アジアの精神障害者とオルターナティヴ療法/社会運動――TCI-A会議とINTAR学会への参加を通じて

掲載日: 2017-07-01 English: for English

2016年11月21日から28日にかけて、インド(プネー)で開催されたTCI-A(精神障害者をインクルーシブする地域社会変革のアジア横断連盟)を中心とした会議、研修とINTAR(The International Network Toward Alternatives and Recovery:オルターナティヴとリカバリーに向けた国際的ネットワーク)の学会に出席する機会を得ることが出来た。TCI-Aとは、アジア各地における精神障害者運動の活動家のリーダーが集まって開かれる会議であり、INTARとは精神科オルターナティヴ療法に関する当事者や医師、専門職、家族等を交えた300人規模の国際学会である。

TCI-A会場のホテルの窓より望むプネーの街の早朝の光景筆者は、精神障害者当事者運動、とりわけアジア地域の国際的な運動に大変強い関心を持っている。近年の急速なグローバル化現象は発展途上国の自殺率やうつ病者の増大といったメンタルヘルスの問題を悪化させ、特に都市貧困層や農村部においてその傾向は著しい。そしてこれは極めて「現実的」な問題でもあるのだが、その対策に割くことが出来る国家、地方自治体の「予算」はあまりに貧弱なのが現状である。例えば、日本等で「安上がり」な仕組みとされる隔離・収容を中心とする精神医療体制でさえ、発展途上国には「金食い虫」の制度なのである。精神医療体制は、WHOならびに発展途上国においてさえ、隔離や収容ではなく精神障害者たちが地域で生きることを主眼とする「地域精神保健システム」の構築を目指しているはずなのだが。

以上のような関心をもって臨んだTCI-Aを中心としたメンバーへの「研修」は、当事者による「実践」を学ぶものであった。そのひとつとして、従来の精神医学的なモノローグに依拠して問題解決を志向するのではなく、当事者たちによる対話の場を創り上げるオープンダイアログ(OD)のような実践がある。実は、ODはそれにかかわる「意図されたサポート(Intentional Peer Support:IPS)」とよばれる実践同様、すでに日本では精神医療専門職によって広く紹介されており、各種の「講習会」「研修会」も盛んである。では、それはアジアの発展途上国における「受容」とどこが違うのか?

INTARの発表のスライド(レジリエンス等について)筆者が一番感銘を受けたのは、民族楽器やダンスを取り入れた、現地でのODの実践であった。ODと言うと、日本ではまさに「開かれた対話」であって、「言語」を用いた対話が基本である。ところが、筆者が参加したODは「言語」だけでなく、歌や踊りや音楽を用いた、喜びと解放感に満ちあふれたODであった。アジアの発展途上国でみられるこうしたODは、1000人以上の「地域住民」を巻き込む形で開かれるものもあるそうだ!

もうひとつ参加機会を得たINTARは、全体会や各種分科会に分かれて行われる学会である。そこでは、単に精神医療や精神障害当事者の立場からの発表だけではなく、人類学のシャーマニズムや伝統的薬物療法の研究等、実に様々な観点からの研究発表が行われた。我々も日本における精神障害者当事者運動の歴史のポスター発表を行い、参加者の方から熱心な質問を受けた。ポスター発表の内容はarsvi.comに掲載されているので関心のある方は是非ご覧頂きたい。

とくに今回私が関心を持っていた点は、IPSにせよODにせよ、それは単なる「療法」として存在するのではなく、「社会運動」としても存在するのではないかという点であった。この点に関して今回学んだことは大変多かった。例えばアジアの地域の精神障害者は村の寄り合い等に参加することもそこで自分の悩みを相談することも出来ない。先ほど1000人参加するODと書いたが、地域の寄り合い等に参加して、自分の悩みを地域で共有してもらう過程も広い意味でのODなのである。この点で、日本におけるODの受容とは明らかに異なるように感じた。障害者権利条約との関係でいえば12条(法の下の平等)14条(身体の自由)に力点をおく欧米流とは少し違い、19条(地域生活へのインクルージョン)をも重視しているといえるかもしれない。

これらの点からなにを学んでいけるかが今後の課題である。

安原 荘一(立命館大学生存学研究センター客員研究員)

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この成果は、生存学研究センター2016年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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