「害を被ること」――被害について

掲載日: 2012-06-01 English: for English

人の苦しみとは何でしょうか。

それは体の痛みだったり、お金が無いことだったり、孤独であることだったり、その中身や程度は、人によって異なります。

私自身にとっての苦しみは、「どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのか」という苦々しい思いを抱くことでした。

こうした苦しみは、なにかしら理不尽なことを被った(と当人が思った)ときに生じるものです。この苦しみの特徴的な点は、自らを被害者と位置づけているところにあります。このことからこの苦しみは、「被害者の苦しみ」とも言い換えることができるでしょう。私は、この「被害者の苦しみ」が、なぜ生じるのか、どうしたら解消されるのか、それを明らかにするために研究をしています。

この関心を核にして、現在私が研究しているのは、犯罪被害者の方の苦しみです。その理由は二点あります。一点目は、犯罪被害者の方は、加害者から害を被った者、つまりまぎれもない被害者であるからです。二点目は、犯罪被害者の方の中には、程度の違いはあれ、なぜ自らが被害を受けなければならなかったのか、という思いを抱えておられることがあるからです。

従来の研究では、犯罪被害者の方の苦しみについて、経済的損失や心理的負担という観点から説明されてきました。そのため、「被害者の苦しみ」は、心理的負担として、つまりは個人に内属する体験や経験として語られてきました。しかし、それでは「理不尽なことを被った」という思いやその思いを抱くことの苦しみが、単なる個人の心理的負担としてしか解釈されません。自分が望んでもいないことが、自分が望んでもいないかたちで加えられたということの被害者としての苦しみが、これまでの枠組みでは捨象されてしまうのです。

そこで、私は被害という状況の前提にある加害-被害という関係に注目して、「被害者の苦しみ」が何なのかを考えました。そこで分かったことは、加害-被害が非対称な関係であるために、被害者には加害によって規定されてしまう不自由さ=ままならなさがあるということです。この不自由さゆえに、被害を受けた者は、害を受けた/与えたことの理由を探ろうとしますが、そうすると、なぜ、望んでもいない害を与えられた被害者の私が理由を探らなければならないのか、このような状況にしたのは誰か、と加害のことが想起されてしまいます。このように加害を基点に循環してしまう不自由さ、つまりは被害者であることの不自由さ=ままならなさが、「被害者の苦しみ」ではないかと私は考えています。

このように被害者の苦しみをみてみると、そこには二つの苦しみがあることが分かります。一点目は従来の受けた害の内実(経済的な損失や心理的な負担など)、二点目は、私の考えている「被害者の苦しみ」です。現在私は、後者の苦しみの解消を目的に、この二つの苦しみの関係性を明らかにしようと研究しています。

私がこのように自らの問題意識にこだわり、問いを突き詰めて考え、その問いに上記のようなかたちで一程度答えを出すことができたのは、生存学研究センターの研究活動に関わった結果である、と確信しています。

「生きて存るを学ぶ」生存学研究センターには、生存に関する自らの問題意識にこだわり、それをいろいろな学問領域を交えて考え続ける人たちがたくさんいます。私にとって、真摯に自らの問題関心に向き合い、学際的なアプローチをとって問いを掘り起こし、果敢に何事かを語ろうとする姿勢を学ぶ場として、さらには、そのような真摯に問いを突き詰めていく人たちと結節する場としてあったのが生存学研究センターでの研究活動でした。

私が生存学研究センターでの研究活動として携わったものに研究会(「規範×秩序研究会」「ケア研究会」)があります。その研究会の場が、さまざまな人と議論し問いを深める契機としてあり、そこで触発された議論を自らの問題関心に引きつけて報告する機会として、各種イベントや刊行物がありました。これまで私が書いたものは生存学センター報告11号17号に掲載されています。興味のある方は、ぜひお手にとって読んでいただけたらと思います。また、イベントでは、2012年3月に開かれた国際カンファレンス「Catastrophe and Justice」で私の問題関心を矯正的正義の話とつなげて報告しました。

 現在、私は博士論文を執筆中ですが、振り返ってみると、その作業は生存学研究センターでの研究活動から学んだことを一つ一つ書き起こしていく作業になっています。今後も博士論文の執筆を進めつつ、時間の許すかぎり、生存学研究センターでの研究活動に引き続き参加していこうと考えています。

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大谷通高

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