センター客員研究員・飯田奈美子氏が日本通訳翻訳学会「第1回新崎賞」を受賞

掲載日: 2017年09月15日

*授賞式の様子

*新崎隆子氏と

*賞状

生存学研究センター客員研究員・飯田奈美子氏が本学大学院・先端総合学術研究科に提出した博士論文「対人援助におけるコミュニティ通訳者の役割考察――通訳の公正介入基準の検討」にて、日本通訳翻訳学会「第1回新崎賞」を受賞しました。

同賞は、通訳の実践と教育に関する研究の振興を目的とし、この分野に関する最優秀の論文あるいは書籍に与えられるものです(新崎賞選考委員会規約より)。この新崎賞は、会議通訳の第一人者であり、通訳研究者(国際コミュニケーション博士)でもある新崎隆子氏により創設されました。新崎隆子氏は、国際会議通訳やNHK放送通訳において湾岸戦争や9.11同時多発テロなどのさまざまな国際的な出来事の通訳をおこないました。自身の通訳経験から、多様な文化背景をもつ人びとが理解しあうには対話が最も重要であり、その過程には通訳者が大きな役割を果たすことを実感しました。新崎賞は、大きな使命を担う通訳者の育成がなされることの必要性を感じ、通訳の実践と教育に関する研究が発展していくために創設された学会賞です。

第1回目の受賞となった飯田氏の博士論文は、医療や行政窓口への生活相談といった対人援助場面でのコミュニティ通訳において、専門家とクライエントとの非対称的な対話のなかで生じてしまう通訳場面に着目しています。これらの通訳場面では、通訳者が通訳者としての倫理規定から逸脱して介入せざるをえない状況が生じてしまい、そこでの「公正的な介入行為の基準」について論じています。受賞に際して、これまで通訳者の経験に頼っていた介入行為について、実例にもとづく分析をおこない理論的な公正介入基準を提案したこと、そして、介入基準の仮説を事例データによってたえず検証していこうという姿勢が高く評価されました。

飯田氏は「この博士論文では、社会的に弱い立場にあるクライエントを対象とするコミュニティ通訳に共通する問題を実践に役立つような解決ができるようにしたいと思い、通訳の公正介入基準という仮説を検証しました。論文の核となる仮説を思いつくのにいたったのは、立岩真也教授をはじめとした先端総合学術研究科の先生方によって学際的な叡智を学ぶことができたこと、また、いろいろな領域の人たちと自由で活発な議論ができたことによります。今回の受賞は、研究科の先生方と院生の先輩・仲間のおかげです。」と受賞の喜びを述べています。

飯田氏はグローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点院生プロジェクトで「コミュニケーション・通訳研究会」の研究代表者とつとめるなど、院生時代から生存学研究に寄与し、研究科を修了した後も本研究センターの客員研究員として研究に取り組んでいます。現在は、博士論文で取り組んだ課題を引き継ぎ、通訳の公正介入基準の妥当性を検証する方法論の確立のために、社会学におけるエスノメソドロジーを基盤とする会話分析を用いた通訳場面のデータ分析を行っており、学会発表や論文投稿など精力的に研究を推し進めています。

リンク