体として考えられるのは「自由研究会」「責任論研究会」──ともに2005年に創設──,合流した研究会としては「リベラリズム研究会」「功利主義勉強会」などがある).メンバーそれぞれが,各々の研究活動に関心を抱き,各自で所属していた研究会に参加し結果として合流するかたちで当研究会は設立した.ゆえに研究会の起源も,その経緯についても記録が残してあるここ4年間のものしか示すことができない.
 こうした研究会の成立経緯からもわかるように,当研究会は先行する単一の学術上の目的にもとづいて設立された研究会ではない.メンバーの学際的な研究活動をそのままに,この研究会は設立された.本報告に掲載されている論文を見れば明らかなように,本研究会は多種多様な研究に彩られている.本報告は,死刑,修復的司法,差別,自殺,イノベーション,新聞報道,連帯と制度,リベラリズム,所得保障など,彩り豊かなテーマが織り込まれたものとなっている.
 本研究会は単一の学術上の目的がないために,そのメンバーは好きに勝手に,自由に,自主的に連帯して研究会を運営し活動を展開している.互いの自主性に応じて研究会の研究活動がなんとなしに連帯して展開される.たとえば,研究助成の申請についてなんとなしに皆で話し始め,書類の作成が研究会のメーリングリスト上でなされはじめる.しかし,一端書類作成がなされはじめると怒涛のようなメンバー間の加筆・修正の応酬がはじまり,数日のうちに申請書類が作成=生成されて,申請が達成されてしまう.万事がこうした調子であり,好きに勝手に自由に自主的に連帯して本研究会の研究活動はなされ,今回のセンター報告も刊行されている.
 このように書き連ねると,本報告書が,なんとはなしに適当につくられたように感じるだろうが,そうではない.かといって,先に書いた「生存をめぐる制度・政策」という生存学の掲げるテーマのために各自の研究テーマを捻出して論文集を作成するという意図のもとで編まれたわけでもない.いうなれば,メンバーそれぞれの研究が常に既に「生存をめぐる制度・政策」に関わるものであるため,本研究会の活動においてセンター報告の刊行は必定であった.
 よって,本報告書が生存学における上記テーマにいかなる形で寄与しているのかについては,当研究会の主題を説明することで果たせるであろう.研究会の主題は,それこそ研究会の名前となっている「規範×秩序」である.それは既存の多種ある規範や倫理の内実(法規範や生命倫理など)の解明やそれを支え維持する社会制度・慣習の構造(秩序)を検討するという意味も込められているが,なによりもメンバー各々の研究を行う所信の核として各自が有する規範観や秩序観をも批判的検討の対象とし,言語化・論証するという意志を反映したものとなっている.多種多様な研究活動を行うメンバーを貫く一つの核たる軸の現れとしての「規範×秩序」であり,それが研究会の名前となるのは,研究会の創設の経緯や運営・研究活動の様態を踏まえれば,これも必然である.新たな規範・秩序の創出・生成の場としての/に集う人たちによる「規範×秩序研究会」.ゆえに本報告書は,「生存をめぐる制度・政策」を支える規範的価値,秩序の構造の解明を図ること,それだけでなく,メンバーそれぞれが核心に据える生存に関する規範・秩序の観念を論証する試みとしてある.
 対象とする学問もまた研究会のメンバーによって,さらには検討テーマによって多彩である.研究会の活動においては社会学,歴史社会学,法社会学,哲学,政治哲学,法哲学,経済哲学,倫理学,生命倫理学,経済学,社会福祉学,マスメディア研究など,これら複数の学問領域の横断・交錯は当然のことであり,会におけるメンバーの研究報告およびその検討は多層的・多角的な視座からなされ,研究会での議論の度に各メンバーの研究内容は深化・進展し,吟味・新生した意味や価値がつぎつぎと発見・産出・再確認される豊穣な場となっている.
 これまで本研究会では,月1〜2回のテキストの輪読会,もしくはメンバーの研究報告を行ってきた.輪読会では,法哲学(瀧川裕英,H.L.A. Hart など),政治哲学(Ronald Dworkin,Martha C. Nussbaum,John Stuart Mill など),社会学(Niklas Luhmann,橋爪大三郎など)の文献を輪読し,規範と秩序に重要な役割を果たす責任概念や法システムの意味や構造を議論してきた.
 さらには,2011年度には,「リベラリズム研究会」・「ケア研究会」・「規範×秩序研究会」の合同研究会として「『フェミニズムの政治学──ケアの倫理をグローバルな社会へ』をめぐって──岡野八代先生を迎えて── 」を開催し,リベラリズムとフェミニズムの異同に照準を当てながらケアの倫理について議論する機会を設けた.それは『フェミニズムの政治学──ケアの倫理をグローバルな社会へ』の著者である岡野八代先生を招き,先生直々にご著書の執筆の背景と解題を行っていただくというなんとも贅沢な機会でもあり,そのなかで当研究会のメンバーが自身の研究関心に則ったかたちで指定質問をさせていただいた.その詳細は,HP(http://www.arsvi.com/a/20120327.htm)に掲載されているので,興味のあるお方はぜひともご覧いただきたい.
 そのような我々の研究会が,今回の報告書の執筆に着手したのは,2012年度からである.これまでの『生存学のセンター報告』において,規範の意味や制度そのものを検討したものが少ないことに対する問題意識を背景として,メンバー各々が考える生存を支える規範や秩序への構想を形にすることを目的とし,その執筆活動が始まった.昨年度から現在に至るまで,月に1度程度の研究会でメンバーの論文構想・草稿を批判的かつ生産的に検討し合い,さらには2年度にわたって夏季にメンバー間で集中的に論文構想・草稿を検討する機会を設けて(2012年度,2013年度)できあがったのが今回のセンター報告である.執筆者それぞれの核となる規範観や秩序観のたぎった本書が,我々と同じようなエートスでありながら,我々と異なりうる独自の核となる規範観や秩序観を持った読者の一助となれば幸いである.
 このたびのセンター報告の刊行に際して,多くの方々による直接的・間接的な支えがあった.各論文の完成には,立命館大学生存学研究センターの教員・事務局・関係者ならびに各執筆者の出身研究科・所属先の教員・事務局・関係者による指導・支援はもちろんのこと,国内外の学会や他の研究会の報告などで行われたフォーマルな質疑応答,懇親会や酒席でのインフォーマルな議論,友人・家族・パートナー・同居人(猫)といった親密圏でのコミュニケーションなどにも多くを負っている.そして,生活書院の高橋淳氏にも非常にお世話になった.各執筆者を代表して,編者から,これらの方々に厚くお礼を申し上げる.
 最後に,「ユニベール財団」の「『健やかでこころ豊かな社会をめざして』を基本テーマとした研究助成金」による援助を受けていることを付記し,感謝の意をここに示す.

生存学研究センター報告

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