老齢基礎年金と特別徴収および 対象としない基準額の理論的検証  ──老齢基礎年金から天引きされる住民税・社会保険料負担が意味するもの

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牧昌子


はじめに

 現在,65歳以上の高齢者の老齢基礎年金から社会保険料および住民税が特別徴収(天引き)という方法で賦課・徴収されている.さらに,特別徴収には対象としない基準額が年額18万円(月額1万5千円)と定められている.特別徴収とは,住民税や社会保険料を本来の納税義務者から直接徴収するのではなく,老齢基礎年金(老齢福祉年金を含む)を支払う事業者(特別徴収義務者)が税金や保険料を代わって預かり,徴収すべき税額や保険料を納入させる方法である.
 本章は,特別徴収と特別徴収の対象としない基準額に視点をあてて,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金とを関連づけて理論的検証を行うことを目的とする.
 わが国の税法体系は,日本国憲法を頂点として第30条で「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負う」と納税の義務を規定し,第84条で租税法律主義の原則を定めている.地方税に関しては,租税条例主義がたてまえとされているため,第84条「新たに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律または法律の定める条件によることを必要とする」の「法律」の部分を「条例」と読みかえて適用される(北野弘久 1983: 105).その一方で日本国憲法25条第1項では「すべて国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する」,第2項で「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上増進に努めなければならない」と国民の生存の権利と国の社会的使命が謳われている.筆者は,本来ならこれらの憲法をもとに納税の義務と社会保障の給付と負担の整合性が図られなくてはならないと考える.
 特別徴収は,2000年に開始された介護保険制度から導入され,介護保険法施行令41条で特別徴収の対象となる老齢基礎年金基準額を年額18万円(月額1万5千円)と定められ,2005年度の介護保険法改正では,65歳以上の障害・遺族年金にも拡大され(遺族年金や障害者年金には公租公課が禁止されているため普通徴収であった),これらの年金からも保険料が天引きされることとなった.介護保険料は,本人が無年金などで収入がない場合でも保険料が賦課される仕組み上,特別徴収ができない者には,市町村が個別で徴収する普通徴収という方法が採られ,世帯主や配偶者にも介護保険料の連帯納付義務が課せられている.介護保険における特別徴収の対象者は被保険者の90%となっており,2008年4月から開始された後期高齢者医療保険にも介護保険同様の基準で導入され,つづいて,10月から65歳以上75歳未満の国民健康保険にも導入された.さらに2009年度から個人住民税にも採用された.したがって現在では,介護保険料,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料,住民税が特別徴収の対象となっている.これらのうち,介護保険料,住民税は強制適用,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料は,本人の申請によって振替納税等が認められている.この特別徴収の対象としない年金額18万円(月額1万5千円)は,どのような理由で定められたのだろうか.
 伊藤周平によれば「1996年段階で, 介護保険法を審議していた医療保険福祉審議会でこの基準額を年額36万円とする案で審議がなされていた.ところが,保険者である市町村側からの効率化の要望から最終的に第1号被保険者の8割をカバーできる水準として年額18万円に引き下げられた経緯があった⋯⋯この基準額が被保険者の生活の保障という観点ではなく,実務的,政策的観点からのみ設定されたこと.介護保険料訴訟判決では,高齢者の収入源は年金だけでないこと,特別徴収の非対象者にも連帯負担義務が課せられているなどの理由で当該基準の定めを違憲ということはできないと判示に留まっている」.続いて伊藤は「介護保険法は,65歳以上の高齢者を生活保護受給者も含め第1号被保険者として保険料負担を求めた点で,従来の社会保険制度には見られない構造をとっている. 特に低所得者への保険料の賦課徴収の仕組みが現在の高齢者の生活実態を無視している」(伊藤 2009: 29, 67)と述べる.
 また,特別徴収については,第1号被保険者に該当する高齢者の怒りと不満を集め「介護保険料一揆」ともいわれる集団不服審査請求運動へと拡大した経緯もあった.
 本章で取り上げる特別徴収および対象としない基準額と住民税,社会保険料の賦課・徴収の問題は,納税の義務と社会保険料負担義務が強調されているものの,社会保障である生活保障としての老齢基礎年金の位置づけとの整合性が欠落している点にある.もちろん,長い人生を経てきた高齢者に関する共通的・基本的な考察は難しいし,個人としての微視的把握は千差万別で,基礎年金以外の収入やこれまでの人生で蓄えられた資産を所持している人も存在するだろう.これらを踏まえて,老後の生活問題とは,すなわち,労働力=稼働力の喪失であり,そのために年金制度が整備されてきたのである.
 社会保障が所得保障を中核とする場合,年金と生活保護が存在する.年金には,拠出を伴うものと無拠出の老齢福祉年金がある.仮に,無拠出の老齢福祉年金が全ての高齢者に一律平等に支給され,その額が最低生活を賄うに足る額であれば生活保護は必要としない.老齢福祉年金と生活保護との関係では老齢加算等で1)整合性が図られた経緯があるが,拠出を伴う基礎年金と生活保護,老齢福祉年金等の整合性は図られてきたのだろうか.とはいえ,介護保険は老齢福祉年金も特別徴収の対象とされているので,これは「社会保険方式の限界」(伊藤 2009: 75)ともいえる.あるいは「本来,社会保障の基本的な観点は,いうまでもなく働く国民の暮らしと健康を国家責任を軸に社会的に保障するということであるが, 1973年の「福祉見直し」は, 1970年最後の年に再集約された「日本型福祉社会」によって国家責任をはずそうとする観点であり, 社会保障の観点ではなくなっている」(真田是[1971]2012: 98)ともいえる.
 基礎年金の前史は,1959年の老齢福祉年金の導入,年金の加入期間の通算制が実施され,1961年の国民年金の創設によって形の上では国民皆保険体制が整備された.1985年には,国民年金,厚生年金,共済年金等のすべてに共通する老齢基礎年金が導入され, 年金制度の土台が固められた. 基礎年金は, 第1号,第2号,第3号被保険者に区分され,加入期間25年以上の者に65歳以上から支給され,40年拠出で満額支給となる.現在の老齢基礎年金は,拠出を伴うもので,40年間支払った人でも年額788,900円(月額65,741円)であり,基礎年金の平均額は4〜5万円程度である.
 一方,高齢者の医療に関しては,1973年から老人医療費の自己負担無料化(所得制限を伴う70歳以上の高齢者,1974年からは65歳から69歳までの寝たきりの高齢者については公費負担)が図られた.1983年には自己負担無料化が廃止され,老人保健法による老人保健制度に改正された.2000年4月から老人保健の医療以外の分野が措置制度から契約制度へと転換し,保険主義による介護保険制度に変わった.2008年4月からは,老人保健制度を廃止して75歳以上の高齢者を対象として従来の医療保険制度とは別建ての後期高齢者医療保険制度が創設されるという変遷をたどっている.
 高齢者はわがまま,若い世代のことを考えていないなどといわれそうで意見も出さず,わずかな年金を唯一の貴重な収入としている人も多い.老齢基礎年金は,あまりにも低額であるにもかかわらず,社会保障としての社会保険料負担が重すぎるなど,特別徴収はさまざまな矛盾を孕んでいる.
 以上の問題意識から,本章は,最初に現在の人口構造の変化を表示する. 次に老齢基礎年金の沿革と老齢福祉年金の関係を明示し,特別徴収の基準額がどのような経緯で定められたかを対象額の基準の根拠を老人保健福祉部会の議事録をもとに確認する.その上で,現状の後期高齢者医療保険料の滞納者,無保険者の実態を掲げて特別徴収の問題点を検討する.最後に民主党政権下での社会保障,税の一体改革の改正内容を掲げて検討を加える.

1 人口構造の変化

 総務省統計局は,65歳以上を高齢者と定義する.2012年9月15日,敬老の日を前にした総務省統計局の推計によると,65歳以上の高齢者人口は,3,074万人となり,初めて3,000万人を超え、総人口に占める割合も24.1% と過去最高を更新した.前年(2,972万人,23.3%)に比較すると102万人増加している状況は,いわゆる団塊の世代のうち,1947年生の第一次ベビーブームに生まれた者が,新たに65歳に達したことよるもので,こうした団塊の世代は今後も次々と65歳以上となり,いわゆる2015年問題が現実味をもって現出する.男女別では,男性の高齢者は男性人口の21.2%(1,315万人),女性の高齢者は女性人口の26.9% (1,759万人)を占めており,男性は5人に1人,女性は4人に1人以上が高齢者であり,2035年には,3人に1人が65歳以上になると予想されている.こうした現状を踏まえて,2012年9月7日,閣議決定した高齢社会大綱は,高齢期に向けた備え等について人生90年時代を前提とした仕組みに転換させる必要があるとし,意欲と能力のある高齢者には社会の担い手となると同時に支えが必要となった時には周囲の支えにより自立し,人間らしく生活できる尊厳のある超高齢社会を実現させていく必要性を目的に掲げている.
 また,上記の高齢者のうち,2012年8月の後期高齢者医療保険の非保険者数は,1,487万1,268人で前年度より41万1,437人,2.8%増加している.年齢階層別では,75〜79歳は596万6,353人,80〜84歳は,443万201人,85〜89歳は264万1,669人,90〜94歳は108万6,382人,95〜99歳は31万人,100 歳以上が49,224人である.そのうち,現役並み所得者数は,982,778人におよぶ2) .
 その一方で,人口減少が進んでいる. 厚生労働白書によると2050年に人口が半分以下になる地域が現在の居住地域の6割を占め,2割が無居住になる可能性がある.2012年4月1日の子ども数は1,665万人で前年に比べて12万人減少し,1987年から31年連続の減少となり過去最低を更新している(総務局統計局).家族の在り方の変容の特徴は,3世代同居の減少,高齢独居世帯の増加が著しく,世帯主が65歳以上の世帯は,1970年では96万世帯(全世帯の3%)であったものが,2010年度は1,081万世帯(全世帯の20%)となっている.この1,081万世帯の高齢者は,生きているかぎり経済的自立が求められ,夫婦2人世帯の場合,年齢によっては1世帯で国民健康保険料,介護保険料2人分,後期高齢者医療保険料など4つの社会保険料が特別徴収され,その残額で医療の窓口負担を支払い,介護が必要となれば自らが介護サービスを選択して,その費用を支払わなければならない.

2 国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係性

 本節では,老齢福祉年金および国民年金の沿革を述べる.
 わが国の国民年金制度は「国民年金法」の規定に基づき1959年4月16日,法律第141号として制定され,国民年金法の成立により無拠出の老齢福祉年金が設けられた.1961年4月から拠出制の国民年金が施行され,通産年金通則法が実施されたことで各制度の加入期間を通算することができ,仕組みとしては国民皆年金体制が確立した.これとは別に現に生活に困っている人には,生活保護法による生活扶助がある.
 前者の無拠出制の老齢福祉年金は,受給者に事前の拠出義務がなく,所得が一定限度に達しない者に限って支給され,収入テストを条件に支給されていた.1975年には,受給要件として,事前に受給者またはその使用者に拠出義務がないもの,あるいは雇用の実績が受給要件になっていないものを意味するようになった(黒住章・中鉢正美・松本浩太郎 1975: 70).老齢福祉年金は,国民年金制度が発足した当時(1961年4月),既に高齢であったために老齢年金の受給資格期間を満たすことができない者に対して支給される年金で,70歳から月額1,000円が支給された.1973年には月額5,000円で,この年金額は孫にアメ玉を買う程度という意味でアメ玉年金と呼ばれた.ただし,他の年金を受給している人や,本人・配偶者に所得がある人は制限がある.
 その対象者は○1明治44年4月1日以前に生まれた人が満70歳に達した時,○2明治44年4月1日以前に生まれた人,○2明治44年4月2日から大正5年4月1日までの者で保険料納付済み期間が生年月日に応じて下表期間を超えている者である.
 福祉年金の対象者は2008年には1万2千人で2012年度には8千人となり,年金額は年額402,900円,月額33,575円である.
 後者の国民年金は,月額100円ずつ25年間加入すると,65歳から年額2万4千円が支給されるもので月額にすれば2千円にしかならなかった.35歳以上は,月150円ずつ10年〜15年未満の納入後,1万4千円が支給されるとされた.しかし,途中で死亡した場合には掛け捨てとなる問題や,当時は保険料も支払えない貧困層が700万人〜800万人も存在した.これらを改善して死亡時には一時金で還元すること,本人が希望すれば60歳から減額支給すること,保険料滞納者には差し押さえをしないこと等の修正が行なわれた.1973年に,拠出期間10年間で夫婦月額2万5千円,拠出5年間で月額1万6千円,1975年に厚生年金は9万円年金となったが,国民年金は夫婦で7万5千にしかならなかった.これらの経過から,1985年改正ですべての国民に共通する基礎年金(老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金)が導入された.基礎年金は,25年で受給資格ができ,支給開始は65歳とし,年金額は40年加入の完全年金で月額5万円という原則が設けられた.基礎年金には,自営業者,公務員,専業主婦,学生の区別なく原則として20歳以上,60歳未満の者が加入し,その種類によって,第1号,第2号,第3号に分かれ,第1号被保険者は,自営業者,学生などで保険料は定額制,第2号被保険者は民間サラリーマン,公務員などの被用者で保険料は1階部分と2階部分を合わせて支給される.第3号被保険者は,専業主婦など第2号保険者の被扶養配偶者で保険料負担はない.
 年金額は,生活保護との整合性の観点から国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるという国民との約束があり,基礎年金が発足した当時から政府の課題とされてきたのである(牧 2012).

3 特別徴収の問題点と特別徴収としない対象額の決定の経緯

 基礎年金から特別徴収と特別徴収しない対象額が年額18万円(月額1万5千円)と定められた背景にはどのような根拠があったのだろうか.本節では,特別徴収としない対象額の決定について,介護保険制度創設段階での議事録を掲げて検証する.

 3.1 年金からの特別徴収と特別徴収しない対象額の最初の決定
介護保険法は1997年に制定,2000年4月から実施された.この制度で初めて年金から自動的に天引きされる特別徴収方法が採用され,第1号保険料の特別徴収しない対象額が年額18万円と法定された.
 1998(平成10)年,厚生省は老人保健福祉局の審議会で議論を重ね,介護保険料の徴収方法に特別徴収を採用すること,特別徴収の対象としない額を決定している.以下では,議事録に掲げられた議論の経過からこれらを検証する.
 第17回老人保健福祉部会議事録要旨3)では,年金からの特別徴収の議論は,高井介護保険制度施行準備室長の説明と出席議員で実施されている.ここでは,その議論の一部を掲げて検討する.

○1年金額が一定以下の場合,天引きしないということであるが天引きされなくても普通徴収で保険料を徴収するわけだから被保険者の利便や事務手続きの簡素化という点からも合理的な徴収をした方がよい(成瀬委員).
○2天引き対象の金額を低めて効率的で徴収率が上がるような仕組みを作るべきではないか,特別徴収対象額の方も,最終的に普通徴収になる.月額の年金支払額3万円以上,年額36万円の案であると,約30%が普通徴収事務の対象となるので検討していただきたい(堀江委員).
○3保険者側の立場からいうと,たとえ月額の年金額が1万円でも特別徴収していただきたい.無年金者や低所得者の方の対応も並行して論議をしていただきたい.そうしないと切り捨てになって,介護保険にも入れない,介護も受けられないという形になる. 福祉の面で救われる道を考えることにならないか(野中委員).
○4天引きの対象額をもっと下げて集めやすくするのが原則ではないか,また,老齢福祉年金,遺族年金,障害年金は,法律で控除規定があるから天引きできないが,国民皆保険という立場から法律を変えてでも保険料を徴収する形でないとおかしい.保険料徴収事務を合理化してコストを下げる必要がある(喜多委員).

 上記の指摘に対して高井室長は「保険料の水準も関係するが,どこまで年金の趣旨をなくすことなく天引きできるか,年金額が低い老齢福祉年金の額を考慮した⋯⋯滞納者対策については,財政安定化基金のような制度もつくり, 保険料未納の場合には運営に支障がないようなことも考えている」と述べている.この議論の後,以下のような意見が述べられている.

○5保険料を集める立場と支払う側の利害が明らかに異なるが,特に少ない年金受給者は手元に必要な時もあるから年金天引きの対象は3万円ぐらいが妥当ではないか(京極委員).
○6保険者側として,年金天引きの対象額を下げてほしいということはわかるが,年金受給者からすべて保険料を天引きしていくのはやや強制的な性格を持たせてしまう.理念の問題と実務の問題をクロスするところに大変な問題がある.3万円の事務局案が妥当ではないか(多田羅委員).
○7遺族年金とか障害年金は,100万円位受給している方もいる⋯⋯36万円という限度を設けるなら,法律改正をして,遺族年金,障害者年金からも36万円以上の人からももらえるようにするのが公平なあり方ではないか.天引きされない30%の方の保険料を国や県が面倒を見るなら結構である.市町村が行なうシステムを作りながら,格好のいいところだけで線を引くのは勝手すぎる.保険財政の運営に支障がないように基金などで運営することについては,基金は借りたら返さなければならない.3万円という線を引くなら支援体制をつくってほしい.基金で面倒をみるということでは受けるわけにはいかない(野中委員).
○8単に保険料を納めるだけの問題ではなく,高齢者が介護を必要となった時にどれだけの負担がかかるかという問題があって,その中に保険料が含まれていると考えなければいけない.介護サービスを受ける場合,介護費用費の1割を負担し,その他に特別養護老人ホームであれば,今まで徴収されなかった食費,日用品費等,負担が加わる.これに月額 2,500円の保険料が加わり,介護保険のサービスが利用できることになる.保険料を負担できない方,そのために場合によって生活保護になる方もいる.そのことの対策も並行して論じなければならない.あえて被保険者の立場からは,3万円を下げるということは問題が大きすぎる(中坊委員).

 これらの議論について,室井室長は以下の答弁を行なっている.

 生活保護世帯の保険料は,第1段階で適用することになっているので,各市町村の基準額の保険料の半分,5割の保険料となる.生活保護の保険料分は,生活保護法の生活扶助費として支給される. その保険料の徴収については,課題があり検討中である⋯⋯基本的には田畑という資産を見るのではなく,市町村民税の課税状況に応じて保険料をいただく.田畑から収入があれば,課税状況も変わり,結果として保険料が変わってくることもある.

 上記の議論では,特別徴収という賦課・徴収の方法は決定されたものの特別徴収しない対象額は,年額36万円(月額3万円)に留まっている.ただし,遺族年金, 障害年金を対象とする意見や,介護保険から特別徴収されると,介護保険サービスを受給する場合の負担との関係で,生活保護に陥る可能性が指摘されている.
いずれにしても,介護保険制度を市町村運営とすることには財政上の困難性があり,高齢者の収入源は年金だけではないことが意識され,ここでは述べられていないが,特別徴収の非対象者には, 連帯負担義務が課せられているという背景があったのではないだろうか.

 3.2 特別徴収しない対象額の最終決定

 それでは,特別徴収としない対象額が年額36万円(月額3万円)から18万円(月額1万5千円)となったその根拠はどのような理由であったのだろうか.
 1998年11月26日の医療保険福祉審議会,第20回老人保健福祉部会,介護保険法施行令案の「諮問書」の議事録要旨4)では以下の意見が述べられている.
 高井室長は「国の負担金は20%,調整交付金は全国ベースでみると5%で合計25%である.調整交付金は,後期高齢者数とか,所得状況に応じて各市町村ごとに率を変えて行くことになっているので総額では国が5%負担することになる」と説明している.以下で議事録による議論を掲げる.

○1 第1号被保険者の設定では,生活保護世帯は最低ランクに位置づけられているが,生活保護世帯や障害年金,遺族年金を受給している人の方が,生活が安定しており,老齢福祉年金を受給している人などは3〜4万円程度の収入しかないのが現状である.生活保護世帯は,保険料も利用者負担も国庫が持つのに老人は1割負担もしなくてはならない.これでよいのか問題点を感じざるを得ない.公租公課の禁止条項などはこの機会に思い切って外し,きちんと天引きができる処置をお願いしたい.それが無理なら月額1万5千円以下の年金受給者であっても本人が承諾をした場合には事前に天引きをするというような付帯事項つけていただきたい.財政安定化基金は,国と都道府県で2分の1ずつ負担することを検討されたい(野中委員).
○2天引き徴収されるのは月額4万円以上の受給者と言われたが,その後,3万円以上と説明されていた.それが,本日突然,年額18万円(月額1万5千円)という数字が示された.年金の種類による矛盾は感じられるが老齢福祉年金の受給者は決して少ない数ではなく,無年金者もいる.もらっているのだからそこから天引きすればという安易な考え方であれば,年金とは一体何であるか,われわれは,年金を一方的に国から与えられるものとは考えていない.法律によって強制的に年金から天引きされることになった経緯について疑問があるが法律として決まった以上はやむをえないと考えている.今まで3万円以上と言われてきたがその根拠は何か,また,今,1万5千円となったのは収納率の問題なのか伺いたい(見坊委員).

 これらの意見に対して高井室長は,以下のように述べている.

年金との関係については,1カ月3万円ということで提案させていただいた時は,効率的な収納面と年金の趣旨であった.年金の趣旨では老齢福祉年金は,1カ月3万4千円余りということもあり,3万円として7割ぐらいの方が特別徴収の対象になることでこれまで提案をしてきたが,収納を進めるという観点からこれをより多い範囲で対象になるようにというご指摘からである.そういう点で,対象を7割から8割ぐらいにしようということで水準を考えた.年金の趣旨については,1カ月1万5千円という水準は,敢えていえば,1カ月の保険料が数千円となると見込まれているが,それが引かれた後でもある程度の額は年金として残っている水準ということで,引いたものである.

 この回答に対して,平成10年12月2日,医療福祉部会第21回老人福祉部会議事要旨5)で見坊委員6)は,以下の意見を述べている.

老齢福祉年金額以下の年金額の受給者については,任意加入時の問題があり,老齢福祉年金が出ない,遺族年金のみになるという者で,該当者は,大体主婦,妻が非常に多い.また,離婚した女性の問題がある.それからカラ期間が長くて受給資格がある人というのは⋯⋯多くは女性である.
非常に不利益を被っている上に,わずかな年金を唯一の収入にしている.勿論,年金だけでは生活できないため,やりくりをし,支援があるが,そういう者から特別徴収することは,社会の常識に反することではないか.介護保険料の支払い,利用者負担,食費その他日用品の負担が必要になってくるため, 年金のなかで自由になるお金をいくら残すのか,3万円が半分の1万5千円になるのは年金の趣旨に反する.年金は高齢者が自分の意思で使うことができる唯一の貴重な収入であり,仮に施設入所しても月額3万円は最低必要ではないか.月額1万円でも特別徴収してほしいという意見があるが,無年金者とか低所得者を切り捨てることが容認されるのであれば,介護保険制度の趣旨に反することになる.

 見坊委員は医療福祉審議会第22回(12月9日)で「年金というものが,公租公課を禁止した趣旨を改めて勉強する必要性と,どうせ取られるものであるという考え方なら,たぶん国民健康保険料も直ぐに天引き徴収の対象になるかも知れない」7)と述べている.

 これらの経緯からみると,年額18万円(月額1万5千円)は,「表2」で提示した老齢福祉年金の半額よりも低い年金を残すことを基準に決定され,同時に障害・遺族年金対象者からも賦課・徴収する意図があったと考えられる.介護保険制度は走りながら考える, 考えながら走るという試行錯誤で出発し,3年ごとに5年を1期として見直されるとされたが,特別徴収と徴収の対象としない対象額はその後も変更されないまま,むしろ,見坊委員の指摘したように,2008年4月から後期高齢者医療保険料に介護保険と同様の基準で特別徴収制度が導入され,10月から国民健康保険料にも導入され,2009年度からは,住民税までもが対象となった.
 伊藤は,介護保険料訴訟最高裁判判決で特別徴収制度が著しく合理性を欠くということはできず,経済的弱者を差別したものではないとされたことについて「憲法25条・14条に違反しないとしている⋯⋯特別徴収の問題は,特別徴収という保険料の徴収方法を採用したことの合憲性の問題に収斂される」(伊藤 2009: 64)と指摘する.
 これらの観点から,老齢福祉年金および少額な老齢基礎年金受給者は,月額1万5千円しか受給できない可能性があり,国民健康保険料あるいは後期高齢者医療保険料を普通徴収で支払うことは不可能である.これは介護保険料が機械的に引き上げられても容認せざるを得ないことや実質的な年金の引き下げを意味する.

4 後期高齢者医療制度と特別徴収

 2008年4月から,1983年から継続されてきた老人保健制度を廃止して,75歳以上の高齢者に対する別建ての医療保険制度,後期高齢者医療保険制度が新設された.本節では,後期高齢者医療制度の創設過程を検証し,現状の保険料と保険証の差し押さえの実態を提示して特別徴収の問題点を検討する.

4.1 後期高齢者医療制度ができるまで
 後期高齢者医療制度創設は,1977年に高齢者の医療費が増える対策が必要であるという発想が出発点であった.この出発点には,福祉元年と呼ばれる1973年の老人医療費の無料化があった.当時は高齢者の通院回数が増え「待合室のサロン化」,同じ病気でいくつもの病院にかかる「梯子受診」,営利優先の病院による「乱診乱療」が問題視され始め,老人医療費は急増,高齢者が多く加入する市町村単位の国民健康保険の財政が圧迫されるようになった.こうした状況から厚生省は,老人医療費の無料化の改革を検討しはじめ,1977年に老人を国保から切り離して別建ての制度とする現在の後期高齢者医療制度と同様の考え方が提唱され始めた.しかし,当時の日本医師会の武見太郎会長が「老人姥捨て山構想」と批判し,この構想は頓挫したという歴史的経緯があった.これらの議論の末に創設されたのが1983年の老人保健制度である.
 老人保健制度は市町村が運営主体となり,老人の健康づくり,老人医療費をサラリーマンの健康保険組合や公務員の共済,市町村国保がお金を出し合う拠出金制度を導入するという仕組みの2本柱で,高齢者の自己負担は外来400円から徐々に上がり,その後も医療費は伸び続け,1987年には,医療と介護の中間施設として老人保健施設が創設された.
 1989年には,「これからの高齢社会を活力のあるものとするため税」を第一に掲げた消費税(3%)が導入され,翌年の1990年には,消費税導入に合わせて福祉八法改正が行なわれた.これらの税制改革と社会保障の連続性は,社会福祉構造改革と呼ばれる介護保険法の(1997年)制定であり,老人保健制度の医療等以外の分野が従来の措置制度から契約制度へと転換し,市場化を伴った保険原理による介護保険制度が2000年度からスタートした.さらに橋本龍太郎政権による6大改革構想が打ち出され,消費税率が3%から5%に引き上げられ,うち1%が地方税に振り分けられた.
 2001年からの小泉純一郎政権では,サラリーマン本人の窓口負担を2割から3割に引き上げを決定,現役世代の保険料が支える高齢者医療を含めた抜本改革の必要性から,新しい高齢者医療制度の創設を2年以内に実行することが約束事項となった.
 厚生労働省の2002年の試案は○1厚生労働省(坂口力厚労相)の高齢者も従来の制度に加入したまま制度間でお金のやり取りをする案○2自民党の独立型案の2つの方法案が提案された.しかし,厚生労働省案は老人保健制度と本質が同じであることから2003年3月,医療改革の基本方針が閣議決定,65歳から74歳までの前期高齢者の医療費は,厚生労働省案の異なる保険制度の間でお金のやり取りをする仕組みで支え,75歳以上の後期高齢者については自民党の独立案を採用するという内容であった.
 厚生労働省の意図は,2025年度の医療給付費56兆円から48兆円への抑制で70歳〜74歳の高齢者の負担を1割から2割への引き上げであった.
 2006年5月17日,自民・公明両党は医療制度改革関連法案を衆院厚生労働委員会で採決,両党による賛成多数で可決した.すでに「現役並み所得」概念が導入され,この所得層への公費を負担しないこととし,老年者控除廃止などによる「現役並み所得」判定基準改正が実施された.
 2008年4月1日から退職者医療制度および老人保健制度を廃止して,前期高齢者財政調整制度(65歳〜74歳)および後期高齢者医療制度(75歳以上)が創設された.後期高齢者自身が別建ての医療保険に切り離される実感や世の中がこの制度に気づいたのは2008年4月からで,新しい保険証が手元に届き始めてからであった8).

 4.2 後期高齢者医療保険料の特別徴収の揺らぎ
 このような経過から出発した75歳以上の約1,300万人が加入する後期高齢者医療保険制度は,初回の4月15日には保険料天引き額や対象者を誤るミスが各地で相次ぎ,2008年6月13日,2カ月分の保険料が特別徴収,すなわち,年金から天引きされた.2008年4月に続いて2回目は,国民健康保険から移った約830万人が対象であった.2回目も修正が間に合わず過大徴収してしまうケースが18道県の40市町村で計2,753件生じる見込みとなった.対象者には連絡して徴収しすぎた分は後日返還する等の方法が採られるなど新制度をめぐる特別徴収の混乱が続いた.2回目の特別徴収を控えた2008年6月12日,政府は○1特別徴収(年金から天引き)を免除し,世帯主が肩代わりで納付○2低所得者への負担軽減等を盛り込んだ運用見直し策が採られたが,3回目(8月15日)までの特別徴収は4月と同じであった.特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれた.福田康夫首相は,首相官邸で記者団に対して「高齢者の気持ちを心ならずも傷付け,配慮も欠けていた点は率直にお詫び申し上げる」と陳謝し,「持続可能な制度でなければならない.元の(老人保健)制度に戻せば大混乱を来す」と述べ,運用見直しを通じて新制度の定着に努めることとされた9).
 結果,後期高齢者医療保険料では,低所得者保険料軽減措置を拡充して,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替での支払い,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者の口座振替での「肩代わり納付」が可能となった.ただし, いずれも加入者本人の申請が必要とされた10).

4.3 後期高齢者医療保険料の差し押さえ実施状況と都道府県別保険料
 特別徴収等の混乱などを招きながら導入された後期高齢者医療保険は,低年金や無収入でも75歳以上の全員に保険料が賦課され,全額免除となるには厳しい制約がある.後期高齢者医療保険料の加入者8割(2010年)は,特別徴収制度によって保険料が賦課され, 年額18万円未満の老齢基礎年金受給者などは,普通徴収で支払う.保険料は都道府県単位の医療費に応じて2年ごとに改定され,全員に均等に課される均等割と所得に応じて課せられる所得割の合計額が保険料となる.また,後期高齢者医療保険制度には高齢化が進むにつれて際限なく上げられる保険料の仕組みが内包されている.そのため,保険料が支払えず滞納し,有効期限の短い短期保険証に切り替えられた高齢者が2万人を超え,年金などの差し押さえを受けた人が2010年度では全国で1,792人にのぼることが厚生労働省(2012年3月4日)の調査で明らかにされた.
 表3は,2010年度で実施された都道府県別の滞納処分の実施状況である.
 表3では,被保険者の差し押さえ人数が多いのは東京都の148人,広島県の129人,大阪府・島根県の119人などである.一方,青森,宮城,秋田,山梨,奈良,徳島,宮崎の7県では0人で,全国の差し押さえに関わる滞納額は1億8,907万円にのぼる.北海道では預貯金や年金が差し押さえられるケースもあり,その額は1件で114円,4,000円,8,000円などのわずかな額の差し押さえが行なわれている.東京都内では年金2カ月分の振り込みと同時に差し押さえられているケースもある.滞納処分の対象者は,特別徴収の対象者以外の年額年金が18万以下で普通徴収の対象者などと考えられる.
 表4の2012年〜2013年度の都道府県別の平均月額後期高齢者医療保険料では,2010年〜2011年度に比べて全国平均で5.9%(312円)上がり,5,561円,年額では3,744円の負担増しとなった.平均保険料が引き下げられたのは岩手,千葉,新潟,福井の4県で,引き上げ幅の大きいのは徳島の13%,宮崎の10.7%,9%台は栃木,群馬,東京,富山,三重,滋賀,奈良,愛媛,高知県などである.
 介護保険制度で導入された特別徴収は,後期高齢者医療保険料, 国民健康保険料(税),住民税におよぶ. 以下でそれぞれの特徴をまとめておこう.

4.3.1 後期高齢者医療保険の特別徴収
 後期高齢者医療保険の特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれる.また,創設当初の誤徴収の経過から,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替での支払いや,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者に口座振替での「肩代わり納付」も可能となった.したがって,後期高齢者医療保険は特別徴収が強制的に実施されることにはなっていない.ただし,特別徴収としない場合は加入者本人の申請が必要とされた.

4.3.2 国民健康保険料の特別徴収
 国民健康保険料の特別徴収は,2010年10月から開始された.ただし,国民健康保険料で滞納していない者は,これまでの国保料と同様に口座振替によって賦課・徴収される.ただし,この場合も納付方法変更の申請を行なわないと特別徴収の方法で賦課・徴収となる.

4.3.3 住民税の特別徴収(京都市)
 住民税は地方税法改正により,65歳以上の公的年金受給者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者は,平成21年10月支給分の公的年金から原則として社会保険庁などの公的年金の支払者が市・府民税を引き落とし,市に納入する方法(特別徴収)に変更されることとなった.
 たとえば京都市の場合,個人の市・府民税は,税金を負担する能力がある者全てが均等の税額を治める均等割と,その人の所得に応じて納める所得割の合計額が賦課される.個人の府民税は京都府の税金であるが,納税義務者や課税所得金額などが個人の市民税と同じであるため,京都市が個人の市民税と合わせて課税・徴収し,京都府へ払い込む方法が採られている.
 従来,65歳以上の者の年金所得に係る市・府民税は納付書や口座振替で納める方法であった.給与収入のある者は,給与所得に係る市・府民税とも,給与の支払者が給与から特別徴収する方法によって納められていたが,老齢基礎年金から特別徴収に改正された.特別徴収の対象者は,その年度の初日(4月1日)現在,老齢基礎年金等から介護保険料が特別徴収されている年金が対象とされた.ただし,障害年金,遺族年金は住民税が非課税であるため除かれる.
対象者は,老齢基礎年金を受給している65歳以上の者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者である.対象除外者は○1基礎年金の年額が18万円未満の者○2介護保険料が年金から特別徴収されていない者○3特別徴収される税額が老齢基礎年金等の額を超える者とされている.
 このようにして,介護保険,後期高齢者医療保険,国民健康保険,住民税までもが特別徴収に切り替えられた.とはいえ,介護保険以外の医療保険は,それぞれに条件が定められているため,実質的に特別徴収が強制的に実施されているのは,介護保険と住民税となっている.

5 民主党政権での見えにくい社会保障と税制の一体改革の動向

 本節では,民主党政権が自民党政権へ交代する直前までの社会保障と税制の一体改革の流れを述べる.
 野田佳彦首相が政権公約を捨ててまで重視した消費税率引き上げ(2014年4月から8%,2015年10月から10%)等を柱とした社会保障・税一体改革関連法案が2012年6月26日の衆院本会議で民主・自民・公明・国民新党等の賛成多数で可決,同日中に参院に送付された.可決された関連法案のうち,民主・自民・公明の3党合意を踏まえて提出された「社会保障制度改革推進法案」では,今後の高齢者医療制度などを議論する国民会議の設置,「年金機能強化法案」では,短時間労働者の社会保険適用を2016年10月から拡大することが盛り込まれた.しかし,消費税率法案を可決するために民主・自民・公明の3党合意という手法が採られたため,政府案であった消費税増税を掲げた税制法案から税体系全体の再分配を回復するというくだりや,所得税の最高税率を40%から45%に引き上げるという条項等が削減された.
 社会保障分野では,最低保障年金,給付つき税額控除,後期高齢者医療制度廃止などが棚上げされ,社会保障・税一体改革関連法案に「社会保障制度改革推進法案」がもちこまれ,社会保障の基本に自助・共助を据え公助の適切な組み合わせを留意しつつ,国民が自立した生活を営むことができるよう家族相互の助け合いの仕組みを通じて実現を支援するとされた.その一方で,社会保障の公費負担は,消費税を主要な財源と位置付けて,国民に消費税増税か社会保障の削減かの二者択一を強いるものであった.
 民主党政権以前の自民党政権下での税制改正では,所得税における配偶者特別控除上乗せ控除廃止を皮切りに,老年者控除廃止,公的年金等控除の最低保障額が引き下げられた(2005年).同時に,恒久的減税の縮減・廃止(2005・2006年),住民税が累進税率から比例税率に改正された(2007年).これらのうち,老年者控除の廃止は,高齢者の課税最低限を引き下げ,「現役並み所得」の算定基準の改正に接合されながら後期高齢者医療保険料の財政構造を形成した.民主党政権下での子ども手当との関連で,年少扶養控除の廃止とも関連して,2013年度から国民健康保険料,国民健康保険税の所得割の算定方式が「所得」から基礎控除以外の所得控除を非該当とする「旧ただし書き方式」へ統一される11)(牧 2012 : 175).
 これらの改正に加えて民主党政権では,「復興特別税」として臨時増税が2013年1月から実施される.復興特別税とは利子所得や事業所得などすべての所得が対象で所得税額の2.1%を特別に徴収する.所得税の課税される期間は,2013年1月から2037年12月までの25年間で,個人住民税は2014年度から10年間,住民税の均等割額が年間1,000円(都道府県500円,市町村500円)引き上げられる.その一方で,民主党の政権公約に掲げられていた所得控除のうちの扶養控除が子ども手当となり,最後に児童手当に整理され,2011年度改正で野党からの反対で先送りされていた「成年扶養控除」(扶養控除のうち,23歳〜69歳の扶養親族がいる者を対象とした所得税,住民税の所得控除)の縮小が,2013年度の税制改正大綱に盛り込まれる可能性がある12).配偶者控除廃止は,2009年の衆院選の政権公約に掲げられ,2012年度改正では最大の懸案であったが2014年4月に消費税率を8%への引き上げを控え,2013年度の税制改正での実施の議論は先送りされた.
 ところで,企業の法人税は2012年4月から約3%の復興特別法人税が付加されているが,法人税の実効税率は40%から35%に引き下げられている.今後3年間は,約3%の復興特別法人税が付加されているため現状の法人税実効税率は約38%であるが,3年を経過すると法人税の実効税率は35%に戻る.法人税率の上げ下げは,法人税が実質的に3%引き下げられることを意味しており,2014年度から消費税率が8%へ引き上げられこととの矛盾がある.
 また,公的年金の給付水準は,前年の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む)を基準に毎年度改定される.そのため物価上昇時は増額し,下落時は減額されることとなっている.しかし,1999年〜2001年に物価が下落したのに2000年〜2002年度の給付を特例で据え置き,現在も本来の水準より高い水準で給付しているとして,2013年10月から3段階で減額する国民年金法改正案が民主,自民,公明などの賛成多数で可決した.この引き下げは3段階で実施され, 最初に2013年10月分から1%の減額, 2014年4月分から1%,2015年4月分から0.5%と合計2.5%が引き下げられる.2013年10月分の国民年金(満額)では,月額666円減って64,875円となる.厚生年金(平金的年収で40年間会社員と専業主婦の妻)は2,349円減の22万8,591円で最終的には, 国民年金で月1,675円(年20,100円),厚生年金で月5,900円(年70,800円)減額となる.このような社会保障と税の一体改革が次々に打ち出されている中で,2012年11月16日,野田総理は突如,衆院解散を宣言し,衆院総選挙が12月4日に公示され,12月16日に実施されることになった.前日11月15日,衆院本会議で民主,自民,公明などの賛成多数で2015年度まで赤字国債を自動的に発行できる公債特例法案が可決,参院の財政金融委員会でも可決された.これによって,国会のチェックなしに赤字国債が自動的に発行できる赤字国債自由化が決定したのである.
 これらの社会保障と税制の一体改革は,2013年度以降,次第に個人の生活に影響をもたらすことが考えられる.特に国民年金から引き下げられた場合,低年金者の特別徴収後,手もとに入る年金額で国民健康保険料・後期高齢者医療保険料を支払うことができるのであろうか.

むすびにかえて──今後の課題

 本章は,老齢基礎年金から特別徴収される住民税および社会保険料,さらに特別徴収としない対象額が年額18万円と定められた経緯を確認し,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金の理論的検証を行うことを目的とした.
 第1節では人口構造の変化を述べ,少子高齢社会の現状を確認し,第2節で国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係を押えた.第3節で老人保健福祉部会議事録から特別徴収と特別徴収の対象としない年金額が年額18万円(月額1万5千)と決定した根拠を確認した.特別徴収の対象としない額は,当時の老齢福祉年金半額以下を基準とされた背景には8割の徴収率を確保するという目的と同時に障害・遺族年金対象者も介護保険料の徴収の対象とする意図があったと考えられた.
 これらの背景には,老齢基礎年金は,高齢者は年金だけが収入源ではないこと,特別徴収非徴収者にも連帯負担義務が課せられること, 最低収入の高齢者は生活保護でカバーされているはずであるという観点から, 介護保険料訴訟最高裁判決では,特別徴収制度が著しく合理性に欠くことができず,経済的弱者を差別したものではなく憲法25条・14条に違反しないという決定がなされている(伊藤2009).しかし,都道府県別の後期高齢者医療保険の滞納処分は,保険料の増減率と関連して普通徴収でも支払えない高齢者の存在を表明している.
 第5節で掲げた民主党政権での社会保障と税の一体改革での老齢基礎年金が引き下げは,特別徴収そのものが実質的な老齢基礎年金の引き下げであることが看過されている.これは,拠出を伴う年金があまりにも低額であること,保険料の過重な負担と合わせて憲法30条の納税の義務と憲法25条の生存権の整合性が問われなければならないだろう.
 2012年12月16日,民主党政権から自民・公明党政権に変わった.民主党政権での社会保障と税の一体改革が自公政権でどのように展開されるか,その動向を見ながらボーダーライン層の高齢者の税および社会保険料負担と社会保障の関係の検証を行うことを今後の課題とする.


[注]
1)生活保護を受給している高齢者に老齢加算部分を老齢福祉年金に見合うよう引き上げて,扶助額に上積みして支給された(黒住・中鉢・松本 1975:34).
2)社会保険実務研究所(2012b).
3) 厚生労働省(2009a).
4)厚生労働省(2009b).
5)厚生労働省(2009c).
6)見坊和夫委員は,当時,全国老人クラブ連合会副会長.厚生省委員名簿(老人保健福祉部会)に掲載されている(厚生省 2009d).
7)厚生労働省,医療保険福祉審議会第22回老人保健福祉部会議事要旨.
8)『京都新聞』2012年10月24日朝刊.
9) 『朝日新聞』2008年4月22日朝刊.
10) 『京都新聞』2008年6月13日朝刊.
11)老年者控除廃止と医療保険制度改革の連続性は国保料(税)の「旧ただし書き方式」につながっている(牧 2012).
12) 『京都新聞』2008年6月15日朝刊.

[文献]
伊藤周平,2009,「国民健康保険・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』44: 27-81.
北野弘久,1983,『憲法と税財政』三省堂.
黒住章・中鉢正美・松本浩太郎編,1975,『老齢保障論』有斐閣.
真田是,[1971]2012,「現代民主主義と社会保障」総合社会福祉研究所編,『真田是著作集〈2〉社会保障論』福祉のひろば,50-89.
社会保障実務研究所,2012a,『新・国民健康保険基礎講座』創美堂.
────,2012b,『週刊国保事務』2883,2012年12月10日付.
牧昌子,2012,『老年者控除廃止と医療保険制度改革──国保料(税)「旧ただし書き方式の検証」』文理閣.
渡辺喜久造,1957,『税の理論と実際』日本経済新聞社.

[URL]
伊藤周平,2009,「国民健康保険料・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』,(2012年10月30日取得,http://handle.net/10232/14200).
厚生労働省,2009a,1998年10月12日,「医療保険福祉審議会第17回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp /shingi/s9810/s1012-1_17.html).
────,2009b,1998年11月26日,「医療保険福祉審議会第20回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9811/s1126-2_17.html).
────,2009c,1998年12月2日,「医療保険福祉審議会第21回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9812/s1202-3_17.html).
────,2009d,1998年12月9日,「医療保険福祉審議会第22回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9812/s1209-2_17.html)
────,2009e,1998年4月28日,「委員名簿(老人保健福祉部会)」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s1028-4.html).



 牧昌子

はじめに
現在,65歳以上の高齢者の老齢基礎年金から社会保険料および住民税が特別徴収(天引き)という方法で賦課・徴収されている.さらに,特別徴収には対象としない基準額が定められている.
本章は,特別徴収と特別徴収の対象としない基準額に視点をあてて,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金とを関連づけて理論的検証を行うことを目的とする.
わが国の税法体系は,日本国憲法を頂点として第30条で「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負う」と納税の義務を規定し,第84条で租税法律主義の原則を定めている.地方税に関しては,租税条例主義がたてまえとされているため,第84条「新たに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律または法律の定める条件によることを必要とする」の「法律」の部分を「条例」と読みかえて適用される(北野 1983: 105).日本国憲法25条第1項では「すべて国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する」,第2項で「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上増進に努めなければならない」と国民の生存の権利と国の社会的使命が謳われている.筆者は,本来なら憲法をもとに納税の義務と社会保障の給付と負担の整合性が図られなくてはならないと考える.
近年,高齢者の住民税や社会保険料が特別徴収という方法で賦課・徴収されている.特別徴収とは,住民税や社会保険料を本来の納税義務者から直接徴収させるのではなく,老齢基礎年金(老齢福祉年金を含む)を支払う事業者(特別徴収義務者)が税金や保険料を代わって預かり,徴収すべき税額や保険料を納入させる方法である.
特別徴収は,2000年に開始された介護保険制度から導入され,介護保険法施行令41条で特別徴収の対象となる老齢基礎年金基準額を年額18万円(月額1万5千円)と定められた.2005年度の介護保険法改正では,65歳以上の障害・遺族年金にも拡大された(遺族年金や障害者年金には公租公課が禁止されているため普通徴収であった).これらの年金からも保険料が天引きされることとなった.介護保険料は,本人が無年金などで収入がない場合でも保険料が賦課される仕組み上,特別徴収ができない者には,市町村が個別で徴収する普通徴収という方法が採られ,世帯主や配偶者にも介護保険料の連帯納付義務が課せられている.介護保険における特別徴収の対象者は被保険者の90%となっており,特別徴収は2008年4月から開始された後期高齢者医療保険にも介護保険同様の基準で導入され,10月から65歳以上75歳未満の国民健康保険にも導入された.さらに2009年度から個人住民税にも導入された.したがって現在では,介護保険料,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料,住民税が特別徴収の対象となっている.これらのうち,介護保険料,住民税は強制適用,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料は,本人の申請によって振替納税等が認められている.特別徴収の対象としない年金額18万円(月額1万5千円)は,どのような理由で定められたのだろうか.
伊藤周平によれば「1996年段階で, 介護保険法を審議していた医療保険福祉審議会でこの基準額を年額36万円とする案で審議がなされていた.ところが,保険者である市町村側からの効率化の要望から最終的に第1号被保険者の8割をカバーできる水準として年額18万円に引き上げられた経緯があった⋯⋯この基準額が被保険者の生活の保障という観点ではなく,実務的,政策的観点からのみ設定されたこと.介護保険料訴訟判決では,高齢者の収入源は年金だけでないこと,特別徴収の非対象者にも連帯負担義務が課せられているなどの理由で当該基準の定めを違憲ということはできないと判示に留まっている」と述べられている.続いて伊藤は「介護保険法は,65歳以上の高齢者を生活保護受給者も含め第1号被保険者として保険料負担を求めた点で,従来の社会保険制度には見られない構造をとっている. 特に低所得者への保険料の賦課徴収の仕組みが現在の高齢者の生活実態を無視している」(伊藤 2009: 29,67)と述べる.
また,第1号被保険者に該当する高齢者の怒りと不満を集め「介護保険料一揆」ともいわれる集団不服審査請求運動へと拡大した経緯もあった.
本章で取り上げる特別徴収およびその基準額と住民税,社会保険料の賦課・徴収の問題は,納税の義務と社会保険料負担義務が強調されているものの,社会保障である生活保障としての老齢基礎年金の位置づけとの整合性が欠落している点にある.もちろん,長い人生を経てきた高齢者に関する共通的・基本的な考察は難しいし,個人としての微視的把握は千差万別で,基礎年金以外の収入やこれまでの人生で蓄えられた資産を所持している人も存在するだろう.これらを踏まえて,老後の生活問題とは,すなわち,労働力=稼働力の喪失であり,そのために年金制度が整備されてきたのである.
社会保障が所得保障を中核とする場合,年金と生活保護が存在する.年金には,拠出を伴うものと無拠出の老齢福祉年金がある.仮に,無拠出の老齢福祉年金が全ての高齢者に一律平等に支給され,その額が最低生活を賄うに足る額であれば生活保護は必要としない.老齢福祉年金と生活保護との関係では老齢加算等で1)整合性が図られた経緯があるが,拠出を伴う基礎年金と生活保護,老齢福祉年金等の整合性は図られてきたのだろうか.介護保険は老齢福祉年金も特別徴収の対象とされているので,「社会保険方式の限界」(伊藤 2009: 75)ともいえる.また,「本来,社会保障の基本的な観点は,いうまでもなく働く国民の暮らしと健康を 国家責任を軸に社会的に保障するということであるが, 1973年の「福祉見直し」は, 1970年最後の年に再集約された「日本型福祉社会」によって国家責任をはずそうとする観点であり, 社会保障の観点ではなくなっている」(真田是 1971: 98)ともいえる.
基礎年金の前史は,1959年の老齢福祉年金の導入,年金の加入期間の通算制が実施され,1961年の国民年金の創設によって形の上では国民皆保険体制が整備された.1985年には,国民年金,厚生年金,共済年金等のすべてに共通する老齢基礎年金が導入され, 年金制度の土台が固められた. 基礎年金は, 第1号,第2号,第3号被保険者に区分され,加入期間25年以上の者に65歳以上から支給され,40年拠出で満額支給となる.現在の老齢基礎年金は,拠出を伴うもので,40年間支払った人でも年額788,900円(月額65,741円),基礎年金の平均額は4〜5万円程度である.
一方,高齢者の医療に関しては,1973年から老人医療費の自己負担無料化(所得制限を伴う70歳以上の高齢者,1974年からは65歳から69歳までの寝たきりの高齢者については公費負担)が図られた.1983年には自己負担無料化が廃止され,老人保健法による老人保健制度に改正された.2000年4月から老人保健の医療以外の分野が措置制度から契約制度へと転換し,保険主義による介護保険制度に変わった.2008年4月からは,老人保健制度を廃止して75歳以上の高齢者を対象として従来の医療保険制度とは別建ての後期高齢者医療保険制度が創設されるという変遷をたどっている.
高齢者はわがまま,若い世代のことを考えていないなどといわれそうで意見も出さず,わずかな年金を唯一の貴重な収入としている人も多い.老齢基礎年金は,あまりにも低額であるにもかかわらず,社会保障としての社会保険料負担が重すぎるなど,特別徴収はさまざまな矛盾を孕んでいる.
以上の問題意識から,本章は,最初に現在の人口構造の変化を表示する. 次に老齢基礎年金の沿革と老齢福祉年金の関係を明示し,特別徴収の基準額がどのような経緯で定められたかを対象額の基準の根拠を老人保健福祉部会の議事録をもとに確認する.その上で,現状の後期高齢者医療保険料の滞納者,無保険者の実態を掲げて特別徴収の問題点を検討する.最後に民主党政権下での社会保障,税の一体改革の改正内容を掲げて検討を加える.

1 人口構造の変化

総務省統計局は,65歳以上を高齢者と定義する.2012年9月15日,敬老の日を前にした総務省統計局の推計によると,65歳以上の高齢者人口は,3,074万人となり,初めて3,000万人を超え、総人口に占める割合も24.1% と過去最高を更新した.前年(2,972万人,23.3%)に比較すると102万人増加している状況は,いわゆる団塊の世代のうち,1947年生の第一次ベビーブームに生まれた者が,新たに65歳に達したことよるもので,団塊の世代は今後も次々と65歳以上となり,いわゆる2015年問題が現実味をもって現出する.男女別では,男性の高齢者は男性人口の21.2%(1,315万人),女性の高齢者は女性人口の26.9% (1,759万人)を占めており,男性は5人に1人,女性は4人に1人以上が高齢者であり,2035年には,3人に1人が65歳以上になると予想されている.こうした現状を踏まえて,2012年9月7日,閣議決定した高齢社会大綱は,高齢期に向けた備え等について人生90年時代を前提とした仕組みに転換させる必要があるとし,意欲と能力のある高齢者には社会の担い手となると同時に支えが必要となった時には周囲の支えにより自立し,人間らしく生活できる尊厳のある超高齢社会を実現させていく必要を目的に掲げている.
また,上記の高齢者のうち,2012年8月の後期高齢者医療保険の非保険者数は,1,487万1,268人で前年度より41万1,437人,2.8%増加している.年齢階層別では,75〜79歳は596万6,353人,80〜84歳は,443万201人,85〜89歳は264万1,669人,90〜94歳は108万6,382人,95〜99歳は31万人,100 歳以上が49,224人である.そのうち,現役並み所得者数は,982,778人におよぶ2) .
その一方で,人口減少が進んでいる. 厚生労働白書によると1950年に人口が半分以下になる地域が現在の居住地域の6割を占め,2割が無居住になる可能性がある.2012年4月1日の子ども数は1,665万人で前年に比べて12万人減少し,1987年から31年連続の減少となり過去最低を更新している(総務局統計局).家族の在り方の変容の特徴は,3世代同居の減少,高齢独居世帯の増加が著しく,世帯主が65歳以上の世帯は,1970年では96万世帯(全世帯の3%)であったものが,2010年度は1,081万世帯(全世帯の20%)となっている.この1,081万世帯の高齢者は,生きているかぎり経済的自立が求められ,夫婦2人世帯の場合,年齢によっては1世帯で国民健康保険料,介護保険料2人分,後期高齢者医療保険料など4つの社会保険料が特別徴収され,その残額で医療の窓口負担を支払い,介護が必要となれば自らが介護サービスを選択して,その費用を支払わなければならない.

2 国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係性

本節では,老齢福祉年金および国民年金の沿革を述べる.わが国の国民年金制度は「国民年金法」の規定に基づき1959年4月16日,法律第141号として制定され,国民年金法の成立により無拠出の老齢福祉年金が設けられた.1961年4月から拠出制の国民年金が施行され,通産年金通則法が実施されたことで各制度の加入期間を通算することができ,仕組みとしては国民皆年金体制が確立した.これとは別に現に生活に困っている人には,生活保護法による生活扶助がある.
前者の無拠出制の老齢福祉年金は,受給者に事前の拠出義務がなく,所得が一定限度に達しない者に限って支給され,収入テストを条件に支給されていた.1975年には,受給要件として,事前に受給者またはその使用者に拠出義務がないもの,あるいは雇用の実績が受給要件になっていないものを意味するようになった(黒住・中鉢・松本 1975: 70).老齢福祉年金は,国民年金制度が発足した当時(1961年4月),既に高齢であったために老齢年金の受給資格期間を満たすことができない者に対して支給される年金で,70歳から月額1,000円が支給された.1973年には月額5,000円で,この年金額は孫にアメ玉を買う程度という意味でアメ玉年金と呼ばれた(牧 2012).ただし,他の年金を受給している人や,本人・配偶者に所得がある人は制限がある.
その対象者は○1明治44年4月1日以前に生まれた人が満70歳に達した時,○2明治44年4月1日以前に生まれた人,○2明治44年4月2日から大正5年4月1日までの者で保険料納付済み期間が生年月日に応じて下表期間を超えている者である.
福祉年金の対象者は2008年には1万2千人で2012年度には8千人となり,年金額は年額402,900円,月額33,575円である.

表1老齢福祉年金
生年月日 納付期間
明治45年4月1日以前 4年1月以上
明治45年〜大正2年4月1日 5年1月以上
大正2年4月2日〜大正3年4月1日 6年1月以上
大正3年4月2日〜大正5年4月1日 7年1月以上


表2 年金額と対象者の変化
年度 受給権者数(千人) 受給者(千人) 年金月額(円) 年金年額(円)
1960(昭35) 2,201 2,090 1,000 12,000
1965(昭40) 2,923 2,526 1,300 15,600
1970(昭45) 3,454 2,908 2,000 24,000
1973(昭48) 4,287 3,912 5,000 60,000
1975(昭50) 4,613 4,210 12,000 144,000
1978(昭53) 3,965 3,558 16,500 198,000
1980(昭55) 3,535 3,115 22,500 270,000
1985(昭60) 2,247 1,894 26,500 318,000
1990(平元年) 1,395 1,126 28,400 340,800
1995(平7) 525 400 33,533 402,396
1998(平10) 286 215 34,133 409,596
2000(平12) 185 137 34,333 411,996
2004(平16) 64 47 33,925 407,100
2007(平19) 24 17 33,817 405,804
2012(平24)     17 8  33,575 402,900

  (注)厚生労働省事業年報,老齢福祉年金受給権者・受給者状況より筆者作成

 後者の国民年金は,月額100円ずつ25年間加入すると,65歳から年額2万4千円が支給されるもので月額にすれば2千円にしかならなかった.35歳以上は,月150円ずつ10年〜15年未満の納入後,1万4千円が支給されるとされた.しかし,途中で死亡した場合には掛け捨てとなる問題や,当時は保険料も支払えない貧困層が700万人〜800万人も存在した.これらを改善して死亡時には一時金で還元すること,本人が希望すれば60歳から減額支給すること,保険料滞納者には差し押さえをしないこと等の修正が行なわれた.1973年に,拠出期間10年間で夫婦月額2万5千円,拠出5年間で月額1万6千円,1975年に厚生年金は9万円年金となったが,国民年金は夫婦で7万5千にしかならなかった.これらの経過から,1985年改正ですべての国民に共通する基礎年金(老齢基礎年金,傷害基礎年金,遺族基礎年金)が導入された.老齢基礎年金は,25年で受給資格ができ,支給開始は65歳とし,年金額は40年加入の完全年金で月額5万円という原則が設けられた.基礎年金には,自営業者,公務員,専業主婦,学生の区別なく原則として20歳以上,60歳未満の者が加入し,その種類によって,第1号,第2号,第3号に分かれ,第1号被保険者は,自営業者,学生などで保険料は定額制,第2号被保険者は民間サラリーマン,公務員などの被用者で保険料は1階部分と2階部分を合わせて支給される.第3号被保険者は,専業主婦など第2号保険者の被扶養配偶者で保険料負担はない.
年金額は,生活保護との整合性の観点から国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるという国民との約束があり,老齢基礎年金が発足した当時から政府の課題とされてきたのである(牧 2012).

3 特別徴収の問題点と特別徴収としない対象額の決定の経緯

基礎年金から特別徴収と特別徴収しない対象額が年額18万円(月額1万5千円)と定められた背景にはどのような根拠があったのだろうか.本節では,特別徴収がどのような経緯で導入され,特別徴収としない対象額の決定について,介護保険制度創設段階での議事録を掲げて検証する.

3.1 年金からの特別徴収と特別徴収しない対象額の最初の決定

介護保険法は1997年に制定,2000年4月から実施された.この制度で初めて年金から自動的に天引きされる特別徴収方法が採用され,第1号保険料の特別徴収しない対象額が年額18万円と法定された.
1998(平成10)年,厚生省は老人保健福祉局の審議会で議論を重ね,介護保険料の徴収方法に特別徴収を採用すること,特別徴収の対象としない額を決定している.以下では,議事録に掲げられた議論の経過を検証する.
 第17回老人保健福祉部会議事録要旨3)では,年金からの特別徴収の議論は,高井介護保険制度施行準備室長の説明と出席議員で実施されている.ここでは,その議論の一部を掲げて検討する.

○1年金額が一定以下の場合,天引きしないということであるが天引きされなくても普通徴収で保険料を徴収するわけだから被保険者の利便や事務手続きの簡素化という点からも合理的な徴収をした方がよい(成瀬委員).
○2天引き対象の金額を低めて効率的で徴収率が上がるような仕組みを作るべきではないか,特別徴収対象額の方も,最終的に普通徴収になる.月額の年金支払額3万円以上,年額36万円の案であると,約30%が普通徴収事務の対象となるので検討していただきたい(堀江委員).
○3保険者側の立場からいうと,たとえ月額の年金額が1万円でも特別徴収していただきたい.無年金者や低所得者の方の対応も並行して論議をしていただきたい.そうしないと切り捨てになって,介護保険にも入れない,介護も受けられないという形になる. 福祉の面で救われる道を考えることにならないか(野中委員).
○4天引きの対象額をもっと下げて集めやすくするのが原則ではないか,また,老齢福祉年金,遺族年金,傷害年金は,法律で控除規定があるから天引きできないが,国民皆保険という立場から法律を変えてでも保険料を徴収する形でないとおかしい.保険料徴収事務を合理化してコストを下げる必要がある(喜多委員).

指摘に対して高井室長は「保険料の水準も関係するが,どこまで年金の趣旨をなくすことなく天引きできるか,年金額が低い老齢福祉年金の額を考慮した⋯⋯滞納者対策については,財政安定化基金のような制度もつくり, 保険料未納の場合には運営に支障がないようなことも考えている」と述べている.この議論の後,以下のような意見が述べられている.

○5保険料を集める立場と支払う側の利害が明らかに異なるが,特に少ない年金受給者は手元に必要な時もあるから年金天引きの対象は3万円ぐらいが妥当ではないか(京極委員).
○6保険者側として,年金天引きの対象額を下げてほしいということはわかるが,年金受給者からすべて保険料を天引きしていくのはやや強制的な性格を持たせてしまう. 理念の問題と実務の問題をクロスするところに大変な問題がある.3万円の事務局案が妥当ではないか(多田羅委員).
○7遺族年金とか障害年金は,100万円位受給している方もいる⋯⋯36万円という限度を設けるなら,法律改正をして,遺族年金,障害者年金からも36万円以上の人からももらえるようにするのが公平なあり方ではないか.天引きされない30%の方の保険料を国や県が面倒を見るなら結構である.市町村が行なうシステムを作りながら,格好のいいところだけで線を引くのは勝手すぎる.保険財政の運営に支障がないように基金などで運営することについては,基金は借りたら返さなければならない.3万円という線を引くなら支援体制をつくってほしい.基金で面倒をみるということでは受けるわけにはいかない(野中委員).
○8単に保険料を納めるだけの問題ではなく,高齢者が介護を必要となった時にどれだけの負担がかかるかという問題があって,その中に保険料が含まれていると考えなければいけない.介護サービスを受ける場合,介護費用費の1割を負担し,その他に特別養護老人ホームであれば,今まで徴収されなかった食費,日用品費等,負担が加わる.これに月額 2,500円の保険料が加わり,介護保険のサービスが利用できることになる.保険料を負担できない方,そのために場合によって生活保護になる方もいる.そのことの対策も並行して論じなければならない.あえて被保険者の立場からは,3万円を下げるということは問題が大きすぎる(中坊委員).

これらの議論について,室井室長は以下の答弁を行なっている.

    生活保護世帯の保険料は,第1段階で適用することになっているので,各市町村の基準額の保険料の半分,5割の保険料となる.生活保護の保険料分は,生活保護法の生活扶助費として支給される. その保険料の徴収については,課題があり検討中である⋯⋯基本的には田畑という資産を見るのではなく,市町村民税の課税状況に応じて保険料をいただく.田畑から収入があれば,課税状況も変わり,結果として保険料が変わってくることもある.

上記の議論では,特別徴収という賦課・徴収の方法は決定されたものの特別徴収しない対象額は,年額36万円(月額3万円)に留まっている.ただし,老齢基礎年金との関係で,遺族年金, 障害者年金を対象とする意見や,介護保険から特別徴収されると,介護保険サービスを受給する場合の負担との関係で,生活保護に陥る可能性が指摘されている.
いずれにしても,介護保険制度を市町村運営とすることは財政上の困難性,高齢者の収入源は年金だけではないこと,ここでは述べられていないが,特別徴収の非対象者には, 連帯負担義務が課せられているという背景があったのではないだろうか.

3.2 特別徴収しない対象額の最終決定

それでは,特別徴収としない対象額が年額36万円(月額3万円)から18万円(月額1万5千円)となったその根拠はどのような理由であったのだろうか.
1998年11月26日の医療保険福祉審議会,第20回老人保健福祉部会,介護保険法施行令案の「諮問書」の議事録要旨4)では以下の意見が述べられている.
高井室長は「国の負担金は20%,調整交付金は全国ベースでみると5%で合計25%である.調整交付金は,後期高齢者数とか,所得状況に応じて各,市町村ごとに率を変えて行くことになっているので総額では国が5%負担することになる」と説明している.以下で議事録による議論を掲げる.

○1 第1号被保険者の設定では,生活保護世帯は最低ランクに位置づけられているが,生活保護世帯や障害者年金,遺族年金を受給している人の方が,生活が安定しており,老齢福祉年金を受給している人などは3〜4万円程度の収入しかないのが現状である.生活保護世帯は,保険料も利用者負担も国庫が持つのに老人は1割負担もしなくてはならない.これでよいのか問題点を感じざるを得ない.公租公課の禁止条項などはこの機会に思い切って外し,きちんと天引きができる処置をお願いしたい.それが無理なら月額1万5千円以下の年金受給者であっても本人が承諾をした場合には事前に天引きをするというような付帯事項つけていただきたい.財政安定化基金は,国と都道府県で2分の1ずつ負担することを検討されたい(野中委員).
○2天引き徴収されるのは月額4万円以上の受給者と言われたが,その後,3万円以上と説明されていた.それが,本日突然,年額18万円(月額1万5千円)という数字が示された.年金の種類による矛盾は感じられるが老齢福祉年金の受給者は決して少ない数ではなく,無年金者もいる.もらっているのだからそこから天引きすればという安易な考え方であれば,年金とは一体何であるか,われわれは,年金を一方的に国から与えられるものとは考えていない.法律によって強制的に年金から天引きされることになった経緯について疑問があるが法律として決まった以上はやむをえないとい考えている.今まで3万円以上と言われてきたがその根拠は何か,また,今,1万5千円となったのは収納率の問題なのか伺いたい(見坊委員).

これらの意見に対して高井室長は,以下のように述べている.

年金との関係については,1カ月3万円ということで提案させていただいた時は,効率的な収納面と年金の趣旨であった.年金の趣旨では老齢福祉年金は,1カ月3万4千円余りということもあり,3万円として7割ぐらいの方が特別徴収の対象になることでこれまで提案をしてきたが,収納を進めるという観点からこれをより多い範囲で対象になるようにというご指摘からである.そういう点で,対象を7割から8割ぐらいにしようということで水準を考えた.年金の趣旨については,1カ月1万5千円という水準は,敢えていえば,1カ月の保険料が数千円となると見込まれているが,それが引かれた後でもある程度の額は年金として残っている水準ということで,引いたものである.

この回答に対して,平成10年12月2日,医療福祉部会第21回老人福祉部会議事要旨5)で見坊委員6)は,以下の意見を述べている.

老齢福祉年金額以下の年金額の受給者については,任意加入時の問題があり,老齢福祉年金が出ない,遺族年金のみになるという者で,該当者は,大体主婦,妻が非常に多い.また,離婚した女性の問題がある.それからカラ期間が長くて受給資格がある人というのは⋯⋯多くは女性である.
非常に不利益を被っている上に,わずかな年金を唯一の収入にしている.勿論,年金だけでは生活できないため,やりくりをし,支援があるが,そういう者から特別徴収することは,社会の常識に反することではないか.介護保険料の支払い,利用者負担,食費その他日用品の負担が必要になってくるため, 年金のなかで自由になるお金をいくら残すのか,3万円が半分の1万5千円になるのは年金の趣旨に反する.年金は高齢者が自分の意思で使うことができる唯一の貴重な収入であり,仮に施設入所しても月額3万円は最低必要ではないか.月額1万円でも特別徴収してほしいという意見があるが,無年金者とか低所得者を切り捨てることが容認されるのであれば,介護保険制度の趣旨に反することになる.

見坊委員は医療福祉審議会第22回(12月9日)で「年金というものが,公租公課を禁止した趣旨を改めて勉強する必要性と,どうせ取られるものであるという考え方なら,たぶん国民健康保険料も直ぐに天引き徴収の対象になるかも知れない」7)と述べている.

これらの経緯からみると,年額18万円(月額1万5千円)は,老齢福祉年金を基準に決定され,同時に年金対象者からも賦課・徴収する意図があったと考えられる.介護保険制度は走りながら考える, 考えながら走るという試行錯誤で出発し,5年後には見直されるとされたが,特別徴収と徴収しない対象額はその後も変更されないまま,むしろ,見坊委員の指摘したように,2008年4月から後期高齢者医療保険料に介護保険と同様の基準で特別徴収制度が導入され,10月から国民健康保険料にも導入され,2009年度からは,住民税までもが対象となった.
伊藤は,介護保険料訴訟最高裁判判決で特別徴収制度が著しく合理性を欠くということはできず,経済的弱者を差別したものではないとされたことについて「憲法25条・14条に違反しないとしている⋯⋯特別徴収の問題は,特別徴収という保険料の徴収方法を採用したことの合憲性の問題に収斂される」(伊藤 2009: 64)と指摘する.
これらの観点から,老齢福祉年金および少額な老齢基礎年金受給者は,月額1万5千円しか受給できない.国民健康保険料あるいは後期高齢者医療保険料を普通徴収で支払うことは不可能である.これは介護保険料が機械的に引き上げられても容認せざるを得ないことや実質的な年金の引き下げを意味する.

4 後期高齢者医療制度と特別徴収

2008年4月から,1983年から継続されてきた老人保健制度を廃止して,75歳以上の高齢者に対する別建ての医療保険制度,後期高齢者医療保険制度が新設された.本節では,後期高齢者医療制度の創設過程を検証し,現状の保険料と保険証の差し押さえの実態を提示して特別徴収の問題点を検討する.

4.1 後期高齢者医療制度ができるまで

後期高齢者医療制度創設は,1977年に高齢者の医療費が増える対策が必要であるという発想が出発点であった.出発点には,福祉元年と呼ばれる1973年の老人医療費の無料化があった.当時は高齢者の通院回数が増え「待合室のサロン化」,同じ病気でいくつもの病院にかかる「梯子受診」,営利優先の病院による「乱診乱療」が問題視され始め,老人医療費は急増,高齢者が多く加入する市町村単位の国民健康保険の財政が圧迫されるようになった.こうした状況から厚生省は,老人医療費の無料化の改革を検討しはじめ,1977年に老人を国保から切り離して別建ての制度とする現在の後期高齢者医療制度と同様の考え方が提唱され始めた.しかし,当時の日本医師会の武見太郎会長が「老人姥捨て山構想」と批判し,この構想は頓挫したという歴史的経緯があった.これらの議論の末に創設されたのが1983年の老人保健制度である.
老人保健制度は市町村が運営主体となり,老人の健康づくり,老人医療費をサラリーマンの健康保険組合や公務員の共済,市町村国保がお金を出し合う拠出金制度を導入するという仕組みの2本柱で,高齢者の自己負担は外来400円から徐々に上がり,その後も医療費は伸び続け,1987年には,医療と介護の中間施設として老人保健施設が創設された.
1989年には,「これからの高齢社会を活力のあるものとするため税」を第一に掲げた消費税(3%)が導入され,翌年の1990年には,消費税導入に合わせて福祉八法改正が行なわれた.これらの税制改革と社会保障の連続性は,社会福祉構造改革と呼ばれる介護保険法の(1997年)制定であり,老人保健制度の医療等以外の分野が従来の措置制度から契約制度へと転換し,市場化を伴った保険原理による介護保険制度が2000年度からスタートした.さらに橋本龍太郎政権による6大改革構想が打ち出され,消費税率が3%から5%に引き上げられ,うち1%が地方税に振り分けられた.
 2001年からの小泉純一郎政権では,サラリーマン本人の窓口負担を2割から3割に引き上げを決定し,現役世代の保険料が支える高齢者医療を含めた抜本改革の必要性から,新しい高齢者医療制度の創設を2年以内に実行することが約束事項となった.
厚労省の2002年の試案は○1厚労省(坂口力厚労相)の高齢者も従来の制度に加入したまま制度間でお金のやり取りをする案○2自民党の独立型案の2つの方法案が提案された.しかし,厚労省案は老人保健制度と本質が同じであることから2003年3月,医療改革の基本方針が閣議決定,65歳から74歳までの前期高齢者の医療費は,厚労省案の異なる保険制度の間でお金のやり取りをする仕組みで支え,75歳以上の後期高齢者については自民党の独立案を採用するという内容であった.
厚労省の意図は,2025年度の医療給付費56兆円から48兆円への抑制で70歳〜74歳の高齢者の負担を1割から2割への引き上げであった.
2006年5月17日,自民・公明両党は医療制度改革関連法案を衆院厚生労働委員会で採決,両党による賛成多数で可決した.すでに「現役並み所得」概念が導入され,この所得層への公費を負担しないこととし,老年者控除廃止などによる「現役並み所得」判定基準改正が実施された.
2008年4月1日から退職者医療制度および老人保健制度を廃止して,前期高齢者財政調整制度(65歳〜74歳)および後期高齢者医療制度(75歳以上)が創設された.後期高齢者自身が別建ての医療保険に切り離される実感や世の中がこの制度に気づいたのは2008年4月からで,新しい保険証が手元に届き始めてからであった8).

4.2 後期高齢者医療保険料の特別徴収の揺らぎ

このような経過から75歳以上の約1,300万人が加入する後期高齢者医療保険制度は,2008年6月13日,2カ月分の保険料が特別徴収,すなわち,年金から天引きされた.2008年4月に続いて2回目は,国民健康保険から移った約830万人が対象であった.初回の4月15日には保険料天引き額や対象者を誤るミスが各地で相次ぎ,2回目も修正が間に合わず過大徴収してしまうケースが18道県の40市町村で計2,753件生じる見込みとなった.対象者には連絡して徴収しすぎた分は後日返還する等の方法が採られるなど新制度をめぐる特別徴収の混乱が続いた.2回目の特別徴収を控えた2008年6月12日,政府は○1特別徴収(年金から天引き)を免除し,世帯主が肩代わりで納付○2低所得者への負担軽減等を盛り込んだ運用見直し策が採られたが,3回目(8月15日)までの特別徴収は4月と同じであった.特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれた.福田康夫首相は,首相官邸で記者団に対して「高齢者の気持ちを心ならずも傷付け,配慮も欠けていた点は率直にお詫び申し上げる」と陳謝し,「持続可能な制度でなければならない.元の(老人保健)制度に戻せば大混乱を来す」と述べ,運用見直しを通じて新制度の定着に努めることとされた9).
これらの経過から,低所得者保険料軽減措置を拡充して,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替での支払い,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者の口座振替での「肩代わり納付」が可能となった.ただし, いずれも加入者本人の申請が必要とされた10).

4.3 後期高齢者医療保険料の差し押さえ実施状況と都道府県別保険料

特別徴収等の混乱などを招きながら導入された後期高齢者医療保険は,低年金や無収入でも75歳以上の全員に保険料が賦課され,全額免除となるには厳しい制約がある.後期高齢者医療保険料の加入者8割(2010年)は,特別徴収制度によって保険料が賦課され, 18万円未満の老齢基礎年金受給者などは,普通徴収で支払う.また,後期高齢者医療保険制度には高齢化が進むにつれて際限なく上げられる保険料の仕組みが内包されている.そのため,保険料が支払えず滞納し,有効期限の短い短期保険証に切り替えられた高齢者が2万人を超え,年金などの差し押さえを受けた人が2010年度では全国で1,792人にのぼることが厚生労働省(2012年3月4日)の調査で明らかにされた.
表3は,2010年度で実施された都道府県別の滞納処分の実施状況である.表4は,2012年度から2013年度にかけての都道府県別の月額保険料と2010年度から2011年度の保険料の増減率を示している.
表3では,被保険者の差し押さえ人数が多いのは東京都の148人,広島県の129人,大阪府・島根県の119人などである.一方,青森,宮城,秋田,山梨,奈良,徳島,宮崎の7県では0人で,全国の差し押さえに関わる滞納額は1億8,907万円にのぼる.北海道では預貯金や年金が差し押さえられるケースもあり,その額は1件で114円,4,000円,8,000円などのわずかな額の差し押さえが行なわれている.東京都内では年金2カ月分の振り込みと同時に差し押さえられているケースもある.滞納処分の対象者は,特別徴収の対象者以外の普通徴収の対象者などと考えられる.

表3後期高齢者医療保険料滞納処分の実施状況/表4都道府県別月額保険料と増減率
2010年度における滞納処分実施状況 2012〜13年度都道府県別保険料(月額)
道府県 被保険者数 金額(万円) 平均月額(円) 増減率(10〜11年度)%
北海道 94 661 5,549 2.5
青森 0  0 3,352 0.9
岩手 67 629 3,113 ▲1.1
宮城 0  0 4,646 4.8
秋田 0  0 3,259 5.1
山形 17 70 3,464 4.1
福島 74 526 3,776 0.8
茨城 15 89 4,277 2.5
栃木 78 719 4,471 9.6
群馬 40 175 4,692 9.4
埼玉 34 640 6,255 4.6
千葉 13 69 5,428 ▲1.1
東京 148 3,278 7,872 9.1
神奈川 96 245 7,547 6.6
新潟 11 162 3,545 ▲1.4
富山 4 162 4,947 9.3
石川 14 77 6,201 6.2
福井 15 214 4,489 ▲0.4
山梨 0 0 4,050 5.6
長野 32 154 4,160 5.1
岐阜 15 45 4,702 4.0
静岡 3 40 5,151 3.8
愛知 17 889 6,684 5.9
三重 48 467 4,470 9.0
滋賀 36 137 5,135 9.9
京都 39 1,167 6,253 5.0
大阪 119 635 7,098 6.9
兵庫 51 886 6,252 6.1
奈良 0 0 5,830 9.0
和歌山 13 132 4,261 2.8
鳥取 30 44 4,003 0.7
島根 119 635 3,900 7.4
岡山 52 1,475 5,028 2.1
広島 129 936 5,603 7.5
山口 81 671 5,542 3.8
徳島 0 0 4,485 13.0
香川 2 25 5,286 1.1
愛媛 8 11 4,487 9.4
高知 15 54 4,845 9.9
福岡 37 656 6,606 6.7
佐賀 45 229 4,706 5.4
長崎 90 664 4,322 4.8
熊本 34 263 4,439 3.2
大分 18 892 4,634 5.7
宮崎 0 0 3,940 10.7
鹿児島 34 268 3,853 4.6
沖縄 5 41 4,685 2.1
全国平均 1,792 18,907 5,561 5.9
(注)金額は差し押さえに関わる滞納保険料であり実際に収納した金額ではない:しんぶん赤旗2012年3月5日付 (注)▲はマイナス:しんぶん赤旗2012年4月1日付

表4の2012年〜2013年度の都道府県別の平均月額後期高齢者医療保険料では,2010年〜2011年度に比べて全国平均で5.9%(312円)上がり,5,561円,年額では3,744円の負担増しとなった.保険料は都道府県単位の医療費に応じて2年ごとに改定され,全員に均等に課される均等割と所得に応じて課せられる所得割の合計額が保険料となる.平均保険料が引き下げられたのは岩手,千葉,新潟,福井の4県で,引き上げ幅の大きいのは徳島の13%,宮崎の10.7%,9%台は栃木,群馬,東京,富山,三重,滋賀,奈良,愛媛県などである.
介護保険制度で導入された特別徴収は,後期高齢者医療保険料, 国民健康保険料(税),住民税におよぶ. 以下でそれぞれの特徴をまとめておこう.

4.3.1 後期高齢者医療保険の特別徴収

後期高齢者医療保険の特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれる.また,創設当初の誤徴収の経過から,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替で支払いや,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者に口座振替での「肩代わり納付」も可能となった.ただし,いずれも加入者本人の申請が必要とされた.

4.3.2 国民健康保険料の特別徴収

国民健康保険料の特別徴収は,2010年10月から開始された.ただし,国民健康保険料で滞納していない者は,これまでの国保料と同様に口座振替によって賦課・徴収される.ただし,この場合も納付方法変更の申請を行なわなければならない.申請をしない場合は特別徴収の方法で賦課・徴収となる.

4.3.3 住民税の特別徴収(京都市)

住民税は地方税法改正により,65歳以上の公的年金受給者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者は,平成21年10月支給分の公的年金から原則として社会保険庁などの公的年金の支払者が市・府民税を引き落とし,市に納入する方法(特別徴収)に変更されることとなった.
京都市では,個人の市・府民税は,税金を負担する能力がある者全てが均等の税額を治める均等割と,その人の所得に応じて納める所得割の合計額が賦課される.個人の府民税は京都府の税金であるが,納税義務者や課税所得金額などが個人の市民税と同じであるため,京都市が個人の市民税と合わせて課税・徴収し,京都府へ払い込む方法が採られている.
従来,65歳以上の者の年金所得に係る市・府民税は納付書や口座振替で納める方法であった.給与収入のある者は,給与所得に係る市・府民税とも,給与の支払者が給与から特別徴収する方法によって納められていたが,老齢基礎年金から特別徴収に改正された.特別徴収の対象者は,その年度の初日(4月1日)現在,老齢基礎年金等から介護保険料が特別徴収されている年金が対象とされた.ただし,障害年金,遺族年金は住民税が非課税であるため除かれる.
対象者は,老齢基礎年金を受給している65歳以上の者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者である.対象除外者は○1基礎年金の年額が18万円未満の者○2介護保険料が年金から特別徴収されていない者○3特別徴収される税額が老齢基礎年金等の額を超える者とされている.
このようにして,介護保険,後期高齢者医療保険,国民健康保険,住民税までもが特別徴収に切り替えられた.

5 民主党政権での見えにくい社会保障と税制の一体改革の動向

本節では,民主党政権が自民党政権へ交代する直前までの社会保障と税制の一体改革の流れを述べる.
野田佳彦首相が政権公約を捨ててまで重視した消費税率引き上げ(2014年4月から8%,2015年10月から10%)等を柱とした社会保障・税一体改革関連法案が2012年6月26日の衆院本会議で民主・自民・公明・国民新党等の賛成多数で可決,同日中に参院に送付された.可決された関連法案のうち,民主・自民・公明の3党合意を踏まえて提出された「社会保障制度改革推進法案」では,今後の高齢者医療制度などを議論する国民会議の設置,「年金機能強化法案」では,短時間労働者の社会保険適用を2016年10月から拡大することが盛り込まれた.しかし,消費税率法案を可決するために民主・自民・公明の3党合意という手法が採られたため,政府案であった消費税増税を掲げた税制法案から税体系全体の再分配を回復するというくだりや,所得税の最高税率を40%から45%に引き上げるという条項等が削減された.
社会保障分野では,最低保障年金,給付つき税額控除,後期高齢者医療制度廃止などが棚上げされ,社会保障・税一体改革関連法案に「社会保障制度改革推進法案」がもちこまれ,社会保障の基本に自助・共助を据え公助の適切な組み合わせを留意しつつ,国民が自立した生活を営むことができるよう家族相互の助け合いの仕組みを通じて実現を支援するとされた.その一方で,社会保障の公費負担は,消費税を主要な財源と位置付けて,国民に消費税増税か社会保障の削減かの二者択一を強いるものであった.
自民党政権下での税制改正では,所得税における配偶者特別控除上乗せ控除廃止を皮切りに,老年者控除廃止,公的年金等控除の最低保障額が引き下げられた(2005年).同時に,恒久的減税の縮減・廃止(2005・2006年),住民税が累進税率から比例税率に改正された(2007年).これらのうち,老年者控除の廃止は,高齢者の課税最低限を引き下げ,「現役並み所得」の算定基準の改正に接合されながら後期高齢者医療保険料の財政構造を形成した.民主党政権下での子ども手当との関連で,年少扶養控除の廃止とも関連して,2013年度から国民健康保険料,国民健康保険税の所得割の算定方式が「所得」から基礎控除以外の所得控除を非該当とする「旧ただし書き方式」へ統一される11)(牧 2012 : 175).
これらの改正に加えて民主党政権では,「復興特別税」として臨時増税が2013年1月から実施される.復興特別税とは利子所得や事業所得などすべての所得が対象で所得税額の2.1%を特別に徴収する.所得税の課税される期間は,2013年1月から2037年12月までの25年間で,個人住民税は2014年度から10年間,住民税の均等割額が年間1,000円(都道府県500円,市町村500円)引き上げられる.その一方で,民主党の政権公約に掲げられていた所得控除のうちの扶養控除が子ども手当となり,最後に児童手当に整理され,2011年度改正で野党からの反対で先送りされていた「成年扶養控除」(扶養控除のうち,23歳〜69歳の扶養親族がいる者を対象とした所得税,住民税の所得控除)の縮小が,2013年度の税制改正大綱に盛り込まれる可能性がある12).配偶者控除廃止は,2009年の衆院選の政権公約に掲げられ,2012年度改正では最大の懸案であったが2014年4月に消費税率を8%への引き上げを控え,2013年度の税制改正での実施の議論は先送りされた.
ところで,企業の法人税は2012年4月から約3%の復興特別法人税が付加されているが,法人税の実効税率は40%から35%に引き下げられている.今後3年間は,約3%の復興特別法人税が付加されているため現状の法人税実効税率は約38%であるが,3年を経過すると法人税の実効税率は35%に戻る.法人税率の上げ下げは,法人税が実質的に3%引き下げられることを意味しており,2014年度から消費税率が8%へ引き上げられこととの矛盾がある.
また,公的年金の給付水準は,前年の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む)を基準に毎年度改定される.そのため物価上昇時は増額し,下落時は減額されることとなっている.しかし,1999年〜2001年に物価が下落したのに2000年〜2002年度の給付を特例で据え置き,現在も本来の水準より高い水準で給付しているとして,2013年10月から3段階で減額する国民年金法改正案が民主,自民,公明などの賛成多数で可決した.この引き下げは3段階で実施され, 最初に2013年10月分から1%の減額, 2014年4月分から1%,2015年4月分から0.5%と合計2.5%が引き下げられる.2013年10月分の国民年金(満額)では,月額666円減って64,875円となる.厚生年金(平金的年収で40年間会社員と専業主婦の妻)は2,349円減の22万8,591円で最終的には, 国民年金で月1,675円(年20,100円),厚生年金で月5,900円(年70,800円)減額となる.このような社会保障と税の一体改革が次々に打ち出されている中で,2012年11月16日,野田総理は突如,衆院解散を宣言し,衆院総選挙が12月4日に公示され,12月16日に実施されることになった.前日11月15日,衆院本会議で民主,自民,公明などの賛成多数で2015年度まで赤字国債を自動的に発行できる公債特例法案が可決,参院の財政金融委員会でも可決された.これによって,国会のチェックなしに赤字国債が自動的に発行できる赤字国債自由化が決定したのである.
これらの社会保障と税制の一体改革は,2013年度以降,次第に個人の生活に影響をもたらすことが考えられる.

むすびにかえて──今後の課題

本章は,老齢基礎年金から特別徴収される住民税および社会保険料,さらに特別徴収としない対象額が年額18万円と定められた経緯を確認し,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金の理論的検証を行うことを目的とした.
第1節では人口構造の変化を述べ,少子高齢社会の現状を確認し,第2節で国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係を押えた.第3節で老人保健福祉部会議事録から特別徴収と特別徴収の対象としない年金額が年額18万円(月額1万5千)と決定した根拠を確認した.特別徴収の対象としない額は,当時の老齢福祉年金を基準として,背景には8割の徴収率を上げる目的と同時に老齢福祉年金対象者も介護保険料の徴収の対象とする意図があったと考えられた.
一方,老齢基礎年金は,高齢者は年金だけが収入源ではないこと,特別徴収非徴収者にも連帯負担義務が課せられること, 最低収入の高齢者は生活保護でカバーされるなど背景があったと思われる.そして, 介護保険料訴訟最高裁判決では,特別徴収制度が著しく合理性に欠くことができず,経済的弱者を差別したものではなく憲法25条・14条に違反しないという決定がなされている(伊藤2009).しかし,都道府県別の後期高齢者医療保険の滞納処分は,保険料の増減率と関連して普通徴収でも支払えない高齢者の存在を表明している.
第5節で民主党政権での社会保障と税の一体改革での老齢基礎年金が引き下げは,特別徴収そのものが実質的な老齢基礎年金の引き下げであることが看過されている.憲法30条の納税の義務と憲法25条の生存権の整合性が問われなければならないだろう.
2012年12月16日,民主党政権から自民・公明党政権に変わった.民主党政権での社会保障と税の一体改革が自公政権でどのように展開されるか,その動向を見ながらボーダーライン層の高齢者の税および社会保険料負担と社会保障の関係の検証を行うことを今後の課題とする.

[注]

1) 生活保護を受給している高齢者に老齢加算部分を老齢福祉年金に見合う よう引き上げて,扶助額に上積みして支給された(黒住・中鉢・松本 1975:34).
2) 社会保険実務研究所(2012b).
3) 厚生労働省(2009a).
4) 厚生労働省(2009b).
5) 厚生労働省(2009c).
6) 見坊和夫委員は,当時,全国老人クラブ連合会副会長.厚生省委員名簿(老人保健福祉部会)に掲載されている(厚生省 2009d).
7) 厚生労働省,医療保険福祉審議会第22回老人保健福祉部会議事要旨.
8) 『京都新聞』2012年10月24日朝刊.
9) 『朝日新聞』2008年4月22日朝刊.
10) 『京都新聞』2008年6月13日朝刊.
11) 老年者控除廃止と医療保険制度改革の連続性は国保料(税)の「旧ただし書き方式」につながっている(牧 2012).
12) 『京都新聞』2008年6月15日朝刊.

[文献]

伊藤周平,2009,「国民健康保険・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』:27-81.
北野弘久,1983,『憲法と税財政』三省堂.
黒住章・中鉢・松本編,1975,『老齢保障論』有斐閣.
真田是,1971,「現代民主主義と社会保障」(=総合社会福祉研究所,2012,『真田是著作集〈2〉社会保障論』福祉のひろば,50-89.)
社会保障実務研究所,2012a,『新・国民健康保険基礎講座』創美堂.
────,2012b,『週刊国保事務』2883,2012年12月10日付.
牧昌子,2012,『老年者控除廃止と医療保険制度改革──国保料(税)「旧ただし書き方式の検証」文理閣.
渡辺喜久造,1957,『税の理論と実際』日本経済新聞社.

[URL]

伊藤周平,2009,「国民健康保険料・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』,(2012年10月30日取得,http://handle.net/10232/14200).
厚生労働省,2009a,「医療保険福祉審議会第17回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9810/s1012-1_17.html).
────,2009b,「医療保険福祉審議会第20回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9811/s1126-2_17.html).
────,2009c,「医療保険福祉審議会第21回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9812/s1202-3_17.html).
────,2009d,「委員名簿(老人保健福祉部会)」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s1028-4.html).
 牧昌子

はじめに
現在,65歳以上の高齢者の老齢基礎年金から社会保険料および住民税が特別徴収(天引き)という方法で賦課・徴収されている.さらに,特別徴収には対象としない基準額が定められている.
本章は,特別徴収と特別徴収の対象としない基準額に視点をあてて,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金とを関連づけて理論的検証を行うことを目的とする.
わが国の税法体系は,日本国憲法を頂点として第30条で「国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負う」と納税の義務を規定し,第84条で租税法律主義の原則を定めている.地方税に関しては,租税条例主義がたてまえとされているため,第84条「新たに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律または法律の定める条件によることを必要とする」の「法律」の部分を「条例」と読みかえて適用される(北野 1983: 105).日本国憲法25条第1項では「すべて国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する」,第2項で「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上増進に努めなければならない」と国民の生存の権利と国の社会的使命が謳われている.筆者は,本来なら憲法をもとに納税の義務と社会保障の給付と負担の整合性が図られなくてはならないと考える.
近年,高齢者の住民税や社会保険料が特別徴収という方法で賦課・徴収されている.特別徴収とは,住民税や社会保険料を本来の納税義務者から直接徴収させるのではなく,老齢基礎年金(老齢福祉年金を含む)を支払う事業者(特別徴収義務者)が税金や保険料を代わって預かり,徴収すべき税額や保険料を納入させる方法である.
特別徴収は,2000年に開始された介護保険制度から導入され,介護保険法施行令41条で特別徴収の対象となる老齢基礎年金基準額を年額18万円(月額1万5千円)と定められた.2005年度の介護保険法改正では,65歳以上の障害・遺族年金にも拡大された(遺族年金や障害者年金には公租公課が禁止されているため普通徴収であった).これらの年金からも保険料が天引きされることとなった.介護保険料は,本人が無年金などで収入がない場合でも保険料が賦課される仕組み上,特別徴収ができない者には,市町村が個別で徴収する普通徴収という方法が採られ,世帯主や配偶者にも介護保険料の連帯納付義務が課せられている.介護保険における特別徴収の対象者は被保険者の90%となっており,特別徴収は2008年4月から開始された後期高齢者医療保険にも介護保険同様の基準で導入され,10月から65歳以上75歳未満の国民健康保険にも導入された.さらに2009年度から個人住民税にも導入された.したがって現在では,介護保険料,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料,住民税が特別徴収の対象となっている.これらのうち,介護保険料,住民税は強制適用,国民健康保険料(税),後期高齢者医療保険料は,本人の申請によって振替納税等が認められている.特別徴収の対象としない年金額18万円(月額1万5千円)は,どのような理由で定められたのだろうか.
伊藤周平によれば「1996年段階で, 介護保険法を審議していた医療保険福祉審議会でこの基準額を年額36万円とする案で審議がなされていた.ところが,保険者である市町村側からの効率化の要望から最終的に第1号被保険者の8割をカバーできる水準として年額18万円に引き上げられた経緯があった⋯⋯この基準額が被保険者の生活の保障という観点ではなく,実務的,政策的観点からのみ設定されたこと.介護保険料訴訟判決では,高齢者の収入源は年金だけでないこと,特別徴収の非対象者にも連帯負担義務が課せられているなどの理由で当該基準の定めを違憲ということはできないと判示に留まっている」と述べられている.続いて伊藤は「介護保険法は,65歳以上の高齢者を生活保護受給者も含め第1号被保険者として保険料負担を求めた点で,従来の社会保険制度には見られない構造をとっている. 特に低所得者への保険料の賦課徴収の仕組みが現在の高齢者の生活実態を無視している」(伊藤 2009: 29,67)と述べる.
また,第1号被保険者に該当する高齢者の怒りと不満を集め「介護保険料一揆」ともいわれる集団不服審査請求運動へと拡大した経緯もあった.
本章で取り上げる特別徴収およびその基準額と住民税,社会保険料の賦課・徴収の問題は,納税の義務と社会保険料負担義務が強調されているものの,社会保障である生活保障としての老齢基礎年金の位置づけとの整合性が欠落している点にある.もちろん,長い人生を経てきた高齢者に関する共通的・基本的な考察は難しいし,個人としての微視的把握は千差万別で,基礎年金以外の収入やこれまでの人生で蓄えられた資産を所持している人も存在するだろう.これらを踏まえて,老後の生活問題とは,すなわち,労働力=稼働力の喪失であり,そのために年金制度が整備されてきたのである.
社会保障が所得保障を中核とする場合,年金と生活保護が存在する.年金には,拠出を伴うものと無拠出の老齢福祉年金がある.仮に,無拠出の老齢福祉年金が全ての高齢者に一律平等に支給され,その額が最低生活を賄うに足る額であれば生活保護は必要としない.老齢福祉年金と生活保護との関係では老齢加算等で1)整合性が図られた経緯があるが,拠出を伴う基礎年金と生活保護,老齢福祉年金等の整合性は図られてきたのだろうか.介護保険は老齢福祉年金も特別徴収の対象とされているので,「社会保険方式の限界」(伊藤 2009: 75)ともいえる.また,「本来,社会保障の基本的な観点は,いうまでもなく働く国民の暮らしと健康を 国家責任を軸に社会的に保障するということであるが, 1973年の「福祉見直し」は, 1970年最後の年に再集約された「日本型福祉社会」によって国家責任をはずそうとする観点であり, 社会保障の観点ではなくなっている」(真田是 1971: 98)ともいえる.
基礎年金の前史は,1959年の老齢福祉年金の導入,年金の加入期間の通算制が実施され,1961年の国民年金の創設によって形の上では国民皆保険体制が整備された.1985年には,国民年金,厚生年金,共済年金等のすべてに共通する老齢基礎年金が導入され, 年金制度の土台が固められた. 基礎年金は, 第1号,第2号,第3号被保険者に区分され,加入期間25年以上の者に65歳以上から支給され,40年拠出で満額支給となる.現在の老齢基礎年金は,拠出を伴うもので,40年間支払った人でも年額788,900円(月額65,741円),基礎年金の平均額は4〜5万円程度である.
一方,高齢者の医療に関しては,1973年から老人医療費の自己負担無料化(所得制限を伴う70歳以上の高齢者,1974年からは65歳から69歳までの寝たきりの高齢者については公費負担)が図られた.1983年には自己負担無料化が廃止され,老人保健法による老人保健制度に改正された.2000年4月から老人保健の医療以外の分野が措置制度から契約制度へと転換し,保険主義による介護保険制度に変わった.2008年4月からは,老人保健制度を廃止して75歳以上の高齢者を対象として従来の医療保険制度とは別建ての後期高齢者医療保険制度が創設されるという変遷をたどっている.
高齢者はわがまま,若い世代のことを考えていないなどといわれそうで意見も出さず,わずかな年金を唯一の貴重な収入としている人も多い.老齢基礎年金は,あまりにも低額であるにもかかわらず,社会保障としての社会保険料負担が重すぎるなど,特別徴収はさまざまな矛盾を孕んでいる.
以上の問題意識から,本章は,最初に現在の人口構造の変化を表示する. 次に老齢基礎年金の沿革と老齢福祉年金の関係を明示し,特別徴収の基準額がどのような経緯で定められたかを対象額の基準の根拠を老人保健福祉部会の議事録をもとに確認する.その上で,現状の後期高齢者医療保険料の滞納者,無保険者の実態を掲げて特別徴収の問題点を検討する.最後に民主党政権下での社会保障,税の一体改革の改正内容を掲げて検討を加える.

1 人口構造の変化

総務省統計局は,65歳以上を高齢者と定義する.2012年9月15日,敬老の日を前にした総務省統計局の推計によると,65歳以上の高齢者人口は,3,074万人となり,初めて3,000万人を超え、総人口に占める割合も24.1% と過去最高を更新した.前年(2,972万人,23.3%)に比較すると102万人増加している状況は,いわゆる団塊の世代のうち,1947年生の第一次ベビーブームに生まれた者が,新たに65歳に達したことよるもので,団塊の世代は今後も次々と65歳以上となり,いわゆる2015年問題が現実味をもって現出する.男女別では,男性の高齢者は男性人口の21.2%(1,315万人),女性の高齢者は女性人口の26.9% (1,759万人)を占めており,男性は5人に1人,女性は4人に1人以上が高齢者であり,2035年には,3人に1人が65歳以上になると予想されている.こうした現状を踏まえて,2012年9月7日,閣議決定した高齢社会大綱は,高齢期に向けた備え等について人生90年時代を前提とした仕組みに転換させる必要があるとし,意欲と能力のある高齢者には社会の担い手となると同時に支えが必要となった時には周囲の支えにより自立し,人間らしく生活できる尊厳のある超高齢社会を実現させていく必要を目的に掲げている.
また,上記の高齢者のうち,2012年8月の後期高齢者医療保険の非保険者数は,1,487万1,268人で前年度より41万1,437人,2.8%増加している.年齢階層別では,75〜79歳は596万6,353人,80〜84歳は,443万201人,85〜89歳は264万1,669人,90〜94歳は108万6,382人,95〜99歳は31万人,100 歳以上が49,224人である.そのうち,現役並み所得者数は,982,778人におよぶ2) .
その一方で,人口減少が進んでいる. 厚生労働白書によると1950年に人口が半分以下になる地域が現在の居住地域の6割を占め,2割が無居住になる可能性がある.2012年4月1日の子ども数は1,665万人で前年に比べて12万人減少し,1987年から31年連続の減少となり過去最低を更新している(総務局統計局).家族の在り方の変容の特徴は,3世代同居の減少,高齢独居世帯の増加が著しく,世帯主が65歳以上の世帯は,1970年では96万世帯(全世帯の3%)であったものが,2010年度は1,081万世帯(全世帯の20%)となっている.この1,081万世帯の高齢者は,生きているかぎり経済的自立が求められ,夫婦2人世帯の場合,年齢によっては1世帯で国民健康保険料,介護保険料2人分,後期高齢者医療保険料など4つの社会保険料が特別徴収され,その残額で医療の窓口負担を支払い,介護が必要となれば自らが介護サービスを選択して,その費用を支払わなければならない.

2 国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係性

本節では,老齢福祉年金および国民年金の沿革を述べる.わが国の国民年金制度は「国民年金法」の規定に基づき1959年4月16日,法律第141号として制定され,国民年金法の成立により無拠出の老齢福祉年金が設けられた.1961年4月から拠出制の国民年金が施行され,通産年金通則法が実施されたことで各制度の加入期間を通算することができ,仕組みとしては国民皆年金体制が確立した.これとは別に現に生活に困っている人には,生活保護法による生活扶助がある.
前者の無拠出制の老齢福祉年金は,受給者に事前の拠出義務がなく,所得が一定限度に達しない者に限って支給され,収入テストを条件に支給されていた.1975年には,受給要件として,事前に受給者またはその使用者に拠出義務がないもの,あるいは雇用の実績が受給要件になっていないものを意味するようになった(黒住・中鉢・松本 1975: 70).老齢福祉年金は,国民年金制度が発足した当時(1961年4月),既に高齢であったために老齢年金の受給資格期間を満たすことができない者に対して支給される年金で,70歳から月額1,000円が支給された.1973年には月額5,000円で,この年金額は孫にアメ玉を買う程度という意味でアメ玉年金と呼ばれた(牧 2012).ただし,他の年金を受給している人や,本人・配偶者に所得がある人は制限がある.
その対象者は○1明治44年4月1日以前に生まれた人が満70歳に達した時,○2明治44年4月1日以前に生まれた人,○2明治44年4月2日から大正5年4月1日までの者で保険料納付済み期間が生年月日に応じて下表期間を超えている者である.
福祉年金の対象者は2008年には1万2千人で2012年度には8千人となり,年金額は年額402,900円,月額33,575円である.

表1老齢福祉年金
生年月日 納付期間
明治45年4月1日以前 4年1月以上
明治45年〜大正2年4月1日 5年1月以上
大正2年4月2日〜大正3年4月1日 6年1月以上
大正3年4月2日〜大正5年4月1日 7年1月以上


表2 年金額と対象者の変化
年度 受給権者数(千人) 受給者(千人) 年金月額(円) 年金年額(円)
1960(昭35) 2,201 2,090 1,000 12,000
1965(昭40) 2,923 2,526 1,300 15,600
1970(昭45) 3,454 2,908 2,000 24,000
1973(昭48) 4,287 3,912 5,000 60,000
1975(昭50) 4,613 4,210 12,000 144,000
1978(昭53) 3,965 3,558 16,500 198,000
1980(昭55) 3,535 3,115 22,500 270,000
1985(昭60) 2,247 1,894 26,500 318,000
1990(平元年) 1,395 1,126 28,400 340,800
1995(平7) 525 400 33,533 402,396
1998(平10) 286 215 34,133 409,596
2000(平12) 185 137 34,333 411,996
2004(平16) 64 47 33,925 407,100
2007(平19) 24 17 33,817 405,804
2012(平24)     17 8  33,575 402,900

  (注)厚生労働省事業年報,老齢福祉年金受給権者・受給者状況より筆者作成

 後者の国民年金は,月額100円ずつ25年間加入すると,65歳から年額2万4千円が支給されるもので月額にすれば2千円にしかならなかった.35歳以上は,月150円ずつ10年〜15年未満の納入後,1万4千円が支給されるとされた.しかし,途中で死亡した場合には掛け捨てとなる問題や,当時は保険料も支払えない貧困層が700万人〜800万人も存在した.これらを改善して死亡時には一時金で還元すること,本人が希望すれば60歳から減額支給すること,保険料滞納者には差し押さえをしないこと等の修正が行なわれた.1973年に,拠出期間10年間で夫婦月額2万5千円,拠出5年間で月額1万6千円,1975年に厚生年金は9万円年金となったが,国民年金は夫婦で7万5千にしかならなかった.これらの経過から,1985年改正ですべての国民に共通する基礎年金(老齢基礎年金,傷害基礎年金,遺族基礎年金)が導入された.老齢基礎年金は,25年で受給資格ができ,支給開始は65歳とし,年金額は40年加入の完全年金で月額5万円という原則が設けられた.基礎年金には,自営業者,公務員,専業主婦,学生の区別なく原則として20歳以上,60歳未満の者が加入し,その種類によって,第1号,第2号,第3号に分かれ,第1号被保険者は,自営業者,学生などで保険料は定額制,第2号被保険者は民間サラリーマン,公務員などの被用者で保険料は1階部分と2階部分を合わせて支給される.第3号被保険者は,専業主婦など第2号保険者の被扶養配偶者で保険料負担はない.
年金額は,生活保護との整合性の観点から国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるという国民との約束があり,老齢基礎年金が発足した当時から政府の課題とされてきたのである(牧 2012).

3 特別徴収の問題点と特別徴収としない対象額の決定の経緯

基礎年金から特別徴収と特別徴収しない対象額が年額18万円(月額1万5千円)と定められた背景にはどのような根拠があったのだろうか.本節では,特別徴収がどのような経緯で導入され,特別徴収としない対象額の決定について,介護保険制度創設段階での議事録を掲げて検証する.

3.1 年金からの特別徴収と特別徴収しない対象額の最初の決定

介護保険法は1997年に制定,2000年4月から実施された.この制度で初めて年金から自動的に天引きされる特別徴収方法が採用され,第1号保険料の特別徴収しない対象額が年額18万円と法定された.
1998(平成10)年,厚生省は老人保健福祉局の審議会で議論を重ね,介護保険料の徴収方法に特別徴収を採用すること,特別徴収の対象としない額を決定している.以下では,議事録に掲げられた議論の経過を検証する.
 第17回老人保健福祉部会議事録要旨3)では,年金からの特別徴収の議論は,高井介護保険制度施行準備室長の説明と出席議員で実施されている.ここでは,その議論の一部を掲げて検討する.

○1年金額が一定以下の場合,天引きしないということであるが天引きされなくても普通徴収で保険料を徴収するわけだから被保険者の利便や事務手続きの簡素化という点からも合理的な徴収をした方がよい(成瀬委員).
○2天引き対象の金額を低めて効率的で徴収率が上がるような仕組みを作るべきではないか,特別徴収対象額の方も,最終的に普通徴収になる.月額の年金支払額3万円以上,年額36万円の案であると,約30%が普通徴収事務の対象となるので検討していただきたい(堀江委員).
○3保険者側の立場からいうと,たとえ月額の年金額が1万円でも特別徴収していただきたい.無年金者や低所得者の方の対応も並行して論議をしていただきたい.そうしないと切り捨てになって,介護保険にも入れない,介護も受けられないという形になる. 福祉の面で救われる道を考えることにならないか(野中委員).
○4天引きの対象額をもっと下げて集めやすくするのが原則ではないか,また,老齢福祉年金,遺族年金,傷害年金は,法律で控除規定があるから天引きできないが,国民皆保険という立場から法律を変えてでも保険料を徴収する形でないとおかしい.保険料徴収事務を合理化してコストを下げる必要がある(喜多委員).

指摘に対して高井室長は「保険料の水準も関係するが,どこまで年金の趣旨をなくすことなく天引きできるか,年金額が低い老齢福祉年金の額を考慮した⋯⋯滞納者対策については,財政安定化基金のような制度もつくり, 保険料未納の場合には運営に支障がないようなことも考えている」と述べている.この議論の後,以下のような意見が述べられている.

○5保険料を集める立場と支払う側の利害が明らかに異なるが,特に少ない年金受給者は手元に必要な時もあるから年金天引きの対象は3万円ぐらいが妥当ではないか(京極委員).
○6保険者側として,年金天引きの対象額を下げてほしいということはわかるが,年金受給者からすべて保険料を天引きしていくのはやや強制的な性格を持たせてしまう. 理念の問題と実務の問題をクロスするところに大変な問題がある.3万円の事務局案が妥当ではないか(多田羅委員).
○7遺族年金とか障害年金は,100万円位受給している方もいる⋯⋯36万円という限度を設けるなら,法律改正をして,遺族年金,障害者年金からも36万円以上の人からももらえるようにするのが公平なあり方ではないか.天引きされない30%の方の保険料を国や県が面倒を見るなら結構である.市町村が行なうシステムを作りながら,格好のいいところだけで線を引くのは勝手すぎる.保険財政の運営に支障がないように基金などで運営することについては,基金は借りたら返さなければならない.3万円という線を引くなら支援体制をつくってほしい.基金で面倒をみるということでは受けるわけにはいかない(野中委員).
○8単に保険料を納めるだけの問題ではなく,高齢者が介護を必要となった時にどれだけの負担がかかるかという問題があって,その中に保険料が含まれていると考えなければいけない.介護サービスを受ける場合,介護費用費の1割を負担し,その他に特別養護老人ホームであれば,今まで徴収されなかった食費,日用品費等,負担が加わる.これに月額 2,500円の保険料が加わり,介護保険のサービスが利用できることになる.保険料を負担できない方,そのために場合によって生活保護になる方もいる.そのことの対策も並行して論じなければならない.あえて被保険者の立場からは,3万円を下げるということは問題が大きすぎる(中坊委員).

これらの議論について,室井室長は以下の答弁を行なっている.

    生活保護世帯の保険料は,第1段階で適用することになっているので,各市町村の基準額の保険料の半分,5割の保険料となる.生活保護の保険料分は,生活保護法の生活扶助費として支給される. その保険料の徴収については,課題があり検討中である⋯⋯基本的には田畑という資産を見るのではなく,市町村民税の課税状況に応じて保険料をいただく.田畑から収入があれば,課税状況も変わり,結果として保険料が変わってくることもある.

上記の議論では,特別徴収という賦課・徴収の方法は決定されたものの特別徴収しない対象額は,年額36万円(月額3万円)に留まっている.ただし,老齢基礎年金との関係で,遺族年金, 障害者年金を対象とする意見や,介護保険から特別徴収されると,介護保険サービスを受給する場合の負担との関係で,生活保護に陥る可能性が指摘されている.
いずれにしても,介護保険制度を市町村運営とすることは財政上の困難性,高齢者の収入源は年金だけではないこと,ここでは述べられていないが,特別徴収の非対象者には, 連帯負担義務が課せられているという背景があったのではないだろうか.

3.2 特別徴収しない対象額の最終決定

それでは,特別徴収としない対象額が年額36万円(月額3万円)から18万円(月額1万5千円)となったその根拠はどのような理由であったのだろうか.
1998年11月26日の医療保険福祉審議会,第20回老人保健福祉部会,介護保険法施行令案の「諮問書」の議事録要旨4)では以下の意見が述べられている.
高井室長は「国の負担金は20%,調整交付金は全国ベースでみると5%で合計25%である.調整交付金は,後期高齢者数とか,所得状況に応じて各,市町村ごとに率を変えて行くことになっているので総額では国が5%負担することになる」と説明している.以下で議事録による議論を掲げる.

○1 第1号被保険者の設定では,生活保護世帯は最低ランクに位置づけられているが,生活保護世帯や障害者年金,遺族年金を受給している人の方が,生活が安定しており,老齢福祉年金を受給している人などは3〜4万円程度の収入しかないのが現状である.生活保護世帯は,保険料も利用者負担も国庫が持つのに老人は1割負担もしなくてはならない.これでよいのか問題点を感じざるを得ない.公租公課の禁止条項などはこの機会に思い切って外し,きちんと天引きができる処置をお願いしたい.それが無理なら月額1万5千円以下の年金受給者であっても本人が承諾をした場合には事前に天引きをするというような付帯事項つけていただきたい.財政安定化基金は,国と都道府県で2分の1ずつ負担することを検討されたい(野中委員).
○2天引き徴収されるのは月額4万円以上の受給者と言われたが,その後,3万円以上と説明されていた.それが,本日突然,年額18万円(月額1万5千円)という数字が示された.年金の種類による矛盾は感じられるが老齢福祉年金の受給者は決して少ない数ではなく,無年金者もいる.もらっているのだからそこから天引きすればという安易な考え方であれば,年金とは一体何であるか,われわれは,年金を一方的に国から与えられるものとは考えていない.法律によって強制的に年金から天引きされることになった経緯について疑問があるが法律として決まった以上はやむをえないとい考えている.今まで3万円以上と言われてきたがその根拠は何か,また,今,1万5千円となったのは収納率の問題なのか伺いたい(見坊委員).

これらの意見に対して高井室長は,以下のように述べている.

年金との関係については,1カ月3万円ということで提案させていただいた時は,効率的な収納面と年金の趣旨であった.年金の趣旨では老齢福祉年金は,1カ月3万4千円余りということもあり,3万円として7割ぐらいの方が特別徴収の対象になることでこれまで提案をしてきたが,収納を進めるという観点からこれをより多い範囲で対象になるようにというご指摘からである.そういう点で,対象を7割から8割ぐらいにしようということで水準を考えた.年金の趣旨については,1カ月1万5千円という水準は,敢えていえば,1カ月の保険料が数千円となると見込まれているが,それが引かれた後でもある程度の額は年金として残っている水準ということで,引いたものである.

この回答に対して,平成10年12月2日,医療福祉部会第21回老人福祉部会議事要旨5)で見坊委員6)は,以下の意見を述べている.

老齢福祉年金額以下の年金額の受給者については,任意加入時の問題があり,老齢福祉年金が出ない,遺族年金のみになるという者で,該当者は,大体主婦,妻が非常に多い.また,離婚した女性の問題がある.それからカラ期間が長くて受給資格がある人というのは⋯⋯多くは女性である.
非常に不利益を被っている上に,わずかな年金を唯一の収入にしている.勿論,年金だけでは生活できないため,やりくりをし,支援があるが,そういう者から特別徴収することは,社会の常識に反することではないか.介護保険料の支払い,利用者負担,食費その他日用品の負担が必要になってくるため, 年金のなかで自由になるお金をいくら残すのか,3万円が半分の1万5千円になるのは年金の趣旨に反する.年金は高齢者が自分の意思で使うことができる唯一の貴重な収入であり,仮に施設入所しても月額3万円は最低必要ではないか.月額1万円でも特別徴収してほしいという意見があるが,無年金者とか低所得者を切り捨てることが容認されるのであれば,介護保険制度の趣旨に反することになる.

見坊委員は医療福祉審議会第22回(12月9日)で「年金というものが,公租公課を禁止した趣旨を改めて勉強する必要性と,どうせ取られるものであるという考え方なら,たぶん国民健康保険料も直ぐに天引き徴収の対象になるかも知れない」7)と述べている.

これらの経緯からみると,年額18万円(月額1万5千円)は,老齢福祉年金を基準に決定され,同時に年金対象者からも賦課・徴収する意図があったと考えられる.介護保険制度は走りながら考える, 考えながら走るという試行錯誤で出発し,5年後には見直されるとされたが,特別徴収と徴収しない対象額はその後も変更されないまま,むしろ,見坊委員の指摘したように,2008年4月から後期高齢者医療保険料に介護保険と同様の基準で特別徴収制度が導入され,10月から国民健康保険料にも導入され,2009年度からは,住民税までもが対象となった.
伊藤は,介護保険料訴訟最高裁判判決で特別徴収制度が著しく合理性を欠くということはできず,経済的弱者を差別したものではないとされたことについて「憲法25条・14条に違反しないとしている⋯⋯特別徴収の問題は,特別徴収という保険料の徴収方法を採用したことの合憲性の問題に収斂される」(伊藤 2009: 64)と指摘する.
これらの観点から,老齢福祉年金および少額な老齢基礎年金受給者は,月額1万5千円しか受給できない.国民健康保険料あるいは後期高齢者医療保険料を普通徴収で支払うことは不可能である.これは介護保険料が機械的に引き上げられても容認せざるを得ないことや実質的な年金の引き下げを意味する.

4 後期高齢者医療制度と特別徴収

2008年4月から,1983年から継続されてきた老人保健制度を廃止して,75歳以上の高齢者に対する別建ての医療保険制度,後期高齢者医療保険制度が新設された.本節では,後期高齢者医療制度の創設過程を検証し,現状の保険料と保険証の差し押さえの実態を提示して特別徴収の問題点を検討する.

4.1 後期高齢者医療制度ができるまで

後期高齢者医療制度創設は,1977年に高齢者の医療費が増える対策が必要であるという発想が出発点であった.出発点には,福祉元年と呼ばれる1973年の老人医療費の無料化があった.当時は高齢者の通院回数が増え「待合室のサロン化」,同じ病気でいくつもの病院にかかる「梯子受診」,営利優先の病院による「乱診乱療」が問題視され始め,老人医療費は急増,高齢者が多く加入する市町村単位の国民健康保険の財政が圧迫されるようになった.こうした状況から厚生省は,老人医療費の無料化の改革を検討しはじめ,1977年に老人を国保から切り離して別建ての制度とする現在の後期高齢者医療制度と同様の考え方が提唱され始めた.しかし,当時の日本医師会の武見太郎会長が「老人姥捨て山構想」と批判し,この構想は頓挫したという歴史的経緯があった.これらの議論の末に創設されたのが1983年の老人保健制度である.
老人保健制度は市町村が運営主体となり,老人の健康づくり,老人医療費をサラリーマンの健康保険組合や公務員の共済,市町村国保がお金を出し合う拠出金制度を導入するという仕組みの2本柱で,高齢者の自己負担は外来400円から徐々に上がり,その後も医療費は伸び続け,1987年には,医療と介護の中間施設として老人保健施設が創設された.
1989年には,「これからの高齢社会を活力のあるものとするため税」を第一に掲げた消費税(3%)が導入され,翌年の1990年には,消費税導入に合わせて福祉八法改正が行なわれた.これらの税制改革と社会保障の連続性は,社会福祉構造改革と呼ばれる介護保険法の(1997年)制定であり,老人保健制度の医療等以外の分野が従来の措置制度から契約制度へと転換し,市場化を伴った保険原理による介護保険制度が2000年度からスタートした.さらに橋本龍太郎政権による6大改革構想が打ち出され,消費税率が3%から5%に引き上げられ,うち1%が地方税に振り分けられた.
 2001年からの小泉純一郎政権では,サラリーマン本人の窓口負担を2割から3割に引き上げを決定し,現役世代の保険料が支える高齢者医療を含めた抜本改革の必要性から,新しい高齢者医療制度の創設を2年以内に実行することが約束事項となった.
厚労省の2002年の試案は○1厚労省(坂口力厚労相)の高齢者も従来の制度に加入したまま制度間でお金のやり取りをする案○2自民党の独立型案の2つの方法案が提案された.しかし,厚労省案は老人保健制度と本質が同じであることから2003年3月,医療改革の基本方針が閣議決定,65歳から74歳までの前期高齢者の医療費は,厚労省案の異なる保険制度の間でお金のやり取りをする仕組みで支え,75歳以上の後期高齢者については自民党の独立案を採用するという内容であった.
厚労省の意図は,2025年度の医療給付費56兆円から48兆円への抑制で70歳〜74歳の高齢者の負担を1割から2割への引き上げであった.
2006年5月17日,自民・公明両党は医療制度改革関連法案を衆院厚生労働委員会で採決,両党による賛成多数で可決した.すでに「現役並み所得」概念が導入され,この所得層への公費を負担しないこととし,老年者控除廃止などによる「現役並み所得」判定基準改正が実施された.
2008年4月1日から退職者医療制度および老人保健制度を廃止して,前期高齢者財政調整制度(65歳〜74歳)および後期高齢者医療制度(75歳以上)が創設された.後期高齢者自身が別建ての医療保険に切り離される実感や世の中がこの制度に気づいたのは2008年4月からで,新しい保険証が手元に届き始めてからであった8).

4.2 後期高齢者医療保険料の特別徴収の揺らぎ

このような経過から75歳以上の約1,300万人が加入する後期高齢者医療保険制度は,2008年6月13日,2カ月分の保険料が特別徴収,すなわち,年金から天引きされた.2008年4月に続いて2回目は,国民健康保険から移った約830万人が対象であった.初回の4月15日には保険料天引き額や対象者を誤るミスが各地で相次ぎ,2回目も修正が間に合わず過大徴収してしまうケースが18道県の40市町村で計2,753件生じる見込みとなった.対象者には連絡して徴収しすぎた分は後日返還する等の方法が採られるなど新制度をめぐる特別徴収の混乱が続いた.2回目の特別徴収を控えた2008年6月12日,政府は○1特別徴収(年金から天引き)を免除し,世帯主が肩代わりで納付○2低所得者への負担軽減等を盛り込んだ運用見直し策が採られたが,3回目(8月15日)までの特別徴収は4月と同じであった.特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれた.福田康夫首相は,首相官邸で記者団に対して「高齢者の気持ちを心ならずも傷付け,配慮も欠けていた点は率直にお詫び申し上げる」と陳謝し,「持続可能な制度でなければならない.元の(老人保健)制度に戻せば大混乱を来す」と述べ,運用見直しを通じて新制度の定着に努めることとされた9).
これらの経過から,低所得者保険料軽減措置を拡充して,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替での支払い,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者の口座振替での「肩代わり納付」が可能となった.ただし, いずれも加入者本人の申請が必要とされた10).

4.3 後期高齢者医療保険料の差し押さえ実施状況と都道府県別保険料

特別徴収等の混乱などを招きながら導入された後期高齢者医療保険は,低年金や無収入でも75歳以上の全員に保険料が賦課され,全額免除となるには厳しい制約がある.後期高齢者医療保険料の加入者8割(2010年)は,特別徴収制度によって保険料が賦課され, 18万円未満の老齢基礎年金受給者などは,普通徴収で支払う.また,後期高齢者医療保険制度には高齢化が進むにつれて際限なく上げられる保険料の仕組みが内包されている.そのため,保険料が支払えず滞納し,有効期限の短い短期保険証に切り替えられた高齢者が2万人を超え,年金などの差し押さえを受けた人が2010年度では全国で1,792人にのぼることが厚生労働省(2012年3月4日)の調査で明らかにされた.
表3は,2010年度で実施された都道府県別の滞納処分の実施状況である.表4は,2012年度から2013年度にかけての都道府県別の月額保険料と2010年度から2011年度の保険料の増減率を示している.
表3では,被保険者の差し押さえ人数が多いのは東京都の148人,広島県の129人,大阪府・島根県の119人などである.一方,青森,宮城,秋田,山梨,奈良,徳島,宮崎の7県では0人で,全国の差し押さえに関わる滞納額は1億8,907万円にのぼる.北海道では預貯金や年金が差し押さえられるケースもあり,その額は1件で114円,4,000円,8,000円などのわずかな額の差し押さえが行なわれている.東京都内では年金2カ月分の振り込みと同時に差し押さえられているケースもある.滞納処分の対象者は,特別徴収の対象者以外の普通徴収の対象者などと考えられる.

表3後期高齢者医療保険料滞納処分の実施状況/表4都道府県別月額保険料と増減率
2010年度における滞納処分実施状況 2012〜13年度都道府県別保険料(月額)
道府県 被保険者数 金額(万円) 平均月額(円) 増減率(10〜11年度)%
北海道 94 661 5,549 2.5
青森 0  0 3,352 0.9
岩手 67 629 3,113 ▲1.1
宮城 0  0 4,646 4.8
秋田 0  0 3,259 5.1
山形 17 70 3,464 4.1
福島 74 526 3,776 0.8
茨城 15 89 4,277 2.5
栃木 78 719 4,471 9.6
群馬 40 175 4,692 9.4
埼玉 34 640 6,255 4.6
千葉 13 69 5,428 ▲1.1
東京 148 3,278 7,872 9.1
神奈川 96 245 7,547 6.6
新潟 11 162 3,545 ▲1.4
富山 4 162 4,947 9.3
石川 14 77 6,201 6.2
福井 15 214 4,489 ▲0.4
山梨 0 0 4,050 5.6
長野 32 154 4,160 5.1
岐阜 15 45 4,702 4.0
静岡 3 40 5,151 3.8
愛知 17 889 6,684 5.9
三重 48 467 4,470 9.0
滋賀 36 137 5,135 9.9
京都 39 1,167 6,253 5.0
大阪 119 635 7,098 6.9
兵庫 51 886 6,252 6.1
奈良 0 0 5,830 9.0
和歌山 13 132 4,261 2.8
鳥取 30 44 4,003 0.7
島根 119 635 3,900 7.4
岡山 52 1,475 5,028 2.1
広島 129 936 5,603 7.5
山口 81 671 5,542 3.8
徳島 0 0 4,485 13.0
香川 2 25 5,286 1.1
愛媛 8 11 4,487 9.4
高知 15 54 4,845 9.9
福岡 37 656 6,606 6.7
佐賀 45 229 4,706 5.4
長崎 90 664 4,322 4.8
熊本 34 263 4,439 3.2
大分 18 892 4,634 5.7
宮崎 0 0 3,940 10.7
鹿児島 34 268 3,853 4.6
沖縄 5 41 4,685 2.1
全国平均 1,792 18,907 5,561 5.9
(注)金額は差し押さえに関わる滞納保険料であり実際に収納した金額ではない:しんぶん赤旗2012年3月5日付 (注)▲はマイナス:しんぶん赤旗2012年4月1日付

表4の2012年〜2013年度の都道府県別の平均月額後期高齢者医療保険料では,2010年〜2011年度に比べて全国平均で5.9%(312円)上がり,5,561円,年額では3,744円の負担増しとなった.保険料は都道府県単位の医療費に応じて2年ごとに改定され,全員に均等に課される均等割と所得に応じて課せられる所得割の合計額が保険料となる.平均保険料が引き下げられたのは岩手,千葉,新潟,福井の4県で,引き上げ幅の大きいのは徳島の13%,宮崎の10.7%,9%台は栃木,群馬,東京,富山,三重,滋賀,奈良,愛媛県などである.
介護保険制度で導入された特別徴収は,後期高齢者医療保険料, 国民健康保険料(税),住民税におよぶ. 以下でそれぞれの特徴をまとめておこう.

4.3.1 後期高齢者医療保険の特別徴収

後期高齢者医療保険の特別徴収の対象者は,年金額が年18万円(月1万5千円)以上の人が原則であるが,医療保険料と介護保険料の合計が年金額の半分を超える人は除かれる.また,創設当初の誤徴収の経過から,国保の保険料を滞納せずに支払い続けてきた実績のある人には特別徴収を廃止して口座振替で支払いや,年金収入が年180万円未満の人には世帯主の子どもや配偶者に口座振替での「肩代わり納付」も可能となった.ただし,いずれも加入者本人の申請が必要とされた.

4.3.2 国民健康保険料の特別徴収

国民健康保険料の特別徴収は,2010年10月から開始された.ただし,国民健康保険料で滞納していない者は,これまでの国保料と同様に口座振替によって賦課・徴収される.ただし,この場合も納付方法変更の申請を行なわなければならない.申請をしない場合は特別徴収の方法で賦課・徴収となる.

4.3.3 住民税の特別徴収(京都市)

住民税は地方税法改正により,65歳以上の公的年金受給者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者は,平成21年10月支給分の公的年金から原則として社会保険庁などの公的年金の支払者が市・府民税を引き落とし,市に納入する方法(特別徴収)に変更されることとなった.
京都市では,個人の市・府民税は,税金を負担する能力がある者全てが均等の税額を治める均等割と,その人の所得に応じて納める所得割の合計額が賦課される.個人の府民税は京都府の税金であるが,納税義務者や課税所得金額などが個人の市民税と同じであるため,京都市が個人の市民税と合わせて課税・徴収し,京都府へ払い込む方法が採られている.
従来,65歳以上の者の年金所得に係る市・府民税は納付書や口座振替で納める方法であった.給与収入のある者は,給与所得に係る市・府民税とも,給与の支払者が給与から特別徴収する方法によって納められていたが,老齢基礎年金から特別徴収に改正された.特別徴収の対象者は,その年度の初日(4月1日)現在,老齢基礎年金等から介護保険料が特別徴収されている年金が対象とされた.ただし,障害年金,遺族年金は住民税が非課税であるため除かれる.
対象者は,老齢基礎年金を受給している65歳以上の者で,年金所得に係る市・府民税が課税される者である.対象除外者は○1基礎年金の年額が18万円未満の者○2介護保険料が年金から特別徴収されていない者○3特別徴収される税額が老齢基礎年金等の額を超える者とされている.
このようにして,介護保険,後期高齢者医療保険,国民健康保険,住民税までもが特別徴収に切り替えられた.

5 民主党政権での見えにくい社会保障と税制の一体改革の動向

本節では,民主党政権が自民党政権へ交代する直前までの社会保障と税制の一体改革の流れを述べる.
野田佳彦首相が政権公約を捨ててまで重視した消費税率引き上げ(2014年4月から8%,2015年10月から10%)等を柱とした社会保障・税一体改革関連法案が2012年6月26日の衆院本会議で民主・自民・公明・国民新党等の賛成多数で可決,同日中に参院に送付された.可決された関連法案のうち,民主・自民・公明の3党合意を踏まえて提出された「社会保障制度改革推進法案」では,今後の高齢者医療制度などを議論する国民会議の設置,「年金機能強化法案」では,短時間労働者の社会保険適用を2016年10月から拡大することが盛り込まれた.しかし,消費税率法案を可決するために民主・自民・公明の3党合意という手法が採られたため,政府案であった消費税増税を掲げた税制法案から税体系全体の再分配を回復するというくだりや,所得税の最高税率を40%から45%に引き上げるという条項等が削減された.
社会保障分野では,最低保障年金,給付つき税額控除,後期高齢者医療制度廃止などが棚上げされ,社会保障・税一体改革関連法案に「社会保障制度改革推進法案」がもちこまれ,社会保障の基本に自助・共助を据え公助の適切な組み合わせを留意しつつ,国民が自立した生活を営むことができるよう家族相互の助け合いの仕組みを通じて実現を支援するとされた.その一方で,社会保障の公費負担は,消費税を主要な財源と位置付けて,国民に消費税増税か社会保障の削減かの二者択一を強いるものであった.
自民党政権下での税制改正では,所得税における配偶者特別控除上乗せ控除廃止を皮切りに,老年者控除廃止,公的年金等控除の最低保障額が引き下げられた(2005年).同時に,恒久的減税の縮減・廃止(2005・2006年),住民税が累進税率から比例税率に改正された(2007年).これらのうち,老年者控除の廃止は,高齢者の課税最低限を引き下げ,「現役並み所得」の算定基準の改正に接合されながら後期高齢者医療保険料の財政構造を形成した.民主党政権下での子ども手当との関連で,年少扶養控除の廃止とも関連して,2013年度から国民健康保険料,国民健康保険税の所得割の算定方式が「所得」から基礎控除以外の所得控除を非該当とする「旧ただし書き方式」へ統一される11)(牧 2012 : 175).
これらの改正に加えて民主党政権では,「復興特別税」として臨時増税が2013年1月から実施される.復興特別税とは利子所得や事業所得などすべての所得が対象で所得税額の2.1%を特別に徴収する.所得税の課税される期間は,2013年1月から2037年12月までの25年間で,個人住民税は2014年度から10年間,住民税の均等割額が年間1,000円(都道府県500円,市町村500円)引き上げられる.その一方で,民主党の政権公約に掲げられていた所得控除のうちの扶養控除が子ども手当となり,最後に児童手当に整理され,2011年度改正で野党からの反対で先送りされていた「成年扶養控除」(扶養控除のうち,23歳〜69歳の扶養親族がいる者を対象とした所得税,住民税の所得控除)の縮小が,2013年度の税制改正大綱に盛り込まれる可能性がある12).配偶者控除廃止は,2009年の衆院選の政権公約に掲げられ,2012年度改正では最大の懸案であったが2014年4月に消費税率を8%への引き上げを控え,2013年度の税制改正での実施の議論は先送りされた.
ところで,企業の法人税は2012年4月から約3%の復興特別法人税が付加されているが,法人税の実効税率は40%から35%に引き下げられている.今後3年間は,約3%の復興特別法人税が付加されているため現状の法人税実効税率は約38%であるが,3年を経過すると法人税の実効税率は35%に戻る.法人税率の上げ下げは,法人税が実質的に3%引き下げられることを意味しており,2014年度から消費税率が8%へ引き上げられこととの矛盾がある.
また,公的年金の給付水準は,前年の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む)を基準に毎年度改定される.そのため物価上昇時は増額し,下落時は減額されることとなっている.しかし,1999年〜2001年に物価が下落したのに2000年〜2002年度の給付を特例で据え置き,現在も本来の水準より高い水準で給付しているとして,2013年10月から3段階で減額する国民年金法改正案が民主,自民,公明などの賛成多数で可決した.この引き下げは3段階で実施され, 最初に2013年10月分から1%の減額, 2014年4月分から1%,2015年4月分から0.5%と合計2.5%が引き下げられる.2013年10月分の国民年金(満額)では,月額666円減って64,875円となる.厚生年金(平金的年収で40年間会社員と専業主婦の妻)は2,349円減の22万8,591円で最終的には, 国民年金で月1,675円(年20,100円),厚生年金で月5,900円(年70,800円)減額となる.このような社会保障と税の一体改革が次々に打ち出されている中で,2012年11月16日,野田総理は突如,衆院解散を宣言し,衆院総選挙が12月4日に公示され,12月16日に実施されることになった.前日11月15日,衆院本会議で民主,自民,公明などの賛成多数で2015年度まで赤字国債を自動的に発行できる公債特例法案が可決,参院の財政金融委員会でも可決された.これによって,国会のチェックなしに赤字国債が自動的に発行できる赤字国債自由化が決定したのである.
これらの社会保障と税制の一体改革は,2013年度以降,次第に個人の生活に影響をもたらすことが考えられる.

むすびにかえて──今後の課題

本章は,老齢基礎年金から特別徴収される住民税および社会保険料,さらに特別徴収としない対象額が年額18万円と定められた経緯を確認し,税および社会保険料の賦課・徴収と社会保障としての老齢基礎年金の理論的検証を行うことを目的とした.
第1節では人口構造の変化を述べ,少子高齢社会の現状を確認し,第2節で国民年金の沿革と老齢福祉年金の関係を押えた.第3節で老人保健福祉部会議事録から特別徴収と特別徴収の対象としない年金額が年額18万円(月額1万5千)と決定した根拠を確認した.特別徴収の対象としない額は,当時の老齢福祉年金を基準として,背景には8割の徴収率を上げる目的と同時に老齢福祉年金対象者も介護保険料の徴収の対象とする意図があったと考えられた.
一方,老齢基礎年金は,高齢者は年金だけが収入源ではないこと,特別徴収非徴収者にも連帯負担義務が課せられること, 最低収入の高齢者は生活保護でカバーされるなど背景があったと思われる.そして, 介護保険料訴訟最高裁判決では,特別徴収制度が著しく合理性に欠くことができず,経済的弱者を差別したものではなく憲法25条・14条に違反しないという決定がなされている(伊藤2009).しかし,都道府県別の後期高齢者医療保険の滞納処分は,保険料の増減率と関連して普通徴収でも支払えない高齢者の存在を表明している.
第5節で民主党政権での社会保障と税の一体改革での老齢基礎年金が引き下げは,特別徴収そのものが実質的な老齢基礎年金の引き下げであることが看過されている.憲法30条の納税の義務と憲法25条の生存権の整合性が問われなければならないだろう.
2012年12月16日,民主党政権から自民・公明党政権に変わった.民主党政権での社会保障と税の一体改革が自公政権でどのように展開されるか,その動向を見ながらボーダーライン層の高齢者の税および社会保険料負担と社会保障の関係の検証を行うことを今後の課題とする.

[注]

1) 生活保護を受給している高齢者に老齢加算部分を老齢福祉年金に見合う よう引き上げて,扶助額に上積みして支給された(黒住・中鉢・松本 1975:34).
2) 社会保険実務研究所(2012b).
3) 厚生労働省(2009a).
4) 厚生労働省(2009b).
5) 厚生労働省(2009c).
6) 見坊和夫委員は,当時,全国老人クラブ連合会副会長.厚生省委員名簿(老人保健福祉部会)に掲載されている(厚生省 2009d).
7) 厚生労働省,医療保険福祉審議会第22回老人保健福祉部会議事要旨.
8) 『京都新聞』2012年10月24日朝刊.
9) 『朝日新聞』2008年4月22日朝刊.
10) 『京都新聞』2008年6月13日朝刊.
11) 老年者控除廃止と医療保険制度改革の連続性は国保料(税)の「旧ただし書き方式」につながっている(牧 2012).
12) 『京都新聞』2008年6月15日朝刊.

[文献]

伊藤周平,2009,「国民健康保険・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』:27-81.
北野弘久,1983,『憲法と税財政』三省堂.
黒住章・中鉢・松本編,1975,『老齢保障論』有斐閣.
真田是,1971,「現代民主主義と社会保障」(=総合社会福祉研究所,2012,『真田是著作集〈2〉社会保障論』福祉のひろば,50-89.)
社会保障実務研究所,2012a,『新・国民健康保険基礎講座』創美堂.
────,2012b,『週刊国保事務』2883,2012年12月10日付.
牧昌子,2012,『老年者控除廃止と医療保険制度改革──国保料(税)「旧ただし書き方式の検証」文理閣.
渡辺喜久造,1957,『税の理論と実際』日本経済新聞社.

[URL]

伊藤周平,2009,「国民健康保険料・介護保険料の法的諸問題」『鹿児島大学法学論集』,(2012年10月30日取得,http://handle.net/10232/14200).
厚生労働省,2009a,「医療保険福祉審議会第17回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9810/s1012-1_17.html).
────,2009b,「医療保険福祉審議会第20回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9811/s1126-2_17.html).
────,2009c,「医療保険福祉審議会第21回老人保健福祉部会議事要旨」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9812/s1202-3_17.html).
────,2009d,「委員名簿(老人保健福祉部会)」,(2009年7月31日取得,http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s1028-4.html).

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