ソーシャルワークの専門性とは何か?――日本精神保健福祉士協会の医療観察法への関わりをめぐって

掲載日: 2018-02-01 English: for English

拙著『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』(生活書院、2017年)書影私は精神保健医療福祉領域におけるソーシャルワーク(Psychiatric Social Work:PSW)について研究しています。このたび博士論文を土台とした『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』(生活書院)を出版しました。

本書では、2003年に成立した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法)に規定された2つの職務要件としてPSWが規定された経緯について取り上げました。具体的には、PSWの職能団体である「日本精神保健福祉士協会」(PSW協会)がいかなる「理屈」を錦の御旗にしてその要件を「かちとる」ことに成功したのか、PSW協会の機関誌や本法に対するPSW協会による見解・提言の分析を通して論述しました。

PSWと医療観察法のそれぞれの目的を考慮したばあい、上述のような力学はほんらい生じ得ないはずです。しかし実際は下述の通り双方ともそれぞれの目的を捨て去ることなく、むしろそれを余すことなく巧みに「活用」して<益>を得ることになりました。

日本ではPSWはおおむね精神保健福祉士という国家資格(保持者)を指します。PSW協会のウェブサイトには、PSWは精神障害者の抱える生活問題や社会問題の解決のための援助、および社会参加に向けての支援を通して「その人らしいライフスタイルの獲得」を目標とする「専門職」と明記されています(注1)。「その人らしい」という点が強調されているようにPSWは「自己決定」をうながす「かかわり」の視点を重視する「専門職」と言われています。

他方、医療観察法は1999年の精神保健福祉法改正時の附帯決議の一つであった「触法精神障害者」対策を前提として、2001年に発生した大阪教育大学付属池田小学校児童等殺傷事件を契機に議論が加速し、具体化されたものです。本法は重大触法行為後に心神喪失等で不起訴もしくは起訴後に同様の理由で無罪あるいは減刑となった精神障害者について「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」、「この法律による医療を受けさせる必要」という要件が満たされたばあいに「本法における医療」を強制的に受療させるという制度です。傍点の箇所は当初「再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」とされていました。しかしこれはすなわち「保安処分」――司法によって「再犯のおそれ」があると判断された人に対して、自由の制限を伴う強制的な措置(隔離・拘禁)をとること――であるとの批判の声があがり、国会審議の最中に修正され可決成立に至りました。つまり本法は社会の安全が目的なのではなく、あくまで対象者の<益>(「社会復帰」)が目的である(から良い)という名目で運用されることになったのです。ここで留意すべきは、本法が名目上は<益>の矛先を変更したものの、実質的には他方(社会の安全)の<益>も「反射的利益」――意図せずして「反射」的に享受する利益――として併せ持っているという点です。

各地の図書館で収集したPSW協会ニュースの一部そしてPSW協会は本法の名目上の<益>(「社会復帰」)を根拠として、PSWによる強制的な介入を招来する本法に関与するべく国などに対して積極的な働きかけを行い、結果的に本法に規定された精神保健参与員および社会復帰調整官の2つの職務要件を獲得しました。前者は強制医療の判断を、後者は強制医療継続を担保する役割です。PSWはみずからの名目上の理念を保持しながら強制介入の権能を排他的(注2)に獲得したのです。本書では、PSWによる排他的権能獲得の萌芽が1980年前後の保安処分規定の導入を目論んだ刑法改正案との対峙の姿勢のなかにすでに内在されていた可能性についても言及しています。

2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」において元職員の男が入所者19名を刺殺、27名に重軽傷を負わせるという凄惨な事件が発生しました。男は精神保健福祉法における強制入院の一つである措置入院の経歴があったことから、本事件後、措置入院解除後の地域における関与強化の内容を含んだ改正精神保健福祉法案が国会に提案されました。本改正案に対してPSW協会はふたたび排他的に職務要件を獲得すべく積極的に発言をしています。

私は本書で述べたことをふまえつつ、「専門職」というもののありようを考える前提として、PSW協会による精神保健医療福祉領域における職務の排他性の主張の仕方について注視し続けたいと考えています。

(注1)日本精神保健福祉士協会ウェブサイト

(注2)ここでいう「排他的/排他性」とは、ある特定の職務・役割について当該資格(保持者)が独占的に行うことができる/担うことができるということが制度的に担保されている、ということ。

樋澤吉彦(名古屋市立大学大学院人間文化研究科/立命館大学生存学研究センター客員研究員)

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