人工呼吸器使用者の停電への備えに関する調査の結果について(東京都)

PDFダウンロード

本文

酒井美和


1 はじめに

 本稿では2011年6月に東京都で実施された「人工呼吸器使用者の停電への備えに関する調査の結果について」(以下、東京調査)に基づき、東京調査の結果について検討する。そのために、東京調査の位置付け、調査概要、調査結果について資料を抜粋・引用しながら、人工呼吸器を使用している都民の停電への備えについて述べる。

2 調査の位置付け

 東日本大震災による地震、津波、原発事故という複数の原因によって引き起こされた影響は広範囲に及び、日本の中枢機能を担う東京都にも大きな影響を与えた。それにより、東京都の都市機能を維持するシステムの再検討が迫られ、2011年6月に東京都によって「東京緊急対策2011【6月補正予算(案)反映版】」(事業規模:約3,710億円)が策定された(1)。
 本対策は、「今回の大震災の現実感ある教訓を踏まえ、災害に強く、震災前を上回る都市力を備えた東京を実現していく」ために、「東京の力を最大限発揮してこの国難に立ち向かうとともに、日本の復興を東京から牽引していけるよう、こうした将来を見据えた本格対策に直ちに着手」すると示されている。
 そのなかに、「不測の事態に備え、電力不足から弱者を守る取組」として、在宅療養患者への緊急支援(補正規模:2億円)などが含まれており、東京都緊急対策2011の一環として「人工呼吸器使用者の停電への備えに関する調査」が実施された(表1)。

 3 調査概要

 1.調査の意義について
 東京調査では「都内の人工呼吸器患者全体を対象に、停電への準備状況を調査するのは、今回が初めてであり、全国的にも例がない」と示されているが、質問項目別に見ると類似の調査はいくつかある。例えば、人工呼吸器利用者にとって、停電は生命の維持に直結する課題であるため、バッテリーやアンビューバッグ(蘇生バッグ)の有無に関する調査がある。全国を対象に人工呼吸器を装着した在宅ALS療養者および、各保健所にて把握するたんの吸引に他者の介助を必要とする在宅療養者を対象として川村らが行った調査(2007)では、人工呼吸器の外部バッテリーの有無や購入時期、アンビューバッグ(蘇生バッグ)の有無、使い方の認知などが聞かれており集計結果を見ることができる(2)。しかし、川村らの調査も停電に焦点を当てた調査ではないため、停電全体に関わる準備状況を知ることはできず、その点において東京調査には意義がある。

 2.調査対象について
 東京調査は「今夏の電力不足等に備えるため緊急で実態を把握する観点から、在宅人工呼吸器使用者のほとんどが訪問看護を活用していることに着目し、訪問看護ステーションへのアンケート調査とした」とされている。
 「在宅人工呼吸器の使用者のほとんどが訪問看護を活用していることに着目」とあるが、何人が訪問看護を実際に利用しているのか詳細は分からない。しかし、先に挙げた川村らの調査では在宅のALS患者で人工呼吸器を使用している749名のうち731名(98%)が訪問看護を利用していた(3)。よって、実際に在宅人工呼吸器使用者の多くは訪問看護を利用していると思われる。
 また、訪問看護は訪問看護ステーション以外に病院や診療所においても行われている。訪問看護ステーションが訪問看護全体に占める割合を見ると、例えば、介護保険サービス提供事業所別の訪問看護実施回数では、95%が訪問看護ステーションであった(4)。したがって、訪問看護の利用実態は訪問看護ステーションの実施状況を見ることで、おおよそ知ることができる。
 以上のことから、在宅人工呼吸器使用者の殆どは訪問看護ステーションによる訪問看護を利用していると考えることができる。

 3 調査結果

 1.回収率、人工呼吸器使用者数について
 一般的にアンケート調査は回収率が低く、3割程度の回収率が平均的である。東京調査は回収率が約8割と高く、計画停電を経験した東京都では、人工呼吸器と停電について高い関心があることがわかる。



 2.調査結果のポイントから
 都が東京調査から示したポイントは表3の通りである。人工呼吸器が停電によって動作を停止することで、人工呼吸器使用者は呼吸ができない非常事態に陥る。そのため、人工呼吸器には内部バッテリーが装備されているものが多い。しかし、東京調査によると人工呼吸器に内部バッテリーが装備されていない使用者が34.8%を占めた。つまり、約3割の人工呼吸器使用者は停電と同時に呼吸も停止してしまう。
 人工呼吸器でも侵襲的陽圧換気(以下、TPPV)に使用される新しい機器には現在は殆ど内部バッテリーが装備されているが、非侵襲的陽圧換気(以下、NPPV)に使用される機器の場合には、現在でも内部バッテリーが装備されていないことが多い。東京調査によるとTPPVにあたる気管切開者は全使用者のうち377人(48.0%)、NPPVにあたる鼻マスクは297人(37.8%)となっている(未記入111人、14.2%)。
 よって、気管切開者である約半分の人工呼吸器使用者の多くは内部バッテリーが装備されているが、鼻マスク使用者は内部バッテリーが装備されていない場合が多数ではないかと思われる。鼻マスク使用者は人工呼吸器を長時間は使用しない方が多いと思われるが、それだけに停電対策は余裕があれば行うというように、準備のためのインセンティブは低くなりがちとなる。TPPVの方はもちろんだが、NPPVの方も内部バッテリーを始めとした停電対策が必要であり、準備を促す働きかけが求められるだろう。



 3.調査結果の「13 まとめ」から
 表4にある通り、「難病患者については、疾病の特徴から、気管切開をし、24 時間人工呼吸器を使用することが多いため、停電・災害時の対応について、特に確認・指導の必要性がある」。しかし、ここで留意したいことは、難病患者は当然ながら、それ以外の患者にも停電時の対策を促す配慮の必要性である。
 東京調査の在宅人工呼吸器使用者のうち難病医療費助成制度利用者(391人、49.8%)を「難病患者」、それ以外の患者を「難病患者以外」として、「人工呼吸器使用者の停電への備えに関する調査結果」から各調査項目別に再計算した結果の一部は図1〜図4の通りである。これによると、難病患者は不十分ながらも難病患者以外と比べると停電・災害対策がされていると考えられる。
 図3に示されている通り、24時間呼吸器を使用している方のうち外部バッテリーがないと答えた人は、難病患者で14%、難患患者以外で33%であり、難病患者以外の方が外部バッテリーを所持していなかった。
 これには様々な理由があると思われるが、難病患者以外は24時間使用であっても、多くが鼻マスクを使用しており、外部バッテリーの必要性がそれほど感じられないためではないかと思われる。また、関わる専門職などからも情報提供がされにくい、患者会との繋がりもなく知る機会が少ないため外部バッテリーの存在そのものを知らないことも考えられる。その他、金銭的理由も考えられる。
 以上のような要因が考えられるが、現状として難病患者以外はそれほど停電対策の準備がされていなかった。よって、人工呼吸器使用者のうち難病患者だけではなく、それ以外の患者にも広く停電対策を促していく重要性が示された。

 4 おわりに

 東京調査の結果を受けて、都は人工呼吸器用外部バッテリーやアンビューバッグ(蘇生バッグ)等の購入費を全額補助し、医療機関を通じて患者に無償貸与する事業を開始した。現在、在宅療養患者緊急時対応支援事業として実施されているが、申請対象者は「都内に居住する在宅療養患者に対し、人工呼吸療法を実施する医療機関」であり、つまり人工呼吸器使用者は都民に限定される(在宅療養患者緊急時対応支援事業補助金交付要綱、平成23年7月15日付23福保医政第542号)(5)。したがって、都民以外の患者が同様の支援が受けられるかどうかについては、各自治体の裁量に委ねられている(6)。現在は、厚労省の支援(保健衛生施設等設備整備費補助金)もあり、外部バッテリー貸与などを行う自治体も見られるようになってきた。しかし、その情報が在宅生活を送る人工呼吸器使用者にどれくらい届いているだろうか。必要な情報が必要としている本人に伝わる仕組みづくりも、行われなければならない。

※表1〜表4は東京都(http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/07/60l7j100.htm)および人工呼吸器使用者の停電への備えに関する調査研究(東京都福祉保健局保健政策部)から引用・抜粋

[注]
(1)東京都緊急対策2011 6月補正予算(案)反映版(http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2011/05/70l5r301.htm)
(2)川村他(2007)
(3)前掲2。川村他(2004)にも同様の調査があり、そこでは在宅人工呼吸器使用ALS患者の回答者766人のうち、745人(97%)が訪問看護を利用していた。
(4)平成22年介護給付費実態調査報告(厚生労働省)
(5)東京都在宅療養患者緊急時対応支援事業(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/sonota/zaitakukinkyusien/index.html)
(6)東京都の支援には幾つか留意事項がある。例えば、人工呼吸器の「内蔵バッテリーにより通常の使用状態で6時間以上の駆動が確保できる場合には、補助対象となりません。」と示されている。6時間を基準としていることから、長時間停電というよりも計画停電による影響を考慮した支援だと考えられる。

[参考文献]
川村 佐和子 他 2007 『ALS(筋萎縮性側索硬化症)およびALS以外の療養患者・障害者における、在宅医療の療養環境整備に関する研究 平成18年度研究報告書』,厚生労働省科学研究費補助金
川村 佐和子 他 2004 『ALS患者にかかる在宅療養環境の整備状況に関する調査研究報告書』,厚生労働科学特別研究事業

生存学研究センター報告

サイトポリシー | 個人情報保護方針 | サイトマップ | お問い合わせ
アクセシビリティ方針