あとがき

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天田城介


 本センター報告は,2007年度〜2011年度の5年間にわたって強力に推進してきた立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点(拠点リーダー:立岩真也)の院生プロジェクト「老い研究会」(http://www.arsvi.com/o/o01.htm)の研究成果の一部であり,また2012年度からは「ポストGCOE」のもとでのセンター運営と教育研究体制の再構築を整備してきた立命館大学生存学研究センター(センター長:西成彦)の若手研究者研究力強化型(2012年度)の成果の一部をまとめたものである.また,2012年度に限っては「プロジェクト型大学院」たる立命館大学大学院先端総合学術研究科における「ポストGCOE」の教育研究体制を再整備する必要があったため,研究科からも院生プロジェクト(2012年度)の支援を受けながら展開し,その成果としてまとまったものでもある.

 老い研究会は,2007年5月5日の第1回研究会からすでに5年以上継続的に研究会を開催してきており,2012年12月末日段階で第25回の研究会を数えている.
 その間にも,2010年3月25日(木)に立命館大学衣笠キャンパス創思館401・402で石井暎禧氏(社会医療法人財団石心会理事長),天田城介(立命館大学大学院先端総合学術研究科教員),市田良彦氏(神戸大学大学院国際文化学研究科教員),立岩真也氏(立命館大学大学院先端総合学術研究科教員)の4名が座談会形式で相互討論を行うインタビュー企画「過去を聞く/足場を知る/社会を構想する」を開催している.ちなみに,その後,市田良彦・石井暎禧『聞書き〈ブント〉一代』(世界書院,2010年10月25日)という戦後社会運動と老いをめぐる政策を検討する上で重要な著書が刊行されるが,本企画はまさにその著書の刊行に先駆けてきわめて有意義な研究会を企画・開催したものとなった.
その後,これまでの研究会の実績や各種企画の成果を踏まえ,天田城介・北村健太郎・堀田義太郎編『老いを治める──老いをめぐる政策と歴史』(生活書院,2011年03月25日)を刊行.詳細は後述するが,この本は立命館大学2010年度学術図書出版推進プログラム(代表:天田城介)を受けて刊行したものであり,COE体制のもとでのプロジェクト型教育の大きな成果の一つとしてまとめることができた.
 老い研究会が中心となって刊行した本書刊行後は,大岡頼光氏(中京大学現代社会学部教員)と圷洋一氏(日本女子大学人間社会学部教員)を招聘し,公開合評会企画「『老いを治める──老いをめぐる政策と歴史』の点検・批評」を2011年4月23日(土)に立命館大学衣笠キャンパス創思館401・402にて開催した.
 本センター報告は,言うなれば『老いを治める──老いをめぐる政策と歴史』の続編の著書刊行を目指し,その途中経過をまとめたものである.

 以上のように,老い研究会は「プロジェクト型大学院」たる先端総合学術研究科のもとでの「GCOE体制」のもと,あるいは2012年度からは「ポストGCOE体制」のもとでの教育研究活動の重要な「装置」であったため,研究会は強力に推進されながらも,社会人院生・専門職院生・遠隔地院生なども少なくなく,研究会の運営上の困難も少なくなかった.こうした複数の困難がゆえになかなか研究が思わしく進展しない中でも,多様な執筆者との丁寧かつ迅速なコミュニケーションを重ねて編集にあたった北村健太郎・小林宗之・谷村ひとみの各氏による多大な尽力のお陰で本センター報告を刊行することができた.その意味で,本報告書は編者たちによる文字通りの成果である.

 本来であれば,本センター報告の全体構成ならびに各章の内容を簡潔に紹介すべきだが,それらは本センター報告を直接通読していただくとして,「プロジェクト型大学院」たる先端総合学術研究科の「装置」としての老い研究会がどのように「作動」してきたのかについて簡単に記すことで老い研究会の達成した成果の意義と価値を明示しておこう.それは各論文それぞれが独自の意義と価値を持つということを越えて,院生主体の研究会を中心に研究することの意義と価値を指し示すものであり,それこそが私たちが目指す教育研究の核心でもあるからだ.この数年の軌跡をまとめることで2014年9月までには刊行を予定している老い研究会の成果本の意義をより明確に位置づけておこう.

 繰り返すが,天田城介・北村健太郎・堀田義太郎編『老いを治める──老いをめぐる政策と歴史』は2007年度から運営してきた老い研究会の成果の一部として刊行したものである.本書は立命館大学グローバルCOEプログラム「「生存学」創成拠点──障老病異と共に暮らす世界へ」の副題にある「障老病異と共に暮らす世界へ」の「老」に関する主題をこれまでにない新たな視座から分析した研究である.本書は副題にあるように「老いをめぐる政策と歴史」であるが,それはこれまでの社会政策学や社会保障論のように「老人福祉制度」「介護保険制度」「高齢者医療制度」「年金制度」のように個別の主題を対象にするのではなく,高齢者政策全体を射程にその歴史を記述すると同時に,その理論的視座としても主題の「老いを治める(Governing Aging)」にあるように,未曽有の超高齢化を遂げつつある日本社会における「統治」という観点からの国内初めての研究となった.これは従来の社会福祉学や社会政策,更には社会学などでも提示されていない,私たちンプロジェクトによってこそ設定し得た斬新な視点である.言わば「人びとがいかにして生存してきたのか」という歴史的観点からそのもとでの「統治」を描き出した,「生存学」の理論的立脚点に立つ研究の成果となっている.
 なお,本書は社会学者の好井裕明氏(筑波大学大学院人文社会科学研究科教員/現日本大学文理学部教員)から「生存学という広大な実践のなかで,老いを主題とした日本の政策と歴史をめぐる一つのまとまった成果」であり,「生硬な印象を受ける一方で,その生硬さを内側からぶち破っていき,自らの言葉や論理が紡ぎだされるとき,そこから放たれる迫力やエネルギーへのひそかな期待を感じてしまう」と評価された(『そよ風のように街に出よう』81号,2011年5月).中村義哉氏からも『週刊読書人』(2011年 6月10日号)にて評価を受けた.むろん,まだまだ課題山積のプロジェクトではあるが,それでも「生存学」という理論的視座なくしては生産されなかった本であることは間違いない.
 なお,本書に執筆した当時大学院生であった渋谷光美,牧昌子,田島明子,有吉玲子のいずれもが,その後優れた博士学位請求論文により博士号を取得し,大学院を修了した(うち大学教員2名,1名は本学研究員,1名は専門職として病院勤務).また,当時立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェローであった編者の北村健太郎・堀田義太郎はその後も著書等を刊行し,着実なキャリアパスを形成している(1名は本学生存学研究センター特別招聘教員,1名は本学研究員).その意味で,文字通り「老い研究会」とは,社会人院生・専門職院生・遠隔地院生を含めた多様な院生が一堂に集まり,「生存学」という理論的視座のもとで研究を遂行することを通じて,自らの博士論文を完成させると同時に,大きな射程の中で研究展開を実践し,自らのキャリアパスを形成していくという「装置」になっているのである.
 本センター報告は,たんに院生主体の小さな研究会による成果を細々とまとめたものではない.また,それはたんに老いに関する学術的貢献にとどまらず,学際的に自らの抱えた主題を丁寧かつ真摯に受け止めながら,専門領域を超えて研究を進めていくための装置の成果の一つである.こうした学的試みが組織的かつ体系的に行われることによって通常の研究会や学会などではカバーできない主題群の学的プラットフォームを創出・形成し,そこから新たな知を産出していくのである.その意味で,今回のセンター報告もその一助となってくれることを祈るばかりである.

 なお,老い研究会に教員として関わってきた天田は2011年3月に刊行した『老いを治める』以降も毎年度プロジェクトに関わる著書を刊行してきている.
 2012年3月には,天田城介・村上潔・山本崇記編『差異の繋争点──差別を読み解く』(ハーベスト社,2012年3月10日)を刊行.こちらは,立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点の大学院生主体のプロジェクトである院生プロジェクト「地域社会におけるマイノリティの生活/実践の動態と政策的介入の力学に関する社会学研究」(略称:マイノリティ研究会)の成果の一つとして刊行したものである.この「マイノリティ研究会」の経緯の詳細はホームページ(http://www.arsvi.com/o/m02.htm)を参照されたいが,2009年6月より始まった同プロジェクトは2012年10月末まで継続的かつ発展的に展開してきた.なお,この本についても,いったん2010年11月に山本崇記・高橋慎一編『「異なり」の力学──マイノリティをめぐる研究と方法の実践的課題』(生存学研究センター報告14,立命館大学生存学研究センター発行)を中間的な成果報告として公刊した上で,さらに大きく「発展」させようと試みたものであり,『生存学研究センター報告』の刊行→著書刊行という進展によってその学術論文としての完成度を高めるように試みている.ちなみに,この本も大学院生と教員が約2年間にわたって月1回以上のペースで研究会を重ねることで刊行した大変丁寧なコミュニケーションのもとに完成した書籍である.
 この本の達成は,先ほどの老い研究会の成果に対応させて表現するならば,「「生存学」創成拠点──障老病異と共に暮らす世界へ」の「障老病異と共に暮らす世界へ」の「異」に関する研究成果となっている.これまで「マイノリティ研究」と呼びうる研究の多くは,「マイノリティ」と総称される人びとが被っている差別を照射し,その中での連帯や協働の可能性や抵抗していく運動の実践を描き出さんとしてきた.しかしながら,本書では,「マイノリティ」はまさにその置かれている過酷な状況ゆえに,自らが生きていくがために,生存するがために,「マイノリティ」の中で差異が生じてしまったり,相互の葛藤・対立が生じてしまう現実があることを解明した初めての試みになっている.もちろん,部分的にはそのような記述はなされてきたが,きちんとそれらが書籍としてまとめられることがなかった理由としては,マイノリティ間の力学や政治を描き出さんとすることはまさに研究自体によって「マイノリティ」の人たちの対立を生じさせてしまうがゆえに回避されてきた部分があるためでもある.そのため,この本では研究者と当事者との間で研究倫理に基づく大変丁寧かつ慎重なコミュニケーションを取りながら,2年以上の歳月をかけて完成させてきた.その意味で,「マイノリティ」と呼ばれる人たちはいかに生存せざるを得ないかという「生存学」ならではの新たな理論的視座を提示すると同時に,これまでにない方法論上の枠組みをも指し示すことに成功した研究になっている.
 なお,本書についても社会学者の好井裕明氏(筑波大学大学院人文社会科学研究科教員/現日本大学文理学部教員)から『週刊読書人』2012年6月号にて「本書は,現代社会の差別に指向する新たな視座を提示する優れて意義のある論集」と極めて高く評され,その他の媒体でも高い評価を得ることができた.

 2013年3月には,天田城介・角崎洋平・櫻井悟史編『体制の歴史』(洛北出版,2013年3月31日)を刊行する.この本は,2008年11月から継続的に展開している,立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点の院生プロジェクトである「歴史社会学研究会」の成果を結実させるものである.歴史社会学研究会の経緯の詳細はホームページ(http://www.arsvi.com/o/shs.htm)を参照されたいが,2008年11月より始まった同プロジェクトは2012年10月末まで継続的かつ発展的に展開してきている.なお,本書も,いちど,2012年3月に角崎洋平・松田有紀子編『歴史から現在への学際的アプローチ』(生存学研究センター報告17,立命館大学生存学研究センター発行)を中間的な成果報告として公刊した上で,さらに大きく「発展」させようと試みたものである.『差異の繋争点』同様に,『生存学研究センター報告』の刊行→著書刊行というスタイルにてプロジェクトを進めたものなのだ.この研究会も大学院生と教員が約2年間にわたって月1回以上のペースで研究会を重ねることで刊行した,大変丁寧なコミュニケーションのもとに完成した書籍である. なお,本書は2012年度後期先端総合学術研究科出版助成制度の支援を得て刊行されるものであることを付記しておく.
 この本の研究上の到達点は,立命館大学グローバルCOEプログラム「「生存学」創成拠点」の【Ⅰ 集積と考究】をまさに「生存学」の理論的視座を共有しながら教員・院生・修了生・PDが一体となって完成させた成果である.この本の主題にあるように「体制の歴史」はこれまで国民国家を前提にした歴史であるか,あるいは制度や政策の水準で記述されることが多かった.あるいは特定の人物に照準した研究であっても史資料が収集可能な名の知れた人物に限定されていた.もちろん,民俗学や社会学などで市井における「名もなき人びと」の歴史は描出されてきたが,それでもその行動様式や慣習などにその射程は焦点化されてきた傾向にあった.それに対して,この本はそれぞれの時代において人びとがいかにして生存し,生きる術を身につけてきたのか,あるいは生きる仕組みのもとにいたのか,それはいかなる体制のもとにあったのかということを解明しようとした国内外で初めての研究である.特に,生業を含めた労働体制,貸付を含めた生活保障体制,生きていく人たちが困難な人たちの生活再建・生存確保のダイナミクス,マイノリティの人たちの複雑な政治のもとでの自己表明など,その主題はさまざまであるが,「生存学」の一貫した理論的視座からその「体制の歴史」を解明した本として完成することができた.言うなれば「生存の体制の歴史」を描出したことこそが本書の達成した到達点となる.

 以上のような成果産出のスタイルのもとでの老い研究会の成果が本センター報告である.今後は,「装置」の順作動としてこれらをもとに著書が生まれていくことになる.

 最後に,本センター報告の編集の労をとってくれた北村健太郎・小林宗之・谷村ひとみの各氏に心よりお礼を申し上げたい.本センター報告が読まれるべきものになっているのは,編者二人による惜しみない貢献と努力のお陰である.ちなみに,編者たちは研究会の運営のみならず,各論文の形式面・内容面の点検を適切かつ的確に遂行し,生活書院との連絡・調整も適切かつ迅速に行ってくれた.
 そして決して忘れてはならないのは,立命館大学生存学研究センターの事務局スタッフの皆さんの日頃からの多大なるご尽力である.常に労を惜しまず働いてくださっている生存学研究センターのスタッフの方々にこの場を借りて心よりお礼申し上げます.誠にありがとうございます.

 なお,「まえがき」でも言及しているが,2007年から開始した老い研究会は,立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点(2007〜2011年度,拠点リーダー:立岩真也)をはじめ,科学研究費補助金若手研究(B)「戦後日本社会における〈老い〉と〈高齢化〉をめぐる表象と記憶の政治」(2008〜2011年度,代表:天田城介),立命館大学2010年度研究推進プログラム「戦後日本社会における批判精神の連続性──もう一つの高齢者医療福祉をめぐる歴史」(2010年度,代表:天田城介),立命館大学研究推進プログラム「老いの戦後史──戦後における高齢者政策を可能にした政治経済体制と批判精神による変容」(2011年度,代表:天田城介),立命館大学生存学研究センター若手研究者研究力強化型(2012年度)および立命館大学大学院先端総合学術研究科院生プロジェクト(2012年度)の研究成果の一つであることも付記しておきたい.

 「あとがき」が冗長になりすぎたが,読者の皆さんには,「本文」をぜひとも通読・熟読していただくことで本センター報告の面白さを感じてもらえればと切に願う.また,このセンター報告を介して著書として発表する刊行物に期待していただければと思う.

生存学研究センター報告

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