母子世帯の母親における経済的・時間的自律性――第16回ベーシック・インカム世界大会での報告

掲載日: 2017-08-01 English: for English

日本における母子世帯の母親の多くは、高い就労率にもかかわらず生活が困窮しています。このことは多くの先行研究によって社会保障の機能不全と関連させて論じられています。他方で、ドメスティック・バイオレンスや虐待などの困難事例の観点から母子世帯を論じる研究もあります。これらの研究の多くは母子世帯の母親を労働者あるいは母親役割という特定の観点からのみ検討しています。そのため、一個人としての自律性とその多層的な社会的要因に関する研究が待望されています。

こうした研究に取り組むための予備的分析として、私たちは、自律性の中でも経済的・時間的な自律性とその背景要因である人々の社会的なつながり(ソーシャル・キャピタルとよばれます)に注目し、母子世帯の母親に対するインタビュー調査を実施しています。調査では、勤労所得などの生活水準に加えて、一般的な信頼感や周囲の人びとからの金銭・物品提供あるいはケアに関わる支援について調べました。また、自律性に関する質問項目として、時間の自律性(平日と休日の活動、賃労働やケアにおける時間的な自律性)や子育ての担い手としての行政に要望を訴える自由、自尊心や自己肯定感を尋ねました。

私と共同研究者の一人である法政大学の堅田香緒里准教授は、2016年7月7日から9日にかけて韓国ソウル市にあるソガン大学(Songang University)で開催された第16回ベーシック・インカム世界大会にて、その中間報告をおこないました。

第16回ベーシック・インカム世界大会のロゴマーク[br]出典 [link=http://bien2016.org/en/]http://bien2016.org/en/[/link](最終アクセス2017年6月19日)

第16回ベーシック・インカム世界大会の参加者の全体写真[br]出典 [link=http://bien2016.org/en/]http://bien2016.org/en/[/link](最終アクセス2017年6月19日)本大会は、ベーシック・インカムに関する学際的なアカデミックな場であると同時に、狭義の研究者に限定されない実践家にも開かれたものです。今回のソウル市での開催はアジア初となるものであり、韓国からの参加者はもちろんのこと、日本からも多数の研究者・実践家らが参集してきました。全日程で本セッションが7、平行セッションが32といった大規模なものであり、その内容も人工知能や草の根フェミニズム運動など多岐に渡りました。なお、これまでに2年に一度のペースで実施されてきましたが、この大会を機に毎年開催されることになりました。

この大会で私たちの主な研究結果として、第一に稼得所得や遺族年金を合せた収入では貧困層と言えませんが、支出・租税・社会保険料・民間生命保険料などを差し引いた実質的な経済状況では、低所得層に相当している母子世帯の母親の生活困難の実態が明らかになりました。第二に母子世帯の母親の時間的な自律性は、理解のない職場・親との良好でない関係性・PTAの業務等の要因から阻害されることが確認されました。とりわけ、子どもと向き合う時間や自分自身のための時間が十分に確保できないことが明らかになりました。こうした調査実態を踏まえて、経済的な生活水準の向上と望まない人間関係からの退出を可能とするベーシック・インカムの可能性と限界を論じました。具体的には、十分な水準のベーシック・インカムを財政的に確保できるのかどうか、また、ジェンダー規範を変えることの困難性に関する論点です。

本調査は、調査対象者の人数を増やし、質問項目内容を再考して、継続する予定です。これからも母子世帯の母親に関する実効的な社会的支援を検討・提言するための基盤となる研究を目指していきたいです。

最後に、この成果は生存学研究センター2016年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。また、村上潔氏が代表を務めた全労済協会2014年度公募委託調査研究「母子世帯の育児の困難をめぐる重層的要因の検証――大阪府における事例調査をもとに」の研究成果の一部でもあります。その調査研究に協力していただいた「労働問題・不安定生活・保証所得をめぐる国際的研究」のメンバーに感謝します。

村上慎司(むらかみ しんじ) 金沢大学人間社会研究域経済学経営学系・人間社会学域地域創造学類福祉マネジメントコース・講師

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