現代社会エスノグラフィ研究会

「生存学」の争点の中心である「障、老、病、異」に関連する社会的な「弱者」、「少数者」、「負」の烙印化は、災難のごとく突然ある人びとを襲う。病気や事故、自然災害の突然の発生による被害だけではなく、これまで備えていたある属性が突如として排除の対象になることもある。しかし同時に、そのような災難は必ずしも烙印化された人びとの脆弱性を際立たせるだけではない。烙印化された存在はそのことをアイデンティティとして共同性を帯びた関係を形成することを企てる。そして、その関係は、当事者集団、運動体など新たなつながりを促進するだろう。さらに、それらを支える家族、支援者、周囲で活動に参与するアクション・リサーチなど、一元的な共同性を基盤としつつもより多元的な連帯による社会関係を構築する可能性を備えている。

カタストロフィをこれまでの弱者(マイノリティ)への排除関係を形成してきたカテゴリーの再編/組み換えを生み出す契機として位置づけることは、それ以前の共同性・関係性を問い直すことにもつながる。本プロジェクトでは、人類学あるいは社会学が取り組んできたエスノグラフィを量的調査ではとらえることが困難なカテゴリー再編と新たな連帯関係とを記述しうる方法論として位置づける。

本研究会の目的は、主に、文化人類学及び社会学の一部が方法としているエスノグラフィの手法を活用し、①「当事者」概念をある特定の烙印化や、アイデンティティを備えた存在だけではなく、その周囲を含めた幅広い社会関係を再検討すること、さらに、②特定のアイデンティティを基盤する一元的な関係が、一つの共通項を軸としながら、より緩やかで多元的に広がっていく過程を検討することである。本研究会では、昨年度まで掲げてきたテーマである「『生の技法』記述への探求」に加え、上記①②のテーマを関連づけ、「障、老、病、異」に深く関わる事例について研究を実施する。

2013年度より、本研究会では、「生存学」において、当事者集団、運動体、さらにそれらを支える家族、支援者、周囲で活動に参与するアクション・リサーチなどに焦点を当て、合計8回の研究会を実施してきた。本年度は、さらに新しいメンバーを迎え、吃音の当事者グループに関する関係、被災地(者)とボランティアの関係、複数の移民集団の協働活動により形成される新たな関係、さらにこれまで生存学であまり行われていないアフリカの商業取引の間で行われるインフォーマルな「性」の交換により派生する社会関係、紛争下のアフリカ地域で動員されるこども兵概念形成に介入するアクター間の関係、日本で生まれ育ったニューカマー韓国人二世たちの社会関係、動物実験に反対する人びとの社会運動と連帯などについて事例研究を行う。

研究代表者 渡辺克典
チーム名 現代社会エスノグラフィ研究会
研究課題 生の技法の人文社会学―「当事者」から多元的に広がる関係へ
課題群 A:カタストロフィ/ヴァルネラビリティ