開催報告 国際学術企画「生存学の社会学」

掲載日: 2014年08月18日

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 2014年7月20日(日)、立命館大学生存学研究センターは、「生存学の社会学」と題した国際学術企画を開催いたしました。

 初めに、ジョン・リーさん(カリフォルニア大学バークレー校社会学部教授)によって”The Limitations of Social Theory and US-centric Sociology for Minorities”と題する講演が行われました。そこではまず、ハーバード大学を中心に構築されたアメリカ社会学史を相対化する必要があると述べられ、シカゴ大学、コロンビア大学、カリフォリニア大学バークレー校それぞれの社会学の栄枯盛衰が、そこで活躍した社会学者たちのエピソードを交えながら語られました。その上で、女性学や障害学、レズビアン・スタディーズなど社会学から派生したマイノリティに関する学問が独立し、それぞれのディシプリンと学部・学科を持つようになった結果、内容が空洞化し、新たな理論的な進展が見られなくなっている社会学の現状が批判されました。また、「社会学者くずれ」のジャーナリストたちによる良質なルポタージュが多く制作され、それに社会学が太刀打ちできないというアメリカの状況が紹介されました。

 それに対してシンポジウムでは、山本崇記さん(本研究センター客員研究員)が、自治体の社会調査やそれに参加した行政マンが戦前・戦後の社会学の土台の一角を担ったこと、部落問題では社会運動と社会学が一体になって進んできたことなどを踏まえ、ヘイトスピーチ問題などにおいて社会学者が攻めあぐねている状況が指摘されました。また、立岩真也さん(本研究センター長)からは、戦後日本の左翼運動内での対立関係がアカデミズムの世界に及ぼしている影響が軽視されていることや、近年では社会学者が優れたジャーナリズム的な本を出せていないことが問題だとする指摘がありました。そして天田城介さん(本研究センター運営委員)は、カリフォリニア大学にアメリカ南部出身の学生が少ないことを述べた上で、南北戦争に敗北した南部には独自に発展してきた「生存の知識」があるのだが、それを誰も研究していないと指摘しました。

 フロアからは、アメリカの医療社会学の現状、韓国の社会学の現状などについて質問があり、アメリカのみならず日本、韓国の社会学の現状に通じたリーさんならではの視点から非常に有益な回答がなされました。

(立命館大学生存学研究センター専門研究員 橋口昌治)