スイッチ研究会

本プロジェクトは、自立生活をしている筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の重度難病者の生活について、ALSの人自身の主観から明らかにしていくことを目的とする。

ALSは、人工呼吸器を装着すれば長期的な生存が可能となる病である。しかし、その装着をあきらめる人は決して少なくない。日本における人工呼吸器の装着率は30%にも満たないといわれている。また、欧米における人工呼吸器の装着率は、日本よりもさらに低い2〜3%といわれている。言い換えれば、多くのALSの人たちが自ら死を選んでいるということになる。

このように人工呼吸器の装着をあきらめる人が多い理由には、すでに、①一度つけたら外せないため、②家族への介護負担を慮り、③そうまでして生きていたくないため、などの説明が与えられている。だが、こうした言説は、ALSの人の生活の場から構築されたものだといえるだろうか。医療関係者などの第三者によって構築された言説に過ぎないのではないのではないか。他方で、実際に人工呼吸器を装着して地域で暮らしている人たちは、人工呼吸器が「生活の道具」であるとの認識をもっている。ここには、先に挙げた言説とは異なり、人工呼吸器にかかわるネガティブなイメージが存在していないのである。

道具は存在者の認識によって変化する。そうしてみると、ALSの人は生活の場から、例えば人工呼吸器や介助者をどのように認識してきたかを、観察・インタビュー等により明らかにし、従来の言説を批判的に検討していくことができる。そうすることで、ALSなどの重度の難病を持つ人たちが、死の選択を迫られることなく、生存の可能性を開くことが可能となる。

本プロジェクトは、生存学研究センターの掲げる学問的課題群の内、【生存をめぐるエスノグラフィー】【生存をめぐる制度・政策】に貢献する。

生存学研究センターの主な活動には、患者会・障害者団体発行の機関誌などの当事者の活動に関する資料のアーカイヴィングを行い、その蓄積をセンターの活動に反映させること、それらを活用しつつ障害や病をもつ当事者が参加する研究交流・社会連携活動を実施することがある。これは、当事者の実践を知の体系に位置付けることで、障老病異の生存にかかわる問題解決の活路を見出そうとするものだと考えられる。

本プロジェクトは、重度の難病を抱える人たちの生活における認識を、知の体系に位置付けることによって、自ら死を選択するという問題の解決に貢献しようとするものである。そして、死を前提とした議論や仕組みから重度の難病を持つ人たちを解放することを目指す。こうした取り組みは、生存学研究センターの目的とも一致しており、生存学研究センターにもたらす効果は大きいと考える。

プロジェクト名 スイッチ研究会
プロジェクト代表者 立岩真也
年度 2015