北京市の低所得層の暮らしと地域再開発にみる、生存戦略・七変化

掲載日: 2017-06-01 English: for English

私は日本の貧困政策、特に生活保護政策の研究を行う傍ら、諸外国の低所得層の生活や貧困政策も調査しています。

今回は2017年2月25日から3月2日まで北京市に滞在し、数年前から取り壊しと再開発が決定されている老朽大規模団地を訪れ、通訳同行のもと、住民たちの思いと対応戦略を調査しました。

観光資源ではない、生きた「胡同」

北京市に現在も残る1950〜1960年代の団地は、鉄筋コンクリートの住居が立ち並ぶ日本の「団地」のイメージとは全く異なり、北京の数カ所に観光資源として保存されている「胡同」(小道)そのものです。建物は日本でいう「長屋」、木・トタン・レンガ・ブロック・モルタルなどで出来ており、各家族の居住スペースは日本でいう「6畳一間」「3畳+4.5畳」。屋内に台所のない住居もあり、1つの屋外の台所を数軒が共用しています。トイレは、屋外の共用トイレです。

始まりは北京市の大都市化

違法建築取り壊し:住居の違法建築部分が取り壊された後のようす。かつて屋内であった壁が剥き出しに。今回、私が訪れたのは、約200メートル四方に広がる古い団地で、建築時期は1960年代前半です。傷んだ建物や通路への住民自らの手当ての繰り返しにより、街全体が、衣料のツギハギを思わせます。

住人たちの話によると、概ね40%は、現在、北京市有数の繁華街として知られる地域に住んでいた人々の子孫です。1960年代に入ったころ、その地域に大規模開発計画が持ち上がったため、住民たちは北京市が用意した団地へと移住し、現在に至っています。

残る40%は、近隣の大規模公共施設の建造に従事するため、1960年代半ば、地方から北京市に来ることになり、市が用意した団地に住み始めた人々の子孫です。「都市開発によって他地域への転居を余儀なくされた」「都市開発の労働力として地方から都会へやってきた」という事情は、日本の低所得層の多い地域でも一般的です。なお、第一世代の70〜90代の人々も数名見かけましたが、難聴や認知症のため、直接のコミュニケーションは不可能でした。

最後の20%は、戸籍上は北京市民ではない地方の人々です。20〜30代の比較的若年の人々が単身生活していたり、親と同居していたりします。

生業は? 収入手段は?

子ども時代、親とともに団地に住み始めた第二世代である現在60代・70代の人々は、年金生活をしており、日中は孫の面倒を見ていたりします。

第三世代の多くは団地の外で就労しており、ランチタイムに昼食を食べに帰るスーツ姿のビジネスパーソンも数名います。団地内を対象に、食料品店・飲食店・パソコンショップなどを開業している人々もいます。自分の住まいの一部を貸間にする人々もいます。「子どもを越境入学させたい他地域の親が住民登録に使う」というニーズもあるそうです。

地方出身者の多くは、アルミ風船の行商・廃品回収・朝食屋台など、いわゆる都市雑業を生業としています。空中に浮かびながら運ばれてゆくアルミ風船には、サンリオやディズニーの有名キャラクターらしきものが印刷されています。見ていると、「コレジャナイ」感を微妙に、時には大胆に漂わせるキャラクターたちが、擬態という生存戦略を自ら選択している気がしてきます。

再開発計画もしたたかに変化、その影響は?

屋外台所:屋外に設けられた台所。白いキャビネットの左手に小さな流しがあり、その上では肉が干されている。この団地は、2017年には取り壊され再開発される見通しでした。住民たちの転居先となる住居は、北京市郊外にいくつか用意されていました。住民たちによると、既に補償金を受け取って転居した人々も「若干はいる」そうです。ところが北京市の財政状況が変化し、住民全員を退去させて地域全体の取り壊しと再開発を行う費用の捻出が困難になりました。

現在、北京市全域で、このような老朽化団地の違法建築部分を取り壊し、同時に道路の美化・下水道整備などを行う計画が進められています。軒先から路地に少し張り出す形で作られた違法建築部分を取り壊し、道路を整備し、違法建築が行われる可能性のある路肩に花壇などを設置し、街の美化と違法建築予防を同時に行うのです。地域の「貧困」というイメージは薄れ、同時に、違法建築部分の住人は排除されます。いわば「ゆるふわジェントリフィケーション」です。

この計画が、団地全体の住環境を向上させることは間違いありません。より良い「住」を経験する低所得層の住民たちは、さらに「住」への欲求水準を高めるでしょう。このことは、居住コストが高騰する現在の北京で、次に何を引き起こすでしょうか? 

今後も引き続き定期的に訪れ、経過を調べたいと考えています。

三輪佳子(みわ よしこ)(立命館大学大学院 先端総合学術研究科院生)

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この成果は、生存学研究センター2016年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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