精神障害者のグローバルな草の根運動の研究――誰も閉め出さない世界のために

掲載日: 2017-04-01

アジアの精神障害者の会議では、伝統的な楽器のリズムで皆で体験を共有しました。2015年4月に立命館大学に入学してから2年のあいだに、私はいくつかの地域の精神障害者の活動に出会いました。あるワークショップでは、ネパールの精神障害者の組織のリーダーが、人1人がやっと入れる程度の大きさのかごに入れられた人や、木に縛りつけられた人たちを解放する活動を紹介した動画を見せてくださいました。また、通訳係としてはりきって行ったアジアの精神障害者の組織の総会では、伝統的な楽器を用いた言葉を使わないコミュニケーションを体験しました。オンライン上でも、経費節減のために精神病院から別の施設に移動させられた後に30名以上が原因不明で亡くなった事件への政府介入を求める南アフリカの精神障害者組織による署名活動を知りました。このようにそれぞれの地域で別々の活動をおこなってきた精神障害者の世界規模の組織として、1991年に発足した世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)があります。

ウェリントンを訪問した際メアリー・オーヘイガンさんは温かく迎えてくださいました。2016年8月から9月にかけての4週間、私はニュージーランドのウェリントンに滞在しました。渡航の最大の目的はWNUSP(発足時の名称は世界精神医療ユーザー連盟)の初代議長を務めたメアリー・オーヘイガンさんにお会いすることでした。オーヘイガンさんのインタビューから、WNUSP発足の経緯を知りました。発足以前には、精神医療の専門職や家族と精神障害者との合同組織である世界精神保健連盟(WFMH)が1948年から活動していました。そこでは、精神障害に関する問題が議論されているにもかかわらず、精神障害をもつ本人たちの声はほとんど聞かれてきませんでした。こうした状況に対し、精神障害者の生活に関わる決定に自分たちの意見がきちんととり入れられることを求めてWNUSPは発足しました。WNUSPの発足時の会議には、参加したいと涙ながらに訴えた家族の人もいました。しかし、WNUSPは本人の組織であるという理由でそれを断ったそうです。また、WNUSPは資金難により1999年まではWFMHの世界大会と同じ場所で総会を開催していましたが、発足当初からWFMHからは独立した組織として活動しており、その認識はメンバー間で共有されていたともおっしゃっていました。

このように精神障害者の活動は、家族など本人の近くにいる人や支援専門職と考え方を必ずしも共有してきませんでした。しかし、これまで精神障害者の活動の研究は、精神医学や社会福祉学の枠組みの中でなされてきました。このため、それらの学の価値観に反しない組織やその活動が主な検討の対象として選別されてきました。さらに、その学や知は社会防衛を目的とした精神障害者への非自発的な介入を正当化する根拠とされており、精神障害者の研究が精神障害者の抑圧に利用されてきたとさえいえます。私は、WNUSPの活動の歴史から、多様な状況にある精神障害者が何を基盤として連帯を築き、社会をどのように変革しようとしているのかを明らかにしようとしています。発足当初のWNUSPのメンバーは、北アメリカやヨーロッパで活動する人たちが主でした。アジアやアフリカ、南アメリカで活動するメンバーが急速に増えていくのは2000年代以降のことです。この過程でWNUSPの活動がどのように変化したのかを明らかにすることは今後の大きな課題の1つです。

私がこのような研究を始めたきっかけであり、それを続ける原動力ともなっているのは、作業療法の臨床実習生として精神病院に通った8週間です。そこでは、あらゆる扉に鍵がかかっていました。鍵のかかった扉のガラス越しに患者さんと手を振りあったときや、患者さんと一緒に外出するために鍵をとり出したとき、相手と自分の非対称な関係に悲しさと恥ずかしさを感じました。誰かが閉め出されている社会において鍵を持っている私たちの規範を問い返しているのが精神障害者の社会運動です。あの場で出会った人たちも生きたい場所で生活できる社会の在り方を考えるために、精神障害をもつ本人たちの主張の考察は不可欠であると考えています。

伊東香純(立命館大学大学院 先端総合学術研究科 院生)

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この成果は、生存学研究センター2016年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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