ヴェトナムにおける障害者の「自立生活」の現状と課題-ハノイ自立生活センターへの調査から-

掲載日: 2015-02-01 English: for English

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ヴェトナム国家大学での研究発表の際の集合写真

私が選択した研究の「地」はヴェトナムです。ヴェトナムは現在アジアの中でも急激な発展を遂げている国のひとつだといえます。ヴェトナムは共産党が統治する国で、国民の多くは農村部に住み、54の民族が共存しています。また、ヴェトナムは長い戦争経験の歴史を持つ国でもあります。

そのヴェトナムの首都ハノイで私がはじめて生活したのは2004年のことですが、当時から人間関係は「持ちつ持たれつ」で、人との距離が非常に近い国だと感じています。ハノイには日本からの政府開発援助であるODAで建設した橋や高速道路があります。ハノイの人々は「日本のおかげでできたものだ」と言われ、私が日本人というだけで見ず知らずの人が「道に迷っていないか」、「バス停はどこでおりるのか」、「市場で値段をぼられていないか」などと親切に声をかけてくださいます。この人と人との関係性がとても心地よく、幾度もハノイへ足を運んでいます。

私はヴェトナムにおける障害者・病者の生活の営みを探求したい一心で研究を続けています。最近では、2009年に日本財団の資金援助により開設されたハノイ自立生活センターを運営している障害当事者の方々や、そのサービスを利用しているメンバーの方々にインタビュー調査を行いました。現在、ハノイ自立生活センターを利用している障害者は、ハノイ市内で生活する60人前後です。この数は財源の制約による結果で、本来はより多くの人がサービスを必要としています。ハノイの他には、ホーチミン、ダナン、ハイフォン、カントーにも同様のセンターがあります。ハノイ以外の各センターではそれぞれ数名の障害者が介助サービスやピア・カウンセリングなどを利用しています。ハノイ自立生活センターは、国からの資金援助によって全ての障害者が「自己選択」を可能とする「自立生活」を営めるよう、啓発活動や政府への申し入れを継続して行っています。しかし、ヴェトナム政府は国家財政に余裕がないことから、介助費を国家予算から捻出することは難しいとの一点張りで、対応を怠っています。ヴェトナムでも障害者年金制度があり、申請が許可されれば支給されるのですが、支給額はごくわずかです。したがって、障害者は介助も経済面も家族に頼らなければならず、家族の協力なくしては日常生活を営めないのが現状です。近年、ハノイ自立生活センターの存在が知られるようになり、障害者の「自立生活」が障害当事者だけでなくその家族にとっても必要不可欠なものであることが理解されはじめました。しかし、国自体が発展を遂げているにもかかわらず、センターが国から予算を獲得するのは難しく、存続も危ぶまれているのが現状です。

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調査先のハノイILセンター

ハノイ自立生活センターの協力を得て実施したインタビュー調査の結果、以下のようなことがわかりました。まず、介助者がいることで、障害者の人たちは、今まで衣服の着脱や移動に割いていた多くの時間を、仕事や自分がやりたいことに費やすことができています。さらに障害を持つ者同士でカウンセリングを行うことで、今まで抱えていた悩みを解消できたりもしています。彼ら/彼女らによると、「自立生活」と出会う前の家族に気を遣い外出もままならない生活と違い、今は行動範囲が広がって自己の世界観が変わったそうです。

ハノイ自立生活センターの実践は、障害者自らが「自己選択」できる「自立生活」の実現において、確実に成果を出していると私は思います。ヴェトナムは長い戦争経験で多くの犠牲を払ったため、国の発展が進まず、特に病者・障害者支援については外国からの援助で成り立ってきた歴史的経緯があります。これまで外国からの資金調達に頼り続けてきたことが、国家として福祉に予算を出さない体質をつくり、さらにヴェトナム特有の近隣や身内で支えあう親密な人間関係が福祉政策の必要性を捉えにくくしているのではないかと私は考えます。

障害者や病いを抱える人々が「自己選択」「自己決定」できる社会を形成するには、障害者施策を担う政府を動かし介助費を国家予算から捻出させることができるか、そして障害者・病者の「自立生活」を社会の人々が理解し支援できるかどうかが条件となります。これから存続をかけた正念場を迎えるハノイ自立生活センターのメンバーと共に、今後も課題の検証を続けていきたいと考えています。

「立命館大学 2012年度大学院博士課程後期課程国際的研究活動促進研究費活動報告」
(PDF形式:3.5MB)

権藤 眞由美

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