接客サービスという労働──消費される「女性性」をめぐる問題

掲載日: 2015-04-01 English: for English

*田中慶子『どんなムチャぶりにも、いつも笑顔で?!──日雇い派遣のケータイ販売イベントコンパニオンという労働』(松籟社、2014年9月)

私は主に、接客サービス業で働く女性の感情労働という視点から、現代社会における労働の変容について研究しています。

感情労働とは、労働者が企業や客の期待に応えるために、自分の感情を管理しながら働くことを指します。企業は労働者に賃金を支払いますが、感情労働の場合、労働者が業務上のトラブルによって抱える感情の問題(怒り、悲しみ、ストレス等)は、その賃金との交換によって帳尻が合うと考えられています。

私は、大学院生の間、日雇い派遣のイベントコンパニオンとして、家電量販店内で実施される携帯電話販売促進イベントで働いてきました。勤務するなかで、私は度々「イベントコンパニオンは、若い女の子が笑顔で突っ立っているだけで高給与を得られる楽な仕事」、「日雇い派遣は、責任のある仕事を与えられない気楽な労働者」と言う人に出会いました。しかし、携帯電話販売促進イベントで働く日雇い派遣のイベントコンパニオンの場合、「若さで楽に高給与を稼げる仕事」ではありません。

例えば、客から下着を盗撮されたり、家電量販店内で働く男性社員からセクシャル・ハラスメント(セクハラ)をされたりして困惑しても、派遣会社から賃金が高いからという理由で、盗撮やセクハラを笑顔で受け入れろと指示されました。また、彼女たちは笑顔で売り場に立っているだけでなく、携帯電話の販売ノルマを課せられているため、接客販売も行わなければなりません。販売ノルマを達成できなければ、派遣先企業から、自身の接客能力不足という自己責任の名のもとで、身銭を切ってノルマ未達成分の携帯電話を買い上げる「自爆」の要請や、日給制という理由で残業を強いられても残業代は出ないといったこともありました。もちろん、こういったことは労働条件として違法なことですが、「派遣」という雇用形態では、勤務中に怪訝な表情をするだけでもすぐさま雇い止めとなりかねません。また、イベントコンパニオンは容姿が問われる職でもありますから、美容に関する出費も多くなります。そのため、日雇い派遣のイベントコンパニオンという仕事で働く彼女たちは、常に明るく笑顔で振る舞って華やかさを体現していても、心の中では怒り、悔しさ、悲しみ、虚しさを抱いて勤務している状況にあるのです。こうした感情をもちながら働く現場を理解するうえで、「感情労働」という概念にたどりつきました。

私は、働きながら、日雇い派遣のイベントコンパニオンが派遣会社や派遣先企業から不当な労働を次々と強いられていく仕組みや、彼女たちが遂行する感情労働とその賃金は交換できるような対価なのかといった問題関心のもとで、この労働現場を研究の現場に設定しました。研究を進めるなかで、イベントコンパニオンの感情労働および彼女たちが直面する様々なトラブルは、多くの女性・男性正規労働者にも通ずる問題であることが明確になりました。詳細は、2014年9月に出版した『どんなムチャぶりにも、いつも笑顔で?!──日雇い派遣のケータイ販売イベントコンパニオンという労働』(松籟社)をご覧下さい。

*家電量販店内のゴミ箱にたまる美容・栄養ドリンクの空き瓶(再現)

現在、私は本書で詳細に分析することができなかった「消費される女性性」の問題について、感情労働という視角からアプローチを試みています。企業にとって、女性労働者の商品価値は「女性性」という労働力であり、女性は自分の商品価値=女性性を高めようと様々なことを(無意識に)行っています。例えば、健康や若さを維持するための食事、サプリメント、栄養ドリンクの摂取や、外見や身なりを整える商品(化粧品、洋服、日用雑貨等)を活用していることが当てはまると思います。そして女性は、企業に自分の女性性を商品として買ってもらうために、健康や美に関する商品を買って、自分の商品価値を高めようとするだけでなく、労働場面においては、女性としての感情労働を当たり前のように求められます。特に、接客サービス労働の場面において、女性に求められる商品価値としての「女性性」への取り組みを無意識に強いる感情労働の仕組みや、その労働のなかで湧き出す怒りや悲しみといった感情に対処する感情管理の問題は、当たり前で疑う必要のない問題=自明性として見過ごされています。この自明性を解体していく研究を、展開していきたいと考えています。

田中慶子

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