日本と世界の血友病コミュニティの関係と動向

掲載日: 2016-10-01 English: for English

1980年代のエイズ問題は、日本の血友病コミュニティを破壊しました。日本の血友病コミュニティは、国家賠償訴訟に多大な時間と労力を費やしたため、世界血友病連盟(World Federation of Hemophilia:以下、WFH)との連携が途絶えました。訴訟の和解後、ようやくWFHとの関係修復に取り組める環境になりましたが、各国代表組織(National Member Organization:以下、NMO)を担う全国組織はエイズ問題の影響で消滅していたのです。

私は血友病コミュニティの世代的空白から、若い血友病者やその家族に対する血友病コミュニティの歴史の伝承の必要性を強く感じました。前回の「研究の現場」で述べたように(註)、私は戦後日本の血友病コミュニティの歴史を軸に、血友病者の周辺に生起する論点を研究しながら、血友病コミュニティの支援活動も行なっています。拙著『日本の血友病者の歴史――他者歓待・社会参加・抗議運動』は、血友病コミュニティの修復の一助を目指したものでした。

WFHは134ヶ国のNMOで組織されるネットワークで、2013年に50周年を迎えた世界保健機関が公認する非営利団体です。WFHは「すべての人々に治療を」という目標を掲げて、血液疾患の人々がどこに住んでも適切な治療を受けられるための活動をしています。

WFHには血友病者を支援する様々な人々が集結する。モニターに映るのは嶋緑倫奈良県立医科大学教授

2002年、世界の動向に敏感なメンバーが新たな日本の全国組織として、血友病とともに生きる人のための委員会(以下、JCPH)を設立しました。JCPHメンバーは日本のNMO復帰の重要性に気づいていましたし、WFHも日本のNMO早期復帰を望んでいました。製薬企業は多国籍メーカーがほとんどでWFHとの連携は欠かせませんし、WFHもアジアの血友病医療の充実には日本の協力が必要と考えていました。2006年、JCPHはWFH総会で日本のNMOに認証されました。しかし、JCPHとは別に活動している地域患者会は、JCPHと同じようにWFHや世界の動向を意識できていませんでした。2008年、地域患者会を横断する、ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(以下、全国ネットワーク)が結成されました。JCPHと全国ネットワークという二つの全国組織はそれぞれの特徴を生かして、WFHとの連携をJCPHが、国内の問題を全国ネットワークが担いました。全国ネットワークも、JCPHと協力して開催した2010年の全国ヘモフィリアフォーラムを契機に、WFHとの交流を徐々に深めて、世界の血友病コミュニティを意識し始めました。

2014年、JCPHが解散しました。メンバーの一部が以前からエイズ問題を受けた社会活動を兼務していることや、近年は体調がすぐれないメンバーも増えて活動が困難になったためです。JCPHが解散すると再び日本のNMOが空席になります。全国ネットワークも、世界との連携の必要を感じていたので、すぐにNMO資格取得の手続に入りました。こうして、2016年7月30日(現地29日)、全国ネットワークは、アメリカのオーランドで開催されたWFH総会でNMOに認証されました。

WFH総会の開会前の様子。右端にNMOに復帰した「JAPAN」の席が準備されている。しばらくして、佐野竜介理事長が着席した

近年の世界の血友病コミュニティでは、血友病の周辺にある多くの女性に対する適切な診断や治療が重要な課題となっています。WFHでは、性差の少ないヴィレブランド病や稀少な血液疾患の患者に対して、女性の出血に関する知識の重要性を啓発しています。今回のWFH会議でも、多くの女性たちが自らの身体や健康について積極的に議論する姿が多く見られたそうです。少しずつですが、日本でも女性の問題について話し合う気運が形成されつつあります。

今後の全国ネットワークは、WFHと連携して血友病および血液疾患の問題への積極的な関与が期待されています。同時に、NMOとして組織の安定と次世代の育成という決して容易ではない課題に直面しています。

以上の全国ネットワークのNMO認証に至る複雑な経緯は、エイズ問題の甚大な影響、血友病コミュニティの修復の困難を示しています。現在の日本の血友病コミュニティの考察は、過去のエイズ問題に対する認識を深めるとともに、未来に向けた活動の指針につながると考えます。

(註)以下を参照。北村健太郎,2013,「世界との連携、老いの不安――血友病患者会が直面する課題」,立命館大学生存学研究センター,(http://www.ritsumei-arsvi.org/news/read/id/524).

北村健太郎(立命館大学 生存学研究センター客員研究員)

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