「まちの居場所」の継続可能性とその効果に関する実証的研究プロジェクト

無縁社会をめぐる諸問題について、特に人と人がつながりを作る場所「まちの居場所(コミュニティカフェ)」の効果が注目され、近年は主に高齢者や障害者、そして彼らを支えるものが運営を担っている。また、利用者としては特に高齢者や障害者が増えてきている。しかしながら、これら「まちの居場所」は運営者や利用者(特に行き場の少ない高齢者や障害者)が継続の希望を持ちながらも、志半ばに終了してしまうことも少なからず存在する。「まちの居場所」が永続的に継続されていくためには、どのような要件が必要になるのであろうか。
本研究は、実際に「まちの居場所」の運営に携わってきた研究者が、成功・失敗例を含む様々な事例について学術的な分析を試み、今まで本格的には考究されてこなかった「まちの居場所」の継続要件を明らかにし、あわせて、継続に必要な資源・運営者のマネージメント能力・社会環境等の要素を体系的に提示すること、「まちの居場所」の効果を明らかにすること、そして、今まで言葉として残されることも少なかった生きる知恵や技法として「まちの居場所」をつくるという意味を明らかにすること(いくつかの論文で「まちの居場所」は研究されてきたが、その多くは研究者が実験的に作り出した「まちの居場所」によってもたらされる効果であり、研究者以外の者が生きる知恵や技法として運営する「まちの居場所」の研究は極めて少ないといえる)を目的とする。
これらの研究を遂行することによって、高齢者や障害者など社会的弱者の孤立を予防しやすい環境を整える方法について、一定の政策提言ができるのではないかと考える。また、「まちの居場所」の効果は、個別事例においては、「選択縁」を育む場所としての効果がある等、少数ではあるが明らかにされてきたわけだが、多数の事例を比較して、明らかにはされてこなかったといえる。本研究は、事例を30件程度比較することを視野に入れており、効果についてより迫るものとなるといえる。

本研究は、細やかなつながりで高齢者や障害者の孤立を抑止する機能をもつ「まちの居場所」の永続的継続要件を明らかにするものであり、「まちの居場所」という弱いつながり(紐帯)に必要とされる継続力、組織力、そして体系性を生存学に蓄積することができる。
「まちの居場所」の中には、高齢者や障害者が自ら運営者となって運営されているものが多く、病気を抱える者も少なからず存在する。この傾向は、個々数年、顕著なものとなっているといえ、彼らはそれを「自らが行うデイケア」、「地域に美田を残す」などと表現する。「まちの居場所」づくりは、生きる知恵や技法の創出にもつながっている。しかしながら、これらの生きる知恵や技法の多くは集積されること無く、活動の終了と共に自然とその多くは消滅している。今まで、ほとんど明らかにされてこなかった「まちの居場所」運営者や利用者の生存学を明らかにすることは、生存学研究センターにおいても一定の効果があると考えられる。

プロジェクト名 「まちの居場所」の継続可能性とその効果に関する実証的研究プロジェクト
プロジェクト代表者 上野千鶴子
年度 2013