開催報告(2016年2月21日開催)「多文化共生を振り返る――排外主義を乗り越えた未来を構想するために」

掲載日: 2016-03-31

 2016年2月21日(日)、立命館大学生存学研究センター主催企画「多文化共生を振り返る――排外主義を乗り越えた未来を構想するために」を、京都市地域・多文化交流ネットワークサロンにて開催しました。講演者として、樋口直人さん(徳島大学)、明戸隆浩さん(関東学院大学ほか)、鄭栄鎭さん(NPO法人トッカビ)、コメンテーターとして勝村誠さん(立命館大学)をお招きし、約30名の参加者とともに活発な議論が行なわれました。

 本企画は7月に開催されたドキュメンタリー映画『ヘイトスピーチ』上映会および討論会企画「ヘイトスピーチに抗する――路上、学校、大学」をうけたものです。企画趣旨は、排外主義を乗り越えるための理念をもとめて、90年代からのこれまでの20年に語られてきた「多文化共生」という言葉の下で行われてきた政策や運動、それに関わる思想を検討しようというものでした。

 樋口直人さんからは、「多文化共生は排外主義を乗り越えられるのか」と題した膨大な資料を含む90頁にもおよぶレジュメに基づいてご報告いただきました。そこでは、これまでの「多文化共生」政策への不満やその無力さの指摘、さらにはありうべき「多文化共生」の可能性として、1992年の『オルタ』創刊号での、先住民族の自決権、就労差別の撤廃、民族教育の肯定などを掲げた「オルタ提案――多民族共生社会に向けて」を改めて出発点にできるのではないかと提案いただきました。また近年の日本の右翼の動向として樋口さんが何度も強調しておられたのは、現在の日本の排外主義は歴史修正主義から派生してでてきたものである、という状況認識です。この排外主義をめぐる認識が、企画を通じて共有された議論の土台となりました。

 明戸隆浩さんからは、「現代日本における排外主義と対抗言論――〈在特会〉以降の多文化社会に向けて」と題して、90年代からのナショナリズムをめぐる主張とそれを批判する対抗言論を歴史的に検討いただきました。右派系の主張が、「新しい歴史教科書をつくる会」等の歴史修正主義から『マンガ嫌韓流』を経て、いわゆる在特会の排外主義へという樋口さんの状況認識を共有したうえで、対抗言論の側はもちろん一定のつながりはありつつも年代ごとには異なっていること、右派の連続性に比して断絶があることなどが指摘されました。

 鄭栄鎮さんからは、大阪八尾市のNPO法人トッカビの活動についてご報告いただきました。1974年に「トッカビ子ども会」として活動をはじめた同会は、その当初から民族教育の必要性を広め、就職などでの在日コリアンへの差別と闘う活動を行なっていました。その活動は現在では「多文化共生」と位置づけられているけれども、それは以前からの活動であり、むしろ「後づけ」であると語られたのが印象的でした。トッカビの活動は行政にも影響を与えており、八尾市の「多文化共生推進計画」でも差別の解消が盛り込まれています。マイノリティは訴えかけ続けていかなければ、問題解決したわけでもないのにマジョリティに忘れられてしまう状況に追い込まれているという指摘も、非常に重要な指摘でした。

 勝村誠さんのコメントによって樋口さんの出された「社会は変わっていない」といった見方に関する議論をはじめ、所定の時間をこえて活発な議論がなされました(また懇親会もきわめて楽しく、充実した議論がなされたことを書き添えておきます)。

 今回の企画を通じて、まず「多文化共生」と排外主義への抵抗とを直接結び付けられることは自明ではないということがあらためて浮上しました。「多文化共生」という言葉でイメージされるのは、多くは95年の阪神淡路大震災をきっかけとしたニューカマーに対する多言語対応を中心とした政策として理解されており、オールドカマーとされる在日コリアンを主要な対象とした排外主義に直接抗することはなかったのではないか、というご指摘をいただいたことによるものです。そのうえで、どのような方向性がありうるのかについても、多くのヒントが得られる企画となりました。排外主義に抗し、乗り越えた未来を目指すための理念をつくりあげるために、『オルタ』における多民族共生社会への提言のように、これまで語られてきた構想をあらためて検討していくこと、そして「多文化共生」という概念をある種「活用」することによって、事後的にせよ語られてきた地域での反差別や民族教育の取り組みからみえてくるものを、接続しながら考えていくことという方向性がみえてきました。これらの見通しを踏まえ今後も継続した活動ができればと考えています。

*本企画は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」プロジェクトの一環としておこなわれました。

(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員・生存学研究センター所属 中倉智徳さんによる開催報告を掲載)

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