非正規滞在者をとりまく社会構造

掲載日: 2012-03-01 English: for English

なぜ、庇護を求めてやってきた人々や従来から長期間居住していた人々が隔離されなければならないのか。また、こうした人々との共生はどのようにしたら可能になるのか。私はこの2点に関心を持って研究を進めています。障害、老い、病気、異なりに焦点を当てて研究を推進する生存学にとっても、こうした非正規滞在者[1]の境遇は、重要なテーマであると私は考えています。

 この数年、私は西日本入国管理センター(大阪府茨木市)に収容される人々とその支援者に関わってきました。この施設では、退去強制令書を発布された人々を送還するまで収容しています。退去強制令書を発布された人々の大半は自費で出国しますが、中には引き続き日本での滞在を望む人々もいます。自国から逃れて来て庇護を望む人々や、既に長期間日本に滞在し、生活基盤を日本で築いている人々がその代表的な例です。2年ほど前まで、彼ら・彼女らは長期の収容を余儀なくされ、中には2年以上収容され続けていた人もいました。収容施設では、その閉鎖性ゆえの劣悪な環境や、被収容者への人権侵害がこれまで報告されてきました[2]。また、被収容者が自殺に追い込まれるケースも複数発生しています。

非正規滞在者収容問題は、日本だけでなく世界でも注目されています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR: United Nations High Commissioner for Refugees)は庇護希望者と無国籍者の収容は例外的な手段としてのみ用いられるべきであることをガイドラインで示しています[3]。非正規滞在者収容に抗する国際NGO、Immigration Detention Coalition(IDC)には、50カ国から200以上の団体が加盟しています。そのNGOの代表者がUNHCRと日弁連主催のシンポジウム「入管収容の収容代替措置を考える」(東京、2011年10月15日)に招かれました。このシンポジウムでは、非正規滞在者がコミュニティの中で生活し、政府とNGOが連携を取りながら包括的に支援を行うオーストラリアや香港などの収容代替プログラムが紹介されました。この代替措置によって、収容政策を行うよりもコストが劇的に抑えられること、そして非正規滞在者との信頼関係を築くことで、収容をやめた際に懸念される逃亡の恐れが軽減できることが説明されました。また、このシンポジウムに入国管理局の職員も参加していたことは大変意義があることだと考えています。

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日本にも被収容者の仮放免や難民申請者への仮滞在許可を認める制度がありますが、これまで限定的にしか用いられてきませんでした。しかし、2010年後半から日本の収容政策にも少しずつ変化が見られるようになりました。2010年7月、法務省は収容施設などの運営を改善するために入国者収容所等視察委員会を設置しました。また同月、仮放免の適用を柔軟に適用することを報道発表で明らかにしました。支援者の話では、収容後6カ月以内に仮放免が認められるケースが実際に増えているそうです。同年9月には、外国人収容についての定期協議と被収容者への法律相談等の実施の合意が法務省と日弁連との間でなされました。さらに2012年2月12日、難民支援団体のネットワーク組織である「なんみんフォーラム」、法務省、日弁連の三者間で、難民申請者の収容を含む、難民認定手続きの改善に向け協議することを定めた覚書が締結されました。

これらの変化の背景には、様々な機関や人々の働きかけがありました。その中には、被収容者自身の訴えかけもありました。仮放免のための交渉を求めた被収容者が、2010年3月に西日本入国管理センターで、同年5月には東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で、共に10日を超えるハンガーストライキを実施しました。これらのハンガーストライキ以降、多くの被収容者は仮放免を認められました。しかし、仮放免が認められても、就労許可が下りることがなく、再収容の可能性があるため生活はままならないのが現状です。そのため、仮放免が認められた人々は、難民としての地位、あるいは在留資格を求めて活動を始めています。このように、国際機関やNGO、弁護士会、そして当事者自身が、必ずしも一枚岩ではありませんが、それぞれの立場から非正規滞在者の境遇の改善を求めて活動しています。

当事者の立場に立つという理念を掲げる生存学研究センターの一員として、私もまたこの学問分野にわずかながらでも寄与すべく、非正規滞在者と彼ら・彼女らを支える人々の活動を追って研究を続けています。

[1]非正規滞在者は、しばしば不法滞在者や不法移民と呼ばれるように、治安悪化の原因であるかのように語られます。しかし、かならずしもそうでないことがこれまでの研究で明らかにされています。例えば鈴木江理子2009『日本で働く非正規滞在者一彼らは「好ましくない外国人労働者」なのか?』(明石書店)、コムスタカHP内「外国人犯罪」問題(http://www.geocities.jp/kumustaka85/JCrimes.html)。
[2]収容施設の実態については「壁の涙」政策実行委員会編2007『法務省「外国人収容所」の実態』(現代企画室)が詳しい。
[3]「庇護希望者の拘禁に関する適用可能な判断の基準と尺度についてのUNHCRガイドライン 改訂版」(1999)。

本岡大和

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