開催報告 「境界を揺るがす――映画『トークバック』上映会、坂上香監督を迎えて」

掲載日: 2014年12月04日

 2014年10月20日(月)、「境界を揺るがす――映画『トークバック』上映会、坂上香監督を迎えて」と題してフェミニズム研究会・第4回公開研究会を開催しました。

 第一部では映画『トークバック』を上映し、第二部には坂上香さん(映画監督)、池内靖子さん(演劇論・ジェンダー論)、金満里さん(劇団「態変」主宰)をお招きして「トークバック・セッション」の時間を持ちました。お話は多岐にわたりましたが、女性たちの「声をあげ、呼応しあう」という実践が、当事者や聴衆にもたらす力と意味について、関心が共有されていたと思います。

 金さんはパフォーマーとしての視座から、芸術と自己表現とのかかわりをお話し下さいました。身体障害者が舞台をつくるさい、黒子として健常者の手がどうしても必要となります。ここから金さんは、芸術としての自己表現は、「自分探し」や「傷の癒し」とは異なる位相にあると仰います。際限なく自己を掘り下げていく志向と、他者の身体や意思の介在を認めることの「せめぎあい」のなかで「魂と向き合う(逡巡する)」というお話は、自己と身体の本質を捉える思考であるよう思われました。

 池内さんは、本作をめぐる「体験」に演劇の本来的な機能があるとご指摘下さいました。映画には、過去を持ち寄りひとつの舞台を作っていく女性たちのあいだだけではなく、演者と観客のあいだにもそれぞれの体験が共有される瞬間が映し出されています。池内さんはさらに、映画を通して両者の呼応を感受する私たち聴衆のあいだにも新たなコミュニティが生成していること、またここに互いを力づけていく(治療的)可能性があることをお話し下さいました。

 お二人のコメントを受け、坂上さんはメデア・プロジェクトの実践をとりまく社会的背景と、かかわる人々の多様な経験についてお話しされました。「トークバック」の目的を必ずしも更生や治療におく必要はないと留意されながら、しかし映画とセッションを通して坂上さんは、個人のうちにある偏見や誤解と「対話」を試みるこの実践が、社会の無理解や不寛容を揺るがし、傷ついたひとの存在とこころの回復へつながっていくことを確かに私たちに示して下さったように思います。

 フロアとの応答を含めたセッションの様子は、研究会メンバーの論考と併せ、改めてご報告いたします。開催にご協力頂いたみなさま、ありがとうございました。

(本学大学院先端総合学術研究科山口真紀さんによる報告を掲載)