開催報告(2015年7月14日開催)「『アンチエイジング』を問う:歳を とらずにシワをとる? 加齢現象をどのように考えるか」

掲載日: 2015年08月18日

2015年7月14日(火)に、生存学研究センター主催企画、「『アンチエイジング』を問う:歳をとらずにシワをとる? 加齢現象をどのように考えるか」が開催されました。

老化に抗する概念として馴染みのある「アンチエイジング」は、今やメディアや雑誌等で見ない日はないほど、私たちの日常生活に浸透しています。では、アンチエイジングという言葉は、高齢者の方々の生活や私たちの人生において、どのような眼差しを向けられているのでしょうか。本講演会では、マサミ・タカハシ先生(ノースイースタン・イリノイ大学教授)をお招きして、アンチエイジングの由来と変遷、アンチエイジングが有する偏見性、アンチエイジングに代わる加齢現象の捉え方についてお話いただきました。

そもそもアンチエイジングは、1960年代のエイジング(加齢)研究において、《勝者としての加齢 対 敗者としての加齢》という二項対立のもと、敗者としての加齢を予防して、加齢のポジティブな側面に目を向ける役割を担っていました。その後、成功的な歳の重ね方に関する研究が隆盛し、現代では、Rowe & Kahn1によるヒエラルキー型のモデルが主流となっています。このモデルでは、第一に病気と疾病が無いこと、次に高度な身体・認知能力を有していること、さらに活動的であることがサクセスフルエイジングであると定義づけられています。

しかしながら、このようなサクセスフルエイジングに関する先行研究は、「勝ち組」から「負け組」への差別を誘発したり、ダイナミックな加齢の過程や多様なライフスタイルを捨象したりする問題を含んでいます。また、病気や疾病を有する高齢者を、即座にサクセスフルエイジングから除外する偏見性をも有しています。

では、このような特権主義的なパラダイムをこえて、どのように加齢現象を捉えることができるのでしょうか。タカハシ先生は、まず、エイジングの捉え方に関して見方の転換が必要であることを指摘されました。例えば、自ら好んで1人になる人は、「孤立」なのではなく、「孤高」として捉えることができます。さらに、「機能」や「量」では若者に「負ける」という発想が生じるため、「意味」や「質」を問う必要があることも指摘されました。

次いで、「叡智(wisdom)」の例をとり、特権主義に代わるパラダイム――西洋の分析的な叡智と東洋の統合的な叡智とを包括したパラダイム――を提起されました。包括的なパラダイムのもとで、高齢者自身によるエイジングの再解釈や「人生の意味」の研究が蓄積される必要があることが報告されました。

質疑応答の時間ならびに情報交換会では、タカハシ先生を囲んで、研究会の議論(エイジング、アンチエイジング、叡智とは何か等)をさらに深める議論が行われました。研究者だけではなく、現職の医師や、いじめや虐待問題の専門家など幅広い分野の方々が参加され、今後の医療や福祉のあり方などについても議論されました。

主催: 立命館大学生存学研究センター
若手強化プロジェクト「生存のナラティヴと質的研究会」
共催: 日本心理学会ナラティヴと質的研究会、日本発達心理学会ナラティヴと質的研究分科会

1) Rowe J. W., Kahn R. L (1987). Human aging: Usual and successful. Science 237, pp143-149. Rowe J. W., Kahn R. L. (1998). Successful aging. Pantheon/Random House: New York.

(日本学術振興会特別研究員PD/本学大学院文学研究科の神崎真実さんによる開催報告を掲載)