開催報告 (2015年2月24日開催)東京大学UTCP-L2および立命館大学生存学研究センター主催合同シンポジウム「出生をめぐる知/技術の編成」

掲載日: 2015年03月26日

 2015年2月24日(火)、東京大学駒場キャンパスにて、UTCP-L2および立命館大学生存学研究センターの主催で合同シンポジウム「出生をめぐる知/技術の編成」を開催いたしました。

 まず、筒井晴香氏(東京大学UTCP)より、今日の出生にかかわる知と技術の編成を哲学・倫理学および科学技術史の視点からとらえ、生命と生存に関する考え方と取り組みについての知見を深めようとする本シンポジウムの趣旨説明がなされました。

 次に、宮原優氏(文教大学・立教大学)より、「不妊治療における経験の形成―『期待』の在り方に見られる経験の構造」と題して講演が行われました。宮原氏は、不妊治療における「期待・希望」は、「患者」である彼女たちを支える大きな要素でありながら、一方で彼女たちを追い詰め失望させる当のものでもあり、その失望から立ち直らせるのもまた、「次こそは」という「期待・希望」に他ならないことを説明されました。宮原氏は、こうした期待と挫折の繰り返しのなかで、不妊治療自体が子を得ることを至上のものとする規範を一層強固にすること、そして「不妊治療のつらさ」は、「治療」そのものによって自己や幸福の多様性が失われていくつらさとして理解しうることを述べられました。

 次に、渡部麻衣子氏(東京大学IHS)より、「出生前検査―胎児を見るということ」と題した講演が行われました。渡部氏は、出生前検査・診断によって分かるのは画像化・数値化・コード化可能な胎児の情報にすぎず、未生の子どもの一側面を強調するものであると述べられました。そのことは同時に、胎児への「認識のあり方」を「管理」するものであり、妊婦と医科学とで「異なる認識」は、すでに医科学モデルの分類によって規範化されていることを説明されました。そのうえで、渡部氏は、妊婦は胎児について何をどのように主体的に語り得るのかという問題提起をされました。

 次に、本センターの利光惠子氏により、「日本における受精卵診断導入をめぐる争いの現代史」と題して講演が行われました。利光氏は、受精卵診断に独自の倫理的問題として、診断対象が胎児から複数の受精卵に移行すること、および「障害の排除のための選別」と「着床させるための選別」が同時に実施されることを明確にしました。利光氏は、「不妊治療」に受精卵診断が組み込まれ、すでに着床前スクリーニング(PGS)が開始されていることを受け、多様な生命の可能性や違いを持って生まれる機会を一層排除するものであると述べました。

 続いて、本センター運営委員の松原洋子教授(本学先端総合学術研究科)より、講演全体にたいするコメントとして〈インペアメント〉というキーワードが明示され、各講演者より簡潔なレスポンスがなされました。さらに、各講演内容と松原コメントを受けて、「不妊であることの痛み」や「妊娠する身体」そのものをどうとらえるか、また「多様性とポジティヴ」をどう考えるか、などについて約30名ほどの参加者とともに活発なディスカッションが行われました。

参考情報等)

山本 由美子
出生をめぐる倫理研究会
UTCP-L2:東京大学大学院総合文化研究科附属 共生のための国際哲学研究センター (UTCP)
上廣共生哲学寄附研究部門L2プロジェクト「共生のための障害の哲学」
【報告】UTCP-L2・生存学研究センター合同シンポジウム「出生をめぐる知/技術の編成」

(東海学院大学人間関係学部山本由美子准教授(本センター客員研究員)による開催報告を掲載)