開催報告 目の前のアフリカ第9回「越境する障害者 村を創るハンセン病者」

掲載日: 2014年12月22日

 2014年6月27日(金)、本学衣笠キャンパス敬学館211教室において、第9回「目の前のアフリカ」セミナー『越境する障害者 村を創るハンセン病者』を開催しました。

 京都大学から二人の新進気鋭の若手研究者を講師として招き、アフリカ諸国において障害や病を抱えた人々がいかに独自の自立的な生を構築/再編しているのかについてご講演いただきました。

 戸田美佳子さん(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)は、「国境を超える障害者―中部アフリカを例に」と題し、カメルーンのヤウンデ市での出稼ぎ物乞い業とコンゴの国境ビジネスを事例に、国家や地域社会の枠組みを超えて、障害者がいかにサブシステンスの維持基盤を形成しているのかについてお話しいただきました。とりわけ後者の国境ビジネスは非常に興味深いものでした。コンゴ川を横断するフェリーの障害者割引・支援制度を利用して貿易業や旅客運送業で成功した障害者団体は「商売の王」と呼ばれ、このビジネスを特権的に寡占します。戸田さんは、不透明な国境貿易のなかで、彼らが障害を持っているからこそある種の特権階級となり、公的な認可を得ることで諸権力からの保護を得て仕事を勝ち取ってきた過程を説明し、この障害者団体を互助講組織や自助グループとは異なる、現代的なアフリカ版「商人ギルド」と定位します。

 姜明江さん(京都大学アフリカ地域研究資料センター)は「故郷を創造する病者―ザンビアのハンセン病者の村から」と題し、植民地期にキリスト教団体が設立した療養所やセツルメントを出た後に、故郷に帰れずに行き場を失ったハンセン病回復者たちが、みずからの村=ウモヨ村を創りだしていく歴史的過程を活写します。ハンセン病回復者たちはミッション団体からの援助物資を介して周辺住民と交流していき、ウモヨ村で自らの生計基盤を築きあげています。姜さんは、自助グループなどに代表される「障害に対する問題解決型」の共同体と比較しながら、ザンビアのハンセン病者たちの村を生計維持や食料分配などの生活実践に根差した「生存の共同体」と位置づけます。

 お二人の発表に共通していたのは、国家の社会保障制度が脆弱なアフリカ諸国における障害や病を抱えた人々によるある種の逞しい生存戦略であり、そして生計維持の必要性に基づいて展開される独自の社会的連帯のあり方です。会場からの質疑応答では、これらアフリカの障害や病を抱えた人々の生存戦略や社会的連帯から、いかにして日本における障害や病を抱えた人々の現状を考えるヒントを導き出せるかが問われました。

 障害者のサブシステンスの基盤に注目した国民国家を超える開発や支援のパラダイム、被支援者を分類・分節化する制度化された社会保障と異なる、「社会に埋め込まれた病者のコミュニティ」。豊富な定量・定性データを駆使した彼女たちの提案を、アフリカの枠組みから普遍的な枠組みへと展開するために、文化的・社会的な背景の違いに踏み込んで、日本の障害者・病者の研究者との対話をおこなう機会をふたたび設けたいと思いました。

(本センター副センター長 本学先端総合学術研究科小川さやか准教授による報告を掲載)