「精神と生存実践」研究会

本研究は、精神障害者の生存の実践から生存の技法を体系化すべく基礎資料の集積をすることを目的とする。2013年度は、「精神」をめぐる加害性の言説に着目し、精神病歴者、知的障害者であり、無実の死刑囚となった赤堀政夫をめぐって、(1)介護の方法と技術に関する基礎資料の集積、(2)医療観察法にかかる文献抄録の集積という2つの作業に着手する。

(1)1964年、赤堀の無罪の声を受けて救援活動が展開された。1975年から、全国「精神病」者集団の参加によって活発化し、また問題の立て方も「冤罪問題」から「精神障害者に対する差別の問題」に変更された。1988年の釈放以降、運動においては過去の存在であり、死刑の存廃論においては論述の客体であり、死刑囚としては無罪が確定して死刑台から助かった存在となった。しかし、赤堀は一人の人間であり、その生存において「介護」を必要としてきた。そうした介護実践を通じて得られた見地から、「精神」をめぐる問題と連関した「死刑囚の介護」という、これまでない生存の技法に関する知見を得る。

(2)これまで、精神障害と加害性を巡っては、社会的にも関心が高く、議論の絶えないものであった。その一環である医療観察法は、今年で施行10年目を迎える。2001年~2003年までの法案段階では、激しい賛否の議論が交わされたが、今日では、医療観察法にまつわる様々な文献の在り様も事例報告が中心としたものに変容している。その一連の報告のされ方に関する抄録・一覧を作成する。

本研究は、生存学研究センターの掲げる学問的課題群の内、介護技術を中心とした【生存をめぐる現代史】、医療観察法を中心とした【生存をめぐる制度・政策】に貢献する。とりわけて、これまでの死刑廃止論や救援活動は、「死」に直面する死刑囚の生存に向けた知の蓄積として有効であったが、釈放後に実質的に生存を可能とするための技法に関しては皆無に等しい。このような生存の技法をめぐる研究は世界的に見ても類まれなる研究である。

プロジェクト名 「精神と生存実践」研究会
研究課題 精神と生存の実践の集積にかかる研究
プロジェクト代表者 渡辺克典
年度 2013