植民地時代をめぐる記憶の「場」―台湾・高雄市における廃墟とアート

掲載日: 2017-05-01 English: for English

高雄の5月は蒸し暑い。ようやく花粉症から解放された日本を出て、高雄に降り立つとその蒸し暑さに少し心地よさを感じた。訪れるのは数年ぶりである。電車のアクセスも良く、六合国際観光市も近い自立二路に宿をとっていた。

今回の高雄訪問の目的は、文藻外語大学で行われる第6回日台アジア未来フォーラム<東アジアにおける知の交流―越境、記憶、共存>(2016年5月21日)での発表のためである。

シンポジウムの前日は、本学先端総合学術研究科の修了生である倉本知明さん(文藻外語大学助理教授)の授業で臨時講義をすることになり「「流民」と「故郷」をめぐる映像と写真〜熊本県の周辺を旅する〜」と題して、2016年4月に大地震があったばかりの熊本について紹介し、映画を鑑賞しつつ、地方言語と地域性についてレクチャーを行った。映画とは『サンダカン八番娼館 望郷』(熊井啓監督、1974年)と『家族』(山田洋次監督、1970年)である。私の専門は北海道研究であるが、ここ数年は水俣を拠点に九州の西海岸もまわっている。

文藻大学での発表風景キリスト教系の大学だと聞いていたので、授業では映像から天草や長崎県伊王島などキリシタンの多い地域について知ってもらい、島嶼地域における宗教的なものと「流民」の生き方を考えるというのが念頭にあった。ともすれば正しい「国語」に絶対的な価値を置く言語教育の現場で、標準語と異なる言語の在り方に対してどのような反応が返ってくるのかと不安だったが、学生からは非常に反応が良く、翌日映画の残りを全部見たという生徒もいた。

シンポジウムでは「日本統治期台湾における「植民論」と「植民地的近代」―後藤新平と高岡熊雄の関係に着目して―」と題した発表をさせていただいた。衛生統治や都市政策、産業化などの評価が先行する後藤について、北海道の植民学と関連付けることで、後藤における社会政策的な面と民族政策の暴力的な側面の「混在」を思想史的に整理すると同時に、後藤のテクストにおける両側面の「切分け」自体の政治性(台湾統治に対する植民地主義批判を回避)を議論の俎上に載せる必要があるという趣旨であった。会場では、教育史の安達信裕先生(文藻外語大学)、政治史・宗教史の赤江達也先生(国立高雄第一科技大学)からコメントをいただき、また樺太史の楊素霞先生(国立政治大学)とも交流を持つことができ個人的に実りの多いものであった。

今回最も印象に残ったのは日本時代の製糖工場跡である台湾糖業博物館だ。広大な敷地内には「防空洞―戦時指揮中心」など戦時中の防空壕跡が点在し、自由に入ることができる。「糖的進化論」と名付けられた小道を行くと、日本時代そして国民党時代の台湾の糖業を誇る巨大な重機と工場跡が立ち並ぶ。糖業に関わった人々を紹介する館では、「糖業英雄榜―台湾糖業ダイナスティの名士録」として一番最初に位置するのが児玉源太郎、後藤新平なのである。あたかも植民地期日本の偉人たちが築いた近代性と、現代の台湾の繁栄が直線的につながれているかのようだ。またカフェスペースの入口には「新渡戸稲造―台湾砂糖の父」として新渡戸の胸像が置かれ、カフェのマスターによって新渡戸の功績が語られることにも非常に衝撃を受けた。

台湾糖業博物館のブリキアートこの博物館は『地球の歩き方』などでも「廃墟好きにおすすめ」と紹介されているのだが、近隣には「漢景空間美術館」「橋仔頭糖廠藝術村」などの区画も存在し、廃墟(植民地時代の遺産)とアートの関係を考える上でも興味深い。製糖業と巨大重機の繁栄を語れば語るほど、敷地内に設置されている錆びたブリキのアートが繁栄の果ての廃墟において違う物語をしゃべりだしている気がするからだ。これは高雄港の「打狗鉄道故事館」における「濱線」の記憶など、再開発地区におけるアートと植民地期の遺産からも感じたことである。この感覚は、ともすれば魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督の『海角7号』(2008年)『セデックバレ』(2011年)のように、植民地時代をピュアな恋愛関係に置き換えたり、先住民蜂起の英雄を日本的精神の体現のように語り直すような、ある種の植民地期の美化にも傾くかもしれない。しかし、この廃墟の活用方法やコロニアリズムとの近接感を言語化していく作業は、研究の前提となっている植民地批判の枠組みを再考へと導き、都市空間に埋め込まれたコロニアリズムへの新たな切り口にもつながる。

番匠 健一(同志社大学<奄美・琉球・沖縄>研究センター研究員、立命館大学 生存学研究センター客員研究員)

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この成果は、生存学研究センター2016年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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