開発協力における「スポーツ」実践過程――国際協力アクターによるスポーツの展開

掲載日: 2016-08-01 English: for English

私は、国際協力活動とその課題についてナイジェリア連邦共和国ラゴス州のNGO活動を中心に研究しています。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、国内外のNGOが教育分野や保健医療分野において国家の再分配機能を補填するような働きを担っています。これらのNGOの活動は、教育格差の緩和、公衆衛生観念の啓蒙、物質的な医療支援と多岐にわたります。

サッカーボールとマーカーコーンを使ったロールプレイの様子(水色コーンに並ぶのがHIV役、赤色コーンに並ぶのがヒト役)

私が研究対象としているナイジェリアのラゴス州は、ギニア湾に面した赤道近くにあり、一年を通して雨季と乾季が繰り返され、熱帯性の感染症であるマラリアが日常的な病として存在しています。州政府は感染症の予防を公衆衛生向上の目標としていますが、小中学校の教育において十分な感染症の予防と啓蒙の施策が行き届いているとは言いがたく、州政府と連携したNGOが事業を実施しています。ラゴス州では、NGOであるYouth Education and Development Initiative(以下YEDI)が活動を行っています。YEDIは、米国に拠点を置くNGOであるGrassroots Soccerが実施したマラリアやHIV/AIDSなどの感染症予防を目的とした団体活動が母体となっています。

YEDIは、小中学校の要請に応じて3人から10人程度のコーチ(ファシリテーター)たちと彼らを評価するマスターコーチ数名を派遣します。コーチは一人につき10名前後の子どもたちのグループを率いて計13回のプログラムを実施し、プログラムが終了すると卒業証書が手渡されます。

ヒト役が逃げきれずHIV役に捕まった様子

プログラムには、次のようなものがあります。マーカーコーンで四角く囲いを作り、そのあいだを「ヒト」役の子どもがドリブルします。それを追跡する役目として「HIV」役を登場させ、「ヒト」が「HIV」から逃げるロールプレイをトレーニングとともに行います。ほかにも、害虫から身を守る「蚊帳」を四方から引っ張り、ボールを「蚊」に見立てて、蚊帳でボールを弾き返すようにして、蚊の襲撃を妨害するロールプレイもありました。子どもたちとコーチたちは、こういった感染症予防の集団学習のなかで、仲間と協力しあう姿勢を共有します。

スポーツを通じた国際協力における問題の一つに、スポーツの楽しさとプログラムの教育効果のバランスをいかにして実現するかがあります。たとえば、YEDIの取り組みにおいては次のようなことがありました。コーチたちはNGOのマニュアルに沿った「プログラム用に編集されたサッカー」を楽しむように促します。しかし、少なくない参加者が「いつもやっているサッカー」ではないから楽しくないとも思っており、あるコーチは彼らへ積極的な参加を促す難しさを感じていると言います。ここでは、サッカーに対する認識の違いを原因とした国際協力の教育効果とのバランスが、NGO活動の課題になっていました。

ボールと蚊帳を使ってのマラリア予防の実演の様子

この問題を解決する方策として、YEDIのコーチたちはプログラム内でのウォームアップの運動に歌や振り付けを取り入れたり、良いアクションを取った参加者へ皆で指を鳴らして称えたりするような決まり事を促すことで、両者の認識の差を埋めるような共同性をプログラムに組み込もうと試みています。こうした取り組みを通じて、楽しさと教育効果のバランスが調整可能な、国際協力における「スポーツ実践」が形成されると考えます。

スポーツを通じた国際協力についてより包括的に考えるには、当該地域でのスポーツの歴史を分析することや、スポーツに関する実践を微視的に検討していく作業が必要です。今後の課題として、ナイジェリアに住む人たちのサッカーとの関わり方を人類学的に検討していきたいと思います。スポーツは国家の暴力へと加担させられた歴史や、権力の象徴もしくは権力への抵抗として集団意識を立ち上げることに貢献してきた歴史があります。どのような立場からサッカーが利用されているのかをふまえて、ナイジェリアにおけるサッカーの受容を、国内や海外で活躍するプロサッカー選手が持つ政治や政策への影響力や、チームや選手のファンたちの消費活動から明らかにしたいと考えています。

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この成果は、生存学研究センター2015年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

立命館大学大学院 先端総合学術研究科院生 荒木健哉

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